☆アルク先生の支那通史講義神話から伝説へ☆





 「みんな、おひさー。楽しいんだか楽しくないんだかよくわかんない『アルク先生の支那通志講義』、二時限目の始まりだよー」

 「はーい」

 「どうぞ」

 「よかろう」

 「了解である、同志アルクェイド先生!」

 「ま、さっさとやっちゃって」

 「くっ……! 本来は私がいるべき場所を奪い去っておきながら、いけしゃあしゃあと先生ヅラして……! 見ていなさい。いつの日にか必ず、取って代わってやりますからね!」

 「『取って代わる』は楚の項羽が秦の始皇帝の行列を眺めながら言ったセリフよ。フライングは迷惑だから止めてよねシリ

 「ダイレクトすぎですー!!

 「へーへー。あ、それと今回から受講生が二人ばかし加わるよ」

 「 「狂うぜ先生の世界史講座」もびっくりのタイミングですね」

 「先生! 質問の許可を求める! なぜ「受講生」であって「転校生」ではないのだ!
 はっ! まさか、我輩の萌えイベントフラグ立てを妨害しようというのか!? こっ、この人非人!」

 「いえ、真祖は人じゃありませんから」

 「あまり深くこだわるべきじゃないと思いますが、いちおーこのコンテンツは授業じゃなくて講義です

 「そ。まー細かく言い出したら私も先生じゃなくて講師になっちゃうけど、そのへんは目をつぶってね。でも一番の問題はやっぱ受講生じゃない? 約一名、なんちゃって女子高生でしかないのが紛れ込んでるもの

 「だからなぜそこで私を見るんですかー! 北辰さんみたいにどこをどう見ても私より年上の方だっているじゃないですか……!

 「いや、あれは年齢うんぬんよりホモサピエンス人間の範疇に入っている時点でなにもかも諦めてるから

 「……ずいぶんな言い草ではないか(うずくまって地面にのの字をかいている)」

 「その点についての異論はございませんが

 「こんなときだけ共同戦線を張るなっ!

 「(教室の扉の向こう側から)ところで、入室許可はまだ下りないのでしょうか?」

 「あ、いーよいーよ。お二人様ごあんなーい

 「何の商売よ……」

 「それでは、(扉を開けて壇上にまで進む)このたび新しく受講生になることになりました。クラスはセイバーです。本家「ソフィア先生の逆転裁判」Subject9-1からの出向です。今後ともよろしくお願いします」

 「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します。以後、お見知りおきのほどを(つい、とスカートの裾を持ち上げて優雅に頭を下げる)」

 「……」

 「そこの二人、両腕を掻き抱いてくねくね踊らないでよっ!」

 「お気になさらず。生前の私の周囲には、私と顔を合わせるたびにあのような行動をとる騎士たちが後を絶ちませんでした。きっと我々を歓迎してくれているのでしょう

 「それ違う。絶対に違う。天地神明に懸けて違う

 「あ、それ私のところも同じだったよー

 「セイバーさんやイリヤさんの周りにいた方々って……ナデシコクルーと同類? 私もさんざんそんな対応をされました

 「そうだったんですか。そんな環境で育ったものから、ここまで無愛想に……。なんて不憫な話でしょう

 「これです」

 「はいはい、おしゃべりはそこまで。セイバーにイリヤ、ざっと自己紹介をお願いね」

 「はい。先ほども申し上げましたが、私のことはセイバーと呼んでくだされば幸いです。真名を明かすのはご容赦ください。故郷はイギリスです。委員長スキルを見込まれて受講生になることを誘われました」

 「はいはーい、私の祖国はドイツだよ。スキルはロリブルマ、ついでに魔術師の素養ね」

 「え? いつのまに体操着に!? さっきまでは確かにスカートを穿いてたのに……」

 「甘い甘い。ま、素人目には判別しづらいかも知れないけどね。心の眼で見れば私のドレスとブルマを入れ替える魔術くらい悟れるものよ」

 「見える……見えるぞ! まぶたを閉じればはっきり見える!! イリヤたんがブルマのみならず眼鏡アーンド猫ミミを完備している様を!! これが……心眼!!  我輩は! 今! ここに! 絶技開眼したのであるうぅっ!!

 「心の眼でものを見すぎよっ!

 「島本和彦ですか?」

 「そういう意味では、日本の“自称”知識人たちも絶技を開眼していることになるな。
『日本が平和なのは憲法第九条のおかげだ』
『過去の侵略の謝罪と賠償を忘れるな』
『若年層の犯罪の増加はマンガとゲームとアニメのせいだ』
 うむ、正常な耳目をもってすればとうてい発言不可能な電波を発信しておるあたり、やはり心で物事を捉えておるのだろう」

 「その心が歪みまくってるのが一番の問題なんだけどねー」

 「しかしセイバーさんもイリヤさんも、よくこんなアホコンテンツに顔を出す気になれましたね」

 「なにをおっしゃいます! 中国こそフランス・トルコに並ぶ世界三大料理の一つである中華料理の本場でしょう。

ああペキン、シャンハイ、シセン、カントン……(虚空を見つめながら頬を緩める)」

 「えっと、トリップしているところ申し訳ないんだけど、中華料理なんてこのコンテンツじゃ登場しないよ」

 「それでは長居は無用です。これにておいとまいたしましょう」

 「帰るんかいっ!

 「私にとってはやはりシロウのご飯が一番です」

 「ちょっとくらい我慢しなさいよー。私だって志貴のラーメン食べたいのに」

 「主人公に餌付けされる金髪ヒロインというのは、TYPE-MOON作品の伝統なのでしょうか?」

 「あと基本スペックは劇中最高であるのに主人公に足を引っ張られて本来の能力を発揮できないヒロインでもあるな」

 「でも、イギリスの料理ってそんなにひどいの?

 「……思い出させないで下さい

 「イギリス料理のひどさについてはこんなジョークがあります。

 人間としての最高の生活は、イギリス人の邸宅に住み、日本人の女性と結婚し、中国人のコックを雇い、アメリカ人の給料を貰うことである。
 人間としての最低の生活は、イギリス人のコックを雇い、日本人の邸宅に住み、中国人の給料を貰い、アメリカ人の女性と結婚することである。

 ……アメリカ人の女性ってそんなにダメダメなんですか?

 「こっち向きながら訊かないでよ!

 「イギリス人の料理オンチを風刺したジョークを並べてみるね。

・イギリス料理を前にしては、たった一言しかない。曰く、「仕方がない」
・イギリス料理に調味料は使われない。麻酔薬が使われるのだ。
・ヨーロッパを旅行する場合、フランスを訪れるならフランス料理店の扉を叩け。イタリアに赴けばイタリア料理を食べろ。イギリスに行ったら中華料理店だ。
・焼肉、ゆで肉、味をつけていない野菜、まるでオウムのエサだ! こういったものすべての上に、イギリス人はまるでボルジア家が調合したようなスパイスを何びんもふりかける。

 あ、ボルジア家ってのはルネサンス時代の貴族でね。政敵を片っ端から毒殺していったことで有名よ」

 「大英帝国が陽の沈まない国にまで発展したのは、本国の料理から逃れるためにイギリス人たちが世界中に散らばったのだという説もあります。我々フランス人が常に彼らの後塵を拝していたのも仕方のないことだといえましょう」

 「エセフランスのくせに何を言ってるんだか。大体ね、フランス料理を自慢してるつもりかもしれないけど、カレーばっかり食べて肌が黄色人種化しているキレンジャーもどきじゃ説得力に欠けるわよ」

 「……(ぷるぷると肩を震わせる)」

 「あれ? 怒った? 怒っちゃった?
 クモ膜下出血で血がぴゅーぴゅー出てる?
 でもシエルのことだから血までカレー色してるんでしょーね。死徒も食屍鬼も裸足で逃げ出すおぞましさ?

 「くきぃーっ!」

 「なに、星崎希望のつもり?」

 「似合わん」

 「全国のゾンミファンに土下座こいて謝罪するべきだな。というかすなわち、光の速さを突破して我輩に謝れ! アインシュタインに挑戦状を叩きつける勢いで!

 「あなたがた、そのあたりでご容赦なさい」

 「そんじゃま、今回は何について講義するか伝えておくね。
 お題は支那の伝説時代について。
 近代以前の概念として、人類の営みはざっといって三段階の時代に分かれているわ。神話、伝説、そして歴史。
 神々が思うままにその異力を振るえた神話時代のように未成熟な世界ってわけじゃないけど、人間が天地自然の唯一の主人として疑いを挟む余地のない歴史時代のように堅牢な世界でもない。それが伝説時代。いわゆる過渡期ね。
 その象徴として活躍するのが、神々と人間の混血としての 「英雄」よ。古代ギリシャのヘラクレスやペルセウスを連想してもらえば早いわ。
 で、支那の伝説時代だけど、龍首蛇身とか牛頭人身みたいな化け物じみた姿じゃなくなってすっかり人間くさくなっちゃったわ。もっともそれも諸子百家の時代の思想家たちの都合で弄繰り回された結果だけどね。
 とりあえず具体的な内容としては、五帝と夏王朝についてよ。

 五帝――少昊しょうこう
       顓頊せんぎょく
       こく
       ぎょう
       しゅん
 夏王朝――

 五帝については諸説あるけど、この講義じゃ『十八史略』に従うわ」

 「アルクェイド先生、質問の許可を求めます」

 「いーよん」

 「先生はさきほど“諸説ある”とおっしゃられたが、それは何故ですか?」

 「だって五帝って、後世の捏造だもの」

 「またかいっ!」

 「またって……前回もあったの?」

 「このあたりの事情を説明するのに、加上説かじょうせつってのがあるわ。
 読んで字のごとく、自分たちに都合のいい理屈を上へ上へと加えていくやり方よ。架上説ともいうわね。
 で、その加上説かじょうせつを提唱したのは銭玄同せんげんどうとか顧頡剛こけつごうとかの擬古派

 「ギコハ?」

 「カタカナだと全然違うように聞こえるわね。つまり
『昔の連中のゆーことなんざどれもこれも嘘っぱちじゃねーの?』
ってふうに、過去の伝承ならなんでもかんでも疑ってかかる学派のことよ。
 比類なき超大国のはずだった清が阿片戦争でボロ負けした結果、門戸を開放して近代化を断行しなければ国が滅ぶことが支那人にもわかったの。で、旧来では自明の理だった伝説を疑問視する風潮が学問の世界にも波及してきたのね。
 さて、儒教の大親玉孔子周公旦しゅうこうたん私淑していたわ」

 「ふむ、『封神演義』の脇役だな」

 「ん。殷に勝利して周王朝をうち建てた武王の弟よ。ちなみに武王の武ってのはおくりなでね、これは死人につける呼び名よ。まあ仏教の戒名みたいなモンだと思えば早いわ。周の武王の本名は姫発きはつ。姫が姓で発が名前よ」

 「では、周公旦しゅうこうたんというのもおくりなですか?」

 「ううん。通称みたいなものかな? 旦が名前で、周公ってのは彼を尊んでつけられたものよ。姓名を正確にいえば姫旦きたんになるわ。ところで、太公望って知ってる?」

 「民明書房とともに超絶格闘技を網羅する太公望書林かっ!」

 「その実態を知ったとき、いたいけな少年たちはサンタさんが実在しないと知ったときと同レベルの衝撃を味わったそうです。
 まさに極悪非道捏造上等の出版社

 「男塾ネタはいいから……」

 「それはともかく、太公望といえば釣り愛好家の代名詞だな」

 「んー、一般には支那史上最初の軍師として知られている人物よ。で、この人の名前が望で、太公は尊称。太公ってのは祖父とか老人とかいう意味だから、 「望のジイサマ」ってニュアンスかな。そのころはこんな表現が流行ってたんでしょ」

 「あれ? たしか周の文王(武王の父)の爺さんが待ち望んでいた人物だから 「太公」の「望」だって聞いたことがあるんだけど」

 「それは後代に生まれた俗説。マンガ版『封神演義』でも太公望の名前は望になってるでしょ。あと、太公望が釣り愛好家の代名詞になったのは、文王が周に招聘しようとしたときに太公望が釣りをしていたって故事から。もっともホントに釣りをしていたわけじゃなくて、文王に声をかけられるのを待つ間のポーズなんだけど。その釣り針は水面から三寸離れていたっていうわ」

 「それでは魚が釣れないではないですか! なんという無駄……!」

 「いいえ、釣ったわよ。文王って大きな魚を。
 ま、それも伝説に過ぎないんだけど

 「ぶー。話を盛り下げるようなことばっかり言わないでよ」

 「いちおー歴史学の講義のつもりだから、史実と虚構の区別くらいはつけておかないとね。
 で、周公旦しゅうこうたんの話に戻るわ。彼は周王朝の礼楽、おおざっぱに言えばシステム全般を創り上げた人物として知られているわ。さすがに一から十まで周公旦しゅうこうたんの創作じゃないけど、四書五経の一つ『書経しょきょう』には彼の名前で著された文章が収録されているから、かなり彼の手が加わっていることは確かよ。後世の支那に与えた影響は絶大ね。はっきり言って、ただの戦争屋に過ぎない太公望よりもよっぽど重要人物よ。個人としての影響力で比肩できるのは、それこそ孔子くらいじゃないかしら?
 その孔子だけど、周公旦しゅうこうたんへの傾倒ぶりはちょっと常軌を逸していたわ。500年は昔の、顔も見たことのない周公旦しゅうこうたんを夢に見るくらいだったもの」

 「マジ? 夢に見るって、白髪三千丈レベルのホラじゃないの?」

 「マジも大マジ。
『論語』述而篇に

『俺の老けぶりもひどいものだ。夢に周公を見なくなってずいぶん経つのだから』

って孔子の嘆息が収められているもの。若いころには頻繁に夢に見てたってことになるわけだから、その萌え狂いっぷりはたいしたものね」

 「萌え狂いっぷりって、をい」

 「仮にも世界四大聖人に向かってそんな言いようは……」

 「我が主と肩を並べる不埒者を三人も数え上げていること自体、キリスト教への侮辱です

 「あれ? シエル、あんたにとっての四大聖人ってカレクックとキレンジャーと竜造寺淳平と松沢夏樹じゃなかったの?」

 「ことあるごとにカレーネタに結びつけるのは止めやがりなさいコンチクショー!

 「はいはい。あと、周公旦しゅうこうたんについては酒見賢一って小説家が『周公旦しゅうこうたん』ってそのまんまの題名の小説を書いてるわ」

 「ああ、あのエロゲーマーの

 「第一声がそれかい」

 「エルフの名作『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』を絶賛して、その年の日本SF大賞にかすりもしなかったことをぼやいてた、あの

 「『語り手の事情』の語り手のメイドが翡翠に脳内変換されて仕方がない、あの

 「何故か純文学の巣窟「文學界」に掲載されてしまった『語り手の事情』の発表は『月姫』よりも先です。まあ最後には性格が反転してしまうあたり、連想してしまうのも仕方がないと思われますが」

 「そのくせ日本ファンタジー大賞とか中島敦記念賞とか新田次郎文学賞とか、なんか偉そーな響きの文学賞をいくつも受賞している、あの

 「なにやら滅茶苦茶な評価ですけれど、氏の作品の面白さ自体は折り紙つきなので一度手にとってみることをお勧めいたします」

 「宣伝はそのあたりで。
 それでアルクェイド先生、その周公旦しゅうこうたんがいかがしました?」

 「慌てない慌てない。
 さて孔子の没後、儒教とタメを張るくらいの勢力の思想集団が誕生しました。
 その名は墨家集団。戦国の世にありながら侵略戦争を否定した支那史上最強の戦闘思想集団よ」

 「あの、ちょっといいかしら?
 なんで“侵略戦争を否定した”のに“戦闘集団”になるの?」

 「うむ。これはあきらかに“ムジュン”している!」

 「逆転裁判、っていうか本家からのパクリは止めなさい!」

 「えー、矛盾なんかしてないよ。
 墨家集団の経典の『墨子』に「非攻篇」ってのがあってね。そこには

『一人を殺せばきっと一つの死刑の罪に相当する。
 この道理をすすめていけば、十人を殺せば十の死刑の罪に相当し、百人を殺せば百の死刑の罪に相当する。
 しかし他国を侵略するという大きな不義を犯す場合、それを非難するどころかかえって追従して正義の戦争であると褒め称える』

なんて書いてあるわ。チャップリンを二千何百年か先取りしてたわけね。
 だから彼らは絶対に攻撃しない。
 ただ、守ったの

 「守った?」

 「そう。彼らは自分たちの主張を後方からの奇麗事で済ませようとはしなかったわ。空理空論じゃ人は動かないもの。彼らは大国の侵略に脅かされる小国と契約して、傭兵のように城塞の防衛戦に携わったわ。頭のてっぺんからつま先に至るまですり減らして奴隷のように働きながらね。
 墨守って熟語があるでしょ? 現在じゃあまりいい意味じゃないけど、これは墨家集団が守禦した城塞の堅固さを表現したものよ。
 さっき挙げた酒見賢一も墨家集団を題材に小説を書いているわ。タイトルは『墨攻』。墨守をひっくり返したんでしょ」

 「奇特な集団もいたものね」

 「で、彼らはを尊敬したの。自分たちの気違いじみた勤労精神の支柱としてね」

 「ウ……」

 「マンボ!」

 「(何事もなかったように)で、これが儒教集団には気に入らなかった。それというのもってのは夏王朝の始祖と伝えられているから。
 支那では春秋時代にはすでに夏・殷・周の三代の王朝が存在したとされているの。夏王朝はいまだに実在が確認されていないけどね。それはともかく尚古しょうこ思想、つまり昔のことなら昔ほど素晴らしいってヘンな思想だけど、これに凝り固まった儒教集団は、孔子から引き継いで自分たちも尊敬する周公がよりも後世の人物なのが面白くない。
 そこで考え付いたのが

『じゃよりも昔の聖人を引っ張ってくりゃいーじゃん』

って結論。そこでぎょうしゅんが儒教好みの聖人になって設定されたわ。ご丁寧にもに天子の位を譲ってやった立場としてね」

 「せこっ」

 「時はあたかも戦国時代。後に百家せい放と謳われたように、とにかくいろんな学派が手前勝手な主義主張を繰り広げていたわ。で、儒教のやりかたに目を付けた他の学派も自分たちの主張を正当化するためにいろんな聖人を昔へ昔へと積み上げていったの。その中で道教は黄帝を設定したわ。道教は別名を黄老思想っていうんだけど、これは“黄(帝)と老(子)の思想”って意味よ。老荘思想とも言うけど、荘ってのは戦国時代の思想化の莊子(ソウシあるいはソウジ)を指すわ。
 道教のパトロン金づるせいって国でね、ここからせいの始祖は黄帝になったわ。このへんは前回でやったっけ?
ちなみにせいは東の方ね


 この地図の西側にある秦が天下を統一しちゃって諸子百家の時代も終わったわ。もっともそれまでに五帝の数が五人以上になっちゃったものだから、学者によって五帝の中の人がまちまちなの」

 「中に人などいない!」

 「お約束ねー」

 「あと余談だけど、天下を統一した秦王が

『俺は天下で最高の権力者だってーのに、地位が王じゃ釣り合わねーだろ!ゴ━━━━(# ゚Д゚)━━━━ルァ!!』

なんてゴーマンかまして、新しい称号をひねり出すように臣下に命令したわ。そこで腹心たちが前回の講義の三皇と今回の五帝を併せて 「皇帝」って称号をたてまつったの。
 そのときから秦王は始皇帝を自称することになるわ」

 「ふーん、皇帝の由来ってそんなところから来ているんだ」

 「はい、加上説かじょうせつの説明はここまで。 ここからは五帝の説明に移るわよ」

 「あーあ、やっとなの?」

 「このコンテンツの無駄な前置きの長さを侮ってはいけません」

 「さて、まずは最初の五帝、少昊しょうこうね。
 こいつは
 オーヴァー以上

 「おー、オーヴァー以上

 「お二人とも、オーヴァー以上ではありません。
 先生、もう少し詳細な解説をお願いします」

 「むー、優等生すぎるのも面白みがないなー。人選を誤ったかな?
 それはさておき、少昊しょうこうね。こいつは影が薄くてね、『史記』だと五帝の中に数えられていないわ。姓はともエイともとも伝えられて定かじゃないし。あと、の都・曲阜きょくふが「少昊しょうこう之墟」

って呼ばれていたから、そのあたりに興った小部族の神だったんでしょう」

 「ロ?」

 「(全身全霊の力を臍下丹田に籠めて)リ!!

 「……風王結界」

 「こるぷぁっ!」

 「ドゥブッハァ!」

 「うわーい、ものすごくヘンな断末魔の呻きだー(満面の笑みを浮かべる)」

 「あー、ってのはさっき言った周公旦しゅうこうたんが殷周革命の功績で与えられた土地よ。孔子の出身地としても知られているわ。
さっき言ってたせいのすぐ近くよ


 で、『春秋左氏伝』には少昊しょうこうの即位にあたって鳳凰が飛来する瑞兆があったというわ。そこで少昊しょうこうは官名に鳥の名前を付けることにしたの。
 少昊しょうこう氏の部族は鳥をトーテムとしてたんでしょ。少昊しょうこうの容姿は不明だけど、おそらく鳥に関係したものと考えられるわ。
 それと古伝では少昊しょうこうの名前をとしていてね、五帝のうちのこくの長男じゃないかって郭沫若かくまつじゃくは考察しているわ」

 「少昊しょうこうこくの長男だとすると、黄帝の長子とする『十八史略』の記述とは矛盾することになりますが、これは神々の伝承が古帝王の系譜として整理整頓されていく過程での混乱です。血筋や時間軸が矛盾しているのは、よーするに後世の人間の編修が杜撰だったというわけです」

 「お次は顓頊せんぎょくよ。
 『史記』には

「静かな性格で知恵が深く、計画性があり、ものごとによく通じていた。土地に適するように材物を養い、天にのっとって季節のことを行い、鬼神を敬って尊卑の別を明らかにし、四時五行の気を治めて万民を教化し、身を清め心を誠にして神を祭った」

とか賞賛されているわ。ま、後付け設定ね。後世の人間にとっての君主の理想を並べ立てただけだもの。
 同じ五帝のうち、少昊しょうこうとは伯父と甥の関係だとされているわ。より古い伝承として、『山海経』大荒東経には少昊の国で養育されたとされているから、少昊しょうこう顓頊せんぎょくは何らかの親和関係があったんでしょ。
 で、『山海経』大荒西経だと

 魚あり、扁枯、魚婦という。
 顓頊せんぎょくは死んでもすぐによみがえる。
 風が北から吹き出すと、天は河川を溢れさせる。蛇は化して魚となる。これが魚婦である。
 顓頊せんぎょくは死んでもすぐによみがえる。

って記述があるわ。イマイチ判りにくい文章だけど、とりあえず顓頊せんぎょくが前回のバアル神のように 「死んでよみがえる神」だったってことを示唆しているんでしょ。
 あと顓頊せんぎょく秦王朝の始祖神として知られているわね」

 「始皇帝の秦ですか?」

 「うん、その秦。あと前回でもチョコッと触れた楚もね」

 「あなたのことですから、これも後世の後付けだとおっしゃりたいんでしょう」

 「むー、ちょっとは黙っててよね。
 ま、シエルの言ったとおり、秦も楚も顓頊せんぎょくとは何の関わりもないわ。祖先神とされるようになったのもずっと後のこと。秦は鳥を、楚は虎をトーテムにしていたわ。
いちいち戻るのも面倒でしょ?もう一度地図出すから興味のある人は見といて


 古代の支那は意外とアバウトでね。戦国を統一した秦も、その秦を滅ぼした楚も、さらにその楚を滅ぼした漢も、言ってしまえば全部異民族だったわ。それでも漢民族、っていうか支那大陸の住民たちは別に独立運動なんかやらなかった。秦や楚へのクレームは、あくまでも統治の仕方が過酷だったことに対するものよ。血統とかはたいして気にするようなことじゃなかったんでしょ」

 「隋を滅ぼした唐も、その帝室はモンゴル系の鮮卑せんびでしたが、異民族だからといって文句をつけられたことはありませんでした」

 「秦や楚の祖先神に顓頊せんぎょくを充てたのは、そういった異民族を「中国」って概念の中に括ろうとする意図のもとに行われたの。

『ルーツが俺たちと同じなら、異民族といっても同類じゃん』

って感じでね」

 「漢民族が異民族との境界にはっきりと線をひくようになるのは、朱子学が生まれた南宋以降だよ。大義名分だかなんだか知らないけど、何の実もないイデオロギーにしがみつくしかなくなった自称文明国・他称軍事弱国の哀れさね

 「三番目がこく。この字を一発でコクって発音できた奴はよっぽどの漢字通か、さもなくば歴史オタね

 「うわ、キモっ」

 「モイキー!」

 「歴史はどうか知らないけど、純粋なオタならここに二人……」

 「否。私はオタではない。
 幼女が大好きなだけだ

 「その通りだマイシスター。確かにオタとロリは限りなく近似関係にあるが、それでも単純にイコールで結び切れる間柄ではない。
 我々についてはまだまだ認識不足と断言せざるを得まい!

 「未来永劫に認識不足で結構よ!

 「こくの説明、いくよ。
 『史記』には顓頊せんぎょくと同じように歯の浮くような礼賛がぐだぐだとくっついているけど、これも無視しちゃっていいわ。
 こくの原型を探っていくのに、「帝こくは生まれつき神霊で、生まれてすぐに自分の名を言った」って記述があるわ。このとき名乗った名前が「氈vだって説があるし、また殷王朝の祭祀の記述などから、帝こくしゅんはもともと同一人物で、殷王朝の始祖としてあがめられていたらしいわ。
 こくについてはここらでお開き」

 「短っ」

 「はい、これまで少昊しょうこう顓頊せんぎょくこくの説明を続けてきたわ。これらの神々ははっきりいって、どマイナーね。覚えていても覚えていなくても大して問題はないわ。
 お次はぎょうしゅん。この二人になると知名度は比較にならないくらい上がるよ」

 「アルクェイド先生。
 私もこの国に受肉してから、彼らについてはいささか学んだと自負しています。同じ統治者として、彼らに教えられるところは実に大きかった。
 ここは一つ、私に講釈させてはいただけないでしょうか?

 「ふふふ、いいよ(瞳が妖しく光る)」

 「あの眼……、アルクェイド、何かたくらんでいますね」

 「よくわかるわね。さんざんオモチャにされてきた経験の賜物?」

 「ええ、まったくグッドエンドからこっち、アルクェイドの慰み物にされるキャラクターが定着してしまって……って何を言わせるんですかー!?

 「ぎょうはまたぎょうとも表記します。ぎょうしゅんこそ古代中国が生んだ聖天子。 「ぎょうしゅんの世」といえば、人が人としてもっとも豊かで幸せで満ち足りた理想の時代だとされています。まさしく東洋のユートピア。
 鼓腹撃壌こふくげいじょうという熟語がありますが、これはぎょうの治世がこの上なく安定しているさまを表現したものです。
 さてぎょうが天子となって早七十年。ぎょうもようやく年老いて、自らの地位を譲り渡すべき有徳の士を探し求めました。すると家来たちはみなしゅんを推挙しました。
 しゅんは身分こそただの庶民でしたが、盲人の父、不実な義母、頑固な義弟に囲まれながら孝養を尽くして和を図り、三人に悪事をさせないように勤めていました。しゅんは自分の身が危険と悟ると避けて逃れ、小さな過失のあったときには罪を受けました。危険なときに身を隠すのは命が惜しいからではなく、父に殺人の罪を被せてはならないという親孝行の気持ちから出たものです」

 「とてもじゃないけど真似できそうにないわね」

 「そこがしゅんしゅんたるゆえんです。
 父も義母も義弟もみなしゅんを嫉妬していつか殺してやろうとたくらんでいましたが、いつも文句の付けようがないくらい従順だったのでそのきっかけが掴めませんでした。
 ぎょうしゅんを召し出して二人の娘を娶わせ、ためしに政務をとらせたところ、ことごとく業績を上げました。しゅんの住むところは一年で集落になり、二年で村邑になり、三年で都会になったと伝えられています」

 「ここまで立派だと父親たちも改心するんじゃない?」

 「とんでもない。むしろ嫉妬の炎の勢いを増すだけでした。
 彼らはしゅんを殺そうとはかり、倉の屋根に登らせて、下から火を放って倉を焼きました。このときしゅんは、両手に持った傘を翼のように広げて飛び降りることで助かりました。
 父と義弟はその後も懲りずにしゅんに井戸を掘らせ、深くまで掘ったところで土を投げ込んで生き埋めにして殺そうとしました。このときしゅんは、井戸を掘りながら横穴を作り、そこから抜けだす事で助かりました」

 「ここで死んでたら面白いのにねー(無邪気な微笑)」

 「しゅんのような王者には天も味方するものです。
 さて、二人はしゅんが既に死んだものと思って喜びました。義弟は両親に

『兄が娶ったぎょうの娘たちと琴は俺のものです。牛羊と倉廩は二人に差し上げます』

とほざいてしゅんの家に入り、その琴を弾いているときにしゅんが帰って来ました。義弟は驚いていやな顔をしながら、

『私は兄さんが心配で、気がふさがっていました』

と恥知らずな弁明をしました。しかししゅんは、

『うん、そうだったんだろう』

と答えてまた両親につかえ、弟を愛し、ますます身を慎みました」

 「聞いていてジンマシンが出るような話だな

 「皆さん、話の途中でいちいち突っ込まないでください。
 さてぎょうしゅんを見込んで摂政としました。やがてぎょうは位に在ること九十八年で崩じ、しゅんは推戴されて天子となりました

 「ふーん、よく調べたものね」

 「ふ、当然です。よりよき指導者となるべく、つねに研鑽と学問に励んできたのですから(誇らしげに胸を張る)」

 「胸を張ると、ますますナイチチが強調されるな

 「いや同志北辰、むしろそれがイイのではないか!」

 「がー!!」

 「ま、ナイチチスキー二人組はほっといて、ぎょうしゅんの説明を続けましょう」

 「そうしましょうそうしましょう」

 「あなたの言ってることは全部ウソだけどね」

 「ヽ(__ __ヽ)ズコー!!(漫$画太郎ズッコケ)」

 「ちょっとちょっと、スカートがめくれちゃってるよ(さりげなく野郎二人の視線を遮る位置に立つ)」

 「あら、優しーんだ」

 「ふ、覗かれる辛さは本編の第8話で身に染みてるからね」

 「あれは自らの注意不足ではないのか? 風の強い甲板にあのような衣装で上がっては自業自得というものだろう

 「シャラップ!」

 「あらあら、セイバーったらレディとしてはしたないズッコケぶりね。
 そんなに色気のない転び方だと、お兄ちゃんに嫌われちゃうよー

 「……(のそりと顔を上げて)それでは、色気のある転び方とはどのようなものでしょうか?」

 「よろしい、それではレッスン1。
 いい? 別に転んじゃ駄目ってわけじゃないの。もっと肩の力を抜いて、女性としての弱さを醸し出しながらなおかつ女々しくないように、ふらりとね」

 「む……、それは難しい。私はこれまで、つねに全力で物事に対処してきた。力を抜くと言うことは、怠慢にあたるのではないでしょうか?」

 「んー、これは重症ね。ま、いままで培ってきた性格は一朝一夕には変えられないでしょうから気長にやることね。
 倒れるときに肝心なのは、殿方の目を釘付けにするようにスカートを適度になびかせること。素足を丸出しにするようじゃ、かえって露骨でたしなみがないようにとられるわ。といってガードを堅くしすぎると、相手を拒絶するような印象を与えてしまうよ。
 毎日鏡に向かって練習するのが、上達への一番の早道ね

 「なるほど……勉強になります」

 「何の勉強よ・・・」

 「ほらアルクェイド、メモってないで説明を続けなさい」

 「開き直った女は楽でいいわねー。努力なんてハナからあきらめてるもの。
 まいっか、あとで訊けばいいだけだし。
 はい、ぎょうしゅんの説明ね。さっきセイバーが講釈してくれた二人の話、これって全部デッチアゲなの。加上説かじょうせつのときに言ったでしょ? 儒教好みの聖人になったって。これについてはぎょうしゅん雨って四字熟語が示しているわ。ぎょうしゅんの徳があまねく行きわたったのを風雨のめぐみにたとえているの。ぎょうしゅん風とかしゅんぎょう風とかともいうけど。前回で講義した蚩尤も風伯と雨師を使役したってのに、こちらは逆神なんだから悲惨の極みよね」

 「で、それで真実のぎょうしゅんは?」

 「とって付けたような質問のタイミングですね」

 「ふ、彼女もまた統治者である以前に女だったということよ」

 「ぎょうは別名を陶唐氏とうとうしというわ。唐は現在の山西省太原府さんけいしょうたいげんふ晋陽しんようだよ

場所は北京のすぐ近くね

 「あれ? 隋を滅ぼした王朝も唐って言うんじゃなかった?」

 「間違ってないよ。ぎょうの唐と同じ場所だもの。
 これは支那の王朝名のルールなんだけど、最初に封じられた土地を国号にするの。たとえば劉邦は論功行賞で漢中を領土にしたから国号が漢になったの。前漢を簒奪した王莽は新都って土地に封じられたから国号を新にしたわ。三國志の魏も呉も蜀も、そいつらをツブした晋もそう。で、降って唐の高祖李淵は唐に封じられたわ。ちなみにそのおくりなは神ぎょう大聖大光孝皇帝。ぎょうの字が含まれているところがポイントね。この原則を破ったのがツングースの金とかモンゴルの元。朱元璋の明も土地とは関係がないわ。
 さて唐だけど、ここは春秋時代に至ってもてき族の居住地だったわ。『山海経』海外南経に「てき山はぎょうを山の南に葬り、こくをその北に葬る」ってあることからも、ぎょうはおそらくてき族の祖先神とかだったんでしょ」

 「すみませんが、てきとは何者でしょうか?

 「おそらくモンゴル系かトルコ系の遊牧民族よ。
 支那は中華を自称してるでしょ? 東西南北に異民族を配置してね。

 東――夷
 西――戎
 南――蛮
 北――てき

 ざっとこんなふうに分類できるわ。東夷・西戎・南蛮・北てきとも表現するわね。たとえば『漢書』で倭のことが説明されているのは東夷伝でしょ?
 あと古代日本もエミシに蝦夷って字を充てたよね。蝦夷を征伐するために坂上田村麻呂が授けられた官職が征夷大将軍だけど、これ、支那のやり方をそのまま引き写したものなの。この話を聞いた支那の連中は

『東夷が東夷を東夷と呼んでやがらアヒャヒャヒャヒャヒャ』

と笑ったとか笑わないとか」

 「根拠のない誹謗中傷は止めなさい! ……まあ、絶対にありえないとも言い切れませんが」

 「お次はしゅんね。こっちはぎょうなんかよりもずっと強力な神だったの。
 前にも言及したけど、殷王朝の祖先神のこくはもともとしゅんの別名だったとされているわ。殷の祭祀の記録である甲骨文だと、しゅんを指す文字は“しゅん”の原字で、単に眼一つを表示していたわ。「恐るべき巨眼者=明知者=観察者」としての神性、よーするに魔眼の持ち主だったの。
 しゅんが魔眼持ちだったって伝承は後世にも生き残っていてね。『史記』によれば、しゅんは重瞳子だったと伝えられているわ」

 「チョウドウシ?」

 「一つの眼に二つの瞳が重なってる人を指すらしいの。楚漢戦争で劉邦とドンパチやらかした項羽も重瞳子だって伝説があるわ」

 「……車輪眼ですか?」

 「『ロトの紋章』とはまた古いネタだな同志ルリルリ!」

 「最近だと『NARUTO』にも出てきましたね」

 「しゅんの魔眼はこのへんでお仕舞い。で、しゅんの異名のしゅんだけど、この文字はなにを意味するでしょー?」

 「はい! はい! はいはいはい!

 「ぬ!? 私の予測をはるかに超える気迫……」

 「つまり食事関連ってことね」

 「いかにも!」

 「タコにも!」

 「約束された勝利の剣!!」

 「たった四文字でDEAD ENDへ直行であるかー!?」

 「ボケるときにはちゃんと相手を見極めなくちゃ」

 「はあ、はあ……。我が王道の行く手を阻むものは、ただ斬って捨てるのみ!!
 しゅんとはすなわち、お魚やお野菜の味がもっともよい時期のことでしょう!」

 「ぶぶー」

 「ヽ(__ __ヽ)ズコー!!(漫・F・画太郎ズッコケ)」

 「あ、旧式バージョン」

 「まるで区別がつかないんですけど」

 「セイバーったら物覚えが悪いわねー。さっきのレッスンがちっとも活かされてないじゃない。ここがタイガー道場だったら問答無用でタンコブ一つだよ?

 「どうやら同志シエルに次ぐヨゴレ役にハマりつつあるようだな

 「復活はやっ」

 「再起不能風味のセイバーは放置しておいて。そこのなんか漢字に強そうな外道ロリ、ファイナルアンサー」

 「独断と偏見に満ち満ちていながら本質を鋭く見抜いた人物評をありがとう。
 しゅんとは一月を上旬・中旬・下旬に分けるように、もともと十日を指すものであろう」

 「うん、正解。
 さてしゅんしゅんが祀られていた殷だけど、そこでは太陽は全部で10個あると考えられていたわ。で、その名前は甲・乙・丙・丁・戊・・庚・辛・壬・癸。いわゆる十干は、もともと殷の十個の太陽の名前だったの。
 『山海経』だとその父親はしゅんで、これもまたしゅんの別名よ。母親は羲和って女神。もっとも異説だと羲和はアポロンみたく太陽の御者だとも言われているわ。あとしゅんしゅん嫦娥じょうがって女神に十二個の月を産ませたとされているけど、これが十二支と関係があるかどうかは定かでないわ」

 「前回の神話だと盤古の左目が太陽になったのよね」

 「民族が違えば太陽の起源説話も違うものなのでしょう」

 「ちなみに殷の太陽たちはカラスの姿をしているとされていたわ。おそらく太陽の黒点から連想したものね。名前は火烏かうともいうわ。その脚の数は三本。神武天皇を導いた八咫烏やたがらすもまた三本脚だったけど、おそらく支那の伝説から引っ張ってきたんでしょ。そーいやアポロンの使い魔もカラスだったっけ。
 ついでにいうと、この火烏かうが東の果てで羽根休めするのが扶桑って神木。日本の雅称を扶桑って言うのはここから来ているの」

 「なお、ヤタガラスは日本サッカー協会のシンボルマークに採用されています」

 「なんだかんだ言って、やっぱり日本は中国の影響を大きく受けているのね」

 「ま、その中国も異民族たちの混血で出来上がった文明圏なんだけど。
 たとえば殷は夷、つまり東方の異民族と混交して成立した王朝だもの。この当時の夷はおそらくツングース系って言われているわ。たとえば殷王朝の契(こくしゅんの息子)、つまり少昊しょうこうはその母が玄鳥つばめの卵を呑み込んだせいで産まれたって伝説があるわ。おなじくツングース系の高句麗の始祖・朱蒙の誕生がこれとほとんど同様の卵生説話なの。
 夏・殷・周の三代のうち、夏は北てきだし、周は西戎だしね」

 「十個の太陽の説話を紹介するなら、羿げいについての言及を忘れちゃいけないよ」

 「ゲイ……」

 「意味ありげに呟くのはカンベンして」

 「和樹をその道に引きずり込むつもりなら……遺書を書いておくことね

 「キャラ変わってますー!

 「……ゲイとはなにを意味する言葉なのですか?」

 「ふむ、ようやく復活したか。シリアス世界の住人は難儀なことだ

 「ナデシコはギャグ世界じゃないはずだけど、いちおー。あ、ゲイについてはシエルに訊いてね。そーゆーアブノーマルな行為の経験者はこいつだけだから」

 「だからなんであなたが知ってやがるんですかー!」

 「話が進まないから、私がチャッチャとやってくよ。
 ぎょうの時代、本当なら一日に一つしか出ないはずの太陽が、いたずら半分に十個いっぺんに天空に昇ったの。たちまち地上は焦熱地獄。草木は枯れて河川は干上がり、人民は口に入れるものがなくなってしまったわ。そこでぎょうしゅんに訴えて、天の使者として羿げいを天降してもらったの

 「躾けの行き届いていないガキなど外に出すものではない」

 「なんかしゅんのほうがぎょうよりも立場が上ね」

 「セイバーさんが説明してくださったぎょうしゅんの説話もまた神話を無視した儒教の改変によるものですから」

 「……」

 「奥さんの嫦娥じょうがと一緒に大地に降り立った羿げいは、旱魃問題を物理的に解決したわ。小高い丘に登って神弓を引き絞り、九本の矢を次々に射はじめたの。狙いは外れず、都合九個の太陽というかカラスがぼてぼてと地面に落ちていったわ」

 「一矢違わず太陽を射ち落とすとは……彼がアーチャーのクラスとして聖杯戦争に参加していたら、苦戦は必至だったでしょう」

 「……」

 「もっとも羿げい夫婦の話には後日譚があるの」

 「ゲイ夫婦……」

 「だから止めいっちゅーの!」

 「使命を果たしたつもりの二人は天に戻って、しゅんから大目玉を食らうわ。ま、当然よね。相手は自分の息子を九人も殺した男だもの」

 「それって元を正せばしゅんの人選ミスだったんじゃないでしょうか」

 「覆水盆に返らず。とにかく激怒したしゅん羿げい嫦娥じょうがの神籍を剥奪して下界に放逐したわ。人の身分に堕とされた二人は崑崙山まで赴き、西王母に不老不死の妙薬を譲ってもらうことにしたの。
 薬を手渡すとき、よせばいいのに西王母は・・・

『この薬は二人が分けて飲めば、不死になれます。もし一人で飲んだなら、再び昇天して神に戻れます。これが最後の薬だから無くしては駄目ですよ』

なんて要らんことを忠告したわ。こーゆー場合、必ずどっちかが独占するのがお約束なのにね。で、やっぱり妻の嫦娥じょうがが薬をひとり占めして二つとも飲み干してしまったの。そのあと嫦娥じょうがの体は軽くなって月に降り立ち、その姿を醜いガマに変化させたと言われているわ。おそらく月のクレーターからの連想よ。
 それにしても、不老不死って絶対に人の手には渡らないものなのかしら? ギルガメッシュ叙事詩にも主人公のギルガメッシュが大洪水を生き延びた不老不死のウトナピシュティムって爺さんに若返りの薬草のありかを教えてもらうんだけど、ギルっちが泉で水浴びしてる最中に蛇にかすめ取られちゃうの」

 「これだから現実の女は駄目なのだ!

 「神話は非現実の世界でしょ」

 「これだから第二次成長期を過ぎた女は駄目なのだ!

 「駄目なのはあなたのほうです。てゆーかむしろ、ダメダメのダメです

 「なんと、私のどこがダメダメのダメだというのだ電子の妖精よ!」

 「顔と頭と性格」

 「それだといいところは一つも残りませんね。北辰さん、あなたのアイデンティティーは完膚なきまでに崩壊しました」

 「ちなみに太陽を射る説話は世界中にあるわ。
 台湾高砂たかさご族のアタイヤル族。
 同じくパイワン族。
 同じくセダック族。
 同じくブヌン族。
 同じくサアロア方言族。
 同じくヤミ族。
 同じくピュマ族。
 ズスン族。
 東セレベス。
 バタク族。
 ニアス島人。
 ニコバール島人。
 ロロ族。
 タイ族。
 トゥウィナー族。
 テレンゲット族。
 タルバガタイ部族。
 ブリヤート族。
 モンゴル族。
 同じくデルベット部族。
 同じくハルハ部族。
 同じくウルガ部族。
 ツングース族。
 同じくゴルド族。
 カリフォルニアのシャスタ族。
 アイダホのショーショーニ族。
 羿げいの説話は、おそらくこのうちのツングース系に端を発するものね」

 「……」

 「あの、アルクェイドさんが……」

 「出番ない! 出番ない! 出番ない! 出番ない! 出番ない! 出番ない! 出番ない! 出番ない! シエルめがね! 出番ない! シエルない! 出番ない! シエルメガネ! 出番ない! シエル地味! シエル降板! メガネシエル! エセフランス! 鉄砲フェチ! シエルインド!

 「なぜそこでイリヤさんではなく私の名前が出てくるんですか!」

 「シリはさておき」

 「さておかないでください!」

 「羿げいはまた夷羿げいとも呼ばれることがあるの。殷と同じ部族の英雄神でしょうね。本来はしゅんの妻で月の女神だった嫦娥じょうがが、ここだと羿げいの奥さんになっていることからも殷との関係が伺えるわ。
 羿げいの功業としては、食人鬼の鑿歯さくしとか、水妖の九嬰きゅうえいとか、怪鳥の大風たいふうとか、大蛇の修蛇しゅうだとか、大猪の封豨ふうきとかを射殺したわ。こいつらはおそらく殷の敵対部族か反逆者の成れの果てね。
 あと夏王朝の伝説に、后羿げいが簒奪を図った顛末が残っているわ。后ってのは古い漢文で王を意味するの。東夷と北てきの部族間抗争を説話化したものでしょうね」

 「しかし、ぎょうしゅんとは聖人ではなく神々そのものだったとは……後世の人間も自分の主張が大事なのはわかりますが、なにも原型を留めないまでに改変してしまうこともないでしょう」

 「上等の料理にハチミツをブチまけるがごとき思想!」

 「いや、バキネタはいいから」

 「はい、これで五帝はお仕舞い。お次は支那最古の王朝って伝説のだよ」

 「中共初の原子力弾道ミサイル潜水艦かね」

 「名前だけはね。
 漢民族は中華を自称するよね。で、この中華は中夏とも表現されるの。夏王朝から引用したものよ」

 「その夏も異民族だったんですけどね」

 「うん、もっぺん繰り返すと北てき北方の遊牧民族が南下したものよ。夏の実在を示す考古学的証拠はまだ発掘されていないけれど、少なくとも殷王朝の前後に強力な部族連合が成立していたのはほぼ間違いないわ。
 さて、と。夏王朝の開祖・の伝説をご披露するね。
 五帝のぎょうの時代だけど、そのころ黄河が大氾濫を起こして支那の全土を水浸しにしてしまったの」

 「焦熱地獄が終わったと思えば大洪水ですか。ちっともユートピアではないではありませんか!

 「まーまー。と五帝はもともと無関係だから、話半分に聞いててね。
 さてぎょうは治水事業を行うために四嶽しがく(四方の長官)に責任者を推挙させたわ」

 「いいえ、こういうときにこそ真っ先に王が治水事業を行うべきです!
 率先して範を垂れてこそ、民も動こうというものでしょう!」

 「だーかーらー、話半分に聞いててっての。
 で、四嶽しがくはそろってこんって男の名前を挙げたわ。ぎょう

こんゆうたら頭が固うて命令も聴かんで、一族とも仲が悪いやろ。そらあかんぞな』

って否定したけど、

『そないなこと言われたかて、こんくらいしかおらしまへんがな』

ってわけでとりあえずこんに治水させてみることにしたの」

 「どこの方言ですか……」

 「こんは九年かけて土木事業に励んだけれど、成果はいっこうに上がらなかったわ。そこでぎょうの摂政だったしゅんこんを追放したとも処刑したとも言われているの。
 で、お鉢が回ってきたのが彼はこんの息子で、『史記』には

 「は敏捷で勤勉で徳が厚くて親しみ易くて信用が置ける人柄で、(中略)まったく人の模範であった」

ってベタ褒めされているわ。これもあんまり本気にしないことね。
 で、しゅんはこのに治水事業を委ねたの。は父の汚名を返上するために、全身全霊を打ち込んで職務に精励したわ。その仕事を任されて十三年間、結婚のハネムーンの四日間しか家にいなかったわ。自宅の門前を通りかかっても、休息さえしなかったと伝えられているの。ついには下半身不随に陥ったというわ。前述の墨家が尊敬したのはこのへんの私心を排した働きぶりよ。
 その甲斐あって、ついに治水は成ったわ。しゅんはその功績を嘉して自らの地位を息子ではなくに譲り、ここに夏王朝は幕を開けた」

 「めでたしめでたし」

 「で終わらないのがこの講義です」

 「ルリも判ってきたわね」

 「というか、これだけワンパターンだと嫌でも判るようになるわよ」

 「で? の原型はどんなものだったの?

 「おーけー、受講生の理解が早いと話も弾むわ。
 は治水に奔走したことからも連想できるように、もともとは洪水神だったの。
 さっきが働きすぎで下半身不随になったって言ったでしょ? あれ、ホントは古い文献に「人面にして足無し」っての姿が記されているように、異形の神だったを人間に当てはめて解釈したときの名残よ。
 で、そのの姿なんだけどこれがまた諸説あるの。まず、さっき言ったように足がないことから魚だって説があるわ。下半身不随になったが足を引きずって歩くさまを示す言葉として“扁枯”って形容が用いられているけれど、ここで顓頊せんぎょくのことを思い出して」

 「顓頊せんぎょくのことですか? えーと……」

 「ゲイ夫婦……」

 「そりゃぎょうしゅんのときのボケでしょ!  もうすこし遡りなさい」

 「見える……見えるぞ! まぶたを閉じればはっきり見える!! イリヤたんがブルマのみならず眼鏡アーンド猫ミミを完備している様を!! これが……心眼!!  我輩は! 今! ここに! 絶技開眼したのであるうぅっ!!

 「遡り過ぎっ!」

 「たぶんこのことでしょう。

 魚あり、扁枯、魚婦という。
 顓頊せんぎょくは死んでもすぐによみがえる。
 風が北から吹き出すと、天は河川を溢れさせる。蛇は化して魚となる。これが魚婦である。
 顓頊せんぎょくは死んでもすぐによみがえる。

 なるほど、扁枯という単語が出てきますね」

 「そーゆーこと。もともと魚婦という名前の魚身の神だったわけ。
 また顓頊せんぎょくと併称されていることから、も別系統の「死んでよみがえる神」だったんでしょ。たぶんこんは親子というよりも一心同体で、こんが死ぬことでがよみがえるって復活神話を形成していたのね。
 ここで終わればスッキリするんだけど、他にも異説がいろいろあるのよねー
 まずは治水を行うときに熊の姿に化身して工事にあたったというわ。の父親のこんも、誅殺されたときに「黄色い熊に姿を変えて、泉の中に沈んだ」って伝説が『国語』とかに収録されていることから、熊を聖獣とする考えが影響しているみたいなの」

 「熊を神聖視するのはアイヌとかが有名だよね。イヨマンテ(熊の霊送り)とか。
 これは狩猟で大人の熊を仕留めたときに、残された仔熊を里へ連れて帰ってしばらく飼育したあと、盛大な儀式を執り行って親元の神の国に「送る」儀式のことだよ」

 「えっと、「送る」って具体的にはどうするの?」

 「やだなぁ。
 ブチ殺して貪り食らうのに決まってるじゃない(邪気に溢れた無邪気な笑顔)」

 「アイヌの方々の名誉のために断っておきますが、これは厳然とした神事です。
 アイヌ語の研究に多大な業績を上げた金田一京助によれば、

 熊も鹿も鮭も狐も鳥も、天上の神国では、人間のように着物を着て、家を建てて神語を話して生息しているが、下界へ遊びに来る時だけ、熊は我々の見るようなあの変装をし、狐や鹿や鮭なども、それぞれあのような変装をして人間界へ来るのだという。そして福徳ある人間へ、その装束(=肉のこと)をみやげに授けて、霊だけ天の国へ帰る。

とのことです。現代人の浅薄なヒューマニズムで安易に断罪するのは止めましょう

 「ところで、熊の肉とはおいしいのですか?」

 「聞くところによれば、血生臭いうえに油脂が多すぎるそうです。よほどの手間隙を掛けなければ食べられたものではないでしょう」

 「なるほど。シロウの料理の腕なら問題はありませんね」

 「雑食動物を好んで食おうとすること自体がすでにして間違っていると思うが」

 「熊の次はだよ。
 は甲骨文字だと雌雄二匹の竜が交差して表されているの。
 また夏王朝には拳竜氏けんりゅうしとか御竜氏ぎょりゅうしとかって竜を飼育する官職があったわ。これに陶唐氏とうとうしぎょうの子孫)、ようするに夏のと同族の子孫が任命されたわ。彼らの部族と竜とはなんらかの関係があったのね。あるいは夏系は竜をトーテムとしていたのかも」

 「最強の幻想種たる竜すら飼い馴らすとは……おそるべきは中国四千年ですね」

 「あと珍説として、ってのも挙げておくわ。
 漢代の漢字字典『説文解字』には「むしなり」って説明されているの。「死んでよみがえる神」として見れば虫でもおかしくないの。
 たとえば古代エジプトじゃスカラベが神として崇められていたし」

 「アルクェイド先生! スカラベとはどんな虫ですか?
 日本語名で答えていただこう! さあさあさあさあ!
 ハリー!
 ハリーハリー!!
 ハリーハリーハリー!!!

 「あんた答え知ってるでしょ・・・」

 「なにをお言いかマイシスター! 我輩がスカラベの正体をフンコロガシと知ってなおかつその卑猥なネーミングが妙齢の女性の口の端に上るのを聞くことで絶頂感を味わおうなどという悪質なプロパガンダを流そうというのか?

 「プロパガンダもへったくれもないでしょ……」

 「この手の下ネタはシエルの専売特許だよ。縄張りを荒らしちゃシエルのレーゾンデートル存在理由が奪われちゃうじゃない」

 「勝手に人の存在理由をデッチ上げないでください!」

 「スカラベの話だけど、古代エジプト人は日輪を司るケペラ神の化身として崇め奉っていたわ。これはナイル川が定期的に氾濫して全てを地中海に押し流していってしまうのに、スカラベだけが地中に潜ってこと無きを得るからなの。
 スカラベが死と再生のシンボルとされたのもそのせいよ」

 「そーゆーこと。もまた元は怪神だったけど、それがどんなものか特定はできないの。
 ちなみにについてはこれまた酒見賢一が小説を書いてるよ。タイトルは『童貞』。レジに持っていくのはちょっとした試練ね。
 で、以後の夏王朝だけど、はっきりいってたいした内容はないわ」

 「内容が……」

 「無いよう、なんて古生代オルドビス紀レベルのギャグは飛ばさないでよ」

 「それ、ようやく魚類が出現した時期ですが」

 「次第にツッコミの切れ味が鋭くなってきたようだな。私も研鑽に励まねば、一撃のもとに斬って捨てられてしまうだろう」

 「夏王朝だけど、中身は全部すっとばして最後の王について説明するわ。
 彼の名はけつ王。ケツ王ってったって、シエルとはなんの関係もないよ」

 「だったらわざわざ私の名前を持ち出さないでください!」

 「えーと、けつ王ね。彼は殷のちゅう王とともに暴君の代名詞とされて、けつちゅうなんて言葉まで生まれたの。体躯堂々、気力絶大の勇者だったけど徳を納めずに享楽にふけったわ。
 苛斂誅求を課して華美な宮殿を建造し、淫楽の限りを尽くしたわ。その妃は末喜まっき。マッキといってもどこぞの半島の精神状態じゃないよ。あと妹喜ばっきともいうわ。彼女は絹を引き裂く音が大好きで、彼女の歓心を買うためにけつ王は民衆に絹を貢がせたの。
 これで国が滅亡しないほうがおかしいわね。で、殷のとう王が東方から興って夏を滅ぼした。
 ま、夏王朝そのものが伝説なんだから、実際には少しばかり規模の大きな部族間抗争ってのが関の山ね。ついでに言えばけつ王は殷のちゅう王のデッドコピー、さらに末喜まっき妲己だっきのデッドコピーよ

 「夢がないなー。せっかくの暴君第一号と傾国の美姫第一号のワンツーフィニッシュなんだから、ちょっとくらい凄惨酸鼻阿鼻叫喚の地獄絵図を展開してみてもいーじゃない」

 「そーいう話に興味があるなら中国史の小説を読め、ということです」

 「はい、支那の伝説時代についての講義でしたにゃー

 「あいかわらず時空間を軽々とすっとばした講義でしたね」

 「我輩にとっての唯一の収穫は、やはり受講生二人の追加であろう!」

 「いや、講義を聴きなさいよ」

 「お次はようやく歴史時代。
 殷周革命から西周の滅亡、春秋時代の幕開けまで予定しているわ」

 「仙人や道士たちが敵味方に入り乱れて相争する『封神演義』の舞台ですね!
 私もオリエンタル・マジックにはかねてから興味を示していました」

 「そんなのやんないよー。これ、何度も言うけど歴史学の講義のつもりだもん」

 「ズコ……っと、っとっとっと」

 「ほお、最後の一線で踏みとどまったか」

 「ふ、三度目の失態を犯すほど私の学習能力は低くない。
 これぞ日本のことわざで言うところの・・・“二度あることは三度ある”です!」

 「それをいうなら、三度目の正直よ……」

 「ヽ(__ __ヽ)ズコー!!

 「ただひとたびの講義でギャグキャラに転落するとは……我輩の凍てついた心にくすぶっていた憐憫の情がズキュウゥゥゥンとジョジョ風に刺激される! 涙がちょちょぎれんばかりなのであーる!

 「同類が増えてうれしいでしょ? シエル」

 「くっ……! アルクェイドの姦計にみすみす嵌る私では……! けれど苦さと辛さをともに味わってくれる僚友は得がたいもの……
 いえ、しかし……」

 「愛されていないキャラクターは悲惨よね。
 いえ、これもまたひとつの愛のカタチ?」



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