大坪砂男全集

大坪砂男全集(薔薇十字社刊)

大坪砂男全集(薔薇十字社)

 大坪砂男といえば、やはり誰しも思い出すのは『天狗』。1人の男の偏執狂的妄念をシュルレアリスムのタブロウめく筆致で描いたこの傑作は、探偵小説史上屈指の異色短編として長年喧伝されてきました。あの都筑道夫氏が強烈な影響を受けたという特異な文体は、人称代名詞を排した極めて人工的なスタイルで、凝り性な性格がモロに出たもの。このスタイルで雑誌等の仕事をこなしていくのはかなり辛かったかもしれず、後年、書けなくなってプロットを他人に売って生活していたという話もうなずけるものがあります。もとより大衆受けする作風でもなく、晩年は不遇でしたが、名編『天狗』一編を残し、死後、こんな全集まで刊行されて再評価されたことを思えば、小説家としては幸せだったと言えるかもしれませんね。

 写真は函入り初版完本。私は当時定価で買ったのですが、現在古書価は高騰しており、2冊揃いで3〜4万前後はするでしょう。昭和47年刊。
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