ローマ帝国史略


カエサルの名を継ぐ者〜ユリウス・クラウディウス朝〜

 カエサル暗殺さる。
 内乱を収拾した男の死は、ローマに再び争乱の火を付けた。誰がカエサルの後継者になるのか?
 傾国の美女、エジプト女王クレオパトラと同盟したアントニウス、カエサルの養子オクタヴィアヌス。激しい争いの末、戦いに勝利したのは、戦下手で病弱なオクタヴィアヌスだった。
 カエサルの名はオクタヴィアヌスが受け継ぎ、元老院はオクタヴィアヌスにアウグストゥスの尊称を与えた。
 オクタヴィアヌスが継承したのははカエサルの名だけではなかった。ローマそのものもオクタヴィアヌスの手中にあった。慎重に慎重を重ねたオクタヴィアヌスの知謀は、カエサルさえもなしえなかった帝国の建設という偉業を成し遂げ、次代の後継者に託した。
 インペラトル・カエサル・アウグストゥスの名を持つものが皇帝として、ローマの支配者となるのである。
 隠遁を好みカプリ島で酒色に耽ったティベリウス1世、精神疾患を患い帝都に暴政を布いたカリグラ、悪妻の言いなりの皇帝クラウディウス1世、政治より芸術を好みローマに火を放ったと言われるネロ。悪名高いオクタヴィアヌスの後継者達の皇位を巡る数々の陰謀劇は、ついには偉大なるアウグストゥスことオクタヴィアヌスの血統を絶やしてしまうのだった.


 

皇 帝 名

皇  帝  評

政治
能力
軍事
能力
業績

オクタヴィアヌス帝
(アウグストゥス)
BC27〜AD14

 初代ローマ皇帝。神君アウグストゥス。
 カエサルの姉の孫にして、養子。カエサルの遺言で後継者に指名される。アントニウス、レピドゥスと三頭政治を行う(BC43)が、次第にエジプト女王クレオパトラと接近したアントニウスと対立する。レピドゥスから実権を取り上げ、アントニウス・クレオパトラをアクティウムの海戦(BC31)で破り、エジプトを併合し、ローマの独裁者となった。
 元老院に実権を全て返還するとの宣言を行うが、逆に元老院の第一人者に指名され、帝政を開始。元老院より、アウグストゥス(尊厳者)の称号を授けられる。(BC27)以後のローマでは、インペラトル・カエサル・アウグストゥスの名を受け継いだ者が皇帝となり、元老院と協力してローマを統治するという形式をとることになる。
 属州の半分を元老院が、残りの半分をオクタヴィアヌス自ら統治する。元老院との協調を重んじ共和制の復活を宣言するが、当然の如く実質はオクタヴィアヌスの独裁だった。
 対外的にはゲルマニアに軍を進めるがトイトブルクの森の戦い(AD9)で大敗を喫し、以降は軍縮、守勢に転ずる。
 娘婿のマルケルスの死後、腹心のアグリッパに愛娘ユリアを嫁がせ両者の子に帝国を託そうとするが、直系の男子は全て若死にし、アグリッパの死で自らの血縁者への帝位移譲は挫折した。止むを得ず、リヴィアの連れ子ティベリウスにユリアを嫁がせ後継者に指名した。
 家庭的には幸福とは言えなかったが、帝国を建設し次代に託した手腕は感嘆の一言である。オクタヴィアヌスがいなければ、以降のローマ帝国の歴史は全く違ったものになっただろう。

同時代人

人    物    評

マルクス・アントニウス  カエサルの部将。カエサルの死後、カエサルの後継者候補bPと目された。オクタヴィアヌス、レピドゥスと共に三頭政治を行う。ブルートゥスをフィリッピの戦いで撃破し、カエサルの仇を討つ。イタリア以東の属州を支配下におく。しかし、レピドゥス失脚後、オクタヴィア(オクタヴィアヌスの姉)と離縁しエジプト女王クレオパトラと結婚。エジプトと同盟し、オクタヴィアヌスと激しく覇権を争った。しかし、パルティア遠征の失敗により人望を失い、アグリッパ軍にアクティウムの海戦に敗れ、アレクサンドリアで自殺した。
 決して無能な人物ではないが、妄想的なナルシストで元老院とオクタヴィアヌスを軽んじすぎたのが敗因か。
マルクス・アグリッパ  オクタヴィアヌスの親友にして腹心の部下。戦下手のオクタヴィアヌスに代わり軍を任せられる。アクティウムの海戦を筆頭とする、帝国統一の軍事的功績は彼のもの。オクタヴィアヌスの事実上の後継者として、皇帝の娘ユリアと結婚し3男2女を得たが、若くしてこの世を去った。
ブルートゥス  カエサル暗殺の首謀者。カエサルの独裁体制に共和制の崩壊を危惧した。ローマを脱出し、アントニウス、オクタヴィアヌスに決戦を挑んだが、アントニウス軍にフィリッピの戦いで敗れる。
クレオパトラ  プトレマイオス朝エジプト最後の女王。カエサルの愛人。カエサルの死により、保護者を失ったエジプトの独立の道を模索する。エジプトの命運をアントニウスに託すが、アクティウムの海戦に敗れ、アントニウスの庇護をも失う。最後にオクタヴィアヌスとの同盟を求めるが拒否され、絶望して自らの胸を毒蛇にかませて自害した。彼女の死により、4000年に渡って続いた古代エジプトは滅亡する。
カエサリオン  クレオパトラとカエサルの間の子。アントニウスによってエジプト王と認められるが、エジプトを占領したオクタヴィアヌスによって殺された。
キケロ  ローマ史上に残る弁論家。アントニウスと対立しオクタヴィアヌスを支援する。しかし、オクタヴィアヌスはアントニウスと和解し三頭政治が成立。後にアントニウスによって暗殺される。
レピドゥス  カエサルの部将。カエサル死後、アントニウス、オクタヴィアヌスと共に三頭政治を指導し、属州アフリカを勢力基盤とするが、政治的には無能。オクタヴィアヌスに大神祇官に祭り上げられ、政治の実権を奪われる。しかし、内戦後も命を長らえ、天寿を全うできたのは幸運と言うべきか?
セクストゥス  ポンペイウスの子供。三頭体制に抵抗し、アントニウスを悩ませるが、オクタヴィアヌスの派遣したアグリッパに屈服する。
マエケナス  オクタヴィアヌスの重臣。統一戦争では情報面を担当。アグリッパと並ぶオクタヴィアヌスの片腕。
マルケルス  ユリアと結婚しアグリッパとオクタヴィアヌスの後継者を巡って政争を繰り広げるも、若くして病死。
ティベリウス  オクタヴィアヌスの妻リヴィアの連れ子。最終的にオクタヴィアヌスから後継者に選ばれる。2代目皇帝。ゲルマニアで軍事的功績を挙げ、優れた軍事、行政能力を持つが、後継者に選ばれたのは単に他の後継者候補が全て死んでしまった為。皇帝の娘ユリアと結婚するが、完全な政略結婚。これに嫌気がさしてロードス島に隠遁したこともある。
ドルスス  オクタヴィアヌスの妻リヴィアの連れ子。ティベリウスの弟。ゲルマニアに軍を進めるが、作戦途中で死去。後任はティベリウスが勤める。
ヴァルス  ティベリウスの同僚としてゲルマニアで軍を指揮する。トイトブルクの森で彼の指揮する3個軍団は壊滅、ヴァルス自信も戦死した。これによって、ほぼ完了していた筈の、ゲルマニア制服は不可能となった。
ユリア  オクタヴィアヌスの娘。皇帝の血を引く後継者を欲したオクタヴィアヌスによって、マルケルス、アグリッパ、ティベリウスと結婚する。アグリッパとの間に3男2女を設ける。しかし、最後の夫ティベリウスに厭われたユリアは浮気を繰り返し、オクタヴィアヌスの怒りをかい、流刑になる。
ガイウス  ユリアとアグリッパの間の子。アルメニア戦線で負傷し、帰還途中に死去。
ルキウス  ユリアとアグリッパの間の子。 マルセイユで病死した。
アグリッパ・ポストゥムス  ユリアとアグリッパの間の子。オクタヴィアヌスに嫌われ、皇帝候補からは外された。オクタヴィアヌスの死の直前にティベリウス(?)に殺害された。

リヴィア・ドルシラ

 オクタヴィアヌスの3人目の妻。息子のティベリウスを次期皇帝に即位させる為に、ユリアの3人の息子達、最後にはオクタヴィアヌスをも殺害したとの噂もあるが、おそらくはガセネタか?
ヴェルギリウス  オクタヴィアヌスの御用詩人。ローマ建国神話の集大成ともいえる「アエネイス」はローマ詩の最高傑作と言われる。
ホラティウス  叙情詩人。ヴェヌーシアの解放奴隷の子。ブルートゥスの配下としてフィリッピの戦いに参加。敗戦後マエケナスの庇護の下詩作に専念した。著作に「頌歌」「詩論」「エポードス集」がある。
オヴィディウス  法律家から転向した詩人。「恋愛家」でローマ社交会に知られた。綱紀粛正を計るオクタヴィアヌスの政策から、作品の官能性が嫌われ追放された。
ストラボン  ギリシア人の地理・歴史学者。「地理誌」に当時のローマ全域の地理、歴史、伝承を書き残している。、

 

皇 帝 名

皇  帝  評

政治
能力
軍事
能力
業績

ティベリウス1世帝
14〜37

 初代皇帝オクタヴィアヌスの妻リヴィアの連れ子。皇帝候補者が全て若死にしたので、オクタヴィアヌスによって消去法的に後継者に選ばれる。
 緊縮財政を布き、ローマ市の経済は沈静化するが、国庫は潤った。オクタヴィアヌス同様元老院を尊重するが、横柄な態度から元老院からは嫌われる。
 生来の隠遁気質を持ち、帝位に就いてからも、カプリ島に引きこもり(26〜)、破廉恥な性的遊技に耽ったとされる。首都ローマの政治はセイヤヌスに委任した。しかしセイヤヌスは権力を乱用。次々と政敵を抹殺するセイヤヌス。ついには、ティベリウス1世の身にも危険が迫り、密告によって危機を察知したティベリウス1世により、セイヤヌスは粛正された。晩年のティベリウス1世は暗殺に怯え、恐怖政治を布き、ローマ市民、元老院議員から憎まれることになった。
 ティベリウス1世は、カプリ島で隠遁したまま後継者を指名せずに老衰死した。元老院、ローマ市民から陰気な皇帝として人気は皆無。死後の神格化はなされなかった。
 ティベリウス1世は、オクタヴィアヌスから受け継いだ帝国を維持することは出来たが、性格的には皇帝としては適任ではなかったのかもしれない。歴史家のスエトニウスが伝えるようなカプリ島での悪名高いゴシップは、おそらくは後世の創作だが、市民の前から姿を消したティベリウス1世自身に、その責任の一端はある。

同時代人

人    物    評

セイヤヌス  親衛隊隊長。ティベリウス1世に信任され、カプリ島に隠遁したティベリウス1世との連絡役を務め、政治の実権を握る。ティベリウス1世の子ドルスス、ゲルマニクスの妻アグリッピナとその子供達といった政敵を暗殺、粛正する。ティベリウス1世をも暗殺し帝位を奪おうと計画していたふしもある。しかし、ティベリウス1世と共にコンスルに就任したため、ローマを離れることが出来なくなり、悪事がティベリウス1世に露見。セイヤヌスは処刑され、彼に加担した人間は粛正された。
ゲルマニクス  ティベリウス1世の甥。あのアントニウスの孫にあたる。次の皇帝カリグラの父親。ゲルマニアで軍事的功績をあげ、次期皇帝候補として期待され、市民からの人気もあったがアンティオキアで病死した。独断でエジプトを訪問した(皇帝の私領には許可なく立ち入れなかった)ことで、ティベリウス1世の逆鱗に触れ、暗殺されたとも言われる。
ドルスス  ティベリウス1世の子。ゲルマニクスの死後、皇帝候補と見なされる。若くして病死したと思われていたが、セイヤヌスと妻リヴィラによる暗殺であったことが後に発覚する。
(大)アグリッピナ  オクタヴィアヌスの孫。ゲルマニクスの妻。カリグラと(小)アグリッピナの母親。ゲルマニクスの死後、ティベリウス1世と対立。ティベリウス1世の指示(もしくは冤罪)により、セイヤヌスによって息子ネロ(後の皇帝とは別人)と共に流刑に処せられ、拷問死する。
マクロ  親衛隊員。ティベリウス1世の要請でセイヤヌスの粛正を断行する。カリグラを帝位に就ける為、ティベリウス1世を暗殺したとも言われる。
カリグラ
(ガイウス・カエサル)
 ゲルマニクスと(大)アグリッピナの息子。ゲルマニクスのゲルマニア遠征に従軍。兵士達よりカラガ(軍靴の意)をもじってカリグラのあだ名を付けられる。セイヤヌスの粛正を免れ、カプリ島でティベリウス1世に仕える。帝位に登る為に病床のティベリウス1世を殺害したとの醜聞もあるが、信頼性には乏しい。
イエス・キリスト  世界史上、最も有名な人物。言わずと知れたキリスト教の創始者。閉鎖的なユダヤ教の教義を批判する。当然の如く、身内のユダヤ人の反発を受け、信者の多くにも見限られ、彼等の密告によりローマ軍に逮捕され処刑されたとされている。
 厳密に言うなら、イエス自身はあくまでユダヤ教徒である。ペテロ、パウロといった、イエスの弟子達が広めた”イエスの教え”がキリスト教である。歴史学的にはイエスの実在は確認されていない。
ポンティウス・ピラトゥス  ユダヤ総督。キリスト処刑を指示したとされる。新約聖書によると、ピラトゥス自身は処刑には消極的だったが、現地のユダヤ人の圧力に屈した。

 

皇 帝 名

皇  帝  評

政治
能力
軍事
能力
業績

カリグラ帝
(ガイウス・カエサル)
37〜41

 即位せる精神疾患者。(これについては異説あり)
 オクタヴィアヌスの曾孫。ゲルマニクスの子。ティベリウス1世の遺言ではゲメルスと共同相続人とされたが、親衛隊長マクロの働きかけで単独皇帝として元老院に即位を承認させた。
 即位直後は陰気な先帝ティベリウス1世の不人気も手伝い、元老院、市民、軍隊からの支持を受ける。治世初期はティベリウス1世の残した豊富な国庫を利用し、人気取り政策を展開する。しかし、すぐに財政は破綻。まもなく暴政を開始する。ゲメルスを手始めに、親衛隊長マクロ、義父シラヌスを自殺に追い込んだ。
 妹達と近親相姦に耽り、自らをユピテル神になぞらえる。愛馬インキタトゥスをコンスルに就任させようとして、人々のひんしゅくを買う。自分の禿頭にコンプレックスを持ち、禿頭の市民を処刑したこともある。
 形だけのゲルマニア、ブリタニア遠征を挙行。現地でゲルマニア総督ガエトゥリクスを処刑し、皇族の粛正を行った。カリグラと元老院との関係も悪化し、最後は親衛士官のカエレアによって刺し殺された。死後は記憶の抹殺処分を受け神格化は当然されなかった。
 帝政開始後、初めて暗殺された皇帝。精神的には常に不安定で帝権を乱用し、多数の人間を処刑した。一般的に言われるように、典型的な暴君の一例か。

C

同時代人

人    物    評

マクロ  親衛隊隊長。ティベリウス1世の死後、ゲメルスを排除し、カリグラを皇帝に擁立する。カリグラの暴政によって自殺に追い込まれる。
シラヌス  カリグラの義父。カリグラ治世の初期を補佐するが、まもなくカリグラに自殺を強要される。
ゲメルス  ティベリウスの孫。ドルススの子。ティベリウス1世の遺言でカリグラと共同相続人に指名されるが、カリグラによって遺言は無効とされカリグラの養子となる。後にカリグラに帝位簒奪の嫌疑をかけられ自殺する。
クラウディウス  カリグラの叔父。生来のどもりの為、無能者と見られカリグラの暴政から免れる。カリグラ暗殺の混乱に逃げ隠れているところを、親衛隊に見つかり皇帝に擁立される。
ドルシラ  カリグラの妹。死後、カリグラによって、ローマ史上女性として初めて神格化される。
ガエトゥリクス  ゲルマニア総督。カリグラのゲルマニア遠征の際、謀反の罪に問われ処刑される。おそらくは冤罪。
(小)アグリッピナ  カリグラの妹。ゲルマニア遠征の際、謀反の罪で追放される。おそらくは、カリグラのでっち上げた冤罪か?
カエソニア  カリグラの4番目の妻。カリグラの寵愛を受ける。カリグラ暗殺後、娘ドルシラと共に処刑される。
カエレア  親衛隊士官。暴政を行うカリグラを暗殺する。クラウディウスによって処刑された。

 

皇 帝 名

皇  帝  評

政治
能力
軍事
能力
業績

クラウディウス(1世)帝
41〜54

 カリグラの叔父。アントニウスの孫にあたる。
 カリグラ暗殺の混乱の中で、天幕に隠れていたクラウディウス1世は親衛隊に引き立てられて、そのまま擁立され皇帝に即位しあ。
 クラウディウス1世は、カリグラのブリタニア遠征を引き継ぎ自ら対岸のガリアまで親征。ユリウス・クラウディウス朝における、最大の軍事的成果をローマにもたらし、ローマで凱旋式を挙行する。
 クラウディウス1世は、3人目の妻メッサリナを寵愛し、メッサリナはクラウディウス1世の寵愛を利用して政治にも介入する。しかし、メッサリナはシリウスと重婚事件を起こし、クラウディウス1世は止むを得ずメッサリナの処刑を黙認した。クラウディウス1世は、4番目の妻に自身の姪のアグリッピナを選ぶ。その際、クラウディウス1世は近親婚の為法改正をして元老院の許可を得ている。
 しかし、アグリッピナは連れ子ネロを皇帝とする為に、執念を燃やす。クラウディウス1世はアグリッピナに籠絡され、最終的にネロを後継者に指名する。ついには、ネロの地位を確保したアグリッピナによって、帝位の障害物に過ぎなくなったクラウディウス1世は毒殺されたと伝えられている。
 クラウディウス1世は、歴史にも造詣の深い有能な人物だが、メッサリナ、アグリッピナに対処出来なかった(メッサリナの処刑はナルキッススの独断)、という失点が大きすぎるきらいがある。だが、まずまずの皇帝だったというべきか。

同時代人

人    物    評

(小)アグリッピナ  クラウディウス1世の4番目の妻。カリグラの妹。メッサリナの死後自ら皇后候補に名乗り出、クラウディウス1世の寵愛を受ける。連れ子ネロを帝位に就けるために執念を燃やす。ネロとオクタヴィアを結婚させ、ネロをクラウディウス1世の養子とし、クラウディウス1世に後継者に指名させる。クラウディウス1世を毒殺し、猛女の執念は遂に実りを挙げるのである。
メッサリナ  クラウディウス1世の3番目の妻。クラウディウス1世の寵愛を受け、政治にも口出しし、権力を乱用。クラウディウス1世の猜疑心を利用し、政敵を闇に葬った。しかし、ガイウス・シリウスとの重婚(クーデターか?)を断行。クラウディウス1世の逆鱗に触れ、赦免する機会もなくナルキッススに殺された。
スクリボニアヌス  ダルマティア総督。反乱を起こすがすぐに鎮圧される。元老院議員の多くが反乱に加担していたことが発覚し、クラウディウス1世の猜疑心をあおった。
ナルキッスス  官房長官。メッサリナの重婚事件の際、すみやかにクラウディウス1世に協力。メッサリナとシリウスを謀殺する。
ネロ
(ルキウス・ドミティウス)
 アグリッピナの連れ子。オクタヴィアと結婚し、クラウディウス1世の養子となり後継者に指名される。
ブリタニクス
(ゲルマニクス)
 クラウディウス1世とメッサリナの子。次期皇帝と目されていたが、アグリッピナの策略で後継者の座をネロに奪われる。クラウディウス1世の死を悲しんでいる間に、ネロの皇帝即位が宣言され、最後のチャンスも失った。
オクタヴィア  クラウディウス1世とメッサリナの娘。ネロと結婚しネロの後継者としての地盤固めに利用される。
ブルス  アグリッピナによって親衛隊長に任命され、アグリッピナの野望に協力する。

 

皇 帝 名

皇  帝  評

政治
能力
軍事
能力
業績

ネロ帝
54〜68

 ローマ史上最も有名な暴君。
 クラウディウス1世の死後アグリッピナ、セネカ、ブルス等に擁立される。即位後数年は、政治をアグリッピナらに任せ、善政を布いた。
 成人後、疎ましくなった母親アグリッピナを粛正。ブルスの病死後、セネカは政界から引退した為、ネロの歯止めは効かなくなった。奸臣ティゲリヌスを重用し、戦車競技や竪琴の上演にうつつを抜かす。4年おきのオリンピア競技を別の年に無理矢理に挙行。八百長で数々の競技に優勝する。ローマ大火後、黄金宮殿を建造。ローマ市民の反感の目をそらす為にキリスト教徒を迫害した。
 愚行の数々に元老院、軍隊に完全に見限られた。ウィンデクスの反乱に呼応したガルバ軍がローマに迫ると、ネロは元老院によって公敵宣言を受け、絶望して自害した。しかし、ギリシアを初めとする属州では人望があり、死後もネロを名乗る人物が後を絶たなかった。
 決して有能な人間ではないが(はっきりって無能)、悪評については大袈裟に過ぎる。元老院との対立とキリスト教の迫害が事実以上の暴帝としてネロを歪めてしまっている様に思える。

同時代人

人    物    評

(小)アグリッピナ  先帝クラウディウス1世の後妻にしてネロの母親。猛女。執念でクラウディウス1世を毒殺しネロを皇帝に擁立。ネロの後見人として政治の実権を握る。成人したネロがアグリッピナの影響力を排除しようとすると、それを阻止する為に母子姦淫を行ったともされる。しかし最後はネロに疎まれ、皇帝暗殺の陰謀をでっち上げられ殺害される。
セネカ  ネロの家庭教師。ストア派の学者。アグリッピナの片腕として国政を担当する。ネロが成人しアグリッピナと対立すると、ネロのアグリッピナ粛正を黙認。ブルスの死後ティゲリヌスを重用するネロを見限り、引退。田園生活を送る。しかし、ピソの陰謀に連座し、自害を迫られ止むを得ず自ら命を絶った。
ブルス  親衛隊隊長。アグリッピナに登用されセネカと協力しネロ帝初期の政治を指導する。
ティゲリヌス  奸臣。ブルスの後任としてネロに重用される。ネロの悪政はティゲリヌスの罪でもある。元老院より公敵宣言を受けたネロを見捨てる。
ポッパエア  ネロの寵愛を受け、オトと離縁しネロと結婚する。ティゲリヌスと共に気ままに政治を行う。
 ネロについては、悪意のある記述が多すぎて不明な点が多い。ポッパエアは後に事故死するが、スエトニウスはネロによって蹴り殺されたとの見解を示している。
ブリタニクス  先帝クラウディウス1世の実子。アグリッピナの策略によりネロに帝位を奪われ冷遇される。自分の境遇に不満を漏らしたことから、ネロの猜疑心をあおり毒殺される。
オクタヴィア  先帝クラウディウス1世の娘。ネロの妻。ネロがポッパエアと結婚する為に離縁され殺された。
カルプニウス・ピソ  ネロ暗殺の陰謀を企てるが事前に露見。多数の元老院議員も関与して、多くの議員が有罪となった。セネカもこの事件に連座し自殺した。
ネルヴァ  ネロ派の元老院議員。ピソの陰謀をティゲリヌスと協力し粛正した。後の五賢帝。
ウィンデクス  ガリア総督。ネロ帝に対し反乱を起こす。各地に送った檄文により、ガルバ、オトは呼応して挙兵した。ウィンデクス自身は、まもなくローマ軍に敗れる。
ガルバ  タラコネンシス総督。ウィンデクスの反乱に呼応し、挙兵。兵士達より皇帝に擁立され首都ローマに迫る。
オト  ポッパエアの前夫。ルシタニア総督。ウィンデクスの反乱に呼応。ウィンデクス敗死後はガルバを支持する。
ウェスパシアヌス  元老院議員。ネロの命令でユダヤの反乱鎮圧を指示され、ユダヤ総督となる。
ペテロ  イエスの直弟子。イエス刑死後、東地中海各地での布教を経てローマに至ったと言われる。ネロ帝のキリスト教迫害、もしくは死後の内乱の混乱により殉教したと言われるが、ペテロの存在についての根拠は乏しい。カトリックでは初代ローマ教皇とされている。
パウロ  イエスも含めて唯一実在が確認されている初期キリスト教の指導者。新約聖書の記述を信じるなら、ペテロと共にローマで殉教したとされる。ちなみに、生前のイエスとパウロの面識はない。

 

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