アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

眼鏡の役割

「眼鏡」は、ヒロインに与えられる属性の中で最もポピュラーなものの一つである。 ただしこの属性は、非常に好むプレイヤーが存在する反面、嫌うプレイヤーも多く存在する。 そのため、眼鏡キャラクターに関する話題は、眼鏡が大好きなプレイヤーの強い主張と、それに対する嫌いなプレイヤーからの反発のせめぎ合いで、(少なくともプレイヤー間では)冷静な議論はほとんどされていない。

現状では、眼鏡派 対 反眼鏡派 の対立は、ほぼ反眼鏡派の勝利となっている。 眼鏡ヒロインの存在比率は低下し、主要なヒロインが眼鏡をかけることはほとんどなくなった。本稿は、この状況を踏まえ、 眼鏡という属性が持つ本来の性質は何なのか、どのように利用するのが最も適切なのかを論じたい。

眼鏡は道具である。道具であるからには使用目的がある。そして、その使用目的は以下の大きく二通りに分けられる。


視力の矯正

近視矯正用の眼鏡、遠視矯正用の眼鏡、老眼鏡。現実の眼鏡の大多数はこれである。若年層では近視矯正の眼鏡が圧倒的に多い。 近年はコンタクトレンズの低価格化・高性能化が進み、眼鏡ではなくコンタクトレンズの使用を選択する人が増えているが、 依然として多数の人が眼鏡を必要としている。矯正用の眼鏡を必要とする人にとって眼鏡は必需品であり身体の一部である。

外界からの目の保護

日差しを防ぐサングラス、実験・作業用の保護眼鏡はこの効果に特化した眼鏡である。そして、眼鏡が目を守る相手はこれら実体のある物だけではない。 他者の視線からも目を守る。眼鏡のレンズは他者の視線を遮る壁となり、 (特に人混みの中で)他者の印象に残りにくくなる。変装用の道具、 有名人が正体を隠して行動するときの道具として眼鏡は定番である。

眼鏡をかけている人に対するイメージは、基本的には眼鏡の道具としての機能に由来するはずである。 まず、視力の矯正としての機能から派生するイメージについて。眼鏡の大部分は近視矯正の眼鏡であるため、眼鏡をかけている人は他者からは近視であるとまず仮定される。 近視をもたらす要因は先天的な要素(体質)と、後天的な要素(生活習慣)がある。先天的な要素については個人差が非常に大きく、遺伝の影響が小さい。そのため、血筋に関する情報・イメージは眼鏡には入らない。後天的な要素は、照明が不足している所で近い物を見ることが多い生活習慣が近視の引き金になる。 かつてはこれが勉強や読書といった知的活動を連想させ、眼鏡をかけていることが知的なイメージを与える側面があった。おそらく今でも多少はそのイメージがあるだろうが、現在の日本は近視になりやすい環境が日常であって、 先天的に近視になりうる人は皆近視である。そのため、 今は近視であること(もしくは、近視と仮定されること)で生じるイメージは非常に小さい。

次に、後者の機能に由来する、眼鏡をかけている人に対するイメージについて。 これは派生でも何でもなく、本来の機能である。眼鏡をかけている人は、 眼鏡が視線を遮る壁となり、印象が弱くなる。たとえその眼鏡が近視矯正用であったとしてもである。 この効果は、現実世界においては大勢の中で相対的に印象が薄くなるといった程度の弱いものだが、アニメ絵CGのゲームの中ではそうでもない。 なぜなら、アニメ絵というのは容姿の中の一部の形状を強調し、それ以外の部分を無視することで成り立っている。そのため、アニメ絵では描かれている要素から受ける印象は相対的に増大し、特に眼鏡のようにサイズの大きくはっきり描かれる物の影響は大きくなるからである。 さらに、眼鏡については、存在希薄化効果は二重にある。 まず、現実に眼鏡をかけている人は目立たなくなる(効果は非常に弱いとはいえ)ことから、眼鏡をかけているキャラクターに対し「目立たないタイプ」というイメージが付く。さらに、モニターに表示される眼鏡は、 かけているキャラクターの目を本当にプレイヤーから遠ざけてしまう。 現実に即したイメージだけなら効果が弱いが、画面の表示に基づく効果が重なると影響は大きい。 つまり、アニメ絵のゲームで登場する眼鏡は、現実以上に、 かけているキャラクターを目立たなくする効果がある[#1]。

ここまでくれば、美少女ゲームのヒロインが眼鏡をかけないのは必然であることがわかる。ヒロインはプレイヤーに見てもらい、選んでもらうために用意されているキャラクターである。コンタクトレンズにする、という無害な選択肢があるのに、 わざわざ眼鏡というキャラクターを目立たなくする道具を持たせるわけがない。

しかし、作品中眼鏡をかけた女性キャラクターを一切登場させないべきか、 というとそうではない。時にはキャラクターを目立たなくさせることが作品の中で有効に働くこともある。 また、現実に眼鏡をかけた女性は相当の割合で存在するので、 登場人物数が多くなってくると眼鏡をかけている人もいないと不自然になる、 という事情もあるだろう。 それでは、どのような場合に眼鏡をかけることが有効になるだろうか。例を挙げてみたい。


眼鏡が役に立つ職業 (1): 普段の顔はかりそめの顔

眼鏡をかけることが特に利益になる職業のキャラクターは、プレイヤーへの印象云々の前に眼鏡をかけるのが自然である。どういう職業かというと、 眼鏡の機能で二番目に述べた機能を日常的に利用する職業で、具体的には芸能人、裏組織に属する超常能力者など。 ただ、このキャラクターが眼鏡をかけて利益があって嬉しいのはそのキャラクターにとってであって、 作品の制作者にとってはキャラクターが目立たなくなるのはマイナスである。 そのため、このパターンでは眼鏡をかけた日常の姿はあくまで仮の姿として描き、キャラクター本来の魅力は眼鏡を外した非日常の姿で示すのが効果的である。ただ、眼鏡を外した方が魅力的というのは眼鏡愛好者の激しい反発を買う危険がある。

眼鏡が役に立つ職業 (2): 白衣と眼鏡

破片や薬品の飛沫を受ける可能性のある技術者・研究者は、コンタクトレンズよりも眼鏡が(現実世界において)推奨されている[#2]。 これを受けて、フィクションの世界でも、目を守る眼鏡と衣服を守る白衣を合わせた白衣と眼鏡というスタイルが定式化している。 このスタイルにおいてもキャラクターの印象希薄化の問題は避けられないが、 眼鏡を誰かにかけさせないといけないとなれば、技術者・研究者タイプのキャラクターにかけさせるのが定式化していてかつ現実に即している分悪影響が小さい。

趣味全開

作品の本筋とは別に、万人受けはしないが制作者が特にお気に入りのヒロインがいる場合、彼女に眼鏡をかけさせてプレイヤーへの印象を薄め、作品の本筋がゆがむのを防ぐ、という使い方が可能である。 こうした場合、そのヒロインは万人受けのしないとがったキャラ立てと眼鏡というマイナス要因が加わってあまり人気は出ない。しかし、作品の分量アップ、制作者のやる気の観点から、 出さずにルートを削るよりはよい。

非攻略サブキャラクター

非攻略サブキャラクターの多くは物語を動かす都合で登場する。物語を動かすということは活躍するということである。活躍するキャラクターは魅力がアップする。 そういうわけで、非攻略サブキャラクターが魅力的であることは少なくない。 このとき、プレイヤーから魅力的なサブキャラクターが攻略できないとして不満が出ることがある。 これを防ぐため、物語上重要な役目を果たすサブキャラクターに眼鏡をかけさせて目立たなくし、プレイヤーに彼女が魅力的だったという印象を与えないようにする使い方がある。典型例は、 カップルセットで登場する男友達(コラム「男友達の傾向と対策」参照)の彼女役である。

そこまで積極的な利用をしないにしても、学園物など登場人物の多い作品では、一定数存在するべき眼鏡着用者はサブキャラクター側に回すのが問題が出ない。

犯人

登場の割に目立たなくなる、という眼鏡の効果は、推理物の犯人役にうってつけである。作品が推理物であり、主要な登場人物の中に眼鏡ヒロインが一人いるならば、犯人は彼女だ。 ただ、「眼鏡=犯人」という図式が広く知られてしまったならば、その裏をかく作りがありうるかもしれない。しかし、眼鏡の効果は犯人役向きなので、この図式のままの作品の方がきれいに仕上がるだろう。


まとめると、アニメ絵の美少女ゲームにおいて、眼鏡の役割は着用ヒロインを目立たなくさせることである。 当然筆頭ヒロインをはじめとする攻略対象ヒロインには不向きの属性である。 とはいえ、現実に眼鏡をかけている人は相当数存在するので、学園物など登場人物の多い作品ではサブキャラクターの一部には眼鏡をかけさせるのがよいだろう。また、推理物の犯人役など、目立たなくなることが有利に働くキャラクターには積極的に利用されるべきである。



[#1] 逆に小説では、眼鏡が形をとって描かれないため、後者の実体のある機能に由来する存在希薄化の効果は小さくなり、 「知的」のような実体のないイメージが強くなる。
[#2] コンタクトよりは眼鏡を選ぶ、ということであって、視力矯正を必要としない技術者・研究者は普段は裸眼で仕事中は保護眼鏡を着用する。なお、筆者の経験では、 最近は(眼鏡着用者でもその上に)保護眼鏡を着用するのが徹底され、 コンタクト利用を問題視されることはなくなってきている。


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last update: 2006/2/19