新・銀幕に俺たちがいた143

『クラッシュ』

 2007年1月9日小学校の始業式の朝、タレント風見しんごさんの長女で小学4年生のえみるちゃんが交差点でトラックに轢かれて死亡した。両親は彼女の無残な姿を目の当たりにして悲鳴をあげた。わたしにも小学2年生の娘がいるので胸がつまった。
 車、車、車がなくては生きていけない今の時代、あぶない綱渡りをして一寸先は闇の毎日を生死を懸けて一秒一秒見えない扉を次から次から開けていきながら障害物競走している、ようなもんです。
 「クラッシュ」2006年のアカデミー作品賞に輝く傑作です。わたしは、労働問題を扱った「スタンドアップ」に取って欲しかったけど、大きな世界的なテーマにまで及ぶこの「クラッシュ」がトップに位置するのは致し方ないと思います。
 クラッシュ。衝突。車と車の衝突を描きながら、アメリカ社会の恥部を暴いていく、その作劇術は凄い。車にはポリスマンが二人乗車している。夜間パトロール中だ。先輩と新米が乗っている。正義感あふれる新米と、マンネリでサラリーマン式に仕事する先輩とは<衝突>の一歩手前でブレーキを踏んでなんとか<間>を置いてチームを組んでいる。この白人のポリスは黒人の男女が乗っている車に眼をつけて緊急停車させる。いやがる黒人女性の下から胸からゆっくりとゆっくりと嘗め回すように身体検査を行う。乗っていたのは黒人夫婦だった。妻は止めなかった夫に怒りをぶつける。白人ポリスにぺこぺこする頼りない上辺だけの夫に失望する。夫は「逆らって逮捕されたら」テレビディレクターの地位への影響を考えて見て見ぬふりをしてしまう。<女性としての尊厳>を傷つけられた妻はそれから夫を事在るごとに責め続けていく。黒人の夫はやけになって夫婦間を傷つけたポリスと人悶着をしでかす。拳銃でポリスを撃ってしまう、ような事態にまで追い込まれてしまう。それを沈めたのはあの時夫婦を身体検査したベテランポリスの助手のえ若手のポリスマンだった。夫婦はもう元にはもう戻らないのか?
 地方検事と妻のサンドラ・ブロックが手を組んで夜のネオン街を楽しそうに歩いている。彼女は前を歩いて来る二人の黒人青年を見て急に曲がってそこを逃げていく。黒人たちは「俺たちを見て逃げやがった」と拳銃を出して追っかける。ふたりの高級車を盗む。強盗だ。「俺たちは何も悪いことをしてねえのに格好だけですぐにみくだしやがる」と格差社会の現実をぐちる。努力もしないで金だけは欲しいぐーたら青年はアメリカからそのまま日本にもさるまねくんたちがそこらへんにおいでのような気もするけどどうでしょう?
 拳銃店にイラン系の父娘がはいってくる。「拳銃と玉をください」「どの拳銃とどの玉が欲しいんですか?」「なんでもいいからくれ」「お前ら帰れ」「テロか?」「なにを」多民族国家ゆえに言葉の障害で気持ちよくお互いの意味を汲み取れずついには人種への偏見がアメリカ人のなかに巣くっていく。父娘の店が強盗に入られる。以前、錠前を直してもらったが主人の父は「もうすこしきちんと直せ」と怒り心頭になる。「ドアががたついているのに錠前だけ直しても意味ない」と金を受け取らずに帰っていった。主人は店を壊されて先の見通しがたたず店じまいにまで追い込まれる。「あの錠前屋のせいだ」と彼を殺しにいく。彼が家に戻ってくるのを待ち伏せして「お前のせいだ」と拳銃をだす。そのとき、「パパ、お帰り」とドアから彼のところへ娘が飛んでいく。「来るなーーー」彼女を父が抱っこした、丁度そのとき主人は引き金をひく。パーン。父は口を大きく開いて悶絶する。出てきた母も悲嘆にくれる。主人は娘を殺したことで真っ白になって顔面蒼白であたりをみる。「パパを守ってあげたよ」「透明なマントで守ったよ」あれっと思って娘の身体を調べる。生きている。主人は確かに撃った筈が娘が生きていることに神の仕業だと思って、人が変わったように魂がぬけたように穏やかな表情になっていた。民族間の怒りといらだちによる<衝突>はテロへの恐怖と象徴でしょう。
 黒人青年を気軽に途中で乗せた若いポリスはおたがいしゃべっていくうちに白人警官のくだらない黒人への差別による恐怖、つまりは「こいつに殺されるかも知れない」と思い、青年が胸に手を入れたのをバックミラーで見て「拳銃だ」と誤判して射殺してしまう。
白いヤングポリスは彼を国道のわき道にころがし、車はガソリンをかけて燃やしてしまう。そこらへんのくずと一緒に燃やしつくす。
天から白いものが振ってくる。「雪だろうか?」ポリスに捕まりかけた黒人テレビディレクターも一緒にくずを燃やしていく。過去を燃やしていく。空からくずのかすだけど一杯集まればこんなに雪のように美しい。俺たちもくずだけど天はそうは思っていないかも知れない。天から見れば俺たちはちっぽけな雪の結晶だ。電話する。愛する妻に電話する。妻は涙して答える。
 転がっていた青年を確認したのは刑事だった。弟だった。闘病中の母に知らせる。悲痛な泣き声が病院に響き渡る。「ママ」「弟はやさしかった」「お前はいつもいない。行っとくれ」母の言葉に無言で病院をあとにする。母と子の<衝突>はアメリカでも同じだ。
 拳銃強盗の粋がっていた黒人青年はアジア系の難民たち数十名を送還中にある組織と画策して言い値で買い取る。そして彼らを解放してやる。一体、何が彼の心に宿ったのかは神のみぞ知る、ということです。
 交通事故だ。高速道路。一台の車が横転している。なかにはあの身体検査された黒人のおくさんが閉じ込められている。ポリスだ。なんと、身体検査した調本人がきた。おくさんは「いやー、あなただけはいやー」しかし、ポリスは「触らないから、どうかおとなしくして」と救出にあたる。ガソリンが引火して燃えだした。他の隊員がポリスを車から離す。「助けて」とおくさんは悲痛な叫び声でポリスに懇願する。ポリスはまた車のなかに入って彼女を引っ張り出す。危機一髪で救出できた。
 そのいやなベテランポリスには年老いた父親がいる。普段世話が出来ない職業のため、施設へいれようと役所に駆け込む。そこの女性官に書類の催促をされる。わけもわからない書類に頭にくる庶民の気持ちはわたしもおんなじです。
 クラッシュ。象徴的な題名です。私事で言えば、給食未払いのとんでもない親たちがいて、まともに支払っている親である私は怒り心頭です。給食費は払えないでも高級車に海外旅行は全然出来るという人種が出てきている。子供が犯罪に染まっていくのも致し方ないですね。クラッシュしても給食費は出させるべきです。同じ民族と言えども金を巡るトラブルは多民族国家とおんなじだ。
                             2007年 2月     マジンガーXYZ