《特別企画》 稀少帯付本

 書物に付属する帯封とは、もともと本体に書き込めないような宣伝文句の類を印刷して書店の店頭で購買客の目を惹くためのものですが、古書コレクターにとってこの帯の有無は蒐書の際の重要なファクターともなっています。
 外側に付いているため痛み易く、年代の古いものほど本来の状態で付いている機会が少なくなることは言うまでもありませんが、さらに本自体が稀少であったり、何等かの理由で完本の入手が難しいことも多々あり、パーフェクトを求めるコレクターにとって高い壁となってしまうことも少なくありません。

 以下に、管理人のコレクション(今回は澁澤・種村本のみ)から、付いていることが比較的珍しいと言われる帯を二三並べてみました。蒐書の際の参考になれば幸いです。

吸血鬼幻想
■『吸血鬼幻想』(薔薇十字社)
 種村季弘の代表的な著作で、吸血鬼に関する国内での最重要文献でもある1冊。
 帯はこの書物に対する書評を集めたもののため、本来、初版後のもののはずだが、在庫分に帯をかけて出荷したものがあったのかどうか、帯付きの初版を何度か見掛けている。

 目の覚めるような黄緑が美しい書物で、当時、野中ユリの装丁が衝撃的であった。
■『薔薇十字の魔法』(薔薇十字社)
 薔薇十字社から出るべくして出た薔薇十字団に関するエッセイ集。菓子箱のようなカラフルな装丁が楽しく、研究書等にありがちな堅苦しいイメージを一蹴している。

 上記 『吸血鬼幻想』 と比べると帯付きがさほどレアというわけではないが、さすがに30年以上経過しているので状態の良いものはかなり入手しづらくなっていると思われる。また、函が非常に汚れやすい本なので、ミントに拘るとそちらの方面でも結構てこずりそうではある。
ホモ・エロティクス
■『ホモ・エロティクス』(現代思潮社)
 「ホモ」と言っても別に同性愛に関する本という訳ではなく、エロティシズム、タナトス、オカルティズム等に関する薀蓄や、画家への推薦文やオマ ージュ、さらに書評、映画評、本をめぐるエッセイ等を集めた書物である。
 クロスは濃紫色のベルベットめいた毛足の長い布地を使用しており、豪奢な味わいがある。澁澤本の中でも帯付を見かける機会のかなり少ない書物だろう。
悲惨物語
■『悲惨物語』(現代思潮社)
 サド関係の初期の1冊。これも帯のついていることは稀だが、それよりもヤケひとつないこの程度の良さは、ほとんど奇跡的といっても良い。実はこの帯は2枚重ねで付いていたものの下の方だったためである。もちろん表側の方は茶色く日焼けしていた。函はまた別に入手したものである。


『悪徳の栄え』(現代思潮社)
 
澁澤龍彦のサド関係書でもっとも有名なもの。あの「サド裁判」の契機となった書物であり、(続)の方が発禁本として当時警察に押収されたそのものである。
 現在、その箇所を読んでみても特にどうということもなく、また、もともと即物的なサドの描写にその手の興味は薄い、というのが大方の本読みの見解だろうと思う。

 本自体がいわく付きな上、帯付極美本ともなるとさらに稀少性は高まってくるだろう。古書価はいくらか落ち着いたとは言え、現在でも貧乏人にとっては目玉の飛び出るほどのものである。
■『サド選集』(桃源社)
 これ以前に彰考書院から出た三巻本の選集はあるが、本邦初訳を含め、ある程度まとまった形で我が国にサドの作品を紹介した先駆的選集ではあるだろう。後に同じ版元から新編が上梓されている。

 端本では帯付はしばしば見掛けるが、6巻全て完本で、となると結構骨が折れるだろうと思う。

『犬狼都市』(桃源社)
 
澁澤龍彦の最初の小説集。
 表題作はマンディアルグの短編小説 『ダイアモンド』 の翻案だが、当時そのことの記載は無く、問題視される向きもある。

 帯付美本はかなり稀少で、目録で十万円付けているのもみたことがある。
白っぽい函に1点バイロスの蔵書票をあしらった装丁が渋く、管理人のお気に入りの1冊である。






■『自由の大地』(人文書院)
 ゴンクール賞を受賞したロマン・ギャリイの小説の翻訳で、澁澤龍彦、岡田真吉の共訳である。一応、2冊とも元セロ、帯付だが、本自体もあまり見掛けないため、これがレアかどうか、実はあまり定かではない。
 装丁はこの時代に流行った透明セロハンでカバーの上から包み、折り返し部分で糊付けしたスタイルなので、意外に帯が残っているケースが多いかもしれない。

 この小説はジョン・ヒューストン監督により映画化されているとの由だが、未見。小説も未だに読んでおらず、たぶん、今後も読まないだろうと思う。






■『わが生涯』(現代思潮社)
 革命家トロッキーの自伝で、これも栗田勇、澁澤龍彦、浜田泰三、林茂の共訳である。スターリンとの権力闘争に敗れて暗殺されたトロッキーという男には個人的にちょっと興味があって、なかなか面白く読んだ。貴重なドキュメントとしてぜひお勧めしたい1冊でもある。

 帯は記録写真を配したもので、版元の社名と定価以外の一切の文字が書かれていないというちょっと毛色の変わったもの。
 これも3冊帯付というのはあまり見掛けないが、趣味的な本ではないので超レアという訳でもなさそうだ。
2003.3.29
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