アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

異世界物概論

1. 序論

異世界もの、その名の通り異世界を舞台にした作品群で、PCゲームの一大ジャンルを形成する。既存のメディアでも非常に例が多いジャンルである。 異世界ものは、そう呼ばれる以上、その異世界を魅力的に描くことが大きな要素となる。そのため、異世界ものはビジュアル的な演出が非常に効果的であり、美しいCGを取り扱えるPCゲームに向いたジャンルと言える。 PCゲームで例が多いのは当然であり、今後も多くの作品が発表されることになるだろう。 なお、一口に異世界ものといっても非常に広いので、ここでは最も典型的なパターンである、(狭義の異世界ものと言ってもよい)、 現代人の主人公が異世界に呼び出され、そこで物語が展開する、というパターンについて解説したい。

主人公を現代人にする理由は、その方が主人公がプレイヤーに近くなるからである。同調型主人公(主人公の傾向と対策参照)の思想である。 そして、現代人主人公の異世界ものは、同調型主人公が最もうまく機能する形態である。なぜなら、大して能力も技能もない冴えない現代人であっても、 異世界に行けばその特殊性(その世界にない知識、技術、または単に「他とは違う」という点)を生かしてヒーローになれるからである。 弱い同調型主人公が活躍できる数少ない舞台であり、これを生かさない手はない。 そのため、たいていの作品は主人公が同調型主人公として設計され、かつその活躍が作品の大きな要素となっている。

以上より、現代人主人公の異世界ものは、(1) 魅力的な異世界を見せる、 (2) 同調型の弱い主人公が異世界で活躍する、という2つの大きな要素をもつ。 これを踏まえた上で、詳しく考察していきたい。

2. 世界の設定

異世界ものと呼ばれるからには、異世界をどのように設計するかは最重要事項である。 特に、現代人主人公が登場する場合は、現代世界と異世界がどのような関係にあるかが作品全体に大きく影響する。この点に着目し、異世界を現代世界と同格におく並列型、現代世界より低位におく従属型の2通りに分類し、それぞれ考察してみたい。

2.1 並列型

行き先の世界が現代世界と同等の存在である。厳密に定義するなら、「その世界の存続に現代世界を必要としない」となる。現代世界と全く異なる地理、歴史、文化、 社会構造を持ち、異世界らしい異世界が構築される。

魅力的な異世界を示すという観点では、作品の見所は世界そのものである。 プレイヤーに行ってみたいと思わせる必要があり、住んでみたいと思わせればなおよい(特に、結末で主人公がその世界に残る場合)。 このためには、見た目の美しさだけでなく、完成度の高さ、高いリアリティが必要である。プレイヤーは、リアリティが低い世界に対して強い思い入れを持ったりはしない。高いリアリティを得るためには、 世界を構成する要素(例えば上に挙げた地理、歴史、文化、社会構造)が互いに矛盾無いように設定される必要がある。

しかし、現代人主人公が登場する並列型異世界は、リアリティを揺るがす大きな要因を二つ抱えている。一つは、世界間移動そのものが強烈な超常現象であり、それが存在する作品は必然的にリアリティが低くなってしまう点。 これは現代人を主人公にする限り、 避けようのない大きな問題である。 もう一つは、言葉の問題である。行き先の世界が全くの別世界ならば、当然言葉も違うはずである。しかし、主人公が全く違う言葉の世界に飛ばされるとなると、これは大変である。 プレイヤーは主人公が苦労して言葉を覚えるのにつき合わなければならない。また、言葉を覚えるまで数ヶ月物語が進展しないため、物語本体も相当長期間に渡るものでないとつりあいが取れなくなる。言葉の壁をそのまま扱うのは大変なので、 実際の作品では言葉の壁を見なかったことにして一切扱わないことが多い。 しかしそうすると異世界のリアリティがかなり低下してしまう。

この2点の要因から、現代人主人公は魅力的な世界を示すという作品の目的に向いていないことがわかる。そのため、現代人主人公で並列型異世界を扱うなら、世界を示す、 以外の要素が不可欠である。そこで浮かび上がってくるのが、プレイヤーが主人公に同調して活躍する、という要素である。

このタイプの作品は、リアリティを高く保つ都合、作中の現代世界を可能な限りプレイヤーが住む現実世界と同一にする方がよい。 そのため世界間移動が起きる原因は異世界側にあるのが基本である。つまり、その異世界では世界間移動が世界のルールに組み込まれている。 そしてそうであるからには、世界は異世界人に何かしてもらうことを期待しているはずである。従って、 並列型異世界を舞台に現代人の主人公が世界的な活躍をするのは当然である。 ただ、主人公が活躍するのは既定事項だが、能力や技能が秀でているわけではない主人公がどうやったら活躍できるのか、というのは難しい問題である。 実際は、異世界に移動した際に何らかの超常能力が与えられることが多い(後述)。

*1 現代世界は失踪という現象が受け入れられており、 作中異世界に人を送り出してもリアリティの低下には直結しない。

このように、並列型異世界の作品は、現代人主人公の異世界ものが持つ2つの要素がともに高いレベルで要求され、しかもそれを達成するには障害が多い。 十分な手間をかけて制作する大作に向いたタイプで、成功すれば高い評価を得ることができるだろう。小さい作品で使うと粗っぽさや不十分さが目立って失敗する可能性が高い。

2.2 従属型

行き先の異世界が現代世界の下位にあるタイプ。誰かの夢の中の世界、というのが代表的である。その他、本の中の世界、電脳空間上の仮想現実、精霊世界、などが典型的な例である。

このタイプでは、世界の存在に目的がある。つまり、誰かにとって都合のよい世界である。ご都合主義が世界のルールに組み込まれている。 このため、創り手が世界を組み立てる際にもご都合主義が使える。その結果、創り手は自分の望むままに理想化された世界を提示することができる。

こうして作られた異世界は、綺麗な世界に容易に仕上がるが、 精緻に作られた並列型の異世界に比べリアリティが低く、 プレイヤーに大きな印象を与えることができなくなる。 これは仕方のないことであり、それ以上を望むべきでもない。 なぜなら、従属型の異世界は、現代世界に比べて格が低く、結末で主人公が居残ることはまずない。 そうなると、プレイヤーにその世界に住んでみたいと思わせる必要はなく、逆に住んでみたいと思わせてしまうとプレイヤーが結末に不満を覚える可能性が出てしまうからである。もちろん、従属型でも魅力的な世界を示す要素は重要であり、プレイヤーにその世界に行ってみたいと思わせるように作るべきではある。

従属型異世界では、現代世界から人が送り込まれるのがさほど異質ではないため主人公の特殊性が低いこと、そして世界自体が小さいことから、並列型に比べ主人公の英雄的要素は小さい。とはいえ、主人公を大英雄にするような大それたことをするのは大作での話であって、小さめの作品では身の丈にあった活躍で十分である。 活躍の程度が小さいので、低能力の主人公でも何とかでき、作品をうまくまとやすい。

リアリティをさほど高く保つ必要がない、能力の低い主人公に見合った話で十分であるという2点、他にも言葉の壁を描かなくてよいという点から、従属型異世界は並列型に比べ作品を作りやすい。作りやすいということは大失敗しにくいということでもある。 ただし、異世界ものが持つべき2要素が並列型に比べ小さくなる。別にテーマが設定されていることも多い。

2.3 その他

異世界が現代世界と対等、異世界が現代世界に従属、ときたら、現代世界が異世界に従属、というパターンがあっても良さそうである。しかしこれはまずありえない。 なぜなら、このパターンは、主人公の住む世界を身近にして主人公を身近にするという、現代世界を登場させる目的に反するためである。 主人公の属する世界を別世界に従属させたいなら、 別世界側(もしくは両方)を現実世界を基調とした世界にした方がよい。

また、妖精世界などで、異世界と現代世界が相互に強く関連しあっていると定義されることもある。この場合は従属型に準じる。

3. キャラクターの設定

3.1 主人公

同調型主人公の特徴がそのまま当てはまる。冴えない学生、が基本。ただし、無能力な学生のままでは異世界で活躍するのが困難である。そのため、異世界に送られたとき、 世界から何らかの超常能力を与えられることが多い。この超常能力の存在は、 同調を保つという点では有害だが、現代世界で超常能力に目覚めるよりは影響が少ない。その理由は、元の世界に帰ったときに能力がなくなることと、その能力は世界のルールの中で認められた能力であることに由来する。 現代世界で超常能力に目覚める場合は能力者はその能力を扱うにふさわしい心の器が要求され、さもなくば世界から(具体的には、能力者の組織によって)抹消されてしまうが、この場合はそうではない。 いくら主人公が力に振り回されようが、力について悩もうが、その力は世界がそれを承知で主人公に与えたものである。世界は主人公の味方である。

とはいえ、超常能力を主人公が持つのは同調維持に有害なことは違いなく、追加能力なしで物語が作れるならそれに越したことはない。しかしその結果主人公が超有能な人物になってしまうと、同調性にはよっぽどそちらの方が有害である。 結局、最小限の超常能力が異世界に来たときに与えられるとした方がうまくいきやすい。

3.2 主人公の家族

まず、両親は死別していることが圧倒的に多い。これは、舞台が異世界である以上、 主人公が現代世界にしがらみがない方が都合がよいためである。特に結末で主人公が行った世界に残る場合には、現代世界に主人公を捜す両親を残したままというわけにはいかない。 両親の死亡保険金で食いつないでいるという設定にすれば、金銭的な面でも現代世界にしがらみを残さずにすむ。両親死別設定の問題は、 プレイヤーの大多数は両親死別ではないため、同調性に悪影響が生じることである。 全てのハッピーエンドで現代世界に帰る話ならば、両親は健在で構わない。

その他の家族では、最適解は妹一人である。主人公が天涯孤独の身というのはプレイヤーの境遇から外れすぎるので家族一人くらいはいた方がよい、 という理由が一つ。もう一つの大きな理由は、主人公が行った先の世界で残ることを決断したときに、現代世界の代表としてそれを認証する役目を果たせるためである。 ここで登場する妹キャラクターは、元の世界に帰る側の話を担当する攻略対象ヒロインの一人として運用しても構わないし、英雄たる主人公を支えるサブキャラクターに徹しても構わない(前者は義妹、後者は実妹向き)。 妹を出す問題点は、話がパターン化することと、主人公にもまして能力が低い妹を果たして魅力的に描けるのか、という点である。姉、兄、弟の登場は主人公の活躍の邪魔になるので通常ない。

3.3 現代世界の人々

世界移動を行わない主人公の友人についてまず述べる。 これらの友人は物語の開始時に関係が切れてしまうが、これは問題ない。 友人関係は、会うことがなくなれば自然消滅するするものであり、 特にしこりは残らないからである(これが言えないのが家族である)。 人間誰でも友人ぐらいいるものなので、異世界ものの主人公でも、 少数ながら(あまりに多ければさすがにその関係を切るのは問題)友人はいたことにするのが普通である。

次に、一緒に世界移動を行う友人について。これは扱いが難しい。なぜなら、 行った先の世界にとって、友人達は主人公と同格の存在であり、主人公に期待される役割と同等の役割を持っていることになるからである。その結果、 友人達は主人公のライバルになるか、仲間として主人公と一体化するかの2パターンになる。前者は男女問わず気持ちよい話にならず、 後者は女性だと彼女の個別ルートで異世界描写が盛り上がらず、 男性の友人だと主人公が食われる。登場のメリットは低い。特に、恋愛ゲームで登場頻度の高い幼なじみヒロインは、プレイヤーに幼なじみがいる可能性が低いこと、妹キャラクターと役割が被りかつ妹キャラクターより有用性に欠ける(家族の少なさを埋める効果を持たない)こと、個別ルートで現代世界時代のつながりを描くのがメインとなり異世界ものである意味が薄くなることから、 この現代人主人公異世界ものに向かないキャラクタータイプである。

最後に、世界移動の後で新たに出会う現代世界人について。このタイプのキャラクターは有用である。物語序盤にはその土地における異邦人の先輩として主人公の案内役・世界の説明役を務める。異世界の魅力を描くという目的に合致したキャラクタータイプである。 中盤以降では主人公と同等の能力を持った心強い味方(もしくは手強い敵)であり、かつ主人公の現代世界人としてのアイデンティティを忘れさせない効果がある(これは同調性維持に有効)。 特に、結末で現代世界に帰る場合は、物語の途中で現代世界の存在をプレイヤーに忘れ去らせないことが必要なので、 このタイプのキャラクターが有用である。その場合はもちろん女性にし、 攻略対象ヒロインの一人とされる。 作中活躍するので攻略対象ヒロインとしての魅力も申し分ない。

3.4 異世界のヒロイン達

現代世界人の異世界ものは、行った先の世界で主人公は世界を動かす活躍をし、 また行った先の世界の描写が作品の大きな要素である。そのため、異世界側のヒロイン達は、描かれる世界の象徴的な人物であり、かつ高位の人物である。例えば、 華やかな王宮を描くのなら姫、魔法を描くなら天才魔術師、 冒険を描くなら天才剣士、美しい自然を描くならそこに住む妖精、 従属型世界で世界の成り立ちを描くなら世界の管理人、といったところである。異世界のヒロイン達は異世界ものの主役である。 彼女らと共に、主人公はその世界・分野で活躍することになる。

ここで注意しなければならないのは、ヒロイン達は英雄である主人公に合わせて優秀でなければならないが、その世界で例外的な存在ではない方がよい点である。 なぜなら、そのヒロインのルート・イベントは、彼女に関連する世界・分野を描写する役目を持っている。このとき、彼女が普通から大きく外れていると、 その世界・分野が正しく描写されなくなってしまうからである。

4. 物語の展開

4.1 物語の始まり:世界間移動

現代人主人公の異世界ものは、世界移動をしなければ始まらない。この最初の世界移動の標準パターンは、主人公は事前の知識なく世界移動に巻き込まれて異世界に放り出され、帰り方がわからず途方に暮れるうちに異世界側のヒロインに拾われる、というものである。 プレイヤーと同じ立場に設定した現代人主人公ではこうなるのは必然である。従属型異世界の中には、自発的に世界を移動したり(仮想現実)、行った先で記憶がなくなりその世界の住人として暮らす(夢の世界)といった例外もあるが、これらはリアリティの低下や主人公への同調性低下が伴いやすい。

その後、現代世界と異世界との行き来は、並列型異世界では許されないのが普通である。並列型異世界は、その世界が舞台である。現代世界への門が開くのは、 結末時と、物語の都合で一時的に現代世界に飛ばされる用ができたときのみである。これに対し、従属型異世界では割と自由に行き来できることが多い。 これは、異世界と現代世界との関係が異世界の設定の中で重要で、作中でその関係性を描写する必要があるためである。

4.2 物語の展開:世界はどう変わる?

異世界ものでの現代人主人公は、行った先の世界で大きな活躍をする。 つまり、物語の中で、その世界を変える大きな事件が起きるということである。しかし、異世界ものは主人公の活躍を描くだけでなく、 魅力的な異世界を描写するという要素があることを忘れてはならない。 そして、異世界の美しさと魅力は、主人公とプレイヤーの第一印象に訴えかけるよう、たいてい物語の序盤に示される。このとき、主人公がかかわる事件の結果、最初に示した異世界の魅力が損なわれてはまずい。 よって、特に異世界の魅力が重視される並列型の場合、物語の基本は「世界を守る」となることが多い。

ただ、従属型ではこの法則はあまり当てはまらない。世界の格が低いことと、 世界描写で押し切れない分物語で押す必要があることから、 ヒロインを救うために世界を壊すことも結構平然と行われる。この場合は通常、 同格の世界をまた新たに誕生させる、といったフォローがなされる。何もフォローがないのはかなり問題のある作品である。

4.3 物語の結末:主人公は残る?帰る?

現代人主人公異世界もので大きな関心を集める事項に、主人公は残るのか帰るのかの選択がある。これはいずれにしても利点と欠点があり、難しい選択である。

まず、異世界ものとして魅力的な異世界を提示するという立場からすれば、主人公はその世界に残るのが筋である。 しかし、プレイヤーも主人公も現代人であり、同調性の高い主人公を用意したという点では帰ってくるのが自然である。

どちらかを選ばなければならないのだが、作品の性質がどこに寄っているかによって選択するしかないだろう。異世界描写を重視した作品なら、残るを基調とすべきである。そういう作品には異世界側のヒロインが多く配されているはずで、 異世界側のヒロイン達のルートで帰るはありえない。残る場合、主人公を現代世界から断ち切る、プレイヤーを納得させる何かが必要になる。今のところ最も有力な方法は、 主人公の妹に代わりに帰ってもらう、という方法である。さらに、物語の初期、 飛ばされた当初は主人公は帰ることを望んでいたはずなので、主人公の心境の変化をきちんと描かなければならない。

主人公を残すのは様々な配慮が必要だが、主人公を帰して終わらせるのはごく自然な流れであり、簡単である。反面、魅力的な異世界を示す効果が損なわれ、 作品が小さくなる。また、この方法は夢オチに近いので、 主人公達が異世界に行ったことの意義を何か示さなければならない。実際、 帰るパターンは異世界ものとしての要素が薄い従属型異世界を用い、 作品のメインテーマが別に設けてある作品に多い。

5. まとめ

現代人主人公の異世界ものは、魅力的な異世界を描く、同調型の主人公を活躍させるという2つの要素がある。この要素を作品のメインに据えるなら、 世界は現代世界と同格(並列型)にし、ヒロインは異世界側の世界的に優秀な人々を配し、主人公は彼女らとともに世界を守って活躍し、結末でその世界に残るべきである。しかし、 この作品作りで発生する諸問題を克服するには多くの手間と配慮が必要で、必然的に大作になる。

それだけの手間がかけられないのなら、異世界ものの要素が大きく薄まった、 おそらくは全く別の要素を組み込んだ作品に設計すべきだろう。


「アルカナム電脳遊戯研究所」トップへ共通トップへ

last update: 2005/12/18