アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

前世からの恋人、前世の呪い

世間一般において、「前世からの恋人」という表現にマイナスイメージは薄い。 むしろ「ロマンチック」として肯定的だったりする。 しかし、美少女ゲームで前世が登場する場合(転生物)は、そこそこ例があるのだが、とにかく話が暗い。過去編の悲恋は当然としても、現世での主人公とヒロインの間の障害は大きく、死亡バッドエンドも珍しくない。 ここに、美少女ゲームに特有の要素があるのか考察してみたい。

メディアを問わず転生物は、作品世界内での時系列で以下の基本要素がある。
[前世-1]前世での出会いと恋。
[前世-2]悲劇的な結末。
[現世-1]転生後、運命の出会い。
[現世-2]正しく結ばれハッピーエンド。

この基本的な流れをもとに物語を組み立てる際、まず前世を重視するのか現世を重視するのかの二通りが考えられる。 前世を重視した場合、悲恋を描くことが主眼の作品となる。 一般に、悲劇は物語の出来としては高くできるが、読者/視聴者が満足感を得にくい。 そこで、前世の悲恋に現世の救済を組み合わせることで、徹底的な悲劇を描きつつも救いがないという不満を抑えることが可能である。 一方、現世を重視し前世を従とした場合では、前世の役割は現世での出会いとハッピーエンドにお墨付きを与えることである。 この方法を使えば、身分などに差があり通常知り合えないような二人の恋を成立させることができる([現世-1]を活用)。 また、責任能力の低い未成年の未熟な恋であっても、それが永遠の恋であることを示すことができる([現世-2]を活用)。

このように、既存メディアでの転生物は、恋物語を描くのに適したジャンルであって、低年齢向け少女漫画・アニメをはじめとしてよく利用されている。 「ロマンチック」という言葉が連想されるのも妥当であろう。

さて、では美少女ゲームではどこが違ってくるのだろうか。

美少女ゲームと既存メディア(小説・漫画・アニメ・映画)との形式上の大きな違いは、複数ヒロイン・複数ルートであることである。 しかも、複数に分岐するのは現世側に限られ、過去は変えられない、従って前世は一本道であるのが通常である。

さてこうなると話が変わってくる。 まず前世重視を考えてみると、前世が悲劇的な結末に決まっているのは同じだが、当事者二人が転生先で結ばれるとは限らない。 それどころか、結ばれないルートの方が多い。 そのため、前世の悲劇を話の本体とし、転生後の現世を補助に使う、というのは成り立ちにくい。 そもそも、分岐有りで重層的な側(現世)が従でそうでない側(前世)が主というのはおかしな構造だ。

現世を重視する場合では、前世の恋人の転生先ヒロイン以外のルートが問題になる。 これらのルートでは、前世は、現世の人々に不和の種と報われない想いを植え付ける“呪い”でしかない。 しかも、転生先ヒロインのルートと、転生先ヒロイン以外のルートでは、後者の方が数が多い。

そうなると、作品全体に呪いの色が帯びる。 そんな中で、転生先ヒロインの1ルートのみ前世から祝福を受けて幸せな話にしてしまうと、作品がちぐはぐになってしまう。 であれば、転生の設定の中から祝福の要素を外し、代わりに実害のある本物の呪いを組み込み、転生先ヒロインとそうでないヒロイン達のどのルートでも呪いを主題とした話にした方が作品としてまとまる。

現代の日本の価値観では、伴侶選びは当人達に責任と決定権がある。 だからこそ、美少女ゲームは複数ヒロインなのであり、ヒロインを選ぶ選択肢がプレイヤーに与えられている[*1,2]。 そんな世界観の中では、前世のような、伴侶を強制しようとする概念は打ち破るべき対象として描かれるのが自然である。

結局、変えられない過去によって主人公に運命の相手がすでに居るという転生設定は、複数ヒロイン・複数ルートの思想に対立する。 美少女ゲームの主人公に自身を仮託し好みのヒロインを探すプレイヤーにとって、前世は邪魔であり、転生を呪いと見なす扱いは妥当であると言える。

[*1] 正解を答えさせるゲーム的な選択肢が失われた今でも、ヒロイン(とルート)を選ぶ選択肢は残っている。 たとえルート順番規制があったとしても、すでにクリア済みのヒロインのルートと新しく解放されたルートで選べるようになっている。
[*2] 現実世界では相手の側にも決定権があるので、思い通りには選べない。 「世界のどこかに運命の彼氏(白馬の王子様)がいる」という一本道少女漫画のファンタジーほどではないにしても、「嫁を自分で好きに選ぶことができる」という複数ルート美少女ゲームのファンタジーはまだまだ現実離れしている。ただし、現実と混同してしまったときの害は、すぐに誤りに気づけるという点で後者の方が小さい。


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last update: 2010/10/6