悪魔の殿堂悪魔の殿堂 ベン・ヘクト(昭和6年)

 ベン・ヘクトは『生きているモレア』等のアメリカ映画のシナリオ・ライターとして、また、ジャーナリストとしても有名な人。SF・ホラーの読者にとっては、創元推理文庫「怪奇小説傑作集」に収められている短編『恋がたき』の作者として記憶している方もおられるでしょう。
 悪魔の殿堂は一種のSF風観念小説で、「盲い蛾(めしいが)のような深い霧」と共にこの世からさらわれ、人工的な迷宮に7年間幽閉された芸術家マルレェアの日記という形式で進められながら、実はすべてが狂気に汚染された主人公の内的宇宙であったという内容で、後の『サイコ』の先駆的な作品とも言えます。昨今の安手な小説を読んでいたら絶対にお目に掛かれないような格調高い表現、豊かな文藻は、作者の深い知性の反映を感じ、幻想文学の真髄に触れる思い。狂気に溢れた幻想世界の描写はグロテスクかつエロティシズムに溢れており、とりわけ作中に登場する主人公の分身であるシンシーマスという人工神の不気味さは特筆に価するでしょう。
 
 写真は私の所有するものですが、翻訳は戦前の翻訳書がほとんどそうであるようにダイジェスト版。かつて国書刊行会の世界幻想文学大系で完訳版の予告が載ったことがありましたが、結局未刊に終わったので翻訳はコレだけ。「世界猟奇全集」というシリーズの1冊として昭和6年に出版されたこの本、ページの合間にはストーリーとはナンの関係もない外国女性のピンナップ(笑)が挿入されているのですが、古書ではこれが切り取られていることが多いようです。今見るとなんて事のない水着女性の写真ですが、当時の読者にはかなり刺激的だったんでしょうな。(^^)
 
 この本の存在を知ったのは、かつて雑誌『幻想と怪奇』でブックレビューを担当されていた山下武先生のご紹介によるものだったのですが、探求書として探すうち、なんとその山下先生ご本人から葉書を頂き、「もういらないから」と譲って頂いたのでした。本当にありがとうございました。<(_ _)>

BOOKS
return to menu