新・銀幕に俺たちがいた146

『フラガール』

 昭和40年の炭鉱町の実話、ということでこの映画だけは映画館で見てやろうと待ちに待っていたけど、わが町にはついに来なかったためDVDが店頭に出る日をカレンダーで一日一日消していきながら、やっと購入して小さい画面なれど思い描いたような話の展開に満足できました。炭鉱を題材にした映画はこれまでも「銀幕に俺たちがいた」「新・銀幕に俺たちがいた」で取り上げてきました。「遠い空の向こうに」(イギリス映画)「ブラス」(イギリス映画)「リトルダンサー」(イギリス映画)「わが谷は緑なりき」(アメリカ映画)「女ひとり大地を行く」(日本映画)「にあんちゃん」(日本映画)などです。炭鉱と言えば<ボタ山>を連想させるけど、「青春の門」(日本映画)はそれの最たる映画なれど、今まで、このサイトで書かなかったのは、あの<ボタ山>を<誇り>とは思わず、そこから抜けだす<負の象徴>として捉えられている主人公・シンスケシャンの青年像に賛同出来ないため、今でも書き込めないでいる、ということです。しかしながら、この「フラガール」の巻頭に出て来る<ボタ山>は「我々労働者たち」の<輝ける象徴>としてまるで「富士山」のように勇ましく描写されていることに大いなる賛同と感謝をしたいです。
 お話は人員削減から閉山もままならない常磐炭鉱を再建する、と言う話なら、まだまだ「感動」的なんでしょうが、現実はそんなにドラマ的にはいかないけど、別な形で、その「再建」の、しかも「実話」というところが、この映画の強みであります。しかも、普通では考えられない<発想>のもとに炭鉱夫の家族の女性たちに「フラダンス」をさせて、常磐炭鉱はつぶれても、その子会社としての「常磐ハワイセンター」の設立を会社が構想していた、ということは凄いことだと思いました。従業員という労働者サイドからすれば会社組織が何を考えているのかは表面上のことしか分からない、というか分からせてもくれない。ここの従業員とて娘や女房が人様の前で肌も露にダンスをする、なんて知ればわたしだって頭にくる、と思います。冨司純子演じる母がダンサー志望の高校に行っている娘を平手打ちする気持ちは分かります。しかし、娘(蒼井優)は純粋にフラダンス指導員(松雪泰子)の美しいダンス演技に魅せられて、母に殴られても家出して練習所で寝泊りしてまでの決意で腕を磨いていく。そのあたりは映画的な力感あふれる描写と彼女たち女優の役者根性で見事なダンスをだんだんとわたしたちに披露していく過程は吸い込まれるほどの魅力にあふれた躍動と美と感動の嵐で胸熱くなる仕上がりには心からの拍手をあげたいです。
 勿論、話には凹凸があってこそ感動へのステップも大きくなるもので、悲しい現実も描かれています。落盤事故でけが人が出た。その娘(山崎静代)はフラダンスショーのバス遠征興業でついに父の死を見取ることなく悲しい帰宅となる。「プロは親の死に目にも逢えんとですか?」と言う女性たちに「そうよ」と答えた指導員は遺族から「この町から出て行ってくれ」と去っていく。駅で引き止める彼女たちはフラ言葉で身振り手振りで松雪先生に留まるように思いを伝える。ベストシーンだと思います。
 蒼井優の兄を演じた豊川悦司の炭鉱夫姿も結構、様になってるし、松雪先生と一杯飲み屋で酒を飲みながら語り合うシーンは印象深いです。東京から辺鄙な炭住へ来た訳ありの先生と閉山という失業目前の不安をかかえている炭鉱夫が傷をなめ合うようにうだをあげている様は大きな時代の流れには勝てない男と女が怒鳴りあいながらわめいているようで、寂しい光景でした。この二人がフラダンスに夢中になって新聞にも掲載されるほどに地域の話題になっていく、炭鉱の女性の純粋な熱意に自分を取り戻していく。それがわかるから「銀幕に俺たちがいた」と言いたいんです。それを見て、現実の若い仕事現場から年食った白髪頭のわたしのような電池切れの熟練は余計者扱いされても、「くそッ」と堪えている。現実はそこまで来ている。
 蒼井優の友達で「ダンスしよう」と誘ってくれたその子は会社から解雇通知を紙切れ一枚で簡単に首を切られた父親と弟、妹とどこかへ行ってしまった。ダンスに浮かれる娘を殴り、先生から銭湯でやっつけられるが、父親の気持ちも痛いほどわかる。解雇された日に帰宅すると肌同然の格好で娘が浮かれていれば、それも仕方ないです。後日、その子は蒼井優に手紙とダンスのときに頭につける手作りの花飾りを贈る。
 華やかな世界のなかには隠された真実があることもしっかりと描いてあるこの映画が映画賞を独占したのは当然だと思います。
 第79回米国アカデミー賞最優秀外国語映画賞部門日本代表作品、第30回日本アカデミー賞最優秀賞、第31回報知映画賞、第19回日刊スポーツ映画大賞、第80回キネマ旬報ベストテン1位、第61回毎日映画コンクール、第49回ブルーリボン賞、他受章している。李相日監督作品。
                                2007年3月            マジンガーXYZ