☆鉄血の海神☆


第3話 「太平洋大海戦・前編」

1943年12月15日 大日本帝国領 トラック島
「潜水艦からの連絡にもあった通り、アメリカ太平洋艦隊が真珠湾を出撃しました。」
参謀長、草鹿竜之介少将の言葉に第一戦艦戦隊、第一艦隊、そしてこの開戦に参加する艦隊の総司令官である近藤信竹大将はうなずいた。
「やはり目的地はマーシャルかね」
第二艦隊の司令官である南雲忠一中将が言った。
「はい、ほかに考えられません」
草鹿が返事をする。
「やはりか…」
第二戦艦戦隊指令長官、角田覚冶少将がうめいた。日本最強の46センチ戦艦、「大和」級戦艦4隻で編成された第二戦艦戦隊を引き受ける、見敵必殺をモットーとする闘将である。
「長官、決断のときです」
第二巡洋戦艦戦隊司令長官、三川軍一が言った。彼は世界最強の巡洋戦艦、「伊吹」級4隻で編成された、第二巡洋戦艦戦隊の司令長官である。
「諸君」
覚悟を決めたように近藤が口を開いた。
「我が海軍は予定通りマーシャルで米艦隊を撃退する。」
全員が納得したように頷く。
「では、マーシャルの現地航空部隊に連絡します。」
通信参謀が言った。
「では、現地航空部隊と空母部隊との同時攻撃と言うことになりますな」
第一機動艦隊司令長官、小澤冶三郎中将が言った。海軍長官山本五十六や第二機動戦隊司令長官山口多門とともに昔からの海軍内の航空主義者である。
「小澤君、マーシャルの空軍指令は海軍出身だったね」
近藤が言った。
「ええ、第十航空師団司令長官、戸塚道太郎中将殿ですね」
小澤が答えた。本来戸塚は海軍では小澤の後輩であったが、階級は上であるため敬語を使っている。
「彼なら必ず我が空母部隊と息の合った攻撃をしてくれるでしょう」

同年12月23日7時15分 マーシャル諸島東方 
アメリカ合衆国海軍空母「エンタープライズ」艦上

「さあ行け、フライング・カウボーイ達!ワシントンとニューヨークの敵を打って来い!」
「エンタープライズ」艦上で声を張り上げているのは第三任務部隊司令長官、ウィリアム・ハルゼー中将である。
彼はアメリカ合衆国を代表する航空主義者であった。そして強烈な反日主義者であった。
そんな彼がこの年のアメリカ同時多発テロに怒りを覚えないわけが無かった。
日ごろから彼はあのような卑怯な戦争のルールを破る卑劣なテロリストどもを匿い、開き直るジャップなどは人間ではなかった。
しかし別に怒りを覚えていることもある。日本人が航空主義に目覚めているのに、我がアメリカ合衆国は空母なぞ2の次3の次であることである。いまだに新鋭空母「エセックス」級は1隻も就役していないと言う事実である。その内に日本軍は正規空母を六隻持っている。いったい卑怯者のジャップでさえ気がついた航空主義に気がついていない我が海軍上層部は何なのか。
しかしそれも今日まで。我が合衆国機動部隊は日本の航空機を殲滅し戦艦を次々と沈め、合衆国は航空主義に目覚め勝利の道(ヴィクトリ・ロード)を突き進む。
そしてその先人を切るのはこの俺、ウィリアム・ハルゼー!
そんなシナリオがハルゼーの中で描かれている中、その野望を打ち砕くべくマーシャルの航空基地、そして第一機動艦隊の八隻の空母から出撃していた。

同年12月23日16時15分 大日本帝国海軍空母「翔鶴」艦上

「発艦始め!」
飛行長の声とともに次々と航空機が発艦していく。先頭を切るのは2式艦戦「烈風」である。第二次世界大戦でのソビエト戦闘機との戦闘での判明した零戦の弱点を改良しただけでなく完全に別物の戦闘機であり、日本至上最強の艦戦である。それに続いて3式艦攻「流星」、「零戦」、「彗星改」、「天山」、「彗星」が次々と出撃していった。それが米軍に向かう大空のサムライの姿であった。
戦闘機180機、雷撃機100機、そして爆撃機120機、総勢400機の戦士は天空へ飛び立っていった。

同時刻 マーシャル諸島 日本軍航空基地

帝国空軍が発足してから今年で7年となる。そのきっかけは前年に起こった226事件であるのは疑うことのない事実であった。そして昭和軍改革での空軍の発足は陸海の狭間を埋め、結果的に日本にとってプラスに働いた。
第十航空師団司令長官、戸塚道太郎中将が見守る中、次々と戦闘機「飛燕」180機が飛び立っていく。さらに続いて「銀河」200機も出撃していく。

16時30分 マーシャル諸島東方 米国艦隊上空

「来るぞ!ジャップだ!」
待ち構える米軍の主力戦闘機、「ヘルキャット」80機は戦慄した。何しろ数に差がありすぎるのだ。敵は「ジーク(米軍の零戦のコードネーム)」と「サム(米軍の烈風のコードネーム)」は合わせて150機近くいる。さらに空軍の戦闘機も100機以上いる。そして彼らの守護する艦載爆弾と言う刀と航空魚雷という槍をもったサムライたちは…400以上だ。クソッタレ。本当にクソッタレだ。そんなことを大半のパイロットが思う中、20世紀の大空のデイビー・クロケット達は絶望的な戦いに挑んでいった。

同時刻 マーシャル諸島南方 日本艦隊上空

「来たぞ!」
戦闘機を束ねる板谷茂少佐の声がレシーバーに響く。彼の所属する第三機動戦闘機部隊は空母「伊勢」「日向」に搭載されている。この2隻の空母はロンドン条約で戦艦を改装した物であった。よって艦の速度も26ノットと低速であり、搭載機も60機と少ない。そこでこの空母は防空専門の空母となっている。そして搭載機も全て戦闘機となっている。
「敵機は恐らく300機!」
次々と敵機に向かっていく「烈風」「零戦」「飛燕」。
眼下の戦艦群に突撃していく米軍の艦攻「アベンジャー」と艦爆「ヘルダイバー」、そして彼らを守る戦闘機「ヘルキャット」。
その決着は、簡単に付いた。米軍の一方的敗北によってである。

16時35分 マーシャル諸島東方 米国艦隊上空

「いったい何なんだ!」
第一水雷戦隊司令官、アーレイ・バーグ少将は思わず叫んだ。
無理もない。今アメリカ合衆国艦隊は無数のサムライに襲われていた。既にその名の通り相手を地獄にたたき落とすはずの「ヘルキャット」は逆にほぼ全機が地獄に落とされ、500機以上の艦攻と艦爆が迫っていった。
そしてその標的は意外なことに戦艦ではなく、巡洋艦と駆逐艦であった。
それが冒頭のバーグ少将の台詞の理由である。
「クリーブランド」級軽巡洋艦「コロンビア」が爆弾の直撃を受け、艦橋が爆砕される。
「ノーザンプトン」級重巡洋艦「シカゴ」が航空魚雷を食らい轟沈する。
「フレッチャー」級駆逐艦が爆弾に真っ二つに轟沈される。
それは米軍にとって、悪夢という状況でしかなかった。

同時刻 マーシャル諸島南方 日本艦隊上空

「チクショウ、チクショウ、チクショウ!」
空母「エンタープライズ」艦攻隊隊長、ジョージ・H・W・ブッシュ大尉は己の運命を呪った。
何しろ敵が多すぎるのだ。先ほどから通信にはジャップに落とされる味方の航空機の通信しか入っていない。
「しまった、打たれグアアアアアアッ!!!」
「ママー!」
「熱い、熱い!!」
「ああああっ、目が、目があ!」
「ジャップめ!」
「落ちる、落ちウワー!」
一応戦闘機隊は努力したのだろう、ミートボールの戦闘機が数機落ちていった。
しかし全体的には全く変わっていない。
そんな時、目の前に駆逐艦が見えた。 こうなったら、コイツだけでもしとめてやる!
そんな気合いとともに、航空魚雷が投下され、駆逐艦に向かっていく。
その駆逐艦は「朝潮」級駆逐艦「大潮」であった。
そして魚雷はブッシュのみならずこの戦で死んだ全てのアメリカ海軍の航空機乗りの怨念を乗せて「大潮」を直撃した。
あはれ、「大潮」は真っ二つに轟沈していった。
「グゥレイトォ!!!」
思わずブッシュは叫んだ、しかしすぐに愕然とした。
あたりに彼の味方は殆ど存在していなかったからである。
おそらくはジャップの航空機によってたたき落とされてしまったのであろう。
とにかく、彼は母艦に戻ることにした。
そんなときであった。ジャップの艦隊の中の一番中央に位置している戦艦。
その戦艦の艦橋の上に少女がいるのだ。しかも和服で弓矢を空に打っている。
・・・自分は仲間がやられすぎて発狂したのか?
そんなことを考えながら、ジョージ・H・W・ブッシュ大尉は帰投した。

16時40分 マーシャル諸島東方 米国艦隊上空

サムライ達による攻撃はクライマックスを迎えようとしていた。
そのファイナリストは「飛龍」艦攻隊隊長、友永丈一中尉率いる40機の艦攻と別の30機の艦爆である。彼らは半分ずつ二手に分かれ攻撃に向かった。
一つは第一任務隊、もう一つは第二任務隊に向けてである。
その被害を受けたのは第三戦艦群所属のサウスダコタ級戦艦「アイオワ」、そして第一巡洋戦艦群所属のレキシントン級戦艦「サラトガ」であった。
「アイオワ」はこの時サウスダコタ級戦艦の5番目を走っていた。そこにめがけ殺到する雷撃機と爆撃機。
それに抵抗するため、一気にサウスダコタ級の姉妹が持てる全ての防空火器を放つ。「サウスダコタ」「インディアナ」「マサチューセッツ」「ノースカロライナ」「モンタナ」そして当の本人、「アイオワ」。
その激しい火力は雷撃機3機と爆撃機2機を冥土に送り込んだ。しかし攻撃隊はその敵を取ろうと言う勢いで向かっていった。
投下されていく魚雷。後彼女たちに出来ることと言えば回避ぐらいであった。
勢いよく彼女に向かっていく魚雷。それはまるでイエスを突こうとするロンギヌスの槍のようであった。
結果的に「アイオワ」は魚雷1発、爆弾2発を喰らった。
一方「サラトガ」はというと、レキシントン級の最大の長所である俊足を生かし魚雷を回避したものの、決死の覚悟での反復爆撃4発に加え、機銃が射抜いたはずの「天山」艦攻の体当たりを喰らい、中破と言っていい損害となった。

16時50分 マーシャル諸島東方 米国艦隊旗艦「オハイオ」艦橋

「長官」
参謀長、ウィリアム・スミスが声をかけた相手は太平洋艦隊長官、ハズバンド・キンメル大将である。
「被害は」
簡潔にキンメルは今最も必要とされている情報を聞いた。その声は心なしか震えている。
彼は被害の書かれているメモを受け取った。

第一任務部隊被害
撃沈
重巡洋艦「アストリア」
軽巡洋艦「コロンビア」
駆逐艦五隻
大破〜小破
戦艦「アイオワ」(小破)
重巡洋艦「インディアナポリス」(大破)「ニューオリンズ」(中破)
軽巡洋艦「クリーブランド」(中破)「デンバー」(大破)
駆逐艦二隻
第二任務部隊
撃沈
重巡洋艦「シカゴ」
軽巡洋艦「クインシー」「モビール」
駆逐艦五隻
大破〜小破
巡洋戦艦「サラトガ」(中破)
重巡洋艦「サンフランシスコ」(大破)「ヴィンセンス」(小破)「チェスター」(中破)
軽巡洋艦「ビロクシー」(小破)
駆逐艦三隻

キンメルはその場にいる太平洋艦隊のスタッフを見まわした。
「諸君、これは第1ラウンドに過ぎない」
キンメルは全員を元気付けるように言った。
「我が戦艦部隊は明日、完膚なきまでに日本軍を撃滅する。それには航空機は手出しできない。数からして有利なのは我々だ。それは変わらない。」
「長官、損傷している「アイオワ」と「サラトガ」はどうしましょうか」
スミスが聞く。
「そのまま参加させる」
キンメルはためらい無く言った
「しかし長官」
反論しようとしたスミスを、キンメルがさえぎる。
「数では我々が有利ではあるが、向こうは我々には無い18インチ、20インチ砲を持っている。数を減らすことは出来ない。」

同17時30分 マーシャル諸島南方 日本艦隊旗艦「越後」艦上

「これから我が艦隊は米艦隊との砲撃戦に入る。」
近藤第一艦隊司令が言った。
「諸君、各自の全力を尽くしてくれ!」
彼の言葉とともに再び船員が配置に向かう。
そして「越後」艦長、立花信介大佐も艦長の役目を果たすべく、配置に付いていた。
そして彼を慕う「越後」は海に波動を作りつつ、突き進んでいった。
後に「マーシャル沖海戦」と呼ばれるこの戦いの行方は、まだ誰も知らない。

 

 

 

第四話「太平洋大海戦・中編」に続く・・・


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