援助者の役割と留意点


1.年金申請を権利として位置付ける

 年金申請の話をしても、障害年金制度そのものを知らなかったり、「一応働いているから」等と申請をためらう人が少なくありません。これは後で述べる障害認知とも 関連が深いと思われますが、それ以上に無拠出の障害基礎年金制度が国民に十分に知らされていないことが原因でしょう。障害基礎年金は拠出無拠出を問わず、障害者に とって権利としての所得保障制度であるということをきちんと踏まえる必要があります。
 知的障害者にとって、これまでは年金が本人の自立に生かされることが少なかった、ということも言えるでしょう。しかし近年、グループホームが徐々に拡充され、 年金があるか無いかが、将来の生活の場所の選択肢を増やし、暮らしの中身を豊かにする鍵、と考えられるようになってきました。知的障害者にとっての障害年金の意義は、 今後益々高まっていくに違いありません。

2.年金受給の可否について予断を持たない

 先に軽度の人の年金受給率は47.7%と書きましたが、実際に年金を申請した人のうちで、不支給となった人の割合は8.9%でした。つまり今までのところ、申請した 人の大半は受給しているということです。もちろん、筆者も誰彼なく申請を勧めていた訳ではありませんが、これまで年金申請に関わった人達を見ていると、「年金を もらっていなかった最大の理由は、申請しなかったからだ」と言いたくなります。また一度不支給になった人でも、日常生活能力の判断基準についての誤解を 修正して再度申請し、受給できた人が少なくありません。まずは果敢にチャレンジしてみましょう。

3.知的障害を認めることの困難さを理解する

 不支給になった診断書を見ていて、すぐ気がつくのは、日常生活能力等が、実際よりかなり高く書かれていることです。その最大の原因は先ほど述べた、認定基準に 対する誤解だと思いますが、親や本人の気持ちの中に原因があることも少なくありません。
 知的障害についての家族の評価は往々にして客観性を欠いています。俗に言う「親の欲目」ですが、これまで自分の子供の一人暮らしなど考えもしなかった、 正確に言うと考えられなかった親にとって、年金申請にあたって、わが子の能力を健常者と同様の条件下で評価しろといわれても、すぐにはピンと来ないことでは ないでしょうか。また、今の社会では知的障害への偏見は大変根強いものがあります。ですから知的障害を正面から見据えるということは本当に難しいことです。特に 軽度であればあるほどそうだと思います。
 本人にとっても知的障害を認めることは、親と同様、あるいは親以上に辛いことです。今まで障害があるがゆえに嫌な思いを繰り返ししてきた訳ですから。 障害年金を申請するということは、自分の障害を認めて申し立てることであり、受給できたということは、それが間違いないと認められたことに他なりません。特に軽度の 障害の人にとっては、これは大きな葛藤でしょう。療育手帳は持っていても、年金までは・・・とためらう人も珍しくありません。このような場合は、年金申請をする前に、 障害についての考え方や、将来設計、年金受給の意味等について、よく話し合う必要があります。ただ年金がもらえればいいということではなく、本人や親の心の中に 年金受給の意味がきちんと位置付けられることが大切です。
 また、診察場面で本人が隣にいたので、あまりできないことばかり言えなかった、というお母さんもいました。そのような点への配慮を医療機関に求めていくのも 援助者の役割でしょう。

4.疑問に思ったことは確認する

 年金申請をする場合、市町村役場の年金担当課に出向くことになります。しかし残念なことに、そこで間違った説明を受け、申請を諦めてしまうことがよくあります。 残念ですが、担当窓口の職員がすべて正確な知識をもって対応しているとは言いがたいのが現状のようです。
 説明に疑問がある時は、きちんと根拠を確認したり、直接年金事務所へ照会したり、他の援助者に助言を求めたりすることが必要でしょう。

5.理解ある医師を見つける

 現行制度では年金診断書は医師しか書けませんが、精神科医だからと言って、必ずしも知的障害について理解があるとは限りません。ですから医師の選択が大変重要に なります。そしてこの点が最も援助者の頭を悩ますところです。また、年金診断書は通常の治療のための診断書とは異なりますので、書き慣れていない医師も多いのでは ないでしょうか。記入の際の基準についても理解が異なる場合がありますから、援助者が率直に医師と話し合うことが大切です。そうして理解ある医師が増えることで、 年金申請の裾野が広がっていくと思われます。

6.年金申請は最後まで見届ける

 通常の場合、年金申請の援助は親に対して行うことになります。手続きのポイントを説明し、後は大丈夫だろうと思っても、結局そのまま手続きが止まってしまう ことがよくあります。手慣れればどうということはないのでしょうが、申請する人達には皆初めての経験です。それでなくても役所の窓口に行くと緊張します。まして 申立書を書くことなど、大変な難関なのです。
 年金が受給できるかどうかは、本人にとって一大事。また、却下された時はその理由を検討することも大切です。最後まで見届けるつもりで丁寧な援助が望まれます。

7.表現力を磨き、熱意を持って申請する

 多くの課題をクリヤして申請しても、残念ながら却下されるケースがあります。その多くは容認されたケースと内容的にさほど差があるとは思えませんし、実際に 再申請して受給に至ったケースも少なくありません。そのような場合、年金受給の可否を分けたものは何なのでしょうか。
 それは申立書の文面(それは診断書にも反映される)や、年金事務所が行う追加調査の際に発揮される、家族等の「表現力」ではないかと思います。 いかに本人の障害状況を克明に具体的に描けるか。そのためには十分な観察や表現力は不可欠です。
 また、できないことを並べ立てるというのは、まるであら捜しをしているようで、本人等にとって決して愉快なことではありません。それをやりぬくためには、年金 受給の必要性や権利性に対する確信が必要です。逆に言うと、これらが弱いケースは年金受給に結び付きにくいということになります。
 現行制度では、本人の障害は申立書や診断書という書面を通してしか、審査に反映されない仕組みになっています。そこでは援助者の表現力や家族の熱意が大きく物を 言うと思います。



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