新・銀幕に俺達がいた175

『樹の海』(2004)

 前作の銀幕174「なつのひかり」(TVドラマ)が一人の労働者の自殺を描いてあったが、久し振りにここに書き込もうと選んだ映画がきしくも自殺が主題の「樹の海」になってしまったのは偶然かも知れません。この映画は4話のオムニバスの形で4人の自殺者にまつわる物語から構成されています。すべてのお話に繋がるのが「樹海」という言葉です。つまり富士山麓に広がっている、自殺名所が舞台の映画です。自殺がショッキングな形で見る側を驚かすのではなく、最初に樹海にころがる無残な死体という「物体」を見せることで、自殺を前提に4人の自殺に至る過去をそれぞれ見せられながら「自殺」の善悪を問うより、見せる側と見る側が一緒に考えていこう、という作る側の「姿勢」が見えてきます。監督はこの映画がデビュー作の瀧本智行という人です。彼らスタッフたちは「自殺」を真摯に受け止め、真面目に4人の自殺への可能性を探っていきながら、まるでドキュメンタリースタッフのようにあたかも自分がその演じさせている「自殺者」さんになった感覚でこの映画は俺達に「木霊」を送信する。そうだ。「木霊」という題にしてもよかったなあ、とは思いました。
 わたしのお気に入りのエピソードは飲み屋での二人の男達の会話がまさに俺達の現実を描いていて面白い。東京新橋の夕方の雑踏の中、一流企業(ここは俺と大違いです)に努める山田(津田寛治)が興信所の探偵・三枝(塩見三省)に呼び止められて、そのままある「くまもと」という居酒屋で一枚の写真を見せられる。そこには山田が若い女性と二人で笑ってピースしている幸せな写真になっている。探偵は彼女の樹海での自殺に彼が関係しているのではないか?と調査にやってきたのだ。彼は犯人扱いされたと思い、頭にきてそこを立ち去ろうとするが、三枝さんが必死に止めて飲みなおす。酒はチューハイです。すると2002年日韓ワールドカップで日本が始めてロシアに勝った試合の夜のスナックで見知らぬサッカーファンたちが肩を組み合って喜びの美酒に酔っていたときの写真であった、ことを思い出した。いつしかサラリーマンと探偵は彼女の過去を思い思いに語り始めて、彼女の「自殺」の真相を考えていく。それは自分達の今の「生き方」を考えていくことにもなっていく。店の女定員が飲み題を何度も催促して、止まれず「うるさい、今人の生き死にの話をしてんだ。僕達は」と大きな「喝」を入れるショットは、監督曰く「あれはテレはあったがどうしても僕達スタッフが観客に向かって自分達の姿勢をストレートに述べたかっただけなんです」という訳だったが、強烈に残像に残る心地よい空気感だった。山田はへそくりの一万円札を出して2件目にいきましょう、と言って二人は笑って歌を口ずさんでどこかへ消えていく。それは自殺した彼女が好きだった「遠い世界に」である。エンドロールでも流れます。
 山田がタバコを買いに外へ出てこの歌を口ずさんでいると「とおいせかいにーー」「あっそういうことか」と、なるが、確かに「自殺」願望の歌にも聞こえます?やはり一流企業に勤めていて上司に不倫まではいかず一方的なストーカーになってその挙句自殺しそこなった女はひっそりと駅のキヨスクの販売員になってるんだけど、その彼女を井川遥が演じている。これがいいです。
井川遥ファンとしてはいろいろな役柄で見させてもらってますが今回は「女優」として新鮮でした
。この映画、2004年東京国際映画祭で日本映画ある視点部門で作品賞(瀧本智行)、特別賞(津田寛治)授賞の栄誉に輝いた。


                          2008年    9月    マジンガーXYZ