永木論文「水俣病患者の末梢神経」
―これまでの研究成果について― に寄せて
チッソ水俣病関西訴訟弁護団  永嶋 里枝



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大阪高裁は、昨年4月、関西訴訟の原告58名中51名が、メチル水銀により健康被害を被っていることを認め、国・県が、その健康被害に法的責任を負うことを明言する判決を下しました。
この大阪高裁判決は、国・県の法的責任を初めて認めた高裁判決です。
この画期的な判決に対し、国は、直ちに上告(上告受理申立)を行いました。
この不当な上告(上告受理申立)に対し、全国から批判の声が起こり、上告取り下げを求める運動が起こっています。
この上告取り下げ要請に対し、環境省の担当者は、「大阪高裁判決が確定すれば、96年の政府解決策の誤りを認めざるを得なくなる。これまでの水俣病認定業務を根本から見直さなければならなくなる。」と言ったそうです。
判決当初、環境省は、大阪高裁判決は、52年判断条件を否定したわけではない、などと強気の発言を行っていましたが、直ちに上告(上告受理申立)をしたこと、そして、先の環境省の担当者の発言から明らかなように、実際には、この大阪高裁判決は、環境省にとっては、大変な痛手になったのです。
その理由の一つは、メチル水銀中毒症の感覚障害が中枢性であることを前提に、原告の感覚障害を分析し、51名については、その健康被害がメチル水銀によるものであることを明確に認めたからです。
国は、昭和52年に旧環境庁が作った判断条件(ガイドライン)を満たさなければメチル水銀の影響があるとは認めない、という立場を取ってきました。そして、感覚障害が不知火海沿岸に多発していることを認めながらも、その原因がメチル水銀汚染にあることの証明はできないとして、感覚障害のみではメチル水銀の汚染を受けた被害者であるとは認められないと言い続けています。
大阪高裁は、環境省の見解に反し、52年判断条件を満たさなくても、メチル水銀曝露を受けたと認められる患者が存在すると断言したのです。
これは、国の水俣病対策を根底から覆す判断です。
大阪高裁にこの判断をもたらしたきっかけは、井形昭弘医師を初めとする国側の医学者の感覚障害に対する無理解や、感覚障害に関する主張の矛盾点が徹底的に明らかになったためと思われます。
実は、大阪高裁で、メチル水銀による感覚障害は、末梢神経障害ではなく、中枢性の障害であると主張するまで、原告側も、メチル水銀による感覚障害は末梢神経障害であると主張していたのです。しかし、熊本大学の浴野成生先生の示唆により、海外の論文や、急性劇症型の水俣病の解剖所見の報告書などをひもとくと、どうやら末梢神経が障害されていることは証明されていないのではないか、ということが明らかになってきました。しかも、原告を初め、水俣病患者の感覚障害を素直に検討すると、中枢性の特徴を備えており、中枢性の障害であると理解することによって、その症状が無理なく説明できることも明らかになったのです。
この点、国・県は、原告が、末梢性説を主張していたときは、むしろ、中枢性説を力説していたにもかかわらず、原告が大阪高裁において中枢性説に転換したとたん、末梢性説を声高に主張し始める、という逆転現象が起こりました。
そして、国・県が末梢性説に固執し、国・県の証人が、水俣病患者の末梢神経は必ず障害されている、と口を極めて主張すればするほど、その非科学性が明らかになっていったのです。
永木先生は、わが国の水俣病研究者の大勢が、末梢性説を主張していたころから、水俣病患者の末梢神経は障害されていないと一貫して主張してこられました。
永木先生は、他の研究者とともに、水俣病の認定患者とメチル水銀の影響を受けていない対照例の両方について、腓腹神経(末梢神経)の伝導検査と生体組織検査を行い、その結果、水俣病患者の末梢神経に病理学的な異常所見は認められない、すなわち、水俣病患者の末梢神経は障害されていない、という結論を導かれました。そして、何とかして学会の中でこの結論についての理解を得ようと努力を続けてこられたのです。
しかし、末梢性説が主流を占めてきたわが国では、永木先生の研究成果は、結果として長い間顧みられることがありませんでした。患者側も、末梢性説が正しいと考えていたがゆえに、永木先生からお話を伺う機会すら持てませんでした。
高裁で中枢性説に転換して、初めて、先生にお目にかかり、その貴重な論文を原告側のために採用させていただくことになったのです。
正直なところ、弁護士としては、永木先生の書かれた論文を理解するのは困難で、不明な点について、何度か手紙や電話でやりとりをさせていただくことになりましたが、先生は、その都度、丁寧に教えてくださいました。とても穏やかな先生ですが、今回の論文の内容からも窺われるように、科学的に間違ったことがまかり通ることにはがまんができない、という凛とした信念をお持ちでおられることは、すぐにわかりました。何としてでも、井形医師に代表される国の水俣病医学者の誤りを正したい、という先生の執念にも似た一念が今回の論文になって現れたものと理解しております。
井形医師は、大阪高裁の証人尋問の際、水俣病患者の末梢神経が障害されていることは明らかである、と繰り返し証言しましたが、実は、海外の研究者の間では、メチル水銀中毒によって引き起こされる感覚障害は中枢性と理解されていることを十分認識していました。そして、ある時期から、わが国の研究者の中でも、中枢性説が通説になったことも知っており、公式にそのような発言も行っていたのです。
ところが、証言においては、国の代弁者の立場に終始し、医学者としての良心すらかなぐり捨てた発言を繰り返しました。永木先生には、到底許すことのできない態度であったと思われます。
同じ医学者でありながら、患者の救済よりは、国の立場を優先させた井形医師とは対局の存在である永木先生を、心の底から尊敬しています。
国が未だに過去の水俣病医学の誤りを認めないこと、そして、被害者を切り捨てて恥じないこと、これらの問題点を浮き彫りにするためにも、このたびの永木先生の論文を1人でも多くの方に読んでいただきたいと切に望む次第です。
   
水俣病上告取下げ全国ネットワーク

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