☆未來妄想・第二次大東亜共栄圏への道程☆
注)これはmaaと愉快な仲間達掲示板にて士月様が投稿されたのをまとめたものです。
その11

 結論を先に言えば、クーデターは成功した。救国軍事委員会を名乗ったクーデター勢力はソウルに急行し、国会議事堂・大統領官邸・各国大使館・国営放送局・中央銀行・空港といった主要施設を瞬く間に占拠した。
 決起に参画しなかった師団が鎮圧に手を着けるころには全てが終息した後であった。これには現政権に不満を持つ軍部がクーデターを黙認し、サボタージュを行ったとの見解もある。

 ソウルの警官や警備員は応戦こそしたものの、それは職務を最低限果たしただけという形だけの抵抗だった。
 クーデターが成功したあとの自分や家族に対する報復を恐れたせいである。救国軍事委員会は戒厳令を施行し、戒厳司令部を設置した。救国軍事委員会議長はテレビ演説を行い、全権を軍が掌握したことを宣言した。
 大統領を含む閣僚や反クーデター将校は拘束され、大統領の後任の椅子には救国軍事委員会議長が席を占めた。
 全斗煥が退陣した1988年以来の軍事政権である。
 彼らはまず占拠したTV局で所信を表明した。前政権を「国を崩壊に導いた」と非難し、その理由として政治の腐敗、国内の政情不安、日米への擦り寄りなどを根拠とした。また自分たちの行動を「国を崩壊から救うための最後の手段」であると主張した。

 救国軍事委員会から宣言された韓国国民といえば、冷静なものであった。もともと韓国は日本と違い、1980年代まで軍事政権が独裁政治を行ってきた。その時代を生きた年配層を中心に、軍事政権による強力なリーダーシップを待望していたからである。 兵役が義務とされていることも、軍への無用なアレルギーを惹起しない。親日外交を展開した前政権に不満を持っていたことから、国内に軍の決起を歓迎する空気があったことも要因の一つである。ともかく救国軍事委員会が掲げた政策が実施されるまでは大きな反応は見られなかった。

 大統領就任演説の際に、救国軍事委員会議長は今後の政策の綱領を発表した。要点は三つである。

「南韓至上主義」
「綱紀粛正」
「親北勢力の弾圧」

 最後のスローガンについてだが、朝鮮戦争を経験していない20代〜40代にかけての国民のほとんどが、北朝鮮に対して精神的武装解除の状態にあると軍部は考えた。金大中大統領以来の太陽政策に徹底的な批判を行い、再び赤狩りを始めた。金大中大統領の登場によって合法化された、日本の日教組よりも過激といわれる全教組は軒並み検挙された。親北左翼のハンキョレ新聞は即時発禁処分を受けた。

 これに対して労働者や左翼学生は各地で蜂起し、デモや集会を開き、ゼネストを宣言した。しかしその規模は諸外国が予想していたものよりもずっと小規模だった。
 プロ市民に扇動された大衆の数も、前世紀に比べれば圧倒的に少数だった。これはいくら北朝鮮に親近感を抱くようになっていたとはいえ、すでに経済発展を遂げて豊かな生活を送るようになった韓国国民が、自分の血を流すような過激な革命を忌避したせいである。そんな彼らを活動家たちは「この資本主義に毒されたブタどもが!」とオルグったが、大勢は如何ともしがたかった。

 軍部は戒厳令下にあることを理由に鎮圧部隊を全国に派遣したが、検挙者の数も微々たるものだった。済州島事件や光州事件のような景気のいい虐殺は起こらなかったのである。
 この一連の動きに対して北朝鮮は、南侵の絶好の機会でありながら看過するしかなかった。かつて光州事件が鎮圧されたときに、北朝鮮政権首脳が「光州の蜂起を利用して南進すべきだった。最大の機会を逃した」としきりに後悔したと脱北者が証言したことがある。それを考慮に入れていた韓国軍が国境地帯に増援を行ったが、まったくの拍子抜けに終わった。北朝鮮が地球上に存在することを許されているたった一つの理由である

 100万人超の軍事力が、食料と燃料と整備の不足のためにすでに末期的症状にあったためである。韓国の騒動を奇貨として軍事行動を起こそうにも、北朝鮮は全てが欠乏していたのである。

 二つ目のスローガンは、当時の韓国の経済状況として最悪の政策を執らせることになった。韓国は世界恐慌の際に緊縮財政を行った井上準之助の轍を踏んだのである。代表的な愚策は韓国GDPの5%を叩き出す買売春産業の規制に全力を注いだことである。人口の4%、26万人に及ぶ専業女性の大半が職を失った。

もちろん性風俗産業に関連する産業も大打撃をこうむり、景気はさらに冷え込んだ。失業者は男女を問わず地下に潜り、治安は悪化した。軍隊が街中を闊歩するのは日常茶飯事になり、戒厳令が解かれる日はいつになるか誰にも想像がつかなくなった。経済政策で成功したのは、軍事費を拡大することで国内の有効需要が増えたことだけである。

 筆頭に掲げられたスローガンは、アメリカと日本に加えて、北朝鮮に対する敵対意識を高める結果になった。北韓が経済政策の失敗のせいで、国民の目を外に向けさせる必要もあった。しかし国内の意識を統一するには役に立ったが、対外的には有効的に作用しなかった。行き過ぎた独善主義は前述の三カ国を含めた諸外国の反発を買い、韓国の国際的立場を引き下げた。

 それ以前から韓国の評判はこれ以上ないくらいひどいものだったが、さらに下がる余地があったのは驚嘆に値する。また自国の経済状況を理由に保護貿易を開始したが、これも孤立を強める引き金になった。

 手詰まりになった軍事政権が行う最後の手段を、救国軍事委員会もまた採用した。世界最古の外交手段――

 軍事行動である。

 このようなきわめて政治的な理由によって、半世紀ぶりに38度線を挟んで砲弾が飛び交うようになった。
後にDMZ(非武装地帯)事件と呼ばれることになる、韓国による北朝鮮への北侵である。

 やっと戦闘が始まった第11弾です。
 それにしても、2001年のGDP545兆ウォンに対して買売春産業が26兆ウォン規模って、いったいどういう国なんでしょうか。まさに不思議のワンダーランド。

その12

 DMZ事件について韓国は、北朝鮮が南侵を開始し、それに対して反撃を加えつつあると発表した。かつて六・二五動乱(朝鮮戦争)の際には北朝鮮が先に攻め込みながら、金日成はアメリカと韓国が越北したように宣伝した。それと同じである。

 北朝鮮は38度線正面の前縁地隊に西から第四・第二・第五・第一軍団を貼り付け、この四個軍団が第一梯隊を構成していた。これらの軍団は、それぞれ五個歩兵師団と一個戦車旅団、一個軍団砲兵旅団などで編成されていた。その後方、北朝鮮中部地帯には一個戦車軍団と二個機械化軍団が配置され、平壌の守りを固めていた。

 韓国軍は第一軍と第三軍を北上させた。江原道に配備された韓国第一軍は第二・第三・第八の三個軍団で構成され、第一・第四・第五・第六・第七の五個軍団から成る第三軍はソウルを中心とした京畿道に配備されていた。

 戦闘の内容といえば、終始韓国軍が優勢を保った。軍事大国北朝鮮の化けの皮が剥がれた戦闘だった。
 北朝鮮の軍事ドクトリンは、所詮は朝鮮戦争の経験に引きずられた旧世紀の遺物に過ぎない。ロシアから招いた軍事テクノクラートもまた、第二次世界大戦の勝利から脱却できないでいる。湾岸戦争やイラク戦争のような現代戦で得られた戦訓にあえて目をつぶっているような硬直した思想の上に北朝鮮軍は成り立っていた。

 さらに長期間に及ぶ経済的破綻により、軍の主力装備は地球上のどの国も部品を製造しなくなった1960年代の水準でしかなかった。そしてそのような旧式兵器でさえ、半分も稼働できれば御の字と言うようなお粗末な整備しかされていなかった。慢性的な燃料不足は軍隊にまで影響を及ぼし、人も兵器もまともな軍事行動が取れない有様だった。アメリカや日本には劣るものの、新鋭の兵器で武装された韓国軍の前に北朝鮮軍はなすすべもなく敗北していった。

 韓国が誇るK1A1主力戦闘戦車は、M1エイブラムス戦車を開発したクライスラー・ディフェンス社(現ジェネラル・ダイナミックス・ランド・システムズ社)によって設計された。対する北朝鮮のT62は、湾岸戦争でM1エイブラムス戦車に手も足も出せずに叩きのめされたT72戦車のさらに一世代旧式の代物である。複合装甲に鎧われた新式戦車の前に、世界に先駆けて採用した115ミリ滑腔砲が発射するAPFSDS は苦もなく弾き返された。逆にK1A1戦車が発射する砲弾はT62の装甲をやすやすと切り裂き、破壊した。

 当たらなければどうということはない、と某少佐は名言を残したが、こちらは当たってもどうということはないのだ。北朝鮮の戦車乗りたちは、自分たちが搭乗する鉄塊が、地獄の底に向かって疾走するだけのブリキの棺桶だということを思い知らされた。
 単独で突出しすぎたために敵の歩兵に背後に回り込まれてRPGを食らうようなお調子者もいたが、そのような例を除けば韓国戦車部隊の被害は皆無に等しかった。T90に比肩する性能を持つと公称された北朝鮮国産の新式戦車は、影も形も見当たらなかった。

 無誘導弾のフロッグ・ミサイルでは、射弾観測と弾着修正ができないために、70門を数えながらほとんど命中しなかった。火星の名を冠せられた30基のスカッドミサイルもまた、満足のいく戦果を挙げる前に韓国砲兵部隊・ミサイル部隊に沈黙させられた。
 射撃統制用レーダー、監視用レーダーもまたお話にならないくらい旧式のものを使っていた。韓国はB2爆撃機や超音速戦闘機FA22ラプターなどを保有していなかったが、北朝鮮の恐るべき技量は韓国機にステルス機に匹敵する被弾率の低さをもたらした。烏山基地を飛び立ったF−16は空対地ミサイルAGM−142で敵陣を吹き飛ばした。制空権を取り戻そうと迎撃に出た北朝鮮の主力戦闘機MiG−21フィッシュベッドは、 韓国パイロットの撃墜マークの数を増やすために出撃したようなものだった。旧式のサイドワインダーはフレアにあっさりと欺瞞され、後ろに付かれて20ミリバルカン砲の餌食になった。

 そして真に恐るべきは、このような惨憺たる敗北を喫した者たちはまだましなほうだったことである。
 あるミサイル部隊は老朽化したミサイルに悪戦苦闘しているうちに壊滅させられた。
 ろくに精油されていないガソリンを入れられた自走砲は自走しなかった。
 下手くそな榴弾砲の無闇な発砲はただ自分の位置を教えるだけだった。
 金属疲労のせいでキャタピラが外れたT54は射撃のいい的になった。
 黄州飛行場から飛び立った虎の子のMiG−29は音速を超えた際に音の壁にぶつかった衝撃に耐えられずにばらばらに四散して果てた。

 主体思想によって概念武装された北朝鮮の兵士たちも、これでは士気が上がるはずもなかった。及び腰になった兵士を死地に赴かせるために人民軍保衛局員(ソヴィエトの政治将校に相当する)が68式拳銃を発砲しようとしたが、使用期限が二十年は過ぎていた7.62ミリ弾が射出されることはなかった。

北朝鮮がズタボロにやられる第12弾です。実際に南北がぶつかったとき、 北朝鮮はどこまで踏ん張れるでしょうか?

その13

 DMZ事件について、アメリカは韓国軍の北侵を「まったくの寝耳に水」と報道した。
 もちろん嘘である。国連軍司令部、米韓連合軍司令部、在韓米軍司令部、米第8軍司令部が四つともソウル市龍山区に集中している時点で、アメリカが韓国軍の大規模な軍事活動を見逃すことはない。そしてそれ以前にアメリカが広げる「情報の傘」はそのような雨漏りを許しはしない。

 実際は韓国軍の行動を黙認したのである。

 アメリカは韓国が北朝鮮を完全に制圧するつもりがないことを見抜き、この戦闘が中国やロシアの介入を許す前に終結すると踏んでいた。現段階において、アメリカにとって北朝鮮に莫大な戦費を投入するメリットは何もない。極東の軍事バランスを修復不可能なまでに崩すことなく、アメリカが戦費を負担することもなく、イラク戦争に反対したフランスやドイツからの非難を受けることもなく、自国の傘下にある同盟国の軍事的優位を示すことができるのである。

 ここですでに大統領がモンロー主義の意味を履き違えていたことが見て取れる。諸外国との相互不干渉主義は、すでに超大国がアメリカ一国のみになった現状にそぐわないものになっていた。それは自分が決して傷付かない位置で他人の行動を眺めている行為に他ならず、結果としてその足元をすくわれるものであった。その腰抜けぶりによって後の災厄を招いたさまは、自らの出血を恐れて第三帝国の台頭と第二次世界大戦の勃発を許したネヴィル=チェンバレンに比せられるだろう。

 それはともかく、韓国軍が動きやすいように日本やフランスの偵察衛星からの報告は裏で握りつぶした。
 大韓航空機事件に見られるように、中共や半島に関して極めて高い傍受能力を持つ自衛隊の情報網もここでは腕の振るいようがなかった。
 朝鮮半島の有事にもっとも早く反応したのは国連だった。各国の国連大使はニューヨークの国連本部に招集され、臨時総会が開かれた。総会の壇上を飛び交った言語はもちろん英語ではなく朝鮮語であった。半島の二国を除いた各国大使は逐次訳に頼ったが、翻訳担当者は辟易した。自分が伝えるべき二国の主張の少なくない量が、説明するのもはばかられるような罵倒語で埋め尽くされていたせいである。

 韓国と北朝鮮の演説は合わせ鏡のように酷似していた。北と南を入れ替えればそのまま相手国の主張として提出できるような内容だった。曰く、相手国が非武装地帯の軍事国境線を越えて侵略して来た、自国の軍事力行使は正当なものである、相手国は安保理1555号を受け入れて速やかに軍事行動を停止せよ、さもなくば制裁決議案を提出する。

 DMZ事件に関してつんぼ桟敷に置かれていた国々の大半は北朝鮮から仕掛けたものと疑っていた。日頃の行いというものであろう。それに対してアメリカ寄りの数カ国は事情を知っていたが、現状から見て韓国も渡りに船とばかりに停戦決議に従うだろうと考えた。しかし安保理決議が決定した停戦決議の猶予時間である12時間が過ぎても、韓国大使が侵攻停止を受け入れる様子はまるでなかった。

 彼らは世界の常識が韓国の非常識であることを失念していた。

 始めソウルは北朝鮮のあまりのもろさに拍子抜けした。
(我々が半世紀以上もの長きに渡って脅威を感じ続けてきた北の軍事大国は、これほど弱体化していたのか?)
 その疑念から抜け出したときに彼らの頭の中にあったのは、北韓を開放することによって自分たちが栄光と賞賛を一身に受けるだろうという、決して非現実的ではない空想だった。

 韓半島の北半分を半世紀以上も支配してきた金王朝を打倒した解放者として迎えられるのである。そして自分の名はウリナラ半万年の歴史に燦然と輝き、未来永劫に渡って讃えられることになるのである。北朝鮮を占領することで韓国が背負い込むことになるあらゆる負担は、念頭からきれいに消え失せていた。このままでいいんじゃないか? という逡巡は韓国上層部を強く捕らえた。

 そしてそのような韓国人のケンチャナヨ精神は、ペンタゴンの節穴な目を以てしても見抜けなかったのである。

 北朝鮮の祖国統一戦争計画は先制攻撃を念頭に置いたものだった。
逆に言えば北から手を出すことしか考えておらず、南からの侵攻についてはなんら考慮されていなかった。北朝鮮作戦局としては「偉大なる指導者同志が米帝やカイライ政権の帝国主義的蠢動を見逃されるはずはない」と考えていたが、現に見逃してしまった今となっては全てが遅きに失した。上層部の尻拭いを強要されることになった前線の兵士が受け取った命令は、自分たちの境遇を第二次世界大戦におけるソヴィエト兵士と同レベルに突き落とすものだった。

 端的に言えば「全軍突撃。ガンパレード。最後の一人までことごとく戦って死ね」という命令を下された。より具体的に言えば、前縁地帯で家業に従事している予備役兵を目に付いた端から徴発し、最前線から退いて来る敗残兵に加えて韓国軍が侵攻してくる要所を固めさせた。武器も弾薬も欠乏し、補給は枯渇しきっている状況である。
彼らは自らの肉体から防御物資を生産し、肉塊のバリケードを造ることしかできなかった。

 北朝鮮の上層階級が人民を家畜以下に見ていたことは今に始まったことではない。
 北部の国境に貼り付けていた第8から第11までの軍団のうち、移動能力(戦闘能力ではない)を維持していた部隊を根こそぎ引き抜き、首都の防衛を補強させた。それは卵を積み重ねてブルドーザーの進撃を防ごうとする努力に似ていた。

 金正日は平壌から動かなかった。これは後に、偉大なる指導者同志が不退転の構えを見せたものであると大々的に喧伝させることになった。もちろん嘘である。真相といえば、韓国軍の動きを耳にした金正日はいちはやく北朝鮮から脱出しようとしたが、ロシアからも中国からもベトナムからもミャンマーからもカンボジアからも亡命を拒否され、右往左往しているうちに事態が終結しただけのことである。

 半島は南北どっちもダメダメのダメな第13弾です。

  その14

 軍事境界線から平壌までの距離は170kmである。
 韓国軍は緒戦の優勢から、一気呵成に平壌を陥とせるものと楽観した。
なし崩しに決定された北朝鮮侵攻計画では、平壌は三日で陥落できるものとされた。
しかしその目論見は甘かった。

 肉の壁と化した北朝鮮兵士たちは南からの侵攻に一矢も酬いることができなかったが、それでも進軍速度を緩めることには成功した。敵の燃料と弾薬を消費させるために射撃の的になり、戦車に轢き潰されるために一つしかない命を手放すように強制されたが、それでも足止めにはなったのである。キャタピラに付着した肉塊や人骨を取り除く作業に当たった韓国兵の中には、精神を病むものも現れた。

 さらに大規模な行軍にはとても耐えられないような北朝鮮の貧弱な幹線道路がそれに輪を掛けた。北朝鮮におけるインフラ整備の劣悪ぶりは目を覆わんばかりである。それについては燃料不足がすべての悪循環を招いていた。鉄道やトラックのディーゼル燃料が不足しているために石炭を火力発電所に運べない。発電できないために工場は鉄道の部品がつくれず、アスファルトを敷くことができなくなる。その繰り返しである。

 さらに技師と資金が払底していた。旧ソ連の崩壊で、90年代の初めにロシアの専門家と援助が実質的にゼロになったせいである。もともと冷戦時代にソヴィエトの援助で整備された主要なインフラは、どれも90年の時点ですでに寿命を迎えていたのである。実はまともに機能しているものといえば、憎むべきはずの日帝が遺したインフラだけだった。
 地震や災害も起きないのに倒壊するような建物ばかり建てている辺り、南北はやはり血を分けた同胞である。

 かつて北朝鮮では4大軍事路線を提唱した。それは全軍の幹部化・全軍の現代化・全国民の武装化・全国土の要塞化である。前三者が実現しなかったのは周知の事実だが、最後の一項については自領土に営々と清郷堅野作戦(焦土作戦)を行い続けることで逆説的に成功したといえるだろう。

 さらに補給路にはゲリラが出没した。韓国軍全体における被害という意味では、正規軍よりもよほど効果があった。もともと長期的な戦闘を想定していなかったこともあって、前線では戦闘能力が維持できなくなった部隊が続出した。韓国としては、矛を収めるしかない状況である。

 国連本部の臨時総会では、いまや韓国に対する制裁決議案が下されようとしていた。韓国の国連大使は意味のない長たらしい演説によって時間を稼いでいたが、それも永遠に続けられるものではなかった。

 「ニダニダ言ってる変な奴ら」としか認識されていなかった韓国人がこれほど世界の耳目を集めたのは、2002年のワールドカップ以来であった。そしてその時と同様、今度もまた世界中から顰蹙を買った。
 今回の紛争は韓国軍が引き金を引いたことが、時間の経過と共に暴露されていったからである。しかし正常な国家は、感情ではなく国益に基いて行動する。

 アメリカとしては、北朝鮮に崩壊してもらっては困る。膠着状態に陥った朝鮮半島に中共かロシアが介入し、同盟国の義務で参戦せざるを得ないアメリカを巻き込んだ第三次世界大戦への発展という最悪のシナリオが脳裏から離れない。よしんば北朝鮮を占領できたとしても、同盟国としての経済援助の負担は逃れられない。

 北朝鮮をそのまま維持しようという点については西も東もなかった。中国やロシアとしても、軍事的な緩衝地帯が消滅する危険はなんとしても避けたかった。
 日本国内の輿論としては、朝鮮人同士が殺しあっている状況については手を叩いて喜ぶ向きがあった。ざまあみろ、という気分である。しかし政府は各国の歩調に合わせ、韓国軍に停戦を要求した。半島が統一されたとき、復興費用を捻出しなければならないのは日本だからである。当事者の韓国は、自国の経済状況を理由にして、余剰石炭でも供出してお茶を濁すくらいであろう。

 あてが外れた韓国政府は、しぶしぶ国連の停戦要求に従った。それもあくまで外圧に屈した悲劇的な決断というポーズをとり、国民の同情を買うように努めた。そのため、一連の事件における韓国人の一般的な認識は以下のようなものになった。

 「金正日率いる北韓軍は、憎むべき日帝やかつての6・25動乱と同じように宣戦布告も無しに我々に対して侵略行為を行った。勇敢な韓国軍はすみやかに迎撃し、したたかに撃破し、あざやかに勝利した。

 政府は国難に対して臨機応変に対処し、北韓の侵略をむしろ絶好の機会と捉えた。このまま平壌にまで進軍して金王朝を征伐し、同胞を圧制から解放しようと決断した。漢江の奇跡を成し遂げ、世界最強の質と量を誇る我々には、貧困にあえぐ北韓軍など鎧袖一触にすぎなかったはずである。

 しかし卑劣なる日帝は札束で頬を張り飛ばすようなロビー活動を行い、我々の悲願である南北統一の実現を妨害した。奴らはもともと、我々が団結することで技術力や経済力が追い抜かれ、置き去りにされる恐怖に夜も眠れないほどがんじがらめに縛られている。それは我々が誇る半万年の歴史の20分の1にも満たない米帝にもいえる。

 だからこそ奴らは日頃の砲艦外交を忘れて日帝の姦計に同意したのだ。今回の停戦決議案に票を投じた国々もすべて同じことが言える。

 心の底では韓民族を尊び、敬い、崇めているからこそ、奴らは我々を恐れ、嫌い、退けるのである(以下、電波が強すぎるため翻訳不可能)」

 このような他国民からは理解できない夜郎自大の精神は、その責任のほぼすべてが韓国国民に帰せられるべきであろう。DMZ事件の報道は確かに偏向していた。しかしインターネットが発達し、IT大国を自称する韓国では完全な事実の隠蔽など不可能である。彼らは真実を知ろうとする努力と苦痛を放棄し、耳障りはいいが不確実な情報ばかり喜ぶ者たちが大多数を占めていた。そのツケを支払うのは遠くなかった。

 この事件が引き起こした最悪の失策の筆頭が、在韓米軍の引き上げである。南北統一を妨害した(と思い込んだ)日米に対する反感は、半島南部を熱病のように襲った。すでに国交を断絶していた日本に実害はなかったが、在韓米軍に代表される韓国在住のアメリカ人は、夜中には男でさえ街中を歩けなくなった。政府は下から突き上げられる 格好で米韓条約破棄を宣告し、在韓米軍撤退を要求した。

 それに対してアメリカは「第二次アチソン声明」を発表し、日本列島に極東の最終的な防衛ラインを引くことを決定した。その理由として数えられるのは、大統領が固執するモンロー主義、韓国軍の精強さ、アメリカ国内の嫌韓感情などである。それはともかく第2歩兵師団は議政府を引き払い、第7空軍2個航空戦闘団は烏山基地と群山基地を後にした。韓国市民団体の罵倒と嫌悪と「ウリナラマンセー!」の歓声を背中に浴びて。

 在韓米軍が引き上げた第14弾です。第二次朝鮮戦争のお膳立ては整った!?  

 


その1

 大統領府へ出頭を命じられた李提督は、自国の国軍の最高統帥権を持つ人物の口から飛び出した命令に、久しく忘れていた狼狽を自らの内部に感じていた。

 対馬占領。

 どう考えても韓国海軍の実力では成功不可能なこの作戦を、目の前の男は自分に押し付けようとしている。

「さて、秀吉の侵略軍を打ち破った英雄李舜臣の子孫である君にふさわしい任務であると考えているが、忌憚のない意見を聞かせてもらいたい」

 韓国大統領はおだてるような声色でささやいた。
 韓国や中国では、姓と本貫(出身地)が同じであれば疑いなく血がつながっていると考えられている。
 ソウル出身の李姓など韓国には掃いて捨てるほどいるが、彼らはその点については深く考えない。しかし特に李提督に対しては、彼が韓国海軍の重鎮でもあることから、自他ともに彼の先祖がアジア最高の提督(当然のことながら東洋のネルソンごときではない)であることを認めていた。しかしそれが自分に迷惑を持ち込む種になるのは閉口した。

「ならば率直に愚案を述べましょう。
わが海軍が日本の海上自衛隊を敵に回すことは、自らの破滅を意味します」

 それを聞いた大統領は、面白くなさそうな顔をして鼻を鳴らした。

「確かに倭奴は近年に、アジアの平和を脅かす物騒極まりない軍拡を行った。しかしそれでも海兵や艦艇の数ではそれほどの開きがなかったはずだが」

 こいつは発狂したのかと李提督は訝った。たしかに韓国海軍の総員は、海兵隊2個師団2万5千人を含めて6万人に及んでいる。海兵の頭数だけなら、いまだに志願制を採用しているせいで定員割れを起こしてばかりいる自衛隊の隊員と大して違いはない。保有している軍艦の数も、軍拡以前の海上自衛隊(160隻)におさおさ見劣りはしなかった。

 しかしそれは数字のマジックだ。
韓国海軍の保有する艦艇の総トン数が14,4万トンに対して海自のそれは軍拡以前でさえ34,9万トンと、2倍半の開きがあった。現在ではその差はさらに開いている。実際に戦闘するとなれば、小手先の戦術ではその差はとても埋められそうにない。

 その理由はひとえに韓国艦艇のお粗末な質にある。韓国海軍の艦艇の5割強を占める75隻が哨戒艇であり、33隻は沿岸警備を主任務とするフリゲート艦である。潜水艦は19隻、ミサイル駆逐艦はなんとたった6隻に過ぎないという惨めさである。お寒い限りのこの数字が韓国海軍の実態だ。はっきり言ってしまえば、外洋に出て派手な海戦を行う能力すら韓国海軍は保有していないのである。

 さすがにそれくらいのことは陸軍出身の大統領でも知らないはずはない。はずはないのだが、そこにあえて気付かないような、いや目を瞑っているような反論だった。李提督は自分たちの国家元首の精神のありようを疑いながら、それでも彼我の戦力差を懇切丁寧に説明した。
 それでも大統領は納得がいかないらしく、

「しかし所詮、相手はアメリカの占領下にある平和に慣れきった倭奴ではないか。
半世紀もの間、東側に対する最前線として北の脅威にさらされ続けたわが国の兵士とは士気も練度も比較にならないはずだ。これは軽々しく数字に換算できないはずだよ」

と抗弁した。

 自分が戦わないからといって気楽なことを抜かしてくれる、李提督は聞こえないくらいの小さな声でひとりごちた。彼も一般的な韓国人と同じように、東海の先の島国に住む連中が自分たちよりも劣っていると決め付けたい願望があった。

 しかしそれ以前に彼は軍人である。軍人はどれほど認めたくなかろうが、事実をありのままに受け入れる精神が必要である。それを持ち合わせていなければ、刻一刻と様相を変えていく戦場に対応することはできない。そして事実をありのままに見たところ、海自の隊員は決して我々に劣ってはいない、それどころか少なくない面で我々を凌駕している、そう認めることにやぶさかではない。

 しかしそこに不愉快はない。海の男は、男としてもっとも偉大かつ誇り高い者たちである。彼らの前には、人種の差や国家の壁など意味を成さないのである。

 李提督は語彙の限りを尽くして日本を攻めることの愚を説き続けたが、大統領の表情は変わらなかった。ここでようやく、大統領は自分の説明ではなく首肯を求めているのだと気が付いた。そしてまた、日本を攻めることで目の前の男が何を狙っているのかがおぼろげに理解できた。要は保身だ。

 自分でものを考えようとしない者たちは、在韓米軍が撤退したことで韓国が名実ともに独立したと能天気に信じ込んでいた。もちろん現実はそう甘くなく、まだまだアメリカのくびきから逃れられないでいた。韓国の経済の命綱は日本が握っており、その日本はアメリカにとってアジアでもっとも信頼の置ける同盟国である。

 先だってのDMZ事件に鑑み、日本はアメリカの要請に従って韓国に対しての経済制裁法案を成立させた。
 日韓の国交は断絶していたが、それでも民間レベルでの交流は続いていた。陸続きの国がことごとく敵対国の韓国にとっては、日本海のか細いルートこそが生命線である。

それが絶たれる。

半島南部は完全に干上がり、生活レベルは李朝以前に逆戻りするだろう(李提督は先祖の恩に仇で報いた李朝を憎んでいたし、その治世が世界史上でも類を見ない生き地獄だったことも知っていた)。それを食い止めるためには軍事力の行使しかない。
 戦争は外交の一手段に過ぎないという原則に従うなら、その主張はあながち的外れではない。

 しかし圧倒的な戦力差を無視して対馬を占領しようという無茶を通すくらいなら、代案はいくらでもあるはずである。それを大統領は採らない。戦争以外の全ての選択は、彼に引責辞任を強いるものであるからだ。かつての救国軍事委員会議長も、今では救おうとしているのは国ではなく自分だ。笑えないジョークだった。

 李提督は腹をくくった。もし自分がその地位を掛けて諫止したとしても、大統領は彼の首をはねて他の提督に命令を下すだけだろう。それなら自分が指揮を執ったほうがまだましだと思った。

「お引き受けいたします」

 受諾の言葉を口にしたとたん、体が震えた。もちろん恐怖からではない。自分がアジア最強の海軍に立ち向かう指揮官であるという純粋な歓喜が、彼の全身を襲ったのである。
 向こうさんはどう思うか知らんが、少なくとも俺としては相手にとって不足はない。大統領の魂胆なんざ、もうどうだっていい。尊敬に値する敵と戦う以上の喜びが軍人、いや男にあるものか。
 さあ、征くか。恥辱と矜持と絶望と希望が溢れる戦場へ。

 次回でやっと日韓が激突する第15弾です。
 しかし見れば見るほど韓国海軍の貧弱ぶりが分かります。日韓海軍が図上演習を行ったさいに、韓国側が40分で撃破されたというのもむべなるかな。
というか、相手になるのか?

その16

 あれほど求めていた総理の椅子が、これほど疎ましいものとは思わなかった。つい先月に日本の国家元首に就任した人物は、早くもその地位の重さを疎ましく感じるようになっていた。

 彼は国家反逆罪の嫌疑で朝日新聞社を起訴した人物の後任である。もっとも彼は前任者の対抗馬として認識されたことは一度もなかった。前総理が退陣するに当たって、適当な人物を物色したところ、派閥やら年齢やらのバランスを勘案してもっとも過不足のない人物だと周囲に思われた。その結果、繰り上げのような格好で総理の地位を得た。

 前総理が退陣した理由は、まことに日本的としか言いようがない。
 日本人は独裁者を嫌う民族だからである。
 前総理の支持率は確かに絶頂期に較べれば下がったが、それでも退陣するほどの不人気ではなかった。DMZ事件で韓国軍に停戦を要求したことは非難の的になったが、すぐさま不信任が叫ばれたわけでもなかった。特定の人物があまり長く権力の頂点に君臨し続けているのは、日本人の好むところではなかった。

 「もうそろそろこのあたりでいいだろう」という国民の漠然とした雰囲気が彼を首相官邸から逐ったのである。彼は吉田茂に次ぐ長期の在任期間を終えた。

 日本がアジアの一国でありながら、ついにアジア的専制というものから無縁で済んだのは日本人のそういった性格によるところが大きい。しかしこの場合に限り、日本人の権力に対するバランス感覚は巨大なデメリットを提示することになった。
 現首相は、縋りつくような目で傍らの官僚に訊ねた。

「連中はまだ言って来ているのか?」
「はい。引き続いて、韓国国籍の艦が対馬港に寄港の許可を求めています」

 機関部が故障して手がつけられない、と向こうは打電してきている。哨戒機からの報告によれば、確かに白煙が上がっているという。それが民間の船舶の一二隻であれば、その疑わしさにも目を瞑ったかもしれない。しかしそれが軍艦、それも複数となれば話は別だ。いや、複数などという生易しいものではない。韓国が誇るKDX―2「朱蒙」を旗艦とする駆逐艦六隻、フリゲート艦十隻による大艦隊である。ご丁寧なことに、十六隻全部から煙が上がっているらしい。そのくせ航行速度30ノットで一直線に対馬を目指している。これで韓国側の主張を信じられる人間がいるとすれば、それは聖人か白痴だろう。

 実のところ、この報告は寝耳に水というわけではなかった。韓国海軍の戦力の大半を動員するような大規模な軍事活動である。DMZ事件と同様に、日本の偵察衛星や防衛庁の情報網は初期から韓国海軍の行動をキャッチしていた。
 韓国海軍の主力が集結しつつあるというニュースが政府首脳部の耳に届いた二分後、ホワイトハウスとのホットラインから同種の内容の情報が首相官邸に届いた。三沢基地で行われたエシュロンの通信傍受を同盟国に伝えたわけである。対応に費やす時間は決して少ない量ではなかった。ただちに佐世保基地の第七護衛隊群を出動させ、いつでも攻撃できる態勢を取らせた。
 問題はそれからであった。閣僚たちは侃侃諤諤の議論を展開し、容易に収束しそうになかった。

「相手の正気を疑いたくなるようなふざけた申し出だ。吹き飛ばしてしまえ」
「それは浅慮というものだ。韓国も馬鹿ではない。彼我の戦力差くらいは認識しているはずだ。なにかとてつもない秘密兵器か深慮遠謀を秘めているのではないか」
「仮にすべての韓国の軍艦が、本当に手の施しようがない故障に見舞われていたとしても断固として拒否すべきである。韓国海軍の大部分が海の藻屑と消えようが、それは連中の整備不足によるものだ。自業自得である。ただちに付近を周航している第七護衛隊群に武力行使の許可を与えるべきだ」
「いや、人道を最優先すべきだ。隣人はまずもって信じるべきであり、むやみやたらと疑うものではない」
「相手の攻撃範囲に入った途端に対艦ミサイルを撃って来られたらどうするのだ」
「一発だけなら誤射かも知れない」

 なぜ私が総理に就任した途端にこんな面倒が持ち上がるんだ、と頭を抱えた。彼は保守中道を標榜しており、前首相の路線にも彼に強硬に反対する野党にもはっきりと周囲に判るような肩入れをしなかった。自分の発言に責任を持つ立場に長い間いなかった。そのような人物が、その選択によっては1945年8月15日以来半世紀以上連綿と続いてきた日本の平和主義にピリオドを打たなくてはならない地位にいた。

 有事法制の改正法案の「特に緊急の必要があり事前に国会の承認をもとめるいとまがない場合」という条項に従って、防衛活動に対する国会の承認は事後で構わない。しかし、自衛隊の防衛出動には内閣総理大臣の命令がどうしても必要なのである。

 総理は決断した。
「もう少し待ってみたら、韓国艦隊の気が変わるかも知れない」

 韓国艦隊も悠々と進んでいたわけではない。彼らは、第七護衛隊群によって自分たちに必殺の狙いがつけられていることを自覚していた。自覚していながら、なお進んでゆく。一流の狙撃手の照準が自分の額に合わせられていることを知りながら、自分から距離を縮めていくようなものだった。乗組員たちの緊張は軽くつついただけで弾け、たやすく恐慌状態に陥るであろう。そうならないのは、ひとえに訓練の賜物であった。

「死刑囚が十三階段を上がって行く心境とは、こんなものでしょうか」

 旗艦「朱蒙」のCIC(戦闘情報センター)でコンソールを睨み付けていた李提督に、傍らにいた参謀が話しかけた。

「違う」

 李提督は言下に否定した。

「いや、まあ、似ているけれど違うさ。俺たちは大人しく首に縄を掛けられるためにのこのこ東海くんだりまで出張って来ているわけじゃない。死刑執行人をぶちのめすために進んでいるのさ」
「でも、やっぱり無茶ですよ」
「無茶は承知だ。だいたい、連中とまともにやりあって勝ち目があるのか」
「あったらこんな自殺行為は採りませんよ」
「だったら黙っていろ。顔にも声にも怯えを出すな。出してしまったら、それは必ず兵どもに伝播する。一切合切の感情を腹に仕舞い込んでおくのも将校の仕事のうちだ」

 日本の軍事音痴の閣僚が疑ったような秘密兵器も深慮遠謀も彼は持ち合わせていなかった。もしこの場で戦闘を余儀なくされると判れば、尻尾を巻いて逃げるだけである。
 現代のレベルにまで磨き上げられた戦争理論を小手先の策で覆せるほど、人類が戦争によって営々と休むことなく積み上げてきた屍山血河は軽くない。それが可能なのは、作者の意思がすべてに優先する出来の悪い架空戦記だけである。彼が立案した作戦は、韓国の保有する軍事力から導き出されたごく当たり前の作戦だった。

「俺たちはスレッジ(金床)だ。ハンマー(金槌)を振るって思う存分に打ちのめすためにも、できるだけ連中に近づかなきゃならんのさ」

 最新鋭の艦艇で固めた第七護衛隊群の旗艦「みかさ」のCICで、海将補の階級章を帯びていた木村司令は茫洋とした表情を浮かべていた。実際には頭の中をフル回転させていたが、彼は感情を表に出すのが嫌いだったのでわざと間の抜けたような顔をしていた。
 木村海将補は傍らの少女に語りかけた。

「交戦許可が下りないねえ、星野くん」

 上官のつぶやきに少女は「はあ」と愛想のかけらもない生返事を返した。
 星野と呼ばれたその少女は、ナチスドイツの武装SSの制服にその身を包んでいた。宋代の陶磁器を連想させる白い肌と、20世紀に欧州を震撼させた漆黒の制服とのコントラストは、16歳という幼さも相まって怪しいまでの魅力を醸し出していた。腰にはこれまた黒光りするコルトパイソン357マグナムがホルスターに収まっていた。
黒ずくめの装備を好むのは彼女の義父が影響していることを木村海将補は知っていた。

 彼女は海上自衛隊史上最年少の三佐であり、第七護衛隊群の旗艦「みかさ」の艦長でもあった。彼女はその可憐な容姿と乗艦の性格から「電子の妖精」と謳われていた。ちなみに枕詞として「空に咲きし白き花」が頭に付く。
パイロットでもないのになぜ空に咲くのかは永遠の謎である。

 その容姿と年齢から、彼女は自衛隊の内外を問わず絶大な人気を博していた。パイソンを構えたポーズで彼女が写った広報のポスターは、貼り出されたその日に日本中から姿を消した。海自への志願者の数は陸自と空自を圧倒した。同僚が「みかさ」に転属することは、先に昇進されるよりも嫉妬の対象になった。
 そんな彼女の直属の上官として、官民併せれば万でも足りない羨望に圧殺されそうな毎日を送っている木村海将補は、もう一度星野三佐に語りかけた。自分の決断を確認し、不退転の覚悟で望むために。

「星野くん」
「はい」
「私には病に臥せった母親と、十を頭の孫たちが三人いる」
「時代劇の悪党の命乞いに出て来るような家族構成ですね」
「事実だからしょうがないだろう。私には何を犠牲にしても家族を養う義務があるんだ。君にはまだ理解できないかも知れないがね」
「私、少女ですから」
「まあ、もともと防大の席次は下から数えたほうが早かった。今じゃあ、よく卒業できたものだと自分で自分に感心しているくらいだ。二佐か、せいぜい一佐で終わりといったところだった。それがいろいろあって、今じゃ最新鋭の護衛隊群の司令にまでなれたんだ。上出来さ。 このまま何も起きずに勇退を願っても、誰にも責められるものじゃないだろ?」
「現行の法では裁けないでしょうね」

 木村海将補は無言で頷いた。そして、言った。

「決めたよ」
「何を」
「ぜんぶ諦めた」
「だから何をですか」
「だからぜんぶを、さ。地位も名誉も義務も恩給も、下手すりゃ自分の命もね」

 彼は目を瞑り、天を仰いだ。過去を回想するときの彼の癖だった。

「平和な時代の軍人ほど軽蔑される職業はない。その中でも、戦後の日本は特にひどい」
「敗戦国に左翼がのさばるのは世の常ですよ」
「まあね。……湾岸戦争の後始末に海自が出動したのを知っているかい」
「海上自衛隊の最初の海外実任務ですね。たしか掃海母艦「はやせ」と補給艦「ときわ」に加えて掃海艇四隻が派遣されたと聞きました。クウェート沖の掃海にクウェート・アラビア沿岸航路の拡張および確認掃海の任務に従事したんでしたっけ。私が産まれる前の話ですが」
「さすがによく知っているね。つけくわえれば188日間の任務の間で稼働率100%、服務事故ゼロという成果を上げたのさ。50度なんてふざけた気温の上にイラク軍の馬鹿が油田に放火してね、ヘルメットと救命胴衣と粉塵マスクを付けた格好で一日12時間も掃海作業に当たった上での数字だよ。
 そんな私たちが帰国する際の行事に、当時の総理がケチをつけた。軍国主義を連想させるから自衛艦旗を揚げるな、
 軍艦マーチを演奏するなってね。自衛艦旗を降ろすのは降伏したときだけだってのにさ。軍艦マーチだって私たちが訪問する各地で敬意を表するために必ず演奏してくれるんだよ。
 あのときばかりは腹が立つのを通り越して涙が出たな。
 けどね。
 それでいい、と定年も近い最近になって思うようになったんだ」
「マゾの目覚め?」
「違うわい。
 1691年にイギリスで制定された悪法を平気で破り、絞首刑に処されながら祖国を繁栄に導いた提督たちを亀鑑とするだけさ。自分が正しいと思ったことを行い、自分が守りたいと思ったものを守る。そのためには侮りも蔑みも無理解も不利益も一切合切自分たちが背負い込んでなお歩みを止めない。
 ……なんか、はっきり口に出すと恥ずかしいものがあるな」

 彼は照れ隠しに鼻の頭を掻きながら、命令を下した。

「各艦、対艦ミサイル発射用意! 責任は指揮官が取るもんだから、景気よくぶっ放せ!」

 作者の意思がすべてに優先する出来の悪い架空戦記の第16弾です。 つーか量多すぎ。掲示板の私物化ここに極まれり。
 モロに補習授業の影響を受けてSSのコスプレしたルリルリへのツッコミはご容赦を。
 旧帝国軍ではどこの国の軍服を着ても構わなかったらしいです。
例えば乃木元帥は少佐任官するまで留学していたフランスの軍服を死ぬまで着続けました。
趣味全開で羨ましいばかりです。
 星野三佐がパイソンを持っているのは、『ファントム』のアインとの声優つながり。それと黒アキト

その17

「一撃で何もかも一切合切決着する。
 眼前に敵を放置して何が海上自衛隊か!?
 何が独立国家か!?」

 なんでアンデルセン神父? という艦橋での星野三佐のつぶやきは、「みかさ」の艦内通信を介しての総理との応答に忙しい木村海将補の耳には届かなかったらしい。お願いだから総理、韓国の艦隊に「奴めおまえ達を見て自制がきいていない。ここは一旦引いてくれ! 後でもう一度改めて……」とか言わないでよ。いやマジで。

 近海を周航している(だけのはずだった)第七護衛艦隊に、総理官邸から再度の自粛を求める命令が下ったのは木村海将補が全艦に攻撃準備を命じた直後であった。後半生を棒に振ることに決めた途端に、腰を折られる格好になった木村海将補の口調はしぜん厳しいものになり、容易に決着がつきそうにはなかった。

 もちろん東京に陣取っている総理には木村海将補の決断など知るよしもなかった。虫の知らせというよりも、ただの偶然である。しかし護衛艦隊にとっては、ただの偶然によって現代戦において何よりも貴重な時間を無為に浪費させられているのである。

 こんなタイムロスで撃沈されたら目も当てられないよね、と世界が不条理に満ちていることを再確認させられていた星野三佐は横から肩を叩かれた。見ると木村海将補が手招きをしている。なにやら猛烈に悪い予感がしてきた。

「星野くん、我らが偉大なる最高司令官閣下が君の意見をお望みだ。代わってくれ」

 嫌です、と激甘ワッフル好きのおさげの少女のごとく即答したが、抵抗むなしくインカムを押し付けられてしまった。定年間近の古狸よりも16歳の客寄せパンダのほうが組みし易いとみたのかしら、と冷ややかに推測した。もっとも有事法制やら何やらについて長々とした議論を繰り広げるような状況ではなかったので、

「将は軍に在っては君命も受けざるところ有り、です」

とだけ答えて打ち切った。彼女は孫子フェチだった。
 それでもまだなにか向こうでわめいていたので通信を切った。

「通信士さん、これからは無視しちゃってください」
 その要請に通信士は完璧に応えた。彼の忠誠心は現場の苦労も知らずに後方で騒いでいるだけの老人には向けられていない。より身近で可憐な上司である電子の妖精にのみ奉げられている。
 木村海将補が拍手を打った。

「オーケー。それでは星野くん、ミサイル発射準備の状況を報告してくれ」
「はい。本艦はすでに発射準備を完了。目標の位置データ入力も済ませてあります」
「僚艦は?」
「艦橋よりCICへ、僚艦のミサイル発射準備の状況はどうなっていますか」
「CICより艦橋へ、DDG「ゆきかぜ」、DD「あやなみ」「いそなみ」「うらなみ」「きよなみ」「すずなみ」、
要するに艦対艦ミサイルを搭載した護衛艦からはどいつもこいつも準備完了信号が送られています。というか
発射命令はまだかとせっつかれています」

 攻撃態勢が完全に整っている報告を受けた木村海将補は、そうか、とだけ言って息を吸い込んだ。
 ためらいはなくもないでしょう、と星野三佐は思った。半世紀以上の長きにわたって墨守し続けてきた平和主義をかなぐり捨て、国家の名の下で正当化される人殺しを始める。その火蓋を切って落とす責任を、好んで自らの双肩に背負ったのだから。しかし、その逡巡は深呼吸一つで終わったらしい。
 木村海将補は右手をコンソールに叩きつけ、叫んだ。

「全艦、発射開始!」

 DDH「いぶき」を除く海上自衛隊の七隻の護衛艦には、SSM(艦対艦ミサイル)四連装発射筒が艦橋の後部にそれぞれ二基搭載されている。ティッシュペーパーの芯を重ねたような、重厚さとありがたみに欠ける外装のランチャーから56発の90式艦対艦誘導弾が第七護衛隊群から永遠に飛び立った。
 ランチャーの姿勢から上空に射出されたミサイル群はそれぞれ安定翼と制御尾翼を開き、山なりのカーブを描きながら海に向かって降下した。海面に着弾するかと思われたミサイルはまたも角度を変え、そのまま海面にへばりつかんばかりの低空で飛行した。高度を下げることで、少しでもレーダーの目を誤魔化すためである。

 発射されたミサイルは加速計による飛行経路算定とジャイロによる姿勢制御を併用した慣性誘導によって目標まで飛行している。これがミサイルの内蔵レーダーに切り替わるとき、韓国艦隊に真の恐怖が訪れる。

 情報センターからの無線を受け取った李提督の耳に飛び込んできたのは、通信兵の絶叫だった。抑制の効いていない大声だが、それでも意味は理解できた。つまり、自分たちの艦隊へ高速で飛来する物体をレーダーが捕捉したということを。

 来たか。ついに来たか。やはり来たか!
 胸の奥から吹き上がる興奮を抑え、感情の色を排した声で李提督は訊いた。
「数は」
 一瞬のタイムラグを経て、「数え切れません! しかし、きわめて多数!」という悲鳴のような報告が返ってきた。
 李提督は、それが海上自衛隊という妙な名前を持つ日本の海軍から発射されたSSMであることをすでに理解していた。日本が装備しているミサイルは1秒で300メートルの距離を踏破する。そして韓国海軍のレーダーは遠視と近視と乱視の三重苦を併発している。ミサイルを確認したとき、彼らに残された時間はあまりにも少ない。

「各艦に打電、それぞれの判断でミサイル迎撃に全力を尽くせ!」
「了解」

 李提督は、頭の隅に仕舞い込んでいた対艦ミサイルへの対応マニュアルを猛スピードで脳裏に蘇らせていった。
その横で参謀が怪訝な目つきでこちらを見ている。
 彼は意を決したような表情で口を開いた。

「提督、あの……」
「なんだ」
「いえ、その、提督は……
 笑って、おられるのですか?」

 それを聞いた李提督は眉をひそめ、口元に手を当てた。確認すると、なるほど口元が緩んでいた。そうか。
俺は笑っていたのか。表面に出ちまったか。しかし、ま、それも仕方がないさ。戦争だ。戦争は、地上のどんな場所よりもシンプルな法則に支配されている。勝者は生き、敗者は死ぬ。それだけだ。

 戦場じゃあ全身の毛穴が開いて、そこから神経の糸が放射状に張り巡らされるような感じがする。それまで薄皮一枚の見えない膜かなにかに覆われていたような五感が開放され、周りの一挙手一投足が完璧に把握できる。軽い興奮状態で脳の働きが活性化されているだけだと他の連中は言うかもしれない。だが、それがどうした。俺が、今、戦場にいる。それだけが唯一無二の真実だ。

 周りの士官たちの彼への訝しげな視線が、英雄を見るそれに変わった。彼らは自分たちの上官の微笑を完全に好意的に解釈した。
 「朱蒙」艦橋の士気は静かに、しかし確実に上昇していった。しかしパネルを叩く兵士たちの手は休まることはない。

「VLSにデータ入力開始!」
「イルミネーター・リンク接続!」
「発射準備、オールグリーン!」

 「朱蒙」の艦長は叫んだ。

「シースパロー、発射! 一発残らず打ち落とせ!」

 シースパロー、すなわちウミツバメの名を冠せられたRIM−7M艦対空ミサイルは、ミサイルを撃墜するために開発されたミサイルである。KDX−1はシースパローを発射するためのVLS(垂直発射装置)16セルのMk48Mod2、KDX−2は32セルのMk41を甲板に埋め込んでいた。単純計算すれば、全弾同時発射でお釣りがでる勘定になる。

 しかし現実はそうそううまくはいかない。シースパローのような防衛用対空ミサイルは、セミアクティブレーダーによって誘導される。半自動誘導方式と訳されるこのシステムは、味方の艦のイルミネーター(誘導用レーダー)から照射されたレーダー波が敵艦に反射し、その反応に向かって追尾するシステムである。そして当然のことながら、兵器の能力には限界がある。
 通常の対空誘導弾発射艦に搭載されるイルミネーターが誘導できるミサイルの数は1か、せいぜい2に過ぎない。現代において世界最高の防空能力を誇るイージスシステムでさえ対艦ミサイルへの同時対処能力は20に満たないのである。

 シースパローの同時発射によって張られた弾幕は、誘導されなかったミサイルに戦果を上げさせもしたが無駄な損害も出した。射出された艦から見放されたミサイルが側のミサイルに近づきすぎ、道連れに誤爆したのである。

 俗に兄弟殺しと呼ばれる現象である。第一波の防衛で打ち落とせたSSMは、結局は7発に落ち着いた。それを確認したときには韓国艦隊はすでに第二波の防衛ミサイルを射出していた

 第三波は無理だ、と李提督は判断した。シースパローの有効射程距離はおよそ15km。第二波の防衛ラインが突破されたとき、すでに日本の対艦ミサイルまでの距離は指呼の間に迫っている。

「各艦、可及的速やかに転舵! 対艦ミサイルの来襲方向に舳先を向けろ! アクティブレーダーの反射面積を少しでも狭めるんだ!」

 彼の指示が最後まで伝わりきらないうちに、水上レーダーのディスプレイを睨み付けていた兵士が報告を行った。

「第2波防衛ミサイル、敵のミサイル群に到達! 撃墜した数は……8発です!」

 やはりその程度か、と李提督の頭の隅の冷静な部分がささやいた。彼は韓国海軍の防空能力がどれほどのものかを完全に把握していた。そこから弾き出された数字と報告される撃墜数との差は無いに等しい。確率論から言えば充分に誤差の範囲内である。もちろんその計算にミサイルの脅威を和らげてくれる効果などありはしなかったが。

 李提督は海上自衛隊の護衛隊群がどのように編成されているかを知っていた。自分たちが対峙している艦隊が一般的な編成であった場合、敵から放たれたミサイルはまだ40発以上が無傷のままで飛んで来ていることになる。

「電子妨害装置作動! 近接用対空防御兵器の用意急げ!」

 対空ミサイルの発射と前後して主砲が間断なく火を噴き始めた。「李舜臣」型駆逐艦KDX−2は米海軍が主に搭載しているMk45Mod4単装砲、「広開土大王」型駆逐艦KDX−1は海自が愛用しているOTOブレダ単装砲である。ともに54口径127mm。フリゲート艦は一様にOTOブレダ62口径76mm単装砲を二基搭載していた。

 しかし同じ127mm砲とはいえ、1分間に45発の砲弾を吐き出すOTOブレダに較べてMk45Mod4の発射速度は大して速くない。前者が対空防御用に開発されたのに対し、後者は対艦攻撃用に設計されているからである。
 水上レーダーのディスプレイで、中心に近づいてくる光点が消滅するスピードは遅々としたものだった。時間が経過するにつれて撃墜する確率は少しずつ上がっていったが、それは目標が距離を縮めていることを意味する。
素直に喜べない現象だった。

 それまで海面すれすれを直進していた90式誘導弾が頭を持ち上げ、無防備な腹をさらした。目標面積が増したために被弾率は上がり、10発のミサイルがその意志を挫折させられた。しかしこの一見自殺行為に思われる高度の上昇は、レーダーに反射率の大きい目標を記憶させるためのものだった。ここで90式誘導弾は慣性誘導から前頭部に内蔵されたレーダーによる自動誘導に切り替わった。それは蛇が獲物に襲いかかるためにその鎌首を持ち上げるさまに似ていた。

 「広開土大王」型第二番艦「乙支文徳」の艦橋は、恐慌に陥る一歩手前であった。KDX−1の通称で知られる「広開土大王」型駆逐艦は、2003年5月に進水したKDX−2「李舜臣」型に較べて基準排水量は千トン少ない。
しかしステルス性を完全に度外視した艦形は、小型でありながら日本のミサイルにとって格好の的になっているのである。

 臓腑の底からせり上がってくる闇の手に心を鷲掴みにされながら、それでも「乙支文徳」の艦長は自らの責任を放擲するつもりはなかった。戦場における諦観は、ほとんどがそのまま死に繋がる。

「CIWS、急げぇっ!」

 CIWS(Close In Weapon System)とはその略称のように自己完結した戦闘システムである。白塗りのドームに収納されたレーダーは下部の射撃指揮装置に直結し、『目標の追尾』『射撃』『撃破の確認』といった一連の操作を全自動で行う。現代の軍艦にとって最も射程の短い防衛火器、事実上の最後の盾である。

 「広開土大王」型駆逐艦に二基備え付けられたゴールキーパー・ガトリングは一分間に四ケタの30mmタングステン機関砲弾をばら撒く性能を保有している。しかし、いかんせん有効射程はシースパローの十分の一に過ぎない。
 これだけの至近距離では、運良く対艦ミサイルを撃破できたとしても防御側も無傷では済まない。

「ソフトキル兵器はどうした!」
「電子妨害装置は問題なく作動しております! チャフ、フレアはともに発射済み!」

 「乙支文徳」艦長は身を乗り出して、防弾ガラス越しに副長の報告を目視した。
スズ箔やアルミホイルやアルミ被覆ナイロンやグラスファイバーのような反射物質の小片を霧散させたチャフは銀色の雲を形成し、マグネシウムとテトラフルオルエチレンを混ぜ合わせたフレアは着火されて赤外線光を発していた。

 前者は敵ミサイルのレーダーを、後者は赤外線追尾を欺くためのソフトキル兵器である。さすがに電子妨害は肉眼では確認できないが、パネルで点滅している内容は副長の主張の正しさを裏付けていた。しかしディスプレイ上の光点は、そのほとんどが一切の感情を込めることなく一直線に「乙支文徳」を目指して距離を狭めている。

「なぜだ! なぜ奴らのミサイルは欺瞞されない!」
「90式誘導弾のレーダーはハープーン・ミサイルよりも優れています! ECM(電子妨害)に対する抵抗力は比類がありません! 赤外線追尾を欺瞞するフレアは何の効果もありません!」
「何だとぉっ、アメリカはそんな最新式、俺たちには回してくれなかったぞ!」
「90式誘導弾は日本製であります!」
「造った民族と同じだあっ! 根性のねじくれたミサイルだぜぇっ!!」
「軌道はねじくれてくれません! 素直そのものです!」

 艦長と副長の話題に上っている日本のミサイルが、CIWSによる弾幕を掻い潜って「乙支文徳」の上部構造物に着弾したのはそれから2秒を必要としなかった。マッハ0.9で飛翔する661kgの質量が激突したのである。
その運動エネルギーは「乙支文徳」のケプラー装甲を障子紙のように突き破った。

 90式誘導弾の弾頭に詰め込まれた225kgのHE(高性能爆薬)は思うままに破壊の鎚を「乙支文徳」に振り下ろした。業火は艦橋を嘗め尽くし、乗員たちに一方通行の切符を強制的に押し付けた。KDX−1第二番艦は戦闘能力を完全に手放した。そこへさらに二発目のミサイルが襲い掛かり、中央甲板へと突き刺さった。艦内で荒れ狂う1000ポンド相当の炸薬は日本艦隊を撃滅するために積み込まれていたはずの弾薬と燃料を誘爆させた。
日韓が手を組んだ暴力は艦内をほしいままに陵辱した。浸水が始まり、自重を支えきれなくなったためについに二つに折れ、断裂部分から海面に沈んでいった。
 「乙支文徳」は韓国艦隊の最初の犠牲者として対馬海峡のわだつみに捧げられた。

 「乙支文徳」の撃沈に続いて、「朱蒙」の艦橋に僚艦の悲報が矢継ぎ早に舞い込んでくる。

「「広開土大王」、応答ありません!」
「「文武大王」、沈黙しました!」
「「忠南」、水上レーダーよりロスト! これでフリゲート艦の損失は4隻です!」

 たった十分。たった十分で韓国が背伸びを続けてようやく手に入れた最新鋭の艦隊が、文字通り半壊した。これが現代戦か、という思いが韓国士官の間に浸透していった。
 李提督は、あらゆる束縛から解放された元部下たちに心の中で呼びかけていた。いいかお前ら、天国の門にまで辿り着いたら胸を張って聖ペテロに言うんだぞ。俺は大韓民国の軍人だ。国家に奉職して命を落とした。天国へ入る権利はある。そう言うんだ。忘れるなよ。それでも開門を渋るようなら……通行料に鉛玉をくれてやれ!

 李提督の瞳にはまだ光が宿っている。獣道にも吹雪にも緊張にも疲労にも歯を食いしばって耐えて獲物を追跡し続ける狩人の目に宿る光だ。
 なぜなら、この地獄のような被害状況は最初から勘定に入っていたからである。

カッコガキがやたらと多い第17弾です。
 ちょっとリアルに艦隊戦をやったら、掲載が一日ずれ込んだ挙句に分量が多くなりすぎて前後編に分かれてしまいました。ハナシ引っ張りすぎ。

その18

「やっこさん、何を企んでいるんだろうねえ」

 木村海将補はあまり意味のない呟きを漏らした。
 CICからの報告によれば韓国艦隊はすでに駆逐艦を三隻、フリゲート艦を四隻失っている。
軍事学の常識において、戦力の二割を喪失した部隊は撤退行動に移行する。損害が五割に達すればもはや壊滅と表現される。それでもなお韓国艦隊は南下を止めない。

「星野くん、君はどう思うかね」
「日韓の海上戦力がまともにぶつかり合えば、レーダーの性能に勝る海上自衛隊が先に相手を発見することは自明の理です。実際には後方の優柔不断のせいでずいぶん距離を稼がれましたが、それでも相手の有効射程に入る以前に攻撃を仕掛けることができました。
 もっともこれは机上論でも十分に算出できる結果のはずですが」
「つまり、相手は部隊が半壊する被害を見越した上でなお行動している、と。
 じゃあその目的は?」
「それは閣下もうすうす感づかれていると思いますが」
「向こうの親玉がめでたく発狂してくれた」
「それは希望的観測、というかただの願望です」

 やっぱりそうかな、と顎を撫でながら木村海将補は敵司令官の狙いに大体の見当をつけていた。
そしてもし相手の策を完成させてしまえば、いくら最新鋭の護衛隊群といえども壊滅の憂き目にあう可能性が高い。ここは一つ、敵に致して敵に致されずといくか。

「本艦隊はこれより第二次攻撃へ……」

 木村海将補が命令を伝えきらないうちに、CICから緊急の報告が入った。

「CICより艦橋へ、韓国艦隊から本艦隊に接近する多数の高速飛行物体を確認! おそらくハープーンと思われます!」

 先手を打ってきたか。木村海将補は呻きそうになったが、かろうじて飲み込んだ。このタイミングでの攻撃が単なる最後の悪あがきであるはずはない。むろんそれで済むなら越したことはないが。敵の残存艦の数は九隻だ。SSM四連装発射筒を二基装備しているとすれば、72発の対艦ミサイルが牙を剥いている計算になる。確かに脅威であるが、イージスシステムを搭載した「みかさ」に加えてミニイージス艦である「いぶき」を擁する第七護衛隊群の全能力をもってすれば絶対の危機というほどではない。

 真に恐るべきはこれが第一次攻撃であり、相手が第二次攻撃に移行したときには歴史上最初に撃沈されたイージス艦として「みかさ」が記録される可能性が高いことである。

「総員、対空戦闘配置」

 星野三佐がCICに命令を下す。その復唱と命令のスピードは彼女を満足させられるものだった。

「総員対空戦闘配置」
「バルカン・ファランクスCIWS異常なし」
「127ミリ砲、準備よし」
「艦首甲板VLS、システム異常なし」
「艦尾甲板VLS、システム異常なし」
「防空兵器、システムオールグリーン。対空戦闘準備よし!」

 星野三佐は強化ガラス越しに水平線を見つめ、その彼方から襲来しているであろうミサイル群に不可視の盾を掲げた。

「シースパロー、発射」

 とたん、「みかさ」の甲板が白煙に覆われた。そしてその中から肉眼では確認できないほどの数の迎撃ミサイルが姿を現す。目視したと思ったときにはすでに視界にない。第七護衛隊群にSSMを到達させないために音速を突破しながら飛翔してゆく。
 木村海将補は乗組員に一瞬の油断も許さない。

「いいか、このミサイル群をやり過ごした直後こそ最大の脅威が飛んでくる。ASM(空対艦ミサイル)を積んだ韓国空軍の大編隊だ。音速を超えて飛来する機影群だ。
 おそらく対馬の影から姿を現す。レーダー担当、見逃すなよ!」

 李提督の策は滞りなく進行している。
 もともと対馬占領の目的は政治的なものである。韓国大統領も自国経済の八方ふさがりの現状を打開するには日本との国交を修復するしかないことは理解している。しかし輿論がそれを許さない。彼の地位を狙う連中に付け込む隙を与えることにもなる。そこでこの作戦である。

 確かに今の日本は上下そろって対外的に強硬姿勢で臨んでいる。しかしいったん攻撃を受ければすぐさま戦争アレルギーがぶり返し、その強気な姿勢もすぐに腰砕けになるだろう(そんな糞のような民族は隣国のいいようにされて当然だと李提督は思っている)。そういう甘い見通しの上に対馬占領作戦は成り立っていた。

 つまり目的は対馬に限定されているわけではない。その衝撃が日本にとって大きければ大きいほど効果的なのである。
 韓国海軍の上陸能力はお寒い限りである(この点については海上自衛隊もたいして変わらない)。李提督は最初から攻撃目標を護衛隊群に定めていた。イージス艦「みかさ」を筆頭とする、最新鋭の軍艦で固められたアジア諸国最強の艦隊。それを沈められれば日本も韓国の脅威を身に染みることになるだろう。李提督は大統領にそう陳情し、容れられた。もちろん日本人の態度を硬化させるだけかも知れないと訝りもしたが、それは李提督の手に余る問題だった。真珠湾攻撃という藪をつついた行動で、アメリカ国民の反日感情という蛇を出してしまった日本帝国と同じ結果になろうが、それは政治家の責任である。護衛隊群が出張ってこなければ韓国艦隊十六隻のミサイルを対馬の主要施設に全弾叩き込んで去るだけのつもりだった。

 李提督は韓国軍の総力を挙げてイージス艦「みかさ」を叩き潰すことにした。
 イージスシステムは大日本帝国連合艦隊をきっかけにして産声を上げた。真珠湾攻撃と神風特攻による太平洋艦隊の甚大な被害は、航空攻撃に対しての軍艦の脆弱性を露呈させた。その欠点を米海軍は圧倒的アウトレンジの制海権能力を誇る空母機動部隊でカバーした。東側陣営の旗頭としてアメリカの仮想敵国とされたソヴィエトは軍事力の質では劣勢にあり、その差を埋めるために対艦ミサイル開発に全力を傾注した。

 爆撃機による一斉発射は、防御艦隊の処理能力の限界を超える飽和攻撃(サチュレーション・アタック)となる。年次を重ねるごとに性能を高めてゆくミサイルの開発は、ミサイル大好きフルシチョフの趣味のせいだと一概に言うことはできない。
 米海軍にとって虎の子の空母は、敵から見ればもっとも高価な目標(ハイ・ヴァリュー・ターゲット)である。その対抗策として、アメリカはこう考えた。

「ソヴィエトからのミサイル群をことごとくはたき落とせるだけの防空システムを開発すれば済むことだ」

 こうした経緯でイージスシステムは開発される運びとなった。
 イージスとはギリシャの戦女神アテナが身にまとう山羊の皮の胸当てであり、後代に山羊の皮の楯へと形状を変化させた「アイギス」の英語読みである。この神楯はあらゆる邪悪を払う力を持つとされ、米海軍は1983年に完成させた対空防御システムにその名を冠した。だが所詮は人の手によるものであり、その能力は神の加護を得た宝具とは較ぶべくもない。

 確かにイージスシステムは懸絶した防空能力を秘めている。しかし逆説的な視点に立てば、他のミサイル艦の数倍の防空能力を保有するに過ぎない、とも言えるのである。イージスシステムは12〜18の目標に対して同時に迎撃できるとされている。李提督にすれば、その処理能力を凌駕する対艦ミサイルをばら撒けばいい。問題は、いかにしてASMを搭載した航空機動部隊を戦闘海域まで運ぶかである。

 イージスシステムの中核を担うSPY−1レーダーの索敵能力は半径400kmの空間を飛翔する200前後の目標を探知、識別、追尾できる。13500トン級DDH「いぶき」に搭載された純国産レーダー00式射撃指揮装置は最大捜索距離こそ200kmに留まるが、最大追尾目標数は300弱と発表されている
(今の李提督には関係ないが、レーダー素子の増加やコンピューター処理能力の向上によって、将来的な機能の更新と拡張が容易に可能である)。

 しかしそれらの八角形の形状をした四基一組の固定式レーダーも、さすがに陸地の障害物を透過して探知することは不可能である。李提督はその死角を最大限に利用するため、計算能力に優れた参謀をかき集めた。

 日韓の艦隊の巡航速度、韓国空軍の攻撃隊の飛翔スピード、先制攻撃を仕掛けてくるであろう日本艦隊のミサイル発射とその対応、その他ありとあらゆる計算式を考慮に入れ、少なくとも神ならぬ身としては非の打ち所のないマニュアルを仕上げさせた。限界まで韓国の航空編隊が対馬の陰に隠れられ、相手のレーダーに捕捉されたときには海空あわせて150発を超える対艦ミサイルが同時着弾できるタイミングにもっていける

 精緻極まりないマニュアルである。半島から離れた猛禽の群れは、常に対馬と護衛隊群を結ぶ直線上から外れない位置で超低空飛行を続けている。
 自殺行為に見える艦隊運動もまた、第七護衛隊群を計算外の行動に移らせないようにするための巨大な撒き餌だった。航空機との共同による飽和攻撃は相手も予測しているだろうが、その選択肢を可能な限り狭める巡航を行ってきた。今のところ、齟齬をきたしてはいない。
 李提督に報告が入った。彼に勝利の栄冠を授けてくれるだろう韓国空軍航空部隊からである。李提督はインカムを受け取った。
 報告を聞き終えたとき、李提督は自失した。

 そのほぼ同時刻、第七護衛隊群旗艦「みかさ」の艦橋で木村海将補もまた自陣営の航空方面隊の司令から報告を伝えられていた。敵航空部隊をほぼ撃滅したという報告を。
 西部航空方面隊の第5・第8航空団はそれぞれ新田原と築城を飛び立ち、韓国航空部隊を目下に捉えた。
対艦ミサイルを搭載した攻撃機はその重さのために満足のいく回避行動が取れず、彼らを護衛すべき戦闘機群も上空を扼されたために成すすべもなかった。ともに成すすべもなく撃墜されていき、撃ち漏らされたものたちは作戦の不成功に臍をかみながら撤退するしかなかった。

「助かりました。しかし全機を対空兵装に統一するとは思い切ったものですね」

 木村海将補の感嘆に、春日の西部航空方面隊司令はその戦術的判断を誇るふうでもなく返答した。

「なに、私も空を職場にして飯を食ってきた者です。同業が考えることも、やられて嫌なこともわかっていますから」
「ふむ。ところで、交戦許可は降りたのですか? しかし距離と飛行速度を計算すると……」
「ご推察のとおり、独断ですよ。貴官と同じく」
「なるほど。首を飛ばされる自衛官が少なくとも二人以上に増えたということですか」
「安いものですよ。1400億などというふざけた額の国民の血税に較べれば」
「そしてそれ以上に高価な200名以上の乗組員たち、ですな。
 そちらの被害は?」
「無傷というわけにはいきませんでした。四機が撃墜されましたが、そのうち二名は緊急脱出できました」

 ということは六名が殉職――いや、戦死したわけか。ふん、とうとう自衛隊にも戦死者が出る時代になったか。そしてその原因、というほど大それた立場じゃないが一因にはなった行為を俺が引き起こしたわけだ。
 黙りこんだ木村海将補に、激励というよりも叱咤のような声が耳に響いた。

「よろしいですか。
 御国の盾は、軽々しく砕かれることを許可されてはいないのです」

 それだけ伝えて、通信は切れた。
 そうだな、と木村海将補は顔を上げた。ここは戦場だ。そして俺は司令だ。俺の命令を必要とする連中は
山ほどいる。偽善に浸って心の傷を舐めるのは後回しだ。

「各艦、被害状況を報告せよ」
「DD「あやなみ」、ミサイルの直撃は避けられましたが至近距離での迎撃のために被害が発生しました!」
「防空ラインを突破されたのか!」
「いえ、僚艦の放ったチャフによって欺瞞されたミサイルが進路を変えたせいです」
「ちっ。艦隊運動を展開するには対馬海峡は狭すぎるというわけか。
 それで、被害状況は?」
「爆風と破片によってラティスマスト倒壊。OPS―24三次元対空レーダー、OPS―28対水上レーダーともに破壊されました。「あやなみ」は片目が潰れた状態です。
 下敷きになった前部甲板からは火災が発生している模様!」
「「あやなみ」に打電。
 貴艦が沈んだら代わりはいないのだ」
「「あやなみ」より返信。
 命令ならそうする、と言ってきております」

 「あやなみ」艦内は、おそらく地獄だ。
 木村海将補は自分ではどうにも答えの見つからない疑問を星野三佐に訊いた。
「彼らは祖国に殉じた英霊として、靖国に祀られることができるんだろうか」

 李提督は自分たちが勝利の女神に完全にそっぽを向かれたことを悟った。次の瞬間には「朱蒙」を除いた指揮下の艦隊に撤退命令を出している。

「撤退、ですか」

 うなだれていた参謀が不安そうに見上げてくる。こいつの不安ももっともだ、と李提督は思った。実際には逃走に過ぎない場合も、撤退は戦場では軍事行動の一つとして認識される。背後を晒した敵に対して攻撃を躊躇させるものは何もない。それどころか、戦場でもっとも戦果を挙げられるのが撤退する部隊を追い討ちする掃討戦だということは軍事学における常識である。むしろ掃討戦では全力を尽くして相手を殲滅すべきで あり、道徳的制約に縛られて攻撃命令を出せないような司令官は救いようのない馬鹿とされる。逃げる相手の背中に向けて発砲した卑劣なる蛮行、といって非難するのは軍事常識を知らない自称知識人だけである。

「連中の航路を塞げばいいだけだ。できるだけ大きな艦がな」

 参謀の顔から血の気がさらに引いた。李提督は「朱蒙」を犠牲にして他の軍艦を逃がそうとしていることを悟った。一瞬のためらいを越え、参謀はうなずいた。彼も軍人である。自分の運命を従容として受け入れた。
 韓国の海軍力は半壊したが、それでも「朱蒙」以外の軍艦が無傷で済めば、本来の敵国である北朝鮮の劣弱な海上戦力にはなんとか効し得るのだ。
 提督と参謀を除いた「朱蒙」艦橋に日本憎しの激情が渦巻き始めた。その中心部に位置しながら、李提督の怜悧な頭脳は付和雷同することを許さない。日本人を罵倒することで精神の均衡をどうにか保とうとする部下たちに、心の中で語りかける。
 お前ら、恨(ハン)の精神を安売りするな。そういったエネルギーは内部に溜めろ。外に表出させればその力は拡散する。臥薪嘗胆して到達点を見据え、あらゆる困苦に耐えながら最終的に敵を凌駕することを目指せ。
歴史上の先例を挙げるなら、そう、……露日戦争で勝利した日本以上に適切な例が見つからないじゃないか糞。

 しかも連中はそれをたった十年で成し遂げやがった。こっちは「十年後には日本を追い越す」と四十年前から言い続けて未だに果たせずにいるというのに。相変わらずどういう民族だよ畜生。

 李提督は頭を振って余計な念を追い払った。もはやなすべきことは一つしかない。
 彼はソウルに向かって敬礼した。
「大韓民国万歳!」

 CICから「朱蒙」を示す光点が消えたことを伝えられた木村海将補は、溜め込んでいた息を吐いた。
ひとまず終わった。その思いが「みかさ」艦内を駆け巡る。
 星野三佐の表情は変わらない。

「艦内の救命用具を海中へ放出。
 それと、海上保安庁へ連絡。戦闘は終結したため、対馬海峡に漂白する生存者は日韓の区別なく救助するように要請してださい」

 敬愛する美少女艦長の命令が静かな檄となり、「みかさ」乗員の緊張を復活させた。そう、戦闘は終結した。
しかしそれで全てが終わったわけではないのだ。
 第七護衛隊群に帰港命令を下しつつ、木村海将補は頭の鉄帽をとり、胸元に擬した。
「勇敢なる将兵に、英霊に、そして偉大なる敵に。
 敬礼」

 ギャグとシリアスのギャップがひどい第18弾です。  まさか「テーハンミングゥ、マンセー!」をギャグ以外で使うとは思ってもみませんでした。


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