銀幕に俺たちがいた133

『燃ゆるとき』

 サラリーマン映画は娯楽映画としては負け組みでしょう。と、一般的な意見はそうかも知れませんが私としては大ヒットして欲しい部類の映画なんですが?希望とはうらはらに結局、客を呼べない映画になるかも知れないけど、こうした企業映画を創ってくれるスタッフには拍手したい。この映画の客層はやはりサラリーマンやってる人たちとか海外赴任で外国企業と戦っている人たちなんでしょう。前線進出されてる企業戦士には自分を重ねてこの映画を見れるはずです。実際はどうなんだろう?と思いつつもこれがノンフィクションということで理解はしておきます。わたしの会社は世界進出するほどの会社ではないので肌でこの映画を実感として分からない。ということは、この映画は大会社の、所謂PR映画に属する宣伝映画、であったとしてもそれはそれでヒットすれば問題ないし、この種の海外進出企業の開拓精神にのった企業で働くサラリーマン映画がどんどん世に出てがんばっている日本人を次世代が見て企業も人もレベルアップしていけば映画の役割もまんざらではないことになる、とは思うけどどうなんでしょう?一体海外進出する企業は日本ではどれくらいなんだろうか?私の働く会社はまったく海外とは縁遠いためこの映画の舞台である企業にははるかに及ばない下層階級での職業意識しかないため映画云々は言えない、のが本当のところです。そうは言いつつ職種、企業人、労働者に上下はない?(意識のことで、実際は大有り)、という前提に立たせてもらって、映画に登場するカップ麺メーカーのアメリカでの子会社サンサン・インクという海外進出企業は生産不振で業績悪化のためアメリカ投資会社に会社をまるごと買い取りの危機に陥っていた。高く買い取られたほうが得策という意見を退けて社長(津川雅彦)は新社長深井(鹿賀丈史)を送り込んでサンサン・インクの建て直しを計る、というまさにいつも使う手で映画的サクセスストーリーになっているもののそこらへんの新鮮さはまるでない。所謂、当時のNHK・TV「プロジェクトX」の2番煎じということです。それでもいいのです。同じ手は使ってもやはり何とか知恵を絞って企業のために身を削る労働者に大企業も中小企業もないという日本人好みのガンバリズムを映画は少しは力を与えてくれます。どんどん創ってもらいたい。海外進出出来ない工場で働くわれわれも映画の主人公になれればありがたいです。海外進出しているのは全国の20.8%だからかなりの大企業です。行き先はアメリカがトップで次に中国です。海外進出の大きな目的は「生産コストの削減」がダントツで「海外市場の開拓」「他企業の海外展開への対応」「親会社からの要請」などで、映画でも「コスト削減」を新社長は徹底的に実施し、現地労働者をレイオフ、したり休憩時間は消灯、店頭に並べられた自社製品の置き場所管理、そして品質向上に向け幹部全員での徹底的な討論は営業と現場の衝突を生み出す。そこらの描写は私にはよく分かります。規模が小さくなればなるほど「コスト削減」という言葉は働くもののの至上課題であり、至上命令であります。
 この映画では海外進出におけるリスク面を大きなテーマに据えていることは評価に値する。アメリカ・ユニオンという労働組合の実態とかセクハラ問題や企業買収に巻き込まれる日本企業が描かれていてそれはいい面だけではなく悪い面も描くという姿勢は評価しよう。しかしながら最後は成功して万歳、ということになっていないと見る側はスッキリしませんけど、それは映画の締めくくりとして当たり前です。なにせ、会社間で見る仕事とか勉強のためのドキュメントではなく娯楽映画としての大、大、前提が本筋なんでこの映画、よく出来ている。主人公川森を演じた中井貴一はまさに適役でした。
 サンサン・インクの現地労働者と買収を仕組んだ投資会社の幹部にユニオン幹部と投資会社に騙されてセクハラされたと嘘の情報をユニオンに流した、3年前、資材担当川森の下で働いていた女性アシスタント、キャサリンを前に海外で働く日本人の心境をたどたどしい英語で語りかける。この、ままならぬ英語に振り回される海外赴任労働者の描写は分かりやすくていい。
 川森「キャサリン、元気だったかい?どう言ったらいいか。日本語覚えてるかい?英語ではうまく伝えられそうにないから、日本語で話すね。3年前君が何故あんなことをしたのか?僕には理由が分からなかった。仕事のパートナーとしてもうまくいっていると思っていた。僕は心から君を信頼していた。裏切られたと思った。君を恨みをした。でもよく考えてみると精一杯がんばっていた君を追い詰めたのは僕だったのかも知れない。あのころ僕は会社を建て直すことばかり考えていて、一緒に働いている君たちのことを親身になって考える余裕がなかったのかも知れない。自分では精一杯やっていたつもりだったけど会社に夢を持ってくれた君を、結果、絶望させてしまった。君を、君の暮らしをそばで見ていながら何もしてあげられなかった。上司としてもっと何か出来た筈だ。いや、すべきだった。そうすればあんなことさせずにすんだんだ。それが悔しくて、申し訳なくて、この3年間何度も会社をやめようと思った。でも、そんな僕を信じて支えてくれたのがこの会社の人たちと僕の家族だった。僕は信じてくれることにどれだけ勇気づけられたことか分からない。だから守りたいんだ。この会社を、ここで働く仲間たちを、そして僕の家族を」
 女性アシスタント「この国は自由の国というけど本当は違う。ここは自由のない国です。私のような育ちの人間は教育も受けられず、死ぬまで貧しさから抜け出せないんです。でもサンサンなら一生懸命働けば昇進できるものと期待しました。でも私は嘘を言いました。投資銀行の人にセクハラされたと言えばお金が入ると言われて、今日はもう一度話してくれと、言われて来たの。よく分からないけど、今日ここに来たのは、その理由はこの3年間ずっと罪悪感を感じて謝りたかった。川森さんと、家族に私がしたことを、ごめんなさい、本当にめんなさい」
 川森「Thank You,KYASARIN,Thank You」
 原作・高杉 良、監督・細野辰興、主題歌・小田和正「そして今も」
                                        2006年9月30日  マジンガーXYZ