パワーズ オブ テン(日経サイエンス社刊)

パワーズ・オブ・テン書籍版
『パワーズ・オブ・テン』書籍版

チャールズ&レイ・イームズの世界
『チャールズ&レイ・イームズの世界』
パイオニアLDC:廃盤



スタート!
何の変哲もないこの平穏な風景から
驚くべき旅がスタート!

100m
徐々にカメラが引いて、
やがて公園の全景が現われてくる。

100万km
そして宇宙の果てへと・・・。
旅はまだまだ終わらない。
 『パワーズ・オブ・テン』(むろん、映画の方のウワサを初めて聞いたのは、たしか80年代の初め頃だったと思う。新聞のコラムでこの映画を紹介している記事を1、2度目にしたのである。新聞に載ったのは、たぶん、当時何かの映画祭で賞を取った(マイアミ国際映画際金賞、トリエステSF映画祭審査員特別賞、ウィンスコン科学映画館最優秀映画賞など数多くの映画賞を受賞している)関係からだろう。いずれも文章だけの簡単な紹介だったが、その内容にいたく刺激を受け、ぜひ観て見たいと願ったものだった。
 実際に映像を観ることができたのは、その1、2年後(?)、
大橋巨泉司会の11PMでのこと。わずか10分たらずの短編だが、思い描いた通りのセンス・オブ・ワンダー溢れるイマジネイティブな映像に感激したのを覚えている。

 『パワーズ・オブ・テン』(原題:「POWERS OF TEN」)は、イームズチェア等で有名なチャールズ&レイ・イームズ夫妻が1968年と1977年(カラー版)の2度に渡って制作した短編科学映画。シカゴの公園に寝そべる男女から徐々にカメラが上空へパンして太陽系、銀河、宇宙へとスケールが十の累乗で拡大して行ったかと思うと、今度は急速に男に戻って細胞の中まで入っていくという、わずか9分半の驚くべき“旅”の全記録である。
 
 いわゆる劇映画とは違うため、ストーリーも何もない至って簡素なもの。技術の進んだ現在ならばCG等で似たような映像はいくらでもあるし、作るのも簡単だろう。だが、それらは手軽に作れてしまうだけに、かえって本来の原初的な宇宙への憧憬や視線が感じられず、薄っぺらな印象しか与えない場合が多いのではあるまいか。


 今、イームズの 『POWERS OF TEN』 を改めて観てみると、そこには素朴でありながらも、深い宇宙への“まなざし”が確かに感じ取れ、公開当時の強烈な衝撃力を失ってはいないように思える。いや、CGに慣れ親しんだ現在の目で観ても、十分感動モノに違いないだろうと信じる。

 かつて武満徹はタルコフスキーの映画を称して「宇宙を相手に映画を撮っている」と語った事があるけれども、そんな言葉を思い出してしまうほどに、この作品には溢れんばかりの驚きと真摯な探求心が満ちていて、ひととき、心地よいトリップ感に浸ることができるのだ。

 SFX技術の急速な進歩による映像革命は、かつて実現不可能だった映像をスクリーンに映し出せるようになった。が、その反面、安手のSF映画の氾濫となってしまった感は否めない。心の通わない技術など単なるアトラクションでしかないだろう。ますます台頭するハリウッド製商業主義の侵攻の中で、製作から30年を経た現在、この稀有な短編映画の持つ意義と重要性を、もう一度再検討してみる時期に来ているのかもしれない。


 左上は83年に出た「短編科学映画 POWERS OF TEN」の日本語書籍版。写真構成によって映像を再現したものだ。当時、新聞広告を見てすぐ購入したものだが、嬉しいことにこの本はロングセラーとして増刷され続けており、現在でも購入することができる。
 肝心の映像の方は、かつてパイオニアLDから 『映像の先駆者』 シリーズの1枚としてリリースされていたが、残念ながら現在は廃盤で入手困難。だが嬉しいことに、こちらも 「POWERS OF TEN」 を基本にイームズ夫妻の孫にあたるイームズ・デメトリオスがそれらの映像ソースをさらに発展させてプロデュースしたCD−ROM作品 『パワーズ・オブ・テン・インタラクティブ』 としてダットジャパンより発売中なので、興味がある方はぜひ入手して頂きたい。SFファン必見です!

《追捕》

 その後パイオニアからDVDが発売された模様!


■参考HP

2000.11.11       
2002.10.15 加筆訂正
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