ローマ帝国史略
異国の皇帝達〜セヴェルス朝〜
暴君コンモドゥスの死を契機に起こった内乱の勝者となったのは、アフリカ出身の冷徹な軍人皇帝セプティミウス・セヴェルスだった。セプティミウス・セヴェルスはシリアのエメサ神殿の家系に連なる、ユリア・ドムナを皇后(アウグスタ)とし、その後継者達の時代においても、このエメサ神殿の女性達が政治の表舞台に立つことになる。
セプティミウス・セヴェルスの死後、皇帝となったカラカラは共治帝の弟ゲタを暗殺し、エジプトのアレクサンドリアで数千人の無実の住民を虐殺する暴君として君臨した。その一方で、カラカラはアントニヌス勅令によって、ローマ帝国領内の全自由民にローマ市民権を付与している。この政策そのものは功罪共にあって評価は難しいが、ローマ市民権の大規模な拡大は、既にイタリア半島出身者の皇帝位独占はありえなくなった時代の要請でもあった。
ある意味では、異国の皇帝達によって、ローマは真にローマらしい姿を手にしたことになる。
しかし、軍事に不向きだった文人皇帝アレクサンデル・セヴェルスが、ゲルマニアにおいて軍隊の反乱によって殺害されたことにより、ローマ帝国は最大の危機を迎えることになるのである。
皇 帝 名 |
皇 帝 評 |
政治 能力 |
軍事 能力 |
業績 |
セプティミウスセヴェルス帝 |
マルクス・アウレリウスによって登用されたアフリカのレプティス・マグナ出身の元老院議員。コンモドゥス時代には高地パンノニア総督の地位にあった。 |
B |
A | A |
同時代人 |
人 物 評 |
ベスケンニウス・ニゲル | シリア総督。ペルティナクスの死とディディウス・ユリアヌスの帝位買収の報を聞き、挙兵。ローマ元老院に皇帝位を承認されたセヴェルスと対立し、内戦を展開。イッソスの戦いに敗れて、アンティオキア郊外で殺された。 ニゲル軍の残党は、パルティアと内通して保身を計り、これがセプティミウス・セヴェルスのパルティア遠征のきっかけとなっている。 |
クロディウス・アルビヌス | ブリタニア総督。ペルティナクスの死とディディウス・ユリアヌスの帝位買収の報を聞き、挙兵。イタリアに進軍するセヴェルスと同盟を結び、セヴェルスから副帝(カエサル)の称号を授けられた。 セヴェルスとニゲルの内戦では中立を保ったが、セヴェルスはニゲルに勝利するとすぐにガリアへ進軍。リヨン郊外での決戦に敗れて敗死した。 |
ユリア・ドムナ | セヴェルスの後妻。シリアのエメサ神殿の神官の娘。セヴェルスは、帝位をカラカラへ単独相続させるつもりだったようだが、ユリア・ドムナは弟ゲタの後ろ盾となり、共同相続の後押しをした。 |
カラカラ (セプティミウス・バシアヌス) |
セプティミウス・セヴェルスの長子。アントニヌス朝との血縁をでっち上げるために、マルクス・アウレリウス・アントニヌスと改名。よく知られるカラカラという名前は、自身が好んだ着衣に由来するあだ名である。 プラウティアヌスの失脚劇は、カラカラの陰謀と言われている。 |
ゲタ | セプティミウス・セヴェルスの次子。父帝の死後、兄カラカラと共に、帝位を共同相続した。 |
プラウティアヌス | 親衛隊長。セプティミウス・セヴェルスの側近として、権勢を誇った。自身の娘フルウィア・プラウティアをカラカラに嫁がせていたが、カラカラには嫌われていた。皇帝暗殺の陰謀(冤罪?)が露見すると、即座に殺害され民衆に見せしめにされた。 |
フルウィア・プラウティラ | カラカラの妻。父プラウティアヌスと共に、カラカラからは、嫌われていた。プラウティアヌスが処刑されると、それに連座して流刑された。 |
皇 帝 名 |
皇 帝 評 |
政治 能力 |
軍事 能力 |
業績 |
カラカラ帝 |
セプティミウス・セヴェルスの長子。本名はセプティミウス・バシアヌスで、後にアントニヌス朝の権威を利用する為、マルクス・アウレリウス・アントニヌスと名乗った。通称となっているカラカラの名は、蛮族が着ていたというフードのついた袖のない外套を丈を長くして足元まで届かせたものの名称で、カラカラはそれを好んで着ていたという。 |
D |
B | C |
ゲタ帝 |
セプティミウス・セヴェルスの次子。当初、セプティミウス・セヴェルスの後継は、カラカラの単独相続が想定されていたようで、ゲタが正帝(アウグストゥス)に昇進した背景には、母后ユリア・ドムナの後ろ盾があったからだと考えられている。 |
C |
C | D |
同時代人 |
人 物 評 |
ユリア・ドムナ | カラカラとゲタの母親。皇帝位について、カラカラの単独相続ではなくゲタとの共同相続となったのは、ユリア・ドムナの支援によるものだとされる。しかし、カラカラとゲタの関係が悪化し、帝国の分割案が協議されたが、ユリア・ドムナはそれに反対。最終的に、ゲタが暗殺されるという形で、この問題は解決されることになる。 |
マクリヌス | 親衛隊長。カラカラのパルティア遠征に随行中、カラカラが暗殺された為に、遠征軍によって皇帝に擁立された。カラカラ暗殺は、マクリヌスの陰謀とも言われている。 |
マルティアリス | カラカラ暗殺の実行犯。カラカラが排便中の隙を見て、カラカラを斬り殺したが、自身もカラカラの護衛の兵士に殺された。 |
アルタバヌス5世 | パルティア王。パルティアに影響力を持とうとしたカラカラから、カラカラとアルタバヌスの娘の結婚を申し込まれたがこれを拒否。ティグリス川近郊でカラカラの軍勢と紛争を繰り広げた。 |
ウォロガエセス5世 | パルティア。アルタバヌス5世と対立し、パルティアを分割支配していた。 |
フルウィア・プラウティラ | カラカラの妻。カラカラの即位前の、父プラウティアヌスの皇帝暗殺の陰謀に連座して、流刑されていた。ゲタがカラカラによって暗殺されると、フルウィアも処刑された。 |
コルニフィキア | 五賢帝最後の皇帝マルクス・アウレリウスの娘。ゲタの死後、その死を悲しんだとして、カラカラに処刑された。 |
皇 帝 名 |
皇 帝 評 |
政治 能力 |
軍事 能力 |
業績 |
マクリヌス帝 |
マウレタニア出身の法律家。セヴェルス朝とは血縁関係のない皇帝。セプティミウス・セヴェルス時代にプラウティアヌスに引き立てられて、カラカラ時代には親衛隊長に栄達していた。おそらくは、マクリヌスが黒幕のカラカラ暗殺劇の後に、パルティア遠征軍によって皇帝に擁立された。マクリヌスは騎士階級の出身であり元老院議員の資格は有していなかった為、このマクリヌス登位は初めて元老院議員ではない人物の皇帝即位の事例となった。 |
C |
C | D |
同時代人 |
人 物 評 |
エラガバルス (ウィリウス・アヴィトゥス・バシアヌス) |
カラカラの叔母であるユリア・マエサの孫。カラカラの隠し子を自称し、シリア軍の支持の元で皇帝位を宣言。アンティオキア郊外の戦いでマクリヌス軍を撃破する。 |
ユリア・ドムナ | 先帝カラカラとゲタの母后。カラカラ暗殺時に、アンティオキアに滞在していたが、マクリヌスに追放を命じられ、自ら食を断って餓死した。 |
ユリア・マエサ | ユリア・ドムナの妹。孫のエラガバルスをカラカラの私生児であるとして、皇帝に擁立する。 |
ディアドゥメニアヌス | マクリヌスの息子。エラガバルスの反乱に対抗する為、9才にして正帝(アウグストゥス)の称号を授けられた。しかし、父帝マクリヌスの敗北によって、パルティアへ亡命することになったが、途中で捕らえられ処刑された。 |
皇 帝 名 |
皇 帝 評 |
政治 能力 |
軍事 能力 |
業績 |
エラガバルス帝 |
全ローマ皇帝の中で、ダントツで一番の奇人。本名はウィリウス・アヴィトゥス・ヴァシアヌス。セプティミウス・セヴェルスの後妻でありカラカラやゲタの母親であったユリア・ドムナの妹ユリア・マエサの孫にあたる。 |
E |
D | D |
同時代人 |
人 物 評 |
ユリア・マエサ | エラガバルスの母方の祖母。エラガバルスとユリア・ソエミアの失脚は、ユリア・マエサの差し金だと言われている。 |
ユリア・ソエミア | ユリア・マエサの娘。エラガバルスの母親。エラガバルスと共に、殺害される。 |
ユリア・ママエア | ユリア・マエサの娘で、ユリア・ソエミアの妹。アレクサンデル・セヴェルスの母親。 |
アレクシウス (アレクサンデル・セヴェルス) |
エラガバルスの従兄弟。奇行の甚だしいエラガバルスに危機感を抱いたユリア・マエサによって、エラガバルスの養子となり、副帝(カエサル)に擁立された。 これに不満を持ったエラガバルスと対立し、エラガバルスはアレクサンデル・セヴェルスの殺害を親衛隊に指示したが、逆にエラガバルスへの反乱を誘発しエラガバルスが謀殺されたことによって、正帝に繰り上がった。 |
ガンニュス | ユリア・マエサの愛人。エラガバルスの皇帝即位の黒幕とされている。マクリヌスを破って、単独皇帝となったエラガバルス(ユリア・マエサの差し金か?)に、ニコメディアで処刑された。 |
コルネリア・パウラ | エラガバルスの一人目の妻。アウグスタ(皇后)の称号を得るも、離縁される。 |
アキリア・セウェラ | エラガバルスの二人目の妻。処女性を義務づけられていたウェスタ神殿の巫女だったが、太陽神崇拝に執心していたエラガバルスに目をつけられた。一時はエラガバルスに離縁されたが、後に復縁している。 |
アンニア・ファウスティナ | エラガバルスの三人目の妻。 |
皇 帝 名 |
皇 帝 評 |
政治 能力 |
軍事 能力 |
業績 |
アレクサンデル・セヴェルス帝 |
エラガバルスの従兄弟。異教崇拝に執心するエラガバルスに危機感を持った祖母ユリア・マエサによってカエサル位を授けられ、エラガバルスと対立。既に人心を失っていたエラガバルスが謀殺された結果、皇帝に繰り上がった。 |
C |
D | E |
同時代人 |
人 物 評 |
ユリア・マエサ | エラガバルス、アレクサンデル・セヴェルスの祖母。二代の治世に渡って権勢を誇ったが、病死。 |
ユリア・ママエア | アレクサンデル・セヴェルスの母親。ユリア・マエサの死後も、アレクサンデル・セヴェルスを補佐。オルビアナの失脚は、ユリア・ママエアの陰謀と言われている。 ゲルマニアでアレクサンデル・セヴェルスと共に、惨殺された。 |
ウルピアヌス | 親衛隊長。ユリア・ママエアの側近として、アレクサンデル・セヴェルスの国政を補佐。親衛隊内部の抗争によって、謀殺された。 |
マクシミヌス | アレクサンデル・セヴェルスのゲルマニア遠征に従軍していた軍人。アレクサンデル・セヴェルスが軍隊の反乱によって殺害されると、軍隊によって皇帝に擁立された。 |
オルビアナ | アレクサンデル・セヴェルスの妻。ユリア・ママエアに嫌われ、反乱の嫌疑を着せられた上で、アフリカへ追放された。 |
アルデシール1世 | ペルシア王。パルティアを滅ぼし、ササン朝を建国。セプティミウス・セヴェルス時代に奪われた、メソポタミアを巡ってローマ軍と紛争を繰り広げる。 |