答えは「消救車?」

 そう言えば、近頃、更新をしていなかった。何だかんだいって時間が無かったのもあるが。ひさしぶりの更新である。これまで結構、1年前とかの新聞記事の話が続いていたので、今回の話は最新の記事からである。(2002/8/1日現在)

 と、言う訳で今回はこの珍妙なる新車両「消救車」というモノを取り上げる。
「またまた、子供の思いつきじゃないんだから、そんなアホな車両、ある筈がないじゃないか」
 等と、タカをくくっていてはいけない。幸か不幸か、この車両は実在する。我らがHPからリンクしているGoogleで「消救車」の検索ワードを入れれば実物にお目にかかる事が出来る。

 とりあえず、彼らの言い分を聞いて見ると……(2002/7/23、AOLの新車情報より抜粋)

「FFA-001」(Fire Fighting Ambulance-001)は、消防車と救急車の機能を併せ持つ「世界初!」(カタログ)の特殊車両。火災や災害現場でけが人が多ければ、救急車として病院へ搬送。その必要がなければ消防車として利用と、状況に応じた使い分けができる。ちなみに消防と救急を同時に行うことはできないという。
価格は、1台2000.0万円(予価)。普通消防車は約1500.0万円、救急車は約900.0万円だから、2台購入するよりはお得。予算や駐車スペースの限られた、中小都市の自治体などからのニーズを見込む。

救急車としての機能は、ストレッチャー(担架)2台、血圧計や人工酸素蘇生&吸入装置など、普通の救急車と同等の装置を搭載する。また消防車としては、ハシゴ車ではない「普通消防ポンプ車」と同じ、1分間に2400リッターの放水能力を持つポンプを車両後部に備える。救急車部分は座席に変更することもでき、その場合は9名(普通消防車は6名)が乗車可能。人員輸送にも使える。

2002年に消防庁の「補助規格」が改正され、スチール以外の材質を車体構造に採用することが許可された。消救車こと「FFA-001」では、ボディ素材にFRPを採用し、約10%の軽量化を図った。加えて設計自由度が高まり、救急車向けのスペースを確保できるようなったという。

 ということである。これを一読して

「つかえね〜〜〜」

 と思った人、70点。逆に、

「何かはっきりと解らんけど、すごそう」

 と思った人、30点。

 どこからそんな点数が出てきたのかって? それは、ある意味どちらも正しいし、間違っているからである。
 そもそも、このような2つの異なるハードウェアを合体させた場合、互いの長所が生かされ、予想以上の能力を持ったスーパーハードになるか、互いの機能が足を引っ張り合って、駄作に終わるかのどちらかである。しかも、歴史的に見れば、後者の方が圧倒的に多い。比較的前者に近いのは10特ナイフ、後者の例は航空戦艦「伊勢」「日向」と言った所か。
 今回の「消救車」の場合、「ちなみに、消防と救急を同時に行う事はできない」とある辺りで、既に、道具として自己矛盾に陥っている。姫はじめ氏にこの話をすると、

「火ぃ消すか、人、助けるか、どっちかにせんかい!!」

 そう。これが普通の人間の反応である。なら、「つかえね〜〜〜」と思った人が100点で「何かはっきりと解らんけど、すごそう」と思った人が0点じゃないのか?
 だが、問題はそこまで単純ではなかった。
 件の記事の本物を見た人なら解ると思うが、実は記者会見時のムービーが付いている。そこで、社長が「消救車」を作った経緯等を語ってくれるのだが、彼の言い分を要約するなら、こうである。

「消防車と救急車。2台とも救急活動には必須の車両である。だが、いざ防災活動を開始した場合、この2台が同時に災害現場に到着する、という事は(特に日本の道路事情では)あり得ない。だが、どちらか先に到着した方からでも、『消防』と『救急』の2つの活動を同時に開始しなければならない場合が多々存在する。だから、この2つの機能を1つに纏めた『消救車』を制作した……」

 要するに、着眼点は非常に利に適っており、全く以て正しいのである。むしろ、このような部分に着眼できるかどうかが、真の意味での才能を問われる所なのだ。そういう意味では先ほどの点数は逆なのだが、そうなっていないのは実際に出来上がったモノの出来のせいである。恐らく、着眼が正しすぎた故に、両方の機能を充実させすぎてしまい、結果として器用貧乏な車両になってしまったと思われる。

 まず、「消防」と「救急」の能力を同時には生かしきれない所。「救急車」は結局「病院」にはなれない。そうである以上、救急車に乗せたけが人を、速やかに病院に運ばなければならないのだが、消防能力が通常の消防車と同等なので、この車両がいなくなってしまうと消火活動ができなくなってしまう。
 なら、追加で消防車か救急車を1台……来させるぐらいなら、最初から「豪華な救急セットを積んだ消防車」か「ある程度の消化能力を持たせた救急車」で十分だった筈だ。その方がコストも節約できるし。

 次に売り込むべき場所。「予算の少ない中小の自治体に……」こんなモノを売るんじゃねぇ!!
 「消救車」の正しいミッションを考えるなら

 救急車や消防車と共に緊急出動→到着後、救急車がいないなら救急活動、消防車がいないなら消防活動。どちらもいない場合は、消火をしつつけが人を収容、本職の到着を待つ→本職が来たら、基本的には本職に仕事を譲り、けが人を収容しているなら、そのまま病院へ……

 となる筈である。つまり、本職たる「消防車」か「救急車」がいなければ、その本領を発揮しきれないのだ。(まぁ、「つなぎ」の車両とでも言うか、「フォワード」だからねぇ……)だから、これは消防車と救急車の両方を揃えている自治体に売り込まなければならない。
 せめて「救急」部分が患者を収納した後、分離・自走可能ならもう少し評価も変わったのだが……

 また、資金の無い自治体に売り込んだとして、こいつは消防だけでなく救急もできるので、必然的に普段の救急活動(急患を病院にかつぎ込む等)もこいつで行う必要がある。そうなった時、こいつは図体が大きすぎて取り回しがしにくく、そもそも、消防に使う部分は全くの無用の長物となってしまう。

 最後に、FRP製である事。スチール製の車両と比べると、10%程、車体が軽くなったらしいが……

FRPって、プラスチックやんけ!!

 まぁ、数百度ぐらいならプラスチックでも耐えるのだが、火災現場の炎の温度はと言うと、1200度はある。鉄骨が溶けるような火力だった場合、最低でも1500度。現場に突っ込む訳じゃないにしてもFRPでは不安が残る。

 最後に総論として

「着想は非常に良かったが、その着想を正しい形にするのは難しい」

 それでは、また次回、お会いしましょう。

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