新シェーラひめのぼうけん10〜天と地の物語〜

むかし、むかし、緑に包まれた豊かな大陸に、
ふたつの大きな国と、いくつかの平和な国がありました。

あまりに昔の時代のことなので、
いまはそれらの国々の名前は伝えられていません。

ただ、大きな二つの国のうち、
錬金術が栄えていた国の方は、錬金術の王国と呼ばれ、
魔法が栄えていた王国の方は、魔法使いの王国と、呼ばれていました。

魔法使いの王国に、ひとりのおひめさまがいました。
王国の末の王女だったその女の子は、「みそっかす」でした。
兄王子二人や、姉の王女は、才能にあふれていて、
美しく、気がきいていたのに、末のそのおひめさまは、
きょうだいたちとひとり「違って」いました。
彼女だけ、美しくもなく、才能もないひめだといわれていました。
末のひめは、家族からも国の人々からも、
指さされ、ばかにされ、笑われていました。
内気なひめは、そうされても、自分も小さく笑って、
うつむくだけでした。そっとひとりで泣くだけでした。

本当の話、末のひめだけが「違う」といっても、
たぶんほんの少しだけの違いだったのかもしれません。
あまりに昔のこと過ぎて、真実を知る人はもういないのです。

…でも、とにかく、過去の世界、
ある豊かな大陸に、華やかな魔法文明で栄えた王国があり、
そこにひとりの、孤独なおひめさまがいたのです。

緑の大陸と、自分の故郷と、家族とまわりの人々を愛していて、
その思いが通じなくても、みんなの幸福を祈っていて。
愛されたくて、友だちがほしくて、夢を見た女の子がいたのです。

その夢が、緑の大陸を砂漠に変えることにつながってゆくなんて、
思いもしなかった、ひとりの女の子がいたのです。

遠い遠い、昔の物語。
錬金飛行船が旅をした時代よりも、数千年も昔の物語。

いまは砂漠になった大陸の上を、長い旅を続けてきた子どもたちが
ゆきます。勇気あるおとなたちと魔神たちの腕で守られながら。

長い長い、後悔と祈りの物語が、いま、終わろうとしています。

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