アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

男友達の傾向と対策

恋愛中心の美少女ゲームの多くには、主人公の男友達という立場を持つ男性キャラクターが登場する。 主人公の男友達は、特に物語の導入部分で重要なキャラクターである。その物語世界での男性の服装・基本的な振る舞いが男友達の(立ち絵も含めた)描写によって示される。 物語導入部分での男友達との会話の内容と、男友達の人となりから、主人公の社交能力をプレイヤーが知ることができる。 このように、男友達はプレイヤーが主人公と主人公の属する社会を把握する上で必要なキャラクターである。 そして、現実として学校に通う男子は男友達の一人はいるものだから、 主人公に男友達が全くいないと設定するのは主人公が不自然になるので、これは避けるべきである。

さて、序盤に必要だった男友達だが、序盤を過ぎた後は結構扱いが難しいキャラクターである。男友達に魅力がなければ、彼と親しい主人公の魅力にも悪影響が及ぶ。だから男友達もそれなりに活躍させるべきである。 しかし主人公よりも魅力的になってしまうとはなはだ問題である。また、それなりに魅力的な男友達と、ヒロイン達がくっつかない理由も必要である[*1]。

[*1] プレイヤー(主人公ではなく)は独占欲にあふれているので、ルートに乗らなかった時であってもヒロインが主人公以外とくっつくのを許さない。

恋愛が主要な要素を占める美少女ゲームの物語で、これらの条件を満たすのはなかなか困難である。これまでどのような男友達が試されてきたか、分類して考察してみたい。

空気型

序盤登場して主人公と物語世界を記述するのに使われた後、いつの間にかいなくなってしまうパターン。 男友達をいい加減に扱えば上で述べたように主人公の魅力に悪影響が生じ、また「このキャラクターは一体なんだったのか」とプレイヤーに疑問を呼び起こす。 これは明らかに望ましくない姿である。 しかし、下手に扱って別の問題が生じるよりはましということなのか、空気のような男友達しか出さない例は実際かなり多い。

ライバル型

美形で、人を見下す態度をとり、主人公に対抗意識を向け、(攻略対象ヒロインを含む)女性を節操なく口説いて回るというのが典型的な、主人公のライバルキャラクター。 ヒロインをこのキャラクターに取られたくない、というプレイヤーの意識をゲームを動かす原動力に利用するパターンが伝統的な使い方である。 だが、主人公に他に男友達がいない場合には、男友達同様作品世界の男性像を決める役割を担う。

美少女ゲームが生まれる前から存在する伝統的なキャラクタータイプでパターンが決まっており、創り手にとって動かしやすくプレイヤーにとってわかりやすいキャラクターである。だが、このタイプはプレイヤーに負の感情を生むので、使わなくて済むなら使わない方がよい。 作品がナンパゲームとしてゲーム性がある場合には、ゲームを動かす原動力が重要なのでこのタイプの存在が役に立つが、 それ以外では生み出される負の感情によって作品に対する印象が悪くなる悪影響が大きい。 また、このタイプのキャラクターが作品世界の男性像を決める役目を担うとなると、主人公がこのキャラクターと同列で扱われることに注意しなければなならない。もちろん本来の意図は主人公の他の世の男性に対する優位性を示すためなのだが、主人公はこの男と同類ではないか、との疑惑に常にさらされるため、 主人公は下手なことができなくなる。縛りである。

そもそもこのタイプの出所にも注意しなければならない。 もともとこのタイプは、実世界に根ざしたものではなく、 少女漫画など女性向けの物語において、真のヒーローを引き立たせるための当て馬として使われるキャラクターとして最適化したものである[*2]。 これを、ヒーローとヒロインで主人公を入れ替え男性向けの物語にして、 そのままうまくいくと考える方に無理がある。男性向けならそれに応じて適した性格は違うはずである。

ナンパゲームが廃れた今、特にこのタイプが役立つゲーム・物語の設計方法は見あたらず、 むしろ欠点が多い。将来的にもあまり広まることはないと予想する。

[*2] 少年漫画で登場する競技でのライバルと異なることに注意。 少年漫画でもこのタイプのライバルを登場させることも無くはないが、解説で述べたのと全く同じ理由によりあまりうまくいかない。 競技でのライバルは人間的に魅力的に描き、その魅力的なライバルと主人公が同じ競技で争うことで主人公の魅力を高める、という方が適している。

三角関係型

主人公・男友達・ヒロインで仲が良く(幼なじみ同士であることが多い)、ヒロインは主人公が好きであり、男友達はヒロインが好きであり、 主人公は男友達の気持ちに気付いていない、というパターン。 恋愛主題の物語において、男友達を物語上重要な役割を持たせようとしたときの自然な解の一つである。

男友達が主人公のそばにいる理由が明確である点、物語の進行が自然でスムーズであることが利点である。このパターンの難点は、ヒロインが男友達を選ばず主人公を選ぶ理由が必要になる点、 友人関係を壊す話となって罪悪感が生じ、楽しくない話になってしまう点である。 実際、ヒロインと主人公が結ばれるまでの障害が男友達だけという作品は存在し、それはそれは嫌な話であった。

そのため、最近では、男友達の持つ恋愛感情を淡くして、ヒロインの幸せを願うために自分の想いを抑え、 積極的にヒロインと主人公をくっつけようとするタイプが登場している。 この場合、自分の想いを抑えて主人公を助けてくれる、という行動それ自体をもって男友達の魅力とすることができる。また、ヒロインと主人公との仲を裂こうとする外敵に対しては男友達は完全な味方であり、 共に戦って外敵と打ち勝つ話として楽しい話に仕上げることができる。このタイプの問題は、 あまりに主人公にとって都合が良すぎることである。ただ、美少女ゲームというものは主人公にとって都合が良いものなので、あまりに目に付いて興ざめにならなければ大きな問題とはならないだろう。

三角関係型は美少女ゲームが物語重視に移行した当初から存在し、亜種も含めて今もよく使われるタイプである。今後も繁用されると予想される。

カップルセット型

男友達にすでにつきあっている女性がいて、その女性もサブキャラクターとして登場するパターン。当然ながら男友達の彼女は完全に攻略対象外となる。 最近登場例が増えているパターンである。

恋愛中心の物語では、 男友達とその彼女とのカップルは、主人公の恋愛を描く上での一つの模範解答として機能する。主人公・ヒロインいずれにとっても、 この男友達とその彼女は恋愛の先輩であり良き相談相手になる。これにより、このカップルは主人公の恋愛を邪魔することなく、むしろ手助け役として自然に活躍することができる。

このカップルは模範解答なので、当然良いカップルとして描かれることになる。 二人どちらも、それなりに魅力を持った、好感を持てるキャラクターとして描かれることになる。これは物語全体の雰囲気を良くし、楽しい作品に仕上がる方向へと働く。

このパターンの問題は、男友達の彼女役が肝心のヒロインよりもプレイヤーにとって魅力的に感じてしまったときに、プレイヤーに鬱屈がたまることである。 これが発生しても、このカップルが良いカップルと描かれている限りは物語はうまく展開するので致命的な問題とはならないが、美少女ゲームとしてやや微妙な作品として評価されることになる。 別の問題は、主人公のものにはならないそれなりの魅力を持った女性キャラクターをわざわざ描く手間がかかることである。

このパターンは問題が少なく、楽しい作品を作るのに向いた良い手法である。 手間が増えるので、低コストで制作する小さい作品には向かない方法だが、 通常サイズの作品では今後もよく利用されることになるだろう。

異常性癖型

男友達の女性に対する好みがあまりに偏っていて、その作品の登場ヒロインがその男友達にとって対象外となっているパターン。 男友達の存在を主人公とヒロインとの恋愛に対し邪魔にならなくする手法である。 男友達の好みとしては、極端な年下好き、極端な巨乳好き、極端な年上好き、 などがありうる。女性に対する好み以外ではまともな人物として描かれ、 能力・技能も高めであることが多い。主人公は彼を、「女性に対する好みは違うが、基本的には良い奴だ」と認識し、友人として問題なくやってこれる。

この性癖は、主人公の恋愛に邪魔には確かにならないが、「カップルセット型」と違って役に立つこともない。 そのため、荒事など、恋愛以外の場面で男友達が活躍することが多い。能力・技能が高めになることが多いのはそのためである。主人公の友人として、 困った時に助けてくれるサブキャラクターが必要なときに用意されるのだろう。 なお、男友達の描写が主人公に投影されるという理論からすれば、男友達の異常性癖は主人公に対する印象に悪影響を与えるということも考えられるが、 実際はこれはほとんど問題にならない。男友達は基本的には良い奴として描かれるし、 主人公の女性に対する好みはヒロインとの関係によって明確に描写されるので、 この点では主人公と男友達は明確に区別されるからである。とはいえ、 友人が変人である、という事実がある以上、主人公も普通の人間でとどまるのは困難になる。

恋愛中心の物語に登場させるには「カップルセット型」の方が洗練されている。 外敵と戦うなど恋愛以外の描写の多い物語や、余計な制作の手間とコストを省くには使いやすい手法である。

実は敵型

超常物で割とあるタイプで、主人公(の持つ力)を監視もしくは狙って男友達が主人公に接近していた、というパターン。 恋愛中心の物語には不向き(よって当然、性交渉の描写を主目的とした作品においても不向き)であり、力そのものを主題とした物語に向いた設定である。

超常能力そのものを物語の主題にしたとき、男友達を積極的に物語に絡ませようとするとこれが最も自然な解なのかもしれない。 ただ、この手法を用いると、男友達の描写が主人公に投影される理論から、 主人公の超常性がより強調されてしまう(「数少ない友達でさえ、こんなだったのか…」)。 物語の結末も、主人公が日常に帰るよりも、力に呑まれ日常に帰れない悲劇的なものがふさわしくなる。 また、主人公は男友達に裏切られたことになるから、 この点でも物語に悲劇性が帯びる。

このパターンは、超常能力を扱った悲劇的な話によく合う設定である。 それ以外の話にはまず向かないだろう。

実は主人公が好き型

三角関係型の変種で、主人公・ヒロイン・男友達が友人同士でヒロインは主人公が好き、までは三角関係型と同じだが、男友達はヒロインが好きとみせかけて実は主人公が好きだった、というパターン。 三角関係型と同様に三人が一緒にいる理由が明確である点、男友達の気持ちに添えなくともプレイヤーに罪悪感が一切発生しない点がこの手法の利点である。

この手法を用いた場合、物語は綺麗にまとまる。しかし、このタイプが登場すると、相当数のプレイヤーが男性同性愛に対して猛烈な嫌悪感を示し、 作品に対して好評価が得られないのが現実である。

男性同性愛に嫌悪感を示すプレイヤーが相当数いるのは事実であり、 美少女ゲームで男性同性愛を登場させることを歓迎するプレイヤーはまずいない。 それにもかかわらず、主人公と男友達との同性愛を扱う作品は複数存在している。 これには、創り手側とプレイヤー側で意識に差があるのかもしれない。

男性同性愛を登場させる背景に、女性向けジャンルでこれが確立していることがあるのは間違いない。そのものを扱う「やおい」や「JUNE」に限らず、 高年齢層を対象とした少女漫画にも、男性同性愛の色を漂わせて人気を博している作品は少なくない。 ところで、恋愛を描くメディアとして最も実績があるのは少女漫画である。だから、恋愛を描く創り手が、少女漫画に触れているのはごく自然なことであり、その中で男性同性愛描写に触れることがあってもおかしくない[*3]。この点は多くのプレイヤーと大きな差だろう。 多くのプレイヤーは少女漫画に触れることは少なく、男性同性愛描写に慣れているプレイヤーはさらに少ないはずである。

[*3] 原画家など制作スタッフには女性がそれなりの割合でいることを考えると、 男性同性愛が登場する女性向けメディアに慣れ親しんだ女性スタッフの意向が関与している可能性もある。

この現状、今までのこのパターンを使った作品の営業実績を鑑みると、物語はうまくまとまるとしてもこのパターンを利用するのは創り手にとって危険である、と言わざるをえない。

結論


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last update: 2005/9/5