背景世界“World of Darkness”

"World of Darkness"は、TRPGのシリーズ名であり、そのシリーズの共通の背景世界の名前でもあります。このWorld of Darknessという世界は、私達の世界と基本的に同一です。地理も歴史も同じです。現在起きている現象――次々変わる流行、日々進む技術(特に情報関連)の進歩、これも同じです。違うのは、社会の病理(犯罪、権力の腐敗、社会全体を覆う暗い雰囲気、等々)がより強調されていることと、人々の知らないところで超常の生物(吸血鬼Vampire、魔法使いMageなど)が蠢き社会を操っているということです。

舞台となるこの背景世界の中で、プレイヤーは、無力なただの人間ではなく、(一応の)超常能力を備えていて社会に裏から(少しは)影響を及ぼすことができるキャラクターをプレイします。その力をもって社会に立ち向かうか、流されて堕落するか、押しつぶされて破滅するか、それはプレイ次第です。

さて、ここで、World of Darknessシリーズのメイン五作品であるVampire, Werewolf, Mage, Wraith, Changelingを順に紹介していきましょう。

Vampire: The Masquerade
(邦題「ヴァンパイア:ザ・マスカレード」)

World of Darknessシリーズの第1作で、このシリーズを代表するゲームです。このゲームでは、不老不死の吸血鬼(Vampire)となってしまった人間を扱います。陽光の下に出ることができず、人の生き血を啜ることでしか存在し続けられないヴァンパイアは、人間社会の裏に潜んで暮らしています。不老不死であるヴァンパイアは、永い永い年月”生き”続けるにつれ堕落し、権力ゲームに僅かな楽しみを見出します。他者を支配し、手駒とすることはヴァンパイアの得意技です。しかし、手駒を操っているヴァンパイア自身も、より強力な別のヴァンパイアの手駒にすぎません。人間の政府のほとんども、年古きヴァンパイアの誰かの手駒となっていますし、社会を覆う暗い雰囲気は、多くは裏から操るヴァンパイア達からもたらされたものです。

そんな中、プレイヤーは、なり立てのヴァンパイアをプレイします。ヴァンパイアになってから間もないPCは、以前の人間の心をまだ持ち合わせています。PC達は、失われようとする人間性をなんとか保ちつつ、人間社会の裏にあるヴァンパイア社会の中で生き抜いていかなければなりません。


Werewolf: The Apocalypse
(邦題「ワーウルフ:ジ・アポカリプス」)

人狼を扱ったゲームです。大自然の力「ガイア」に仕える誇り高き戦士である彼らは、ガイアの力が弱まり失われつつある現在、強大な敵に対して崇高な戦いに身を捧げています。

ワーウルフの世界観では、世界は「ワイルド」と呼ばれる生命と創造の力、「ウィーバー」と呼ばれる秩序の力、「ワーム」と呼ばれる腐敗と破壊の力の3つの力のバランスで保たれています。ガイアおよびワーウルフはワイルドに属しています。ところが、現在ウィーバーとワームの力が極端に強くなり、ワイルドは危機に瀕しています。暴走したワームは「環境破壊」「社会の腐敗」といった形で顕在化しガイアとワーウルフを脅かしています。

こんな中、ワーウルフは戦います。ワームに汚染され環境破壊を続ける大企業、社会の闇に巣くうヴァンパイア、ワームの影響を受けた科学者が作り出す怪物、精霊界から呼び出されたワームの使徒の精霊、これらが敵です。敵は強大です。プレイヤー操るワーウルフ達は、悲愴な戦いに身を投じることになります。


Mage: The Ascension
(邦題「メイジ:ジ・アセンション」)

現代の魔術師を扱ったゲームです。魔術師ではありますが、彼らMageの扱う魔法は、いわゆるファイアーボールのような呪文とは異なります。Mage達は、Reality―世界法則そのものを変えてしまう力があり、その結果もたらされる現象が魔法なのです。

Mageにはそれぞれ、各自の信奉する理想の世界観があります。Mage達はその理想に向けて魔法を使い、世界を動かしていこうとします。一例ですが、近代より前は、科学技術は世界法則に認められていませんでした。しかし、物理法則を信奉するMageの一派(コペルニクス、ダーウィンなどが有名)による”魔法”の積み重ねにより徐々に世界は変わりました。かつては飛行機が飛ぶのは魔法でした。今はそうではありません。その代わり、儀式で精霊を呼び出すのは今は魔法を使わなければ無理となりました。

人間の政治を裏から操っているのがVampireなら、Mageは人間の文化を操っていると言えるでしょう。Mageはそれぞれ理想を求めて世界を動かそうとしますが、Mage同士思想の違いによりあちらこちらで衝突が起こります。World of Darknessは、こうしたMage達の活動により振り回されています。World of Darknessの将来がどうなるかはMage達がどのような行動をとるかによって決まります。そして、PCとしてプレイするMageも、世界を動かせうる存在なのです。


Wraith: The Oblivion

亡霊を扱ったゲームです。PCは幽霊であり、未練を残して逝き、成仏できずにこの世にとどまっている存在で、未練を晴らそうと活動しています。

ここまでは”普通の”幽霊ですが、このゲームで特徴的なのは、精神体となっている幽霊は、生前は隠れていた心の闇の部分が純化してより表に現れやすくなっているとしている点です。この心の闇はShadowと呼ばれ、幽霊をさいなみます。(ゲーム的には、表の幽霊担当のプレイヤーとは別のプレイヤーがShadowを操って幽霊を邪魔します) PCである幽霊は、内に潜む敵(Shadow)と闘いつつ、未練を晴らそうとしなければなりません。


Changeling: The Dreaming

現代の妖精を扱ったゲームです。このゲームでプレイするChangelingとは、夢の世界(Dreaming)の住人である妖精としての自我と、現実世界に暮らす人間としての自我の両方を持った存在です。妖精として生きていくDreamingの中は、無限の可能性を秘めた世界ですが、そこはあまりに混沌としていて、ずっとそこにいると正気を失ってしまいます。反対に、現実世界はWorld of Darkness。人々が夢も希望も持たないこの現実世界に暮らしていると、Changelingの夢の力は世界から否定され、失われていってしまいます。

プレイヤー操るChangeling達は、この危ういバランスを何とか保ちながら、無限の可能性に満ちたDreamingを探検していきます。しかし、障害も大きいです。夢の力を否定しようとする現実世界の圧力(=Banality)は巨大です。また、Dreamingの中も安全ではありません。夢の世界であるDreamingは、人々の見る夢が具現化したものです。人々は希望や喜びや感動に満ちた夢ばかりを見るわけではありません。人々は悪夢をたくさん見ます。そして、その悪夢はDreamingの中で実体化し、妖精達に襲ってくることでしょう。

World of Darknessシリーズは長らく未訳でしたが、アトリエ・サードより日本語版が出版されました。 2001年10月現在、Vampire: The MasqueradeとWerewolf: The Apocalypseの日本語版が発売されています。今後の発展が期待されます。

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Original Manuscript: 2000/9/24; updated: 2001/10/20; revised: 2002/1/14