アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

主人公の傾向と対策

美少女ゲームにおいて最も重要な登場人物は主人公である。主人公は全てのルート、全ての場面において主要な役割を担う。 そのため、創り手側は主人公をどのように見せるか、プレイヤー側は主人公をどのようにとらえるか、これらは作品全体の価値に大きく影響する。 ここでは、プレイヤー側の主人公の扱い方に注目して、「同調型」「共感型」「鑑賞型」の大きく3通りに分類し、それぞれ解説する。

同調型

これは主人公がプレイヤーの完全な分身になることを想定したタイプである。 本来のアドベンチャーゲーム、ナンパゲーム、RPG(主人公を直接動かすタイプのもの)など、 “ゲーム”の中で主人公視点を用いて描写するものは基本的にこのタイプに入り、古くから使われる主人公タイプである。 ゲーム性を失った現在のノベル型の美少女ゲームでも、相当数の作品はやはり創り手側はプレイヤーに主人公に同調してもらうことを想定している。 この同調型の場合は、主人公の周囲の状況がプレイヤー側に実感を持って伝わり、 主人公の心の動きがプレイヤーの心の動きと一致する。このため、プレイヤーの心を大きく動かす感動的な作品を作りやすく、結果プレイヤーは大きな満足感を得ることができる。また、アニメ・マンガ・映画など既存メディアでは主人公が他の登場人物と同様に姿を持ち、プレイヤーにとって第三者として描かれる。 このため主人公とプレイヤーの同調は困難なことが多い。よって、 主人公視点で描写されるノベルゲームでの同調型主人公は、既存メディアに比べ有利な手法である。

ただし、現在の美少女ゲームでは、同調型と描写方法が全く同じながらもプレイヤーに同調することを想定しない作りの作品が多数存在している(後述の「共感型」「鑑賞型」)。 特に問題になるのは、同調型の主人公をそうでないと勘違いしてしまう可能性である。同調型の主人公はちゃんとプレイヤーに同調してもらわなければ効果を発揮しない。よって、プレイヤーは同調型の主人公が出てきたときはきちんとそれを察知して同調を試みるべきである。

また、同調型主人公はリスクが大きい作りである。プレイヤーの性格やその他何らかの理由でプレイヤーが同調に失敗した場合、作品の楽しさが大きく損なわれてしまう。それではと主人公を鑑賞対象として切り替えようにも、 同調型の主人公は同調性を確保するために特徴が弱く能力も低めで登場人物として魅力が薄いことが多い。 作品中あらゆる場面で登場する登場人物の一人に魅力がない、というのは非常に大きなマイナスである。即作品の失敗につながる可能性が高い。

同調型主人公の一般的特徴

上記のような特徴の多くが主人公に現れている場合は、プレイヤーはその主人公への同調が要求されているとみるべきである。

共感型

同調型の主人公には、同調を円滑に行うために設定をあまり与えることができない。 ヒロインの魅力で引っ張るキャラクター主導の作品ならこれでよいが、物語主導の作品の場合、主人公を話にかませにくく、非常に作りにくい。 そのため、物語主導の作品では、主人公にしっかり設定を与えて話を作り、 その代わりプレイヤーに主人公への同調を要求しないのが普通である。 プレイヤーは、主人公の視点を共有し、主人公と取る行動と発する感情に(立場は違えど)同意し共感し、結末まで主人公を見届ける。 これが共感型である。共感型の主人公は、同調型の主人公と異なり、有能で魅力的に描かれる。 無能な主人公はプレイヤーに見放されてしまい(プレイヤーの共感がヒロイン側に行ってしまったりする)、うまく機能しない。 また、何らかの原因でプレイヤーが主人公に共感を抱けなかったとしても、主人公を魅力的に描いておけば、後で述べる鑑賞型の主人公を持つ作品として成立させることが可能になる。このため、共感型は同調型に比べ失敗しにくい安全な作りである[*1]。 この安全性のためか、物語主導ではなくキャラクター主導でも共感型主人公の作品が作られることもある。また、共感型では主人公が魅力的に描かれるので、 同調型であったように主人公とヒロインが釣り合わない、という問題も発生しにくい[*2]。

[*1] もちろん、きちんと作品を作るのは前提である。同調型の場合、作品をきちんと作ったとしても、同調が出来なかったプレイヤーにとっては失敗作になってしまうリスクを抱えている。 そもそも作品がちゃんとしていない(主人公やヒロインの魅力を出すのに失敗している)のは問題外である。
[*2] 美少女ゲーム初期に存在したナンパゲームでは、主人公がヒロインに認めてもらえるような行動をするのがゲームだったので、主人公とヒロインが釣り合わない、という問題は作品の不備にはなりえなかった。 この問題は、ナンパゲームが廃れゲーム性が失われたときから始まったと考えることができる。

共感型の主人公は安定した方法だが、同調型に比べ既存メディアに対する有利性があまりないのが欠点である[*3]。 なお、共感型の主人公の場合は、プレイヤーが共感するのは主人公だけである必要はない。そのため、他のキャラクターの視点から見た描写が入る(「マルチサイト」)こともある。

[*3] 一応、主人公視点の描き方は、主人公の内面描写に向いた手法なので、主人公をキャラクターとして描きあげるのに有効ではある。 ただ、それを言うなら、他のメディアでも内面描写が必要になったときに主人公視点で描写することもあるので、やはり既存メディアに対して有利とは言えない。既存メディアに対する有利性は、多彩な演出手段と、複数ルートによる物語の厚み、 ということになる。

鑑賞型

物語重視が行き着いた形態がこれである。もはやプレイヤーには主人公への共感も要求されない。 プレイヤーは主人公をヒロイン達等と同様、登場人物の一人としてその行動に魅力を求め鑑賞する。この形態となるおもなパターンとして、主人公が策略家だったり、善良ではなかったり、 女性だったり、 語りたい大きなテーマが別にあったりする場合がある。

この形態は、主人公視点で描写する、という美少女ゲームの今の枠にそもそも合致していない。そのため、鑑賞型主人公を持つ作品は妙な仕上がりになることが多い。これに対し、 主人公の立ち絵を他の登場人物達と同様に表示して第三者視点で描写するという、既存メディアに近い描写法をとる作品も登場している[*4]。 今後そのような作品が増える可能性もある。

[*4] 「Forest」(ライアーソフト)。 この作品は先駆的なだけに、話の内容は非常に変である。これは初めてだからであり、今後はより普通の話でもこの描写法をとる作品が現れておかしくない。

結論


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last update: 2005/10/2