銀幕に俺たちがいた134

『県庁の星』

 県庁の星、と言えば私50代は「巨人の星」です。関係ないです。政治の話、と言うこともありません。県庁のなかで働いているエリートとこの映画ではひどく主人公の生きているお役所の世界と会社組織との雲泥の差をしきりにひつこいほど出演者の台詞に盛り込ませる。辟易させられる。しかしながら、実際、会社人間があそこへ異動させられれば四面楚歌、火あぶりの針のむしろでしょう。その官民格差を是正すべく元小泉首相がやった「改革」がこの映画の大きなテーマである。それをわかりやすくそこらへんのわたしら労働者にもわかりやすく見せてくれたのがこの「県庁の星」だと、勝手に租借して理解した。
 開巻、大プロジェクトと称する「特別養護老人施設建設地」という壮大な土地が現れる。映画とは関係なくこうした建設は儲かる商売として飛躍する部門には間違いないでしょう。国家的な事業に携わっている主人公野村聡(織田祐二)は元首相が口をすっぱくしてやりつづけた「官から民へ」の改革の一端「官民格差の是正」とともに「官民の人事交流」を実践すべく選ばれた「戦士」としてあるスーパーに派遣される。
 「満天堂」というのがスーパーの店名で県内6箇所にチェーン店をもっている地元では大きな店である。そこへ野村は6ヶ月の研修生として県からは派遣される。ここからは本当、面白かった。いま、はやりのリフォーム感覚で「どうなっていくんだろう?」ということで、ぐいぐい引っ張られる。この構成はうまいです。あの織田が、という似つかわしくないエリートを最後まで演じきる、イメージくずしがどうでるか?スタッフも気が気でなかったでっしょう。初めは、たしかにおかしい感じで「こりゃだめだ」と思いました。「官」のなかではダメな織田が「民」のなかに入って確かに初めは浮いていた。しかし、「民」の暖かい水に慣れてきて「官」にしか出来ない発想を「民」に取り入れていくうちに「官民」が手を取り合って問題を1つ1つ解決していく過程はじつに面白いし結構納得させられる。
 官民格差の是正は織田と張り合う柴咲とのコンビネーションからくる掛け合いの1つ1つです。織田の教官がスーパーで働く6年目のパート社員の二宮(柴咲)が勤める。最近「Dr・コトー」をビデオではじめて見させてもらったんですが柴咲コウに興味をもっていただけにこの映画の重要な主人公とのパートナーを実にいい感じで演じている。
 「マニュアル、マニュアルがないと分かりません」という(県庁さん)に対して、「そんなものありません。自分で覚えるしかないでしょう」とぶつぶつ返答する柴ちゃん。
 そんな折、消防署からの査察があって、店内の非難通路の確保を指摘される。次回の査察で不合格なら営業停止も免れない事態になってしまう。店内の人たちとうまく行かなく、さらに6ヶ月研修の間に彼がやり始めた大プロジェクトが勝手に始動していたことを知ってひどく落ち込み柴ちゃんの家へ酔っ払って泣き言を吐く始末に、お役所人形のような彼の人間くさい一面を見つけてやさしく介抱してあげる。
 「いまさらこの年でフリーターなんか出来るかい」とかパートの主婦たちも「困る、どうしよう」とか、スーパーは皆を集めて緊急会議を開いているところへ、眠りからさめたように県庁さんが帰ってくる。文書作成、マニュアル作成、そして改革の「星」が動く。売れ残りのスチールで棚を作って足の踏み場もないほどの在庫の山をキレイに整理整頓していく。その際、柴ちゃんが県庁さんに活を飛ばす。
 「あんたも汗を出してみんなと一緒に働くのよ。あいつらに勝つんでしょ」参った。最高の言葉。マニュアルには載ってない仕事作法とでも言いたいな。
 整理整頓された商品倉庫は県庁さんが引いた黄色のテープで貼られた矢印の通りに運搬できるようになって、前から横からぶつかるような通路はスムーズに通り抜けできるように改善された。
 抜き打ち検査当日、「防火証券様がお越しになられました」に始まる県庁さんの作成した対応マニュアル通りにスーパー職員全員がその通りに動き、査察団を整理整頓した倉庫へ案内する、その時突然、マニュアルに無い対応に追い込まれる。
「先日、行政から強化指導が下りたことはご存知のはずです。監督者に認知義務があります。消防法第8条の店舗管理義務を仰って下さい」に、職員は、しどろもどろでどうにもならない。その時、職員の業務イヤホンに県庁さんの声が聞こえてくる。柴ちゃんはそのあとをオウム返しにしゃべる。万事成功、と思いきや本部の店舗放送が邪魔をして、今度こそ営業停止だと皆が思った時、後方に隠れていた店長(井川比佐志)が恐る恐る出て来て、見事に消防法8条を述べる。頼りないへらへら店長を最後に主役に持ってくる構成のうまさには大拍手です。
 結構ためになりました。整理整頓という張り紙を張っておくだけなら何もしないのと同じで、そのための改善改革を実施することが大事である、ということは今の職場にも生かしたい。
                                 2006年10月14日   マジンガーXYZ