わたしと医戒との出会い
はじめに


 わたしが歯科技工専門学校在学中のころ、この国の歴史についてつよく関心を持っていた時期がありまして、街の本屋さんへ行っては興味のある本 (たいていは文庫本でした) をたくさん買い込んでいました。なかでも、司馬 遼太郎さんの「竜馬がゆく」を読んで以来、その世界のとりことなり、その後、ほとんど全作品を読破するほどの熱狂的なファンとなりました。司馬さんの作品に登場する歴史を駆け抜けた男達の生きざまに大きな共感を覚え、その壮大な世界に酔っていたとき"それ"と出会う事になりました。
 18世紀のヨーロッパのかたすみで芽生えた産業革命の大波が、地球を半周してこの島国に押し寄せて来たとき、この国もかつて経験したことのない程の衝撃を受けました。その衝撃波は結果として古き良き時代の社会、文化を根こそぎなぎ倒し、大勢の人々に尊い犠牲を強い、新時代への参加を否応なく求めるものであったと言われています。西洋の文化、文明が奔流となって流れ込む激動の時代にあって、先見の明を持つ人々は新時代の原理の探究、普及に進んでその生涯を捧げたのです。
 C.W.フーヘランドの「 医戒 」は西洋医学の崇高な精神の結晶ともいうべき理念であり、この国の実に多くの指導者に影響を与えました。その内容は現代でも不変の輝きを失わず、医師のみならず総ての医療人の、基本的な心構えとして受け入れられる価値があると私は思っています。
 医戒は本来、膨大な記述量の書物であり、とても全巻紹介はできませんが、緒方 洪庵の適塾に掲げられていたといわれるダイジェスト版を簡潔にまとめてみました。