アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

男の娘(コ)の時代

美少女ゲームをはじめとする二次元アニメ絵メディアにおいて、美少女の姿を与えられた女装男性キャラクターは、 「男の子」をもじった「男の娘」という呼び名が与えられ、登場も増加傾向にある。 主人公が女装である例と効果については、すでに2008年度推薦作品・「るいは智を呼ぶ」で簡単に触れている。 端的に言えば、「作中常に登場するキャラクターである主人公をヒロイン格にすれば省コスト」ということである。 とはいえ、女装主人公の作品は成功例が多く、今も制作が時々発表されており、また主人公ではなく男友達を女装キャラクターにした作品もある。 そこで、ここでもっと詳しく、まとめて解説することにしたい。

女装主人公:標準形

近年成功を収めてきた女装主人公の基本パターンは、主人公が、何らかのやむを得ない大きな事情により、女性コミュニティー(通常女学園)に女性のふりをして入り込む、というものである。 一般大衆は主人公の女装に全く気づかず、CG描写としてもヒロインと全く同様に取り扱われる。 主人公が女装するに至った事情を軸に物語が展開する。

これらの点から、ほぼ自動的に多くのことが導かれる。 まず、女装を成功させているため、演技力・注意深さ・機転などに優れ、それらを支える高い知的能力を主人公は持っている。 また、性差によりコミュニティーの中で図抜けた体力・運動能力も持っている[*1]。 このことから、コミュニティー内で「能力の高い、かっこいい人物」として扱われる。 プレイヤーの視点では、主人公の能力の高さと立場の特殊さから、主人公をプレイヤー自身と同一視することはなく、第三者的にみるようになる。 これは主人公のヒロイン性をより増す方向である。 また、主人公の抱える事情が大きいために物語主導の作品となるが、一般に物語主導作品では物語の都合でヒロインが使われるため、正ヒロイン達の魅力が高まりにくい。

これらはすべて、主人公が「かっこいいヒロイン」として際だつ方向である。 であるから、これをそのまま生かして主人公をかっこいいヒロインとして描ききる、というのが最も安定して作品を成功に導く道と思われる。 もともと女装主人公には制作コストの有効活用の側面があるのだから、有利な構図を無駄にすべきではない。

この標準形(女装主人公が第一ヒロインとして女性コミュニティー内でかっこよく活躍する)は安定しており、コミュニティーの種類や主人公の事情の内容など可変要素が多くまだまだ良作を生み出せると思われる。 一方で、男の娘はまだ歴史が浅い属性で、標準形に沿わない別なアプローチによる作品もいろいろ試される可能性がある。 制作者の創造力が生み出すさらなる良作に期待したい。

女装主人公:妄想形

標準形とは異なる形態で古くからあるものとして、女装主人公が制作者の性的嗜好がそのまま現れた結果である場合がある。 この場合、主人公=制作者(プレイヤー)であるから、上記標準形と異なり、主人公は弱い。 性的嗜好をそのまま形にした作品なので性描写中心であり、女装した主人公は受け身の姿勢でヒロインが責め側に立つ。 また、女性スタッフの関与等により、ヒロイン=制作者(プレイヤー)という構図もありうる。 結果としては同じで、ヒロインが女装少年を辱めるという内容になる(この二つの構図は共存しうる)。 当然ながらプレイヤーの性的嗜好がいずれか制作者と合致することが楽しめる必要条件であり、標準形に比べプレイヤー層は限られる。

女装男友達

男友達は、すでに解説したように、作中の序盤で主人公の定義に必要なキャラクターであるが、中盤以降邪魔になるため扱いが苦慮されている。 この男友達を女装にしてヒロイン性を持たせて使い倒そう、というのが女装男友達の登場である。

同じ男性キャラクターであっても、主人公と男友達では大きく立場が違い、女装にしたときの効果も違ってくる。

まず、女装に大した理由はなくても構わず、登場する舞台に制約はない。 主人公を含めた友達仲間にはすでに女装であることがわかっている。 しかし、何も知らない一般大衆から見れば美少女に見える女装の腕はあり、それを支える高い知的能力を持ち合わせている。 また、女装していることが結構広く知られていながらそれを咎められない社交性の高さがある。 このように、女装主人公と方向性に差があるものの、有能キャラクターであることに間違いはない(主人公:知的・高運動能力;男友達:知的・高社交能力)。

類は友を呼ぶ。男友達は主人公を映し出す鏡である。 主人公が知的で社交的な友達を持っているのは、主人公もある程度の知性と人当たりの良さがあるということであり、よいことである。 女装の親友ということで変人と見なされることは免れないが、美少女ゲームの主人公が性に対して寛容なのは全く構わないだろう。 さらに加えて、ヒロイン達が男友達を恋人に選ばない合理的な理由もついてくる。

以上から、主人公の定義を行うという男友達の本来の用途において、女装であるというのはトータルではプラスに働いている。 問題は、ヒロイン性を持たせた先の方である。

序盤に多く登場し、気楽に主人公と話し手助けしてくれる有能な女装男友達は、簡単に体験版時点での最人気キャラクターになる。 ヒロインを食ってしまうことはなはだしく、しかも所詮はサブキャラクターでありいかに人気があろうとルート確定以降は出番が減る。 CGの数も少ない。 だからといってルートを設けるべきかというと、作品の本題ではないのにプレイヤー層を狭めてしまう危険があり、難しい[*2]。 結局は程度問題だと思われるのだが、現段階ではこれでOKという使い方は見つかっていない。

まとめ

美少女ゲームに登場する必須男性キャラクターを女装にしてヒロイン化するという方法は強力であり、プレイヤーに特別な性的嗜好を要求することなく、容易に人気キャラクターに育てあげることができる。 主役である主人公ならば、やれるかぎりやって作品一押しのヒロインにしてしまうのが正解だと考えられる。 一方、脇役である男友達は、良い効果も多いのだがさじ加減が難しく、必要以上に存在感が突出してしまう可能性大で今後の改良が待たれる。

[*1] これを補強するため、男性の中でも高い運動能力と武術を有していると設定されることが多い。
[*2] ファンディスクなら?


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Update: 2011/5/9