新・銀幕に俺たちがいた164

『神様からひと言』

 この作品は映画ではなく、昨年の12月、WOWOWで放送されたドラマです。題名は「神様からひと言」。神様と言えば、「お客様は神様です」という会社で働くほとんどの人が神様という2語から連想する言葉です。このドラマは原作があって、荻原浩という方が書かれたそうです。調べてみると、認知症を題材に映画化されて社会的にも注目された「明日の記憶」の原作者でもあるということが分かりました。会社で現役で労働している私、本当に不勉強で申し訳ないです。遅まきながら、本屋に行って、原作を買ってこようと思ってます。原作を知らずにドラマを見るのは本当?の鑑賞のやり方ではあるのですが、これも一人ひとりの見解だと思います。
 さて、面白かったです。私は、営業とか、事務とか、オフィスで働いておられるホワイトカラーではなく、ブルーカラーの工場労働者なので作品を自分のこととしては確実に把握は出来ません。謂わば、同じサラリーマン、同じ従業員、同じ使用者という給料を貰って生活しているサラリーマンという立場からのひと言を書いてみたいということです。
 主人公佐倉(伊藤淳司)は20代の青年です。もったいないほどの大手広告代理店を辞めて、舞台である中堅食品会社の「珠川食品」に入社してきた佐倉は広告代理店の仕事をやってきたことで会社の宣伝コピーを任され、それを発表すべく役員会議でいろいろな会社の斬新宣伝コピーを出すものの、結局年寄り専務のふるーい提案に役員たちは当たり前のように拍手喝采の時、彼の上司と言い争いからちょっとした小競り合いになり、体よく左遷というかお払い箱のように「窓際サラリーマン」が飛ばされる「お客様相談室」曰く「苦情処理係」に異動させられる。そしてこの部署で働く彼を含める問題社員たちの報復ならぬ抱腹絶倒劇がこのドラマの核であります。ここには七人の問題児が勤務しています。一人目は勿論佐倉くんだが、彼は前の広告会社勤務のとき付き合っていた彼女と失恋してその腹いせで転職したのか分からないが、未だに前の彼女が気になっている。このドラマの冒頭映像は携帯電話にかかってきた留守録の彼女のひと言「わたし、アスパラでよかったのにな」で始まる。そのひと言が気になってドラマの途中途中で留守録を聞いている。これも彼にとっては「「神様からのひと言」ということかも知れない。どこにでもいる青年でしょうか。、二人目はお客様相談室長の本間さん。演じるは田山涼成。腰掛かけに座ったままだがコーヒーだけは拘りがあって自分で入れるんだが、佐倉の初仕事にコーヒーを頼むとトンでもないコーヒーが帰ってくる。それをしかけたのが三人目の30代から40代の篠崎さん。元本社きってのバリバリ営業マン。演じるは何と、最近「新作映画」を監督した正真正銘の映画監督です。その名は陣内孝則。まさに個性派俳優です。佐倉くんに仕事を教えるように室長から言われてきびしくもおかしく教育していく。佐倉くんが仕事始めに電話番を命令される。マニュアルを読んで勉強しておけ、といったやさしい手取り足取りはいっさいなしの実践あるのみの教育だ。電話がかかってくる。誰も出ることなく佐倉に取らせる。「虫をどうしてくれるんだ」「お客様、こちらは珠川食品お客様相談室ですが」「ばかやろう。虫がいたんだよ」「はあ?」と言って電話を切ってしまう。「いたずら電話でした」室長が血相変えて篠崎に「教えてやれ」と言って、「こりゃけっさくだ。先が思いやられるな」で相談室のいろはをやっと佐倉は教えてもらう。四人目は首がいつも左ばかり向いている神保さん。元珠川食品剣道部主将である。右の席に嫌な先輩がいて左ばかり向いていて、ついには言葉も出なくなったのを演じるは個性派の嶋田久作。五人目は紅一点の元美人社長秘書宍戸さんで皆がどうしてゴキブリハウスと言われる玉砕島に飛ばされたのか疑問に思っている。演じているのは原沙知絵。六人目を演じるは脇知弘。机にはフィギュアを飾っているほどの現実には出きないと思うけど、フィギュアおたくの羽沢さん。そして七人目は俳優としては一番古参の小倉一郎が演じる山内さん。私はこの山内さんに自分を投影してしまう。あくまでも心理的な同胞感なのです。彼は新人佐倉の訪問謝罪に付き添いとして出かけるもバス停で発作を起こして病院行きとなる。酸素マスクをしてベッドに眠っている山内を篠崎は「これがサラリーマンの末路だ。彼はいつもこの病院から通勤している。家族はここの医者と看護士ということ。去年の暮れから急に家に帰れなくなって無理に帰ろうとすると発作が起きるんだ」佐倉は「そこまでして勤める理由がないです。辞めりゃいいのに」篠崎は言う。「にいちゃんいくつ?」「25です」「だからそんなこと平気で言えるんだよ。いつでも辞めりゃいい、という甘えもあるし、会社だってやっと入れた新人を無下に首にもしないだろう、とどこかで思っていられる。山内さんは家のローンに息子の大学の学費から、いわば会社に家族を人質にとられて、辞めるに辞められないだよ」というわけで七人のゴキブリさんはお客の苦情と悪戦苦闘する。誠意(謝罪金2万)欲しさに詐欺まがいのお客、一人暮らしの寂しさを紛らわすために電話してくるおばあさん、商品の記載ミスにつけこんで金を要求するチンピラ、などへ抱腹喜劇を織り交ぜて撃退していく彼らの仕事は本社連中は知る由もない。元秘書はお客様からの苦情アンケートは本社では裏をコピー紙にリサイクルして会社のためになっているとか。ここらあたりは辛辣な会社ドラマです。笑いは後で怒りを呼ぶこともあります。
 佐倉くんが本社を行ったり来たりするのだが、会社の裏工作に気づいていく。現実に社会問題化している食品偽装とか消費期日偽装とかも描かれていきます。つまり、お客の立場になった時見えてくる自社の不正が後半の会社乗っ取り問題へと繋がって、結構いろいろ盛りだくさんな今時の会社事情とでも言える作品になっている。
 ところで変な場面が時々挿入されます。題名の通り「神様」風な外人でロングヘアのいつも佐倉から缶ビールを貰って飲んでいる何もしゃべらない人物?です。多分、何か思いつめている時にそうしたくはないのにその思いとは逆な方に引っ張られるように行動してしまう人間心理の心象を実像化したものだと勝手に思いましたが、いかがなものかは見てください。これ、りっぱに映画として通用します。

                     2007年11月        マジンガーXYZ