新・銀幕に俺たちがいた151

『釣りバカ日誌15ハマちゃんに明日はない』

 今や松竹の看板になっている「釣りバカ日誌」ですが釣りをする環境になってない今のわたしにはどうも興味がわかなかった、というか食わずぎらいという映画ファンとしてはなんとも恥ずかしい限りで申し訳なく思ってます。昔昔の小学生時代には父親とともに川へハゼ釣りに自転車で出かけていました。それはどうでもいいのですが、シリーズ17作目である今回の15話は、鈴木建設で経営コンサルタントを依頼して会社の人事についての問題が大きなテーマになっている、というのを何かで目にしたためにじっくりビデオ鑑賞しました。15作目にもなると釣りのシーンはかなり省かれていて、わたしとしてはいい感じで見れました。今回のマドンナである経営コンサルタントを江角マキコが演じている。長身の美女で都会的な強くてカッコいいイメージが濃い彼女ですが、今作の役では昔ながらの日本的でグッと抑えた演技で終始押し通して意外な彼女の面を見させてもらった感じです。ハマちゃんこと浜崎伝助(西田敏行)とスーさんこと鈴木一之助社長(三國連太郎)と(江角マキコ)演じる薫の三者三様の描写はじつに味があった。
 再度、ではなくて改めて第1作から見直してみようと思いました。
 薫が今はやりの他の会社の成果主義に対して疑問を持ちながら鈴木建設の人事について苦しむ場面、とか鈴木社長が経営コンサルタントという仕事自体を批判的に捉えていること、とかは安易なリストラに走る成果主義ばやりな現代への警鐘をさらりとちくりと笑いの映画に投げ入れて、小さな波紋を大きなテーマに木霊させる見事な本と演出だと思います。脚本に山田洋次監督が入っているのはその影響大なのでしょうか?
 成果主義のやりだまにあがる一番の人身御供は何言おう、ハマちゃんでしょう。会社で考えることは休暇をいかに連続で一気に取って釣りに出かける算段をする。ただそれだけのために会社にくる、なんて普通では考えられないことだけど、世の中考えられないことを会社でやっている人間が、「事件」として報道されたり、ワイドショーを賑わせたりすることが余りに多くて、安月給でこつこつ働いているわたしなんかバカに思えるような悪いサラリーマンがわんさかいることには腹が立つより自分がみじめに思えるばかりです。
鈴木社長は数字だけで社員を上から並べて余剰人員を解雇していくなんてもってのほか、と怒って机をバシッと叩く。ここで社長とハマちゃんが二人だけの秘密の釣り仲間であることと、社員をただの歯車としか思っていない経営者が掲げるリストラのお話と、大きくぶつかりあって我々に問題提起してくる。
 薫は役員を前にして最終結果を報告する。「鈴木建設では成果主義で人員削減することは適切ではない」と役員たちを驚かす発言をする。後で社長が薫をフォローする。「先ほどの発言ではあなたは会社に居ずらいでしょう。コンサルタントのトップの方にわたしがお話しましょうか?」薫は涙して感謝する。ダメサラリーマンのハマちゃんでも勤務できる鈴木建設の社長の暖かい言葉にコンサルタントをやめ故郷に帰って幼馴染で彼女を思い続けている水産試験場で働く哲夫(筧利夫)と結婚することになる。
 途中、小津映画「麦秋」を社長の奥さん(奈良岡朋子)がテレビで見ている場面がある。原節子が「あばさん、わたしで良ければ結婚します」という場面が、江角マキコが哲夫の母に「おばさん、わたしでよければ哲夫さんと結婚します」と満面の笑みであの名場面を蘇らせる。
 今一度反省、ということで繰り返しますがシリーズ物は特に食わずぎらいになりがちですが、そのなかに突出した素晴らしい映画が生まれることがあることに気付かされた作品でもありました。ありがとうございました。
 2004年製作。原作・やまざき十三、北見けんいち    監督・朝原雄三  脚本・山田洋次、朝間義隆
                                2007年6月                マジンガーXYZ