(国・熊本県の)上告受理申立理由書に対する反論書(その2)

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2 速記録から明らかになったこと
従って、この会議の最終結論は従前の申立人の路線から一歩も出ていないが、議論の過程では、各委員及び環境庁の担当者の口から、52年判断条件は医学的な基準ではないこと、四肢末端の感覚障害のみの水俣病が考えられること、水俣病の感覚障害は中枢性であること、遅発性水俣病の存在は否定できないことなど、原審では申立人が頑として認めなかったことが正直に語られ、議論されている。
たとえば、井形委員長自身が、「最近の知見によって、四肢末梢の感覚障害というのは、中枢性の障害であって、末梢神経はやられてないというのが通説になってきて」(第5回)、「そうクリアカットに、すべて医学がオールマイティで、医学が言ったこと以外は絶対に違う、したがって、審査会が落としたものは絶対水俣病でないという主張については、医者たるもの、多少じくじたる思いを持っております。」「診断基準を採用したから、より正確な診断を期すということは表現は間違っておると思います。より均一なというか、同じスタンダードの診断になると思います。」(第6回)、「私は(メチル水銀の影響で四肢の感覚障害のみを有することは)あり得ると思うのですが、今までの裁判での主張は、あり得ないと。」(第7回)など、原審における証言の際には決して聞くことのできなかった、むしろ医学者としては極めて控えめとも受け取れる発言に終始していることが印象的である。水俣病訴訟の一面は、これら国側の医師の権威との闘いでもあったことを思うと、国及び国側の医師らの責任は重大である。
以下、抜粋する。

第1回中央公害対策審議会環境保健部会水俣病問題専門委員会議事速記録(1991/2/26開催)
p15 事務局
感覚障害は、この図で申しますと、脳のてっぺんにある頭頂葉後中心回というところの障害で出てくると言われております。
p24 事務局
52年の判断条件につきましても、行政の通知でございますので、百パーセント医学的な診断基準ではないわけですけれども、私どもとしては、医学者の先生方の考え方を十分に踏まえて、医学に基礎を置いた通知としてつくっている、そういうふうに理解しておるわけでございます。
p33 岩尾特殊疾病対策室長
現在、水俣病発症のおそれがないか、また、どの時点から水俣病発症のおそれがなくなったかが明確にされておりません。これはチッソの水銀排出が水俣病発生以後も続いたこともございますが、明確な漁獲の禁止措置ができなかったことから、どの時点で発症の可能性がなくなったかということが明確に示されておりません。現行の基準よりも低い濃度で発症する可能性があるという主張もございます

第2回(1991/5/30)
p40 井形昭弘委員長
汚染地区と対照地区とで、荒木先生のところで出された報告は頻度の差が一番多いわけです。ほかの地区も多いのですけれども。
p41 井形昭弘委員長
裁判で言われても、私たちは、水俣病と公的には認めない方がいいと思っているのは、水俣病と認めますと、医療費をチッソないし国が持たなければいけなくなりますね。その額はものすごい大きな額になるんです。

第3回(1991/6/28)
p4 事務局
メチル水銀の標的臓器、主にどこが障害されるかということでございますが、クライテリアの記載としては、ほぼ神経系、特に中枢神経系の障害に限局されるということでございます。研究班の評価としては、記載してございませんが、当然の知見であるということでございます。
p12 事務局
曝露から長期を経ての発症の可能性、曝露は終了したのですが、かなり時間がたってから発症するのではないか、こういう議論があります。それから、環境汚染の状況、危険性、汚染魚を摂食していた時期ということで、次の長期低濃度曝露とも絡むのですけれども、非常に汚染が低くなった場合でも、問題があって発症するのではないかというような指摘があるわけです。汚染魚を摂食していた時期というのは、水俣地区では行政的に魚の摂食あるいは漁業を明確に禁止した時期がございませんので、原告などの主張によりますと、その後も実は魚を食べていて、メチル水銀が取り込まれていて問題がある、このような話が出ております。そのようなことから、ある時期まではっきり発症が終わったということがなかなか言い難いものですから、再申請の方もはっきりだめだと言えなかったわけです。
p13 事務局
曝露終了後時間を経過してからの発症がある。1回棄却されたのだけれども、その後新たに、昔の曝露によって発症した、こういう可能性があれば、やはり再申請も認めることになるだろうということであります。
p27 井形昭弘委員長
今は訴えられた方は医療事故によって起こったのではないということが立証できなければ全部負けるのです。それを当てはめますと、とても医者は自信がないんです。一ぺんだけ権威ある判断をしたのだから絶対違うと裁判で言い切ってその主張が認められる可能性は非常に難しいと思います。
p28 鈴木継美委員
曝露終了後時間を経過してからの発症がある、その意味なのですが、それが医学的に否定できるなら話は簡単なんですという議論が出ましたけれども、これは容易には否定できない部分ですね。問題は、発症の中身の問題、何を発症してくるか。典型的な急性期の水俣病みたいなものが発症してくるはずは絶対にないので、もっとわけの分からない格好になったものが出てくるわけでしょう。その問題も含めて、発症の中身まで考えに入れて議論しないと話が詰まらなくなるから、そう簡単には、こんなことはもう絶対にないですよと言い切るのは、怖くて言えないですね。
p29 野村好弘委員
そういたしますと、何年という仕方で区切ることは不可能だ、こういうことになってしまいますか。
p29 鈴木継美委員
私個人ではそう思います。非常に難しいことだろうと思います。
私は、IPCSの記述はこれでいいと思うのです。彼らは、日本で起こっている出来事に関して、何も言わないよという立場だったわけですから。現に彼らの経験から言えば、イラクの例が多いわけですけれども、こんなものでしかないでしょうと言っているわけです。しかし、非常に長い潜伏期間をとって何かが起こっているという出来事は知っていて書いているわけです。ですから、心理的な因子や老化因子によって起こっている可能性はあるのだけれども、という言い方をしているわけです。
ごく一般論として言えば、曝露が停止して長い期間たってから何かが起こってくるということは一応齟齬なんです。そんなことは確率的には非常に少ないですよ、こうは言えるわけです。神経系の、例えば中毒系列の病気は得体の知れないところがありまして、ちょっと怖いんです。かなり前にかなりの曝露があって、長い期間たってから何かが起こってくる危険性みたいなものを、今そんなことは絶対にないと言い切ったら、私は後世恥をかくのではないかと思っているものですからね。
p45 二塚信委員
現実には症候の変動による判断の誤りといったら問題があるかもしれませんが、現実に症候の変動があることを完全に否定しきれるか
p45 納光弘委員
遅発性の水俣病があるかどうか、あるいは加齢の影響があるかどうかということでは、昭和46年からせいぜい50年あたりまでは、そういう可能性についても、患者さんを診ながら、ひょっとしたらという気もしていたのですが
p59 森嶌昭夫委員
現在知られている症状以外にも何らかの健康影響が生ずることがあるのか否かについては、いまだ十分解明されていないという前提があって、水俣病というのは、水銀曝露による影響を一つの側面でとらえたにすぎないという前提があって、そこで、そのほかのものがあるかもしれない、したがって、過去に曝露を受けた者は調べておかなくてはいけないし、不安を持っている人は解消しなければならん、そういう理屈になる
メチル水銀曝露によって、現在知られている症状以外にも何らかの健康影響が生ずることがあるのか否かについては、いまだ十分解明されていないという認識は妥当なのかどうか、そうだとすると、認定基準との関係で、認定基準というのは何を認定したことになるのか、何を判定する基準になるのか、それをお伺いしたい
p59 井形昭弘委員長
そこがこの委員会の最も大きな論点になるわけで、そこを何とか理屈付けができないでしょうか
p60 鈴木継美委員
人間の歴史の中で初めて、ある量のメチル水銀が比較的集中した期間にたくさんの人間に入ってしまった、その結果起こった出来事として、ある典型的な症状のこういうのが分かった、この段階で認定がかかってくるわけですね。しかし、これは初めての経験なんです。だから、その先何が起こるのかに関しては分からないのです。これは認めざるを得ないのです。
p60 森嶌昭夫委員
今までの環境庁の組み立て方からいきますと、その辺のところを、分からないのだと言ってしまうと、今までやったことはそれでよかったかと・・・・。
p60 井形昭弘委員長
表向きは、有機水銀が原因で起こった健康被害は水俣病として認定しました。しかし、老化現象とか、この人が水俣病の汚染がなくてもかかった病気を有機水銀の汚染がどう修飾しているか、健康影響というのは分からない面が多いんです。
p61 森嶌昭夫委員
論理的には、老人であっても水銀による曝露によって何らかの影響があるかもしれない。これは鈴木先生のおっしゃるように、今まで分かったこととして分からないことがたくさんあるのだからと平たく言ってしまえば一番いいと思うのですが、今まで環境庁はそこまで平たく言ってなくて、認定基準で水銀曝露による疾病は十分とらえていますと言っておられるような印象があるのですが、そうすると、入り口のところで非常に困ってしまわないか。

第4回(1991/7/31)
p32 事務局
四肢末端の感覚障害を有する者について、メチル水銀曝露との間の法的因果関係を推定することは、先ほど申しましたように無理がありますが、一方、自然科学的因果関係が完全に否定されるだけの十分な知見が集積されているものでもないということかと考えます。このため、本来のあり方としましては、メチル水銀の曝露と、今問題になっております症候との関係について、科学的な究明を図った上で、その制度的取扱についての結論を出すべきであろうかということでございます。
p33 事務局
水俣病特有の事情として、発生当初、その原因を迅速に確定できなかったことについてはそれなりの理由があることでございますが、結果として当時の環境保健行政が国民の期待に応えられなかった、そのことが今日の混乱の一要因となっていることも事実でございます

第5回(1991/9/2)
p46 井形昭弘委員長
最近の知見によって、四肢末梢の感覚障害というのは、中枢性の障害であって、末梢神経はやられてないというのが通説になってきて、それを援用
p51 井形昭弘委員長
本来二つに分けるというのは、入学試験と同じで、つながっているものを分けるわけですから、どこかに・・・。
p53 浅野直人委員
四肢末端の感覚障害のみというところは、本当に客観的に「のみ」という場合と、探しきれないという面と二つある。探しきれない面があれば、ひょっとしたらその中には本物が入りうる余地がある。
p53 井形昭弘委員長
例えば難聴が昭和37年から起こっていて、感覚障害もありますといった場合には、今は棄却になっていますね。
p54 井形昭弘委員長
しかし、これは水俣病の可能性はなきにしもあらずだろうと思うのです。
普通、四肢末梢の感覚障害があるときは、ほとんど例外なく腱反射は消失又は減弱します。ところが、水俣病の場合には、亢進する場合があり、ほとんど減弱していないんです。伝導速度も余り信頼がおけないといって、ひどい場合には伝導速度が落ちますけれども、落ちてない。
第6回(1999/10/9)
p32 事務局
水俣病に関して純医学的な面から医学者の方がつくられた診断基準というものがないものですから、医学的な診断はどうかというところから説き起こして、この52年判断条件について言及するために、途中1段、医学的な診断はどうあるべきかというところで材料が足りないという感じがあります。
p34 事務局
そういった報告例についても、曝露停止から発症までの期間が数年を超えるものは報告されていない。いずれにしても数年に限られているということは言えるかと思います。
p38 事務局
臨床医学的及び病理学的な観点からは、昭和60年の医学専門家会議の結論を引いて、それだけで水俣病と判断するには医学的に無理がある、こういう流れでいきたいと思っております。ただ、60年の専門家会議というのは行政上の見解でありますし、いろいろ批判も被っているところですので、
p57 井形昭弘委員長
実際は棄却した人を再認定している例がたくさんあるわけです。また、症状というのは、朝と夕方で変わったり、2回目に診たら、こんなはずではなかったというぐらい変わったりするようなことがよくありまして、そうクリアカットに、すべて医学がオールマイティで、医学が言ったこと以外は絶対に違う、したがって、審査会が落としたものは絶対水俣病でないという主張については、医者たるもの、多少じくじたる思いを持っております。
p58 井形昭弘委員長
診断基準を採用したから、より正確な診断を期すということは表現は間違っておると思います。より均一なというか、同じスタンダードの診断になると思います。
第7回(1991/10/29)
p55 植村一委員
メチル水銀の影響を受けて四肢の感覚障害のみを有するようになった、そういうものは存在するのだと考えてよろしいわけですか。これを仮に赤玉と呼ぶとしまして、赤玉は存在することは認めている、そういう前提でこれを書いていると考えてよろしいわけですか。メチル水銀の影響で四肢の感覚障害のみを有するということがよく分からないのです。
p55 井形昭弘委員長
私はあり得ると思うのですが、今までの裁判での主張は、あり得ないと。この報告書にも、あり得ないと書いてあるのです。
p55 植村一委員
そうすると、「関連性を認めうる者を特定することも容易でない」、この書きぶりはちょっとおかしいような気もするのです。
p55 井形昭弘委員長
しかし、それで徹底してしまったら、もうこの委員会も要らないのです。
p55 浅野直人委員
「可能性を排除するものではない」といっていますから、ありていに言えば、認めているのです。
p56 井形昭弘委員長
医学的にはあり得る
p57 浅野直人委員
仮に法的因果関係という考え方でいけば、関連性を認め得る者がないとは言えない
p57 植村一委員
メチル水銀の影響で四肢の感覚障害だけが生じているという可能性も否定
できないと思っていた方が
p57 井形委員長
この論旨はそうなんです。
p57 事務局
「四肢の感覚障害を有する者の中で、特にその症状とメチル水銀曝露との間に関連性を認めうる者」というのが、理念的にも存在する書きぶりにするためには、病像の問題もここまで書かないと首尾一貫しないということであえて書いているところではあります。確かに微妙な問題でして、これまで私どもは、その下に可能性があるということを積極的に言ってこなかったわけですから、そこを言うということは、一歩後退してしまうことなんです。

以上のとおりであり、申立人が上告受理申立理由書の中で述べていることに根拠がないことは、申立人自身が十分認識しているはずである。


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