アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

複数ルートの組み立て方

ノベルゲームという表現媒体の最大の特徴の一つに、ルート分岐によって複数の可能性を描写することができる点がある。この複数ルートをいかに上手く利用して、 互いに関連させ厚みのある物語を組み立てるかは創り手の腕の見せ所である。 ここでは、どのようなパターンがこれまで試されてきたか、その特徴とともに解説する。

拡散型

スタートを共通とする複数の物語を束ねたタイプ。 序盤の選択肢によりルート分岐を行い、ルート間は互いに関連が薄く、 ルート間で物語上の重要度の差が小さく、ゲーム上も順番指定等のルート間の差を持たないのが標準形である。

このタイプでは、ルート間での協同効果が無きに等しいため、 作品全体の質は各ルートの単純な足し算でほぼ決まる。 そのため、良い作品にするには大量の制作資源を投入する必要があり、 効率的ではない。 その代わり、このタイプはプレイヤーの自由度が最も高い。 好きな順番でプレイすることができ、さらにプレイしないルートを残しても問題ない。未プレイルートを残してプレイ終了しても問題が一切発生しないのはこのパターンだけである。よってこれはナンパゲームやキャラクター主導の作品向きである。 これらの作品は多数のヒロインが登場し、それぞれプレイヤーの気を引こうとする。プレイヤーはこのうち気に入ったヒロインのルートだけをプレイすればよく、 気に入らなかったヒロインのルートをわざわざプレイする必要はない。

物語主導の作品でも、実際はこのパターンは非常に多い。特に、 複数のシナリオライターが関与する作品では、各ライターに別々のルートを完全にお任せしてしまうのが安直だがライターの負担が少ない作りであって、 このパターンとなっていることが多い。 物語主導でのこのパターンの利点は、上に挙げた複数ライターの分業の他に以下のような点が挙げられる。まず、万が一出来の悪い物語のルートが作品に入っていたとしても、それが他のルートに悪影響を与えない点がある。もう一つは、 様々な展開の物語が作品に含まれることにより、作品の世界が広がることである。 特に、世界を描写するタイプの作品では、ルート間の関連性を入れると世界が小さくなってしまい望ましくない。 難点は、各ルートが別々なので物語が小粒になってしまうこと、作品全体の方向性が定まらなくなる可能性があることと、ヒロイン救済型の話ではプレイヤーに選ばれなかったヒロインが救われないままになってしまうことが挙げられる。

拡散型+補足ルート

拡散型とほぼ同じだが、1ルートだけ他と違う、作品全体の世界観を補足するルートを持つ場合である。たいていは、通常ルートをプレイし終えてから補足ルートに入る設計である。

拡散型というのはそもそも独立した複数のルートを束ねて作品にする手法であるから、 作品の一体感を保つことが時には困難になる。補足ルートは、作品全体の世界観を示すことにより、複数のルートを束ねる紐の役割が期待される。 ここからわかるように、作品のメインはあくまで通常ルートである。補足ルートは通常ルートの価値を損ねないよう、終わり方としては通常ルートより低位におく(ハッピー度合いが少ない)のが基本である。

このパターンは次に述べる「拡散型+上位ルート」に比べればはるかに安定しているが、補足ルート自体は満足感が低く、それを最後にプレイすることになるのは作品にとってマイナスである。補足ルートなしで作品をまとめられるのなら、 ない方がよい。だが、作品を一つにまとめるために入れざるをえないことも多い。

この問題は、補足ルートを他の通常ルートと共存可能にした上で、 補足ルートにハッピーエンドを用意することで解決する。 補足ルートのみ主人公を変えて別視点とする、といった手法が一例である。

拡散型+上位ルート

拡散型で話を広げたあと、最後に上位のルートを用意して最高のハッピーエンド(「トゥルーエンド」と呼ばれることが多い)で締める作りである。「拡散型+補足ルート」とは逆に、 プレイ終了時の瞬間の満足度が高くなる作りである。

だが、この上位ルートの存在は通常ルートの価値を大きく減少させる。よって、最後の上位ルートが創り手にとって真に見せたいものである場合に限って、この作り方が意味を持つ。 しかし、普通はそうではなく、通常ルートで個別ヒロインと仲良くする話を描くのが作品の本体のはずである。そういう作品に、最後の締めを行うためだけに上位ルートを入れたりすると、作品の質は大きく損なわれる。 よって、通常やってはならない作りである。 それに、創り手にとって見せたいルートが一つだけある場合には、他のルートは前座であると割り切って、起承転結をルート毎に割り振ってプレイ順番固定にしてしまう方がうまく描ける(後述の「ルート順番指定型」)。

上位ルートの存在は拡散型が持つ良さに相反するものである。 危険な作り方である。

なお、上位ルートの一例として、ヒロイン全員と仲良くなるハーレムルートがある。ハーレムルートは、各ルートで描いた物語と結末の価値を大きく損なうが、 各ルートで描いたヒロインの魅力まで消し去るわけではない。 よって、ハーレムルートは物語主導作品には向かず、キャラクター主導・性交渉描写メインの作品で使われる。

収束型

物語の結末がルート間でほとんど変わらず、ルート毎の差は主人公の居る場所が変化するだけのパターン。 全体の出来事はルート間で変わらないが、ルート毎で主人公が違う場所にいて主人公の周囲の出来事のみが描かれるため、ルート毎に描かれる内容は異なる。ルートを全て組み合わせるとひとまとまりの出来事が組み上がる、という作りである。

この作りは非常に安定している。余計な補足ルートを作る必要がなく、一体感のある、大きな物語を描くことができる。 物語をうまく分割すれば、プレイ終了時に物語が組み上がることによって、特別なクライマックスがなくてもプレイヤーの満足感を大きくできる。実際、このパターンをとった作品には良作が多い。

このパターンの問題は、制作上の縛りが大きいことである。各ルートを好き勝手に作ることができないのはもちろんのこと、大本となる全体の物語の設計でも縛りが大きい。

最大の縛りは、主人公のとった行動で世界が変化しないことから、主人公に物語を動かす力がないとせざるを得ない点である。 作品中の全ての場面に登場する登場人物である主人公に物語を動かす力がないため、 動きの激しい物語が作りにくい。結果、この手法では、一つの作品まるまる使って大きな物語が描けそうに見えるが、実際の物語はそんなに大きくならない。

このパターンでは主人公の活躍が少ない分、ヒロインが活躍する。 物語主導型であっても、キャラクター主導型のようにヒロインの魅力で引っ張れる作品を作ることができる。 制作に敷居が高いが、完成させれば成功しやすい。

ルート順番指定型

ルートの順番が指定されており、導入用のルート・物語を拡張するルート・クライマックスのルートの順でプレイさせる。一本道とほとんど同じだが、 単純一本道と異なる点は、何度も同じ事件を語ることによって、 一筋縄ではいかない複雑な事件を描けることである。 この作りは物語主導の典型的なパターンである。収束型のような制作上の縛りが少なく、 プレイ順番指定によってプレイヤーに与える情報を厳密にコントロールでき、 指定された最終ルートで大きく盛り上げることができる。

この作りの問題点は、作品と世界が小さくなることである。 最終ルートが他のルートに比べ上位であるから、他のルートに向かう可能性はプレイ終了時に最終ルートに比べ望ましくない終わり方として否定されてしまう。 この作りは、他のルートおよび他のルートで攻略対象となったヒロインの魅力を全て犠牲にして、最終ルートを描く作りである。 これは複数の魅力的な攻略対象ヒロインを配するキャラクター主導作品に対する楽しみ方とは真っ向から対立する。このため、 物語を特に重視するプレイヤー以外からの支持が得にくい作品となる。

この作りに対しては、最終ルートで描こうとした内容が、他のルートとヒロイン達を犠牲にしてまで描く価値があるものなのかを十分吟味しなければならない。

解法提示型

これは、大きな問題が物語の最初または途中に提示され、この問題に対する解決法を複数用意してルートに分けた作りである。ルート分岐は終盤に発生する。 世の中の問題は正解が一つであることは少ないが、既存のメディアではただ一つだけしか結末を示すことができない。複数の可能性を示すことが可能なメディアなら、 世の中の問題を語るときに複数の正解を示すのは筋が通っている。

この作りは一つの問題を深く扱うことができ、物語作品としての質は向上する。 ただ、これまでの実績から、以下のことがわかっている。

まず、個々のヒロインルートの中で複数の解法を提示するルートを設けることは特に問題がなく、十分成功する。 示された解法の中でどれが最良と考えるかはプレイヤーによって異なり、プレイヤー各自自分が最良と考えるエンディングを本物と見なす。プレイヤーの楽しみ方に選択肢が広がり、有効である。

これに対し、各解法を別々のヒロインに割り振るのは、非常に危険である。 示された解法が全て同格ということはありえず、比較的良い結末になるルートと悪い結末になるルートがどうしても発生する。 このとき、悪い結末になるルートに割り振られたヒロインが不遇になり、そのヒロインを魅力的と感じたプレイヤーが不満を感じる。さらに、どの結末が良いと感じるかはプレイヤーによって差があり、またどのヒロインが最も好みかもプレイヤーによって差がある。 たまたまこの両者が一致したときは良いが、そうではないことが多々生じ、相当数のプレイヤーが不満を感じる作品となってしまう。

これを避けるには、結末にもヒロインの魅力にも初めから格差を付けて、 プレイヤーが良いと感じるルートと好みのヒロインを絞り込むのが最も効果的である。 しかし、他のヒロインのルートをメインルートヒロインの引き立て役にするのであれば、上記のルート順番指定型にした方がすんなりいく。

結局、解法を複数提示してルートに分ける方法は、特定のヒロインルートの中で行うべき、という結論に落ち着く。各ヒロインルート同士の関係は、また別の設計になる(基本は拡散型となるだろう)。

結論

複数ルートの組み立て方として、物語の早期に分岐して広がる拡散型、物語の終期に分岐して広がる解法提示型、物語が最後に一つにまとまる収束型、上位のルートで置き換えていく順番指定型をここで挙げた。 厚みのある物語を描くという目的ならばこれらの中の多くの方法で可能だが、プレイヤーは物語だけを見るわけではない。プレイヤーが不満を抱きやすい手法も中にはあり、 注意が必要である。


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last update: 2005/10/8