新・銀幕に俺たちがいた172

     『ナビゲーター
    (ある鉄道員の物語)』

 ケン・ローチ監督の労働問題に真っ向から立ち向かった映画を早く観たいと思いつつやっとDVDで見ることが出来た。題名は「ナビゲーター」で副題に(ある鉄道員の物語)となっている。時は1995年、場所はもちろんイギリスは南ヨークシャーが背景である。イギリス映画は結構、労働者側の映画を製作している。身につまされる内容にはわたしは注目度満点で期待している。イギリスと言えば「紳士の国」というか「傘を片手にシルクハットを被って悠々と闊歩する金持ちの国家」というイメージがその昔あったんだが、今はかなり近い存在に感じる。何故かわが日本映画、特に商業映画では労働問題についての映画がまったく影を潜めている。「精神病のような映画」ばかりで所謂「社会派映画ジャンル」が埋没しているのは日本映画にとっては由々しき時代だと思います。犯罪国家になりさがっているのはそうした映画作家が表に出て来れない「理由」にも一因がありそうだ。犯罪を描写する日本映画はわんさか満開状態です。テレビをそのまま大きい画面にしただけの映画版「相棒」はその最たる作品です。わたしは「相棒」の大ファンで内容はテレビドラマとしては「特捜最前線」以来の出来のいい作品だ。しかし、もっと人間社会のなかに目を向けて映画創りをして欲しいもんです。2004年、カンヌ映画祭を沸かせたオリジナ脚本「誰も知らない」は現在46歳の是枝裕和監督の映画だが社会派映画としての大きな映画である。2006年、今村昌平の息子である天願大介監督の「暗いところで待ち合わせ」は思わぬ労働問題が底に流れる拾い物でした。期待する監督です。NHKの「ハゲタカ」は最近の最高傑作と言っていいほどの労働と経済を真っ向から描いた社会派テレビドラマでした。この作品などテレビが映画を超えてしまっている。これでは寂しいです。
 「ナビゲーター」では民営化された鉄道員たちの厳しい人生が描かれる。大きな組織の歯車にすぎない個人の無力がどうしようもない逆らえない「流れ」に必死で留まろうとするも、ポキンと折れていく労働者たちは自分の投影です。リストラという言葉は鉄道員たちの口からは出てこないものの、仲間が派遣社員へばらばらに出向、というか島流しのように締め出されて面白かった職場はつまらない吹き溜まり場の無味乾燥した人間味ゼロの牢獄になる。ただ利益と稼働率と規則に縛られ、さらに賃金低下はリストラされる前の段階でつぶされる。派遣社員と言えば聞こえはいいが、ただの日雇い労働者に過ぎない。派遣会社へばら撒かれた鉄道員たちのみじめな実態を描く映画は未来のわたしかも知れない。仕事をもらえないときは家に篭るが妻は家の仕事が出来ない夫に辟易して、夫婦の未来も危なくなってくる。妻と離婚し二人の小さな子供とともに鉄道員時代の仕事仲間の家に同居させてもらうが、そのため夫婦のセックスがおもうようにいかない実態などは鬼気迫るほどに真実へ迫っている。派遣会社の会社員というとかっこいい感じだがそんなもんじゃない。規則を破って稼いでいるとき仲間を列車にひき殺されて、規則破りが分かるとまずいため、救急車を呼ぶのを後回しに、瀕死の仲間を線路脇から道路へ運んで車に轢かれたように偽装工作をする。背に腹は変えられない労働者の現実は人ごとではないリアルな今を見た。         2008年5月         マジンガーXYZ