剣と魔法のKanon

第4話 野宿





辺りはもう薄暗く…太陽の光はここからでは見ることができなくなっていた。

空には星がゆっくりと輝きだす。

その量は日ごろ見る比ではない。

まあ、日ごろから星なんて見ないけどな。

森の中にできた小さな開いた場所。

そこで俺たちは野宿の準備をする。

野宿…キャンプではなく、野宿だ。

…と言ってもやることは焚き火を焚いて、その周りで毛布に包まって寝るだけらしい。

……えらくシンプルだ。

というわけで俺は今、火の番をしている。

目の前ではパチパチと音を立てて焚き火が燃えている。

手をかざすと火の温もりを感じる…。

いくら春の気候とは言え、夜が近づくにつれ、辺りは肌寒くなる。

こんなときに体を温めてくれるものがあるって事は…正直ありがたい。

ちなみに火は香里の魔法…ではなく。

袋の中にあったほくち箱――火打ち石などが入った箱だ。

これを使って火をつけたのだ。

……俺が。

はじめ手渡された時、なにをしていいか分からなかったぞ…。

仕方なく香里に手取り足取り…教えてもらったのだ。

曰く。

「当分この世界にいることになるんだから、この世界の生活も学びなさい」

ということらしい。

結局、俺は20分近く時間をかけて薪に火をつけるのに成功したのだった。

………改めて、ライターやマッチのありがたさを実感した…。

「ふう…」

疲れた…。

「初めてにしては上出来じゃない。相沢君」

息を抜いていると後ろから香里の声が聞こえてきた。

「…よお」

振り向くと清潔そうな白い布を体に巻きつけた香里がこちらに飛んできた。

まだ濡れた髪が艶やかな光を放つ。

「やっぱり、水浴びは気持ち良いわ☆」

嬉しそうに、そして、満足げに笑う。

近くに泉があるらしく、俺が火をつけている間に水浴びに行っていたらしい。

…なんか、不公平だ。

「俺も水浴びでもしてこようかな」

さっきからカンカンと石を打ち続けて、汗もかいたし…。

「ここを真っ直ぐ行けばいいわよ」

香里が自分の来た道を指し示す。

「おう」

護身用の剣をとりあえず持って立ち上がる。

そして、香里の横を通りぬける。

香里はそのまま火の側に。

俺はこのまま、泉へと歩いて…。

「気をつけてね」

歩いて…。

…。

その一言に不安なものを覚え、足を止める。

くるりと振り返る。

「ひとつ聞いて良いか?」

「何?」

香里が髪の毛を拭きながら、こちらを振り返る。

「ここって、危険か?」

まあ、そんなに危険そうには見えないけど…。

一応、確認のために聞いてみる。

すると香里はちらりと俺の手の物に目をやり…。

今度は俺に目を向ける。

顎の手をあて、少し考え込むような仕種をとる。

そして…。

「そうね…。相沢君だけだと危険かしら」

いつも通りの口調でそう言った。

…。

「…マジ?」

「嘘言ってどうするのよ」

…確かに。

「それに暗くなると魔物の動きが活発になるわよ」

「…」

辺りを見てみる。

…ほぼ真っ暗。

どこからか梟みたいな鳴き声が聞こえる…。

風で揺れる木々の音がやけに大きく聞こえてくる。

「どうするの?」

香里は意地の悪い笑みを浮べている。

「止めておく…」

俺はすごすごと火の元に戻った。

「そう…」

香里はつまらなそうに呟いた…。

お前な…。

俺が睨んでも香里は平然とした様子で髪の毛を乾かしている。

「よく平気だなお前は…」

…馴れか?

「あたしは身を守る術を持ってるもの」

「………」

……やっぱり、不公平だ。

「じゃあ、さっさと飯にしようぜ。飯」

これで人間サイズの飯がないとか言ったらお前の分を食ってやる。

「ちょっと、待ってて着替えてくるわね」

そう言って香里は俺の視界から消えた。

…別にこんなところで着替えを覗く気なんてない。

…こんなところじゃなくてもな。

それに…。

(ちっさい胸見ても嬉しくないしな…)

心の中だけで呟いく。

へたに口に出すと命に関わる発言だからな。

しばらくして香里が俺の隣りまで飛んでくる。

「お待たせ。じゃあこれを焚き火の近くに刺して」

そういって手渡されたものはなにかが刺さった小さな串。

小さくて何が刺さってるか見えない…。

…と思ったらまた巨大化する。

…便利だ。

こうして俺の手には肉の刺さった串が握られていた。

バーベキューようなものではなく、肉の一塊がそのまま刺してある。

これが夕飯のようだ。

「どれくらい食べるの?」

「……どれくらいあるんだ?」

「たくさん、よ」

「…じゃあ、後1本」

「わかったわ」

そういってまた袋から串と肉を出して刺していく。

その姿を一言で言うと……ママゴトだな。

口が裂けても言わないけど。

「はい」

「サンキュ」

串を受け取り、焚き火の近くに刺す。

気がつくと、始めての野宿をそれなりに楽しんでいる自分がいることに気づく。

…意外に適応性高いな。俺。

そうして、俺たちは肉が焼けるのを待った。

一言も話さず、お互い、燃え盛る火を見つめて…。

辺りは虫と木々のざわめきだけが残る。

お互い、胸中にいろんなことを抱えながら…。

それでも何も話さずに…座っていた。

一度、なにか話そうと思ったが………やめた。

森の静けさが…心地よかった。

座り込むと疲労がどっとでてきたのも理由の一つだが、この沈黙を壊してはいけない…。

いや、壊したくない。

…そう思えてきたから。

こうやって、二人で焚き火をじっと見つめるだけでなのにその中になにか共感できるものを見つけた…そんな気がしていた。

しばらくの間、焚き火の音だけが響き渡る…

何を思ったのか、俺はそっと香里の顔を除き込む。

香里はじっと焚き火を見つめ続けている。

焚き火の明かりに照らされたその小さな横顔は…とても綺麗で…

不覚にもドキッとしてしまうくらい綺麗で…。

俺は慌てて視線を辺りに泳がせる。

…気づかれてないみたいだ…

って、なに恥ずかしがってるんだ!? 俺?

ばれないように深呼吸をしてからまた香里に視線を戻す…。

「…香里?」

香里はもごもごと口を動かしていた。

目を凝らしてみると手に何か持っている。

……おい。

……なんか食ってやがる。こいつ。

「…香里」

「なあに?」

香里がなにかを頬張りながらこっちを向く。

「…なに抜け駆けして食ってるんだ?」

「…これよ」

両手を前に出して、果実のようなものと俺に見せる。

それは俺の片手に収まるくらいの大きさだ。

固そうな外皮の隙間から白い部分が覗かせている。

「…果物か?」

「そうよ」

「美味いのか?」

「…ほどよい甘みってところかしら」

「…それで足りるのか?」

「足りなかったら、相沢君のお肉をもらうわよ」

「……」

……さらに豪快になってるな。香里…

といっているうちに肉が良い具合に焼けてきた。

少しずつだが香ばしい匂いがしてくる。

…さっきのスライムとは大違いだな。

…比べるほうがおかしいか。

「そろそろ良いかな?」

「もうちょっと焼いたほうが良いわ。まだ中に火が通ってないわよ」

「そうか?」

「ええ」

食べごろだと思うんだけどな…。

まあ、ここは素直に従っておいた方が良いみたいだな…

「ふ〜ん、じゃ香里に従うことにするか」

その後も香里の指示に従いつつ、肉を焼き加減を確かめた。

…焼いただけの肉でも、おいしく感じることができた。



§



食べたらすぐに俺たちは焚き火を消して、横になった。

明日はきっと筋肉痛になるから少しでも早く休んでほしいらしい。

ま、同感だな。

そういうわけで香里が出した厚め毛布に包まっている。

でも、俺は寝つけないでいる。

真っ暗になった森はさらに不気味に感じる。

…見知らぬ土地だからなおさらなのだろう。

「なあ、香里…」

香里も俺のすぐ隣りで丸くなっている。

もしかしたら、もう寝たかも…と思いつつ話掛けてみる。

「……なに?」

少し遅れて返事が返ってくる。

「寝てたか?」

「ううん、考え事していたわ…何?」

「この世界ってなんなんだ?」

一日だが香里と話して思ったことはこれだ。

向こうの香里とこちらの香里は同一人物なのか?

香里はもといた世界のことも知っている。

体こそ小さいがその言動、仕種とかは香里だ。

同一人物なら、いつから香里はこの世界にいるのだろう…。

それ以前に…この世界は一体…?

「…異世界…よ」

香里の答えは素っ気なかった。

「そうか…」

「そうよ」

やっぱり素っ気無い相づちが返ってくる。

「なあ、香里…」

「今度は何?」

ちょっと、疎ましげな返事が返ってくる。

あまり聞いて欲しくないみたいだ。

「お前は…俺が知ってる香里なのか…?」

俺の言葉に空気が凍り付く。

正確には香里から伝わってくる空気が、だ。

香里が言葉を詰らせたのがはっきりとわかる。

「……なんでそんな事聞くの?」

落ち着いたいつも通りの声が返ってくる。

流れてくる空気はまだ固い印象があるがそれでも、さきほどの冷たさはなかった。

「お前がここのことも向こうのことにも詳しいみたいだからさ。気になったんだ」

「……」

答えたくないのか香里は黙り込む。

俺はその空気にも遠慮せずに言葉を続けた。

「お前は…俺が知ってる香里なのか…?」

またしばらく気まずい空気が流れる…。
「どうかしらね」

闇の向こうで香里が肩をすくめる仕種が見えた気がした。

「ただ言えることは…あたしは相沢君のことを知ってるってことかしら」

「そうか…」

「そんなこと考えてる暇があるなら早く寝なさい。明日も歩くわよ」

話しを打ち切るように言う。

実際、打ち切りたかったのではないだろうか?

「明日には近くの村に着くわ」

「どれくらいの距離なんだ?」

「…昼すぎには近くの村につくわよ」

「そうか…」

また沈黙が訪れる。

その沈黙の中、俺の頭の中ではめまぐるしくいろいろな考えが浮かぶ。

浮かんでは消え、浮かんでは消え…。

もうそろそろ寝ようとした時…。

「もしかして…」

不意に俺は思い付いた。

「お前が知っるけど、あっちの香里はお前の事知らないのか?」

「……」

香里は答えなかった。

その沈黙が俺の答えを肯定しているように思える。

「どうなんだ?」

「……」

香里は沈黙し続けている…。

「香里?」

「……」

「香里さ〜ん?」

…返事はやはり返って来ない。

耳を澄ますと小さな寝息が聞こえてくる。

「……寝たのか?」

…寝たようだ。 う〜む。 結構確信をついた考えだと思ったんだがな…。

さっきもなんかはぐらかされた感じがしてならないんだが…。

ま、答えたくないのに無理に言わせるのもなんだしな。

俺は追求を諦め、毛布を深く被る。

さすがにずっと歩き続けただけに、目を閉じるとすぐに睡魔が俺を包み込んだのだった。

続く。





後書き

どうもトタケケナイトです。
剣かの第4話ようやく公開です。(笑)
いろいろといそがしかったんですよ。(笑)
ま、少しずつ時間が取れるようになってきたから改めて、よろしく。

それでは次回も剣と魔法のファンタジーをあなたに!(大袈裟)



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