反論書(2)
平成15年第31号事件
反論書(2)
2005年(平成17年)2月26日
公害健康被害補償不服審査会
会長 大西 孝夫 様
処分庁 熊本県知事 潮 谷 義 子

審査請求人       面木 學
上記代理人   弁護士   松本健男
      大野康平
      小野田 学
      大川一夫
      田中泰雄
      中島俊則
      永嶋里枝

第1   最高裁判決の意義
1    いわゆる水俣病関西訴訟について最高裁第二小法廷は平成16年10月15日、病像論(水俣病の判断基準)につき、「原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らしても首肯するに足り、上記事実関係の下においては、原審の判断は是認することができる」と判示し、国・県の不服申立を認めなかった。
  これは直接には、大阪高裁の判断準拠などを含む事実認定をそのまま認めたものであるが、国が上告受理申立て理由において、「52年判断条件は、水俣病に罹患しているか否かの判断、すなわちメチル水銀を原因として健康障害が惹起されたか否かを判断するための医学的知見を総合したものである」として、52年判断条件を診断基準として採用しなかった大阪高裁判決を経験則に著しく反すると指摘していたことを考えると最高裁でも52年判断条件の正当性が認められなかったことになる。
  このことは、国が大阪高裁における最終準備書面(7)(その2)で「52年判断条件は、水俣病患者を広く、網羅的に認定するために、医学的にみて水俣病と診断し得るぎりぎりの基準を示しているのであるから、国賠訴訟である本件において、水俣病に罹患していることを高度の蓋然性をもって認定するに際して、少なくとも52年判断条件を充足している必要があることは明らかである」と主張していたにもかかわらず、これが採用されなかったことでも明らかである。
2    環境省は、大阪高裁判決に対し、「メチル水銀中毒症(水俣病)の認定でも、医学界の定説とは全く異なる判断が示されており、上告することにした」(川口大臣)という経過があり、熊本県は「77年に確定した医学的病像とは大きく違う。認定制度と大きなかかわりがあり、最高裁の判断を待ちたい」(潮谷知事)とのべており、52年判断条件の正当性を訴えて上告したのであり、これが認められなかったのである。
3    最高裁判決はその国家賠償訴訟という性質上、直接、行政認定の判断基準自体について判断したものではないが、52年判断基準が十分な医学的根拠をもたず厳格に失し、四肢末端優位の感覚障害を中心としたより科学的な基準で高度の蓋然性が判断できることを明らかにしたものであり、処分庁は52年判断条件の誤りを認め、早急に是正を行なうべきである。
     
第2    国賠訴訟と公健法上の認定との関係
1    小島敏郎環境庁企画調整局環境保健部保健企画課長(当時)はジュリスト1088号(1996.4.15)誌上の「水俣病問題の政治解決」と題する論文で次のように述べている。
  「水俣病であるかどうかの判断は医学的判断であるが、水俣病はその概念の中に企業の排水との因果関係を含んだ特別なものである。
  公健法では、少なくとも「水俣病である可能性」が「水俣病でない可能性」よりも高くなければならないが、「水俣病である」蓋然性が高度な者だけではなく、その蓋然性が半分以上ある者については認定しており、国・熊本県は水俣病として救済すべきは救済しているとの主張であった」
  すなわち、環境庁の考え方は行政認定は蓋然性が半分以上の者に対して行なっており、「半分以上」より可能性の高いものとして蓋然性が高度なものを位置づけている。
2    ところで、前記関西訴訟で大阪高裁は「本件で問題となっているメチル水銀中毒症(いわゆる水俣病)の起因性についても、「相当程度の蓋然性」さえ立証すれば足りるとすることはできず、1審原告の病状がメチル水銀の影響によるものであることについて、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る高度の蓋然性を証明することが必要である」とした上で、請求人が水俣病であることを認め、最高裁判決はこれを是認した。
3    したがって、請求人は水俣病である蓋然性が半分以上であることは明らかであり、すみやかに水俣病と認定されるべきである。
     
第3    審査請求人の症状について
1    感覚障害
 平成14年9月の神経内科的検査では顔面を除く左半身の触覚・痛覚低下、右足背部触覚低下、四肢振動覚下肢優位に低下、深部感覚は低下とされており、反射は上肢に低下傾向、下肢は正常となっている(甲1)。
  前回の平成7年7月の検診では顔面を除く全身の触覚・痛覚低下、四肢振動覚低下、深部感覚は左低下、反射は上肢に低下傾向、下肢は亢進となっている(甲2)。
  このように審査会の検診では感覚障害が顔面を除く全身に存在することがうかがわれる。平成14年の場合、左右差を比べた場合、左側がより強いため、相対的に右側が判りにくかったと思われる。
  このことは、阪南中央病院が平成9年に行なった定量知覚検査において右手掌や右親指に明らかな異常が認められることからも裏付けられる(甲3)。
  また阪南中央病院の昭和62年の検診でも、四肢末端+右半身型の痛覚、触覚異常と振動覚の低下が認められている(甲4)。
  阪南中央病院のCT検査では大脳に異常はなく、平成7年の審査会のMRI検査でも正常とされており、上記のような請求人の感覚障害を説明できるのはメチル水銀中毒しか考えられない。
  ことに通説である大脳皮質性の感覚障害が水俣病の特徴であると考えると全身に症状がみられたり、所見に変動がみられたりするのは当然のことである。
2    運動失調
  平成14年9月の検査では上肢につき姿勢振戦を両側に認め、指鼻試験は両側緩徐であった。下肢は膝腫試験の速さが軽度低下、片足起立は左足不可能、直線上起立閉眼不可、開眼では不安定ながら可能、爪先歩行、踵歩行、直線歩行、つぎ足歩行は不可能(甲1)。
  平成7年の検診では直線上起立開眼、閉眼ともごく軽く動揺する。左爪先歩行、左踵歩行が腰痛のため不可となっている(甲2)。
  昭和62年の阪南中央病院の検査では指鼻試験閉眼で軽度異常、ディアドコキネシスも軽度異常、片足起立障害がみられる(甲4)。
  以上から請求人には軽度の運動失調が認められる。
3    視野狭窄
平成14年8月のゴールドマン視野計による検査結果は 
 右 外側68度、内側47度 
 左 外側68度、内側58度である(甲5)。
平成7年10月の検査結果は
 右 外側78度、内側57度
 左 外側73度 内側55度である(甲6)。
平成9年9月の水平方向のみの検査では
 右 外側80度、内側64度
 左 外側79度、内側57度である(甲7)。
阪南中央病院の昭和62年の検査では
 右 外側57度、内側45度
 左 外側57度、内側47度である(甲4)。
 水俣病の視野に関する研究−10年間の追跡調査−(岡嶋ほか昭47.6.3)によると視野狭窄の判定基準としてA線(耳側89°、下耳側82°、下方62°、下鼻側54°、鼻側53°、上鼻側53°、上方48°、上耳側64°の各点を結ぶ線)、B線(耳側80°、下耳側74°、下方56°、下鼻側49°、鼻側48°、上鼻側48°、上方43°、上耳側58°の各点を結ぶ線)、C線(耳側53°、下耳側49°、下方37°、下鼻側33°、鼻側32°、上鼻側32°、上方28°、上耳側39°の各点を結ぶ線)を前提に視野周縁を結ぶ線がA線外にある場合を狭窄(−)、A、B両線に囲まれる領域にある場合を狭窄(±)、B、C両線に囲まれる領域にある場合を狭窄(+)としている。
この判定基準によると、 平成14年8月は   右 +  
      左 ±  
  平成7年10月は   右 +  
      左 ±  
  昭和62年は   右 +  
      左 +  となる。
これを総合的に見ると狭窄ありないしは軽度の狭窄ありと判断すべきである。
  また、対坐法で正常値が得られたとしても、対坐法は原理的に正確な視野測定とは言えないから、信頼性のある検査法とはいえないので参考にするべきではない。
4    以上の水俣病に特徴的な3症状の存在にてらしても、請求人が水俣病であることは明らかである。
  すみやかに請求人を水俣病と認定するよう求める。
 
以上
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