[42−01] 次の記述中の[ ]の部分にそのわく内の数字に当る下の(1)〜(5)までの語を入れた場合,記述に誤りを生ずるのはどれか。

 名誉毀損罪の構成要件を規定するのは刑法第230条だけであり第230条の2は刑事訴訟における証明に関する規定にすぎないとすると,行為者が摘示した事実を真実と誤信した場合は故意が[(1)]ことになる。

 これに対し第230条の2を構成要件阻却の規定とみる説や違法性阻却の規定とみる説もある。

 構成要件を阻却するとする説の中でも「真実ナルコト」が構成要件を阻却すると摘示した事実を真実であると誤信した場合は故意が[(2)]ことになるのに対し「真実ナルコトノ証明アリタル」ことが構成要件を阻却すると考えると摘示した事実の真実であることが証明できると誤信した場合は故意が[(3)]ことになる。

 他方,違法性阻却説でも違法性阻却事由の錯誤を事実の錯誤とみる説をとるか,またはそれを法律の錯誤とはみるが故意には違法性の認識が必要であるとする説をとると,構成要件阻却説と[(4)]結論に達する。

 さらに摘示した事実を真実であると誤信するについて過失がない場合に限り罰しないとする立場もあるが,この立場はその誤信を事実の錯誤とみても法律の錯誤とみても「事実の不知は罰せず法の不知は罰する」法格言と[(5)]する。

(1) あ る

(2) な い

(3) な い

(4) 同一の

(5) 一 致

<参考条文>刑法230条1項 公然事実ヲ摘示シ人ノ名誉ヲ毀損シタル者ハ其事実ノ有無ヲ問ハス三年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス。

刑法230条ノ2第1項 前条第1項ノ行為公共ノ利害ニ関スル事実ニ係リ其目的専ラ公益ヲ図ルニ出タルモノト認ムルトキハ事実ノ真否ヲ判断シ真実ナルコトノ証明アリタルトキハ之ヲ罰セス。

[42−03] 甲は乙と親しくなり合意の上性的関係を結んだ。甲の思い違いに関する次の記述のうち正しいものはどれか。

(1) 甲は乙が12歳であると思ったが,事実は14歳であった。これは事実の錯誤の問題である。

(2) 甲は乙が14歳であると思ったが,事実は12歳であった。これは事実の欠缺の問題である。

(3) 乙は14歳であり甲はそれを知っていたが,幼年者姦淫罪(177条後段)は14歳の者についても成立すると思っていた。これは法律の錯誤の問題である。

(4) 乙は12歳であり甲はそれを知っていたが11歳未満の者のみ幼年者姦淫罪が成立すると思った。これは幻覚犯の問題である。

(5) 乙は12歳であり甲はそれを知っていたが承諾があれば幼年者姦淫罪は成立しないと思っていた。これは法律の錯誤の問題である。

<参考条文>

刑法第177条

 暴行又は脅迫を以って13歳以上の婦女を姦淫したる者は強姦の罪となし2年以上の有期懲役に処す。13歳に満たざる婦女を姦淫したる者亦同し。

[42−06] 刑法は次の場合には刑の減軽または免除を規定しているが,その理由として正しいのは,どれか。

(1) 過剰防衛の場合は責任が軽いことがあるからである。

(2) 心神耗弱の場合は犯人の反社会性が弱いためである。

(3) 自首の場合,これによって行為の違法性が減少するからである。

(4) 障碍未遂は結果発生を防止する政策的理由があるからである。

(5) 従犯は期待可能性の程度が低いからである。

[42−08] 下記の言葉の中で,文中の のどれにもあてはまらないのはとれか。

酒を飲めば必ず人を傷つける事を知っている者が,ある人を日本刀で殺すつもりで,酒を飲み自らを心神喪失の状況におとしいれ,その結果,実際に人を殺してしまった。このようなことを という。この場合,飲酒行為そのものを と見る説がある。しかしこの説によれば殺意をもって飲酒した者が,そのまま眠ってしまった場合に が成立することになる。これは社会通念から考えると無理であろう。これに対して泥酔中の殺害行為そのものに実行の着手をみとめるべきであるとの説があるが,これは行為と の同時存在の原則に反することになる。このような場合は,故意犯はなかなか認めにくいが を認めることは容易であろう。

(1) 責任能力

(2) 実行行為

(3) 原因において自由な行為

(4) 過  失

(5) 未  遂

[42−11] 住居侵入罪に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。

(1) 家出中の息子が父親の物を盗み出す目的で,夜半無断で窓から侵入した場合,住居侵入罪が成立する。

(2) 初めて訪問した家の応接間に通された昔が,家人に無断で次の間の寝室に立ち入った場合,住居侵入罪が成立する。

(3) 賃借人が,賃貸借契約終了後もいぜんとして立ち退かないので,家主が強制的に家財道具を運び出す目的で部屋に入った場合,住居侵入罪は成立しない。

(4) 友人のアパ-トを訪れたところ,あいにく留守だったが,たまたま鍵がかかっていなかったので,あがりこんで待っていた場合,住居侵入罪は成立しない。

(5) 無銭飲食の目的で飲食店に入った場合,住居侵入罪は成立しない。

[42−13] 不法領得の意思に関する以下の記述のうち誤っているものはどれか。

(1) 不法領得の意思を所有者のごとく使用・処分する意思と解すれば,他人の自動車を無断で乗りまわし,遠隔の地に乗り捨てる行為は窃盗罪となる。

(2) 不法額得の意思を経済的用法に従って,使用・収益する意思と解すれば,他人の自動車を無断で乗りまわし,元の場所に戻しておいた場合でも窃盗罪となることもある。

(3) 不法領得の意思を要しないものと解すれば,反対説によるよりも,毀棄罪の成立する場合が少なくなる。

(4) 不法領得の意思を要しないものと解すれば,いわゆる使用窃盗も窃盗罪として認め易くなる。

(5) 不法額得の意思を要しないものと解すれば,倉庫番が倉庫在中の米俵の数の不足を隠すために倉庫内の米俵から少しずつ抜きとって,米俵をつくり米俵数を合わせる行為は窃盗罪となる

[42−17] 甲は,乙に出資してもらおうと思い,たまたま持っていた丙の名刺に「甲の事業に自分も出資するから,貴殿も出資されたい」と記入した上,乙のところへ行き「共同出資してくれないか」と言って名刺を示した。私文書偽造罪の成否に関し,正しいものはどれか。

(1) 甲の記入した名刺は,私文書偽造罪にいう「権利,義務又ハ事実証明ニ関スル文書」にあたらないから,私文書偽造罪は成立しない。

(2) 甲は丙の名刺を利用して依頼状を作ったのであり,丙の名義を偽造したのではないから,私文書偽造罪は成立しない。

(3) 甲は丙の名刺に虚偽記載をしたものであるが,刑法は一般の私文書に関しては虚偽記載を罰しないから,私文書偽造罪は成立しない。

(4) 甲は丙の名義を偽ったのではなく,丙の真正な名刺を使ったのであるから,私文書偽造罪ではなく,私文書変造罪が成立する。

(5) 甲は丙の名刺を利用したが,丙の印章又は署名を使用したのではないから私文書偽造罪は成立しない。

[42−21] 甲はタクシーの運転手から現金を強奪して逃げようと企て,短刀を買い,これを隠し持ってタクシーを呼び止め,所持金もないのに乗客をよそおって,某地点まで運転するよう言いつけてタクシーに乗り込んだ。ところが,途中で運転手が用事を思い出し,一時停車して,公衆電話ボックスに入ったので,甲は,運転台の物入れを破壊して現金を持ち去った。甲の罪責に関する次の気述のうち誤りはどれか。ただし,刀剣不法所持罪については問わないものとする。

(1) 甲が短刀を購入した点は強盗予備罪である。

(2) 甲が,短刀を隠し持って車に乗り込んだ点は強盗未遂罪である。

(3) 甲が,所持金のないのを知って,タクシーを走らせた点は詐欺罪である。

(4) 甲がタクシーの物入れを破壊した点は器物損壊罪である。

(5) 甲が現金を持ち去った点は窃盗罪である。

[42−23] 金融会社の代表取締役甲は,資金に困っている友人乙の依頼に応じ,回収をすることができないことがわかっていたが,手許に保管する会社の現金500万円を無担保で友人乙に貸し付けた。その後回収は不可能となった。この場合,判決は甲の業務上横領罪をみとめず,背任罪とした。この判決と矛盾する結論はどれか。

(1) 横領罪は事実行為に対するものであり,背任罪は法律行為について成立する。

(2) 横領罪は財物に対するものであり,背任罪は財産上の利益について成立するものである。

(3) 横領罪は自己の計算において行なうものであり,背任罪は本人の計算において行なうものである。

(4) 横領罪は抽象的(一般的)権限を越えるものであり,背任罪は抽象的(一般的)権限の濫用である。

(5) 横領罪は自己の名義で行なうものであり,背任罪は本人の名義で行なうものである。

[42−26] 懲役刑と禁こ刑を統合すべきであるという意見があるが,次のうち両制度を存続するための論拠となり得ないものはどれか。

(1) 非破廉恥罪と破廉恥罪を区別する必要がある。

(2) 犯罪によっては定役を科すほうが好ましいものがある。

(3) 故意と過失とはその責任の質を異にする。

(4) 犯人にはさまざまの種類があるので,刑の執行の際,行政機関たる行政官庁で区別して執行すべきである。

(5) 両者を区別するにしても,行刑機関の裁量にまかすのは妥当でない。

[42−29] 内乱罪と騒擾罪についての次の記述のうち,誤りはどれか。

(1) 内乱罪は朝憲紊乱を目的とする典型的な政治犯であって処断刑は禁錮刑であるが,騒擾罪は政治犯ではなくて処断刑も懲役と禁錮が選択刑となっている。

(2) 内乱罪の暴動は朝憲紊乱の手段であるから程度の高いものを含み,殺人,放火等の行為も含まれるが,騒擾罪においては殺人,放火は別罪を構成する。

(3) 内乱罪も騒擾罪も多衆の関与する衆合犯であり,加担者の演じた役割によって法定刑に軽重がある。

(4) 内乱罪も騒擾罪も保護法益は国家的法益であるが,内乱罪は国家の存立をあやうくするのに対し,騒擾罪は一地方における国家権力の行使を妨げるにある。

(5) 内乱罪には予備・陰謀を処罰する規定があるが,騒擾罪にはない。

[42−33] 次の場合のうち刑法第65条2項によって,甲に通常の刑が科せられるのはどれか。

(1) 甲は乙の息子丙を教唆して,乙の金を盗ませた。

(2) 甲は乙の息子丙を教唆して,被告人乙の証拠を湮滅させた。

(3) 甲は乙の息子丙を教唆して,重病の乙を山に運ばせて遺棄させた。

(4) 甲は医師乙を教唆して,裁判所に提出する診断書に虚偽の記載をさせた。

(5) 甲は友人乙を教唆して,自己の刑事被告事件の裁判において偽証させた。

<参考条文>

刑法第65条2項

 身分ニ因リ特ニ刑ノ軽重アルトキハ其身分ナキ者ニハ通常ノ刑ヲ科ス

[42−39] 甲女は,1人でホテルの一室に宿泊中突然侵入してきた乙男に襲われ,やむをえず,側にあったホテル備付の灰皿を乙に投げつけ難をまぬがれた。そのため,乙は顔面を負傷し,灰皿は床に落ちて砕けた。甲の罪責につき正しいものはどれか。

(1) 乙を負傷させた点も灰皿を壊した点もともに正当防衛だから,犯罪は成立しない。

(2) 乙を負傷させた点は過剰防衛だから傷害罪,灰皿を壊した点は緊急避難だから無罪である。

(3) 乙を負傷させた点は正当防衛で無罪,灰皿を壊した点は器物損壊罪が成立する。

(4) 乙を負傷させた点も灰皿を壊した点もともに緊急避難だから,犯罪は成すしない。

(5) 乙を負傷させた点は正当防衛であり灰皿を壊した点は緊急避難だから,ともに犯罪は成立しない。

[42−43] 次の場合のうち,いわゆる極端従属性説によれば間接正犯となり,いわゆる制限従属性説によれば教唆犯になるのはどれか。

(1) 甲は丙の13歳になる子乙をそそのかし丙の家から金を持ち出させ,その金でいっしょに遊んだ。

(2) 甲は13歳の乙が宣誓のうえ証言することを知り,これをそそのかして虚偽の証言をさせた。

(3) 甲は友人乙をそそのかし自分の父丙を殺させた。

(4) 甲は丙名義の文書を偽造しようと思い情を知らない印判屋乙に頼んで丙の印章をつくらせた。

(5) 甲は乙が酒を飲むと凶暴になって,けんかをするくせがあることを知り,丙をなぐらせようと思って乙丙2人と共に酒を飲み乙は泥酔のあげく心神喪失の状態となり丙をなぐった。

[42−45] 次のうち正しいものはどれか。

(1) 甲をでき死させるつもりで川に投げ込んだが,甲は落ちるときに,橋桁に頭を打ちつけて死んだ場合は,方法の錯誤である。

(2) 甲にあてるつもりで石を投げたところ,そばにいた乙にあたって,乙に傷を負わせた場合は客体の錯誤である。

(3) 甲にあてるつもりで石を投げたところ,そばにいた乙にあたった。この場合未必の故意を認定することが出来る場合もあるが,なかったものとすると,法定的符合説と抽象的符合説とでは結論が異なる。

(4) 甲にあてるつもりで石を投げたところ,甲にあたらないで,甲のつれていた犬にあたり犬が死んだ。この場合犬に対する未必の故意はなくても,付近の家の窓ガラスを壊すかもしれないという未必の故意があったとすれば,法定的符合説の立場によれば器物損壊罪が成立する。

(5) 甲にあてるつもりで石を投げたところ,甲にあたらないで,甲のつれていた犬にあたり犬が死んだ。この場合未必の故意を認定することができる場合もあるが,なかったものとすると,法定的符合説と具体的符合説とでは結論が異なる。

[42−48] 甲は定期券を使用して電車に乗っていたが,下車したとき定期券の有効期間が過ぎているのに気が付いたが,なにくわぬ顔をして改札係員に定期券を示して,怪しまれることなく改札口を通貨した。甲の罪責に関する次の記述のうち正しいものはどれか。

(1) 乗車駅の改札係員を誤信させて乗車の利益を得たのであるから,詐欺罪が成立する。

(2) 降車駅の改札係員を誤信させて乗車賃の支払を免れたのであるから,詐欺罪が成立する。

(3) 乗車駅および降車駅いずれの改札係員に対しても欺罔行為がなかったのであるから,詐欺罪は成立しない。

(4) 単なる乗車賃支払債務の不履行にすぎないから,詐欺罪は成立しない。

(5) 乗車駅および降車駅いずれの改札係員にも処分行為がなかったのであるから,詐欺罪は成立しない。

[42−53] 次の場合のうち,行為者の目的とした犯罪につき実行の着手があったと認められないものはどれか。

(1) 窃盗の目的で米俵のつまっている他人の倉庫の扉を開いたとき。

(2) 殺人の目的で毒まんじゅうを相手方に手渡したとき。

(3) 詐欺の目的で保険金のかかった自分の家に放火して半焼させた上,失火をよそおって保険会社に保険金の支払いを請求したとき。

(4) 名誉毀損の目的で他人の非行を書いたビラ数十枚を謄写版で印刷したとき。

(5) 賭博の目的で金銭を賭け花札を配り始めたとき。

[42−55] ホテルの女子従業員甲は宿泊客の衣類にアイロンをかけていたが,終了後,うっかり電源からアイロンのコードをはずし忘れ,そのまま放置して帰宅した。そのためアイロンの過熱から出火し,ホテルは全焼した。乙はホテルの夜警員であるが,当夜ねむりすぎたため所定の時刻に巡回できなかった。もし乙が所定の時刻に巡回していたなら,そのホテルの火事を未然に防止できたはずであった。甲乙の刑事責任如何。ただし,業務上の過失は問わないものとする。

(1) 甲は失火罪,乙は犯罪不成立

(2) 甲は犯罪不成立,乙は失火罪

(3) 甲は失火罪,乙はその従犯

(4) 甲・乙とも失火罪の共同正犯

(5) 甲・乙とも失火罪

[42−58] 次の事項のうち罪刑法定主義の内容となっているものはどれか。

(1) 裁判時法の刑が,行為時法の刑より軽いときは,必ず裁判時法を適用しなければならない。

(2) 刑法各則の規定について二つ以上の異なった解釈がある場合には,必ず被告人に最も有利なものを適用しなければならない。

(3) 裁判官は悪法でもまた適用しなければならない。

(4) すでに無罪の確定判決があった場合には,後に新たな証拠が発見されても,それにより処罰することはできない。

(5) 外国で行なわれた行為が日本刑法で犯罪とされる場合でも,行為地法で犯罪とならなければ処罰できない。

[42−60] 甲は乙と窃盗を共謀して,夜間丙の家に忍び入り,それぞれ金品を手に入れ帰ろうとしたところ,甲は隣室から聞こえてくる会話の内容に同情して,乙に「盗みを止めて帰ろう」といったが,乙は承知しなかった。そこで甲は自分だけ金品をもとの場所に返し,乙と共に丙の家を出た。ところが,門を出てまもなく,家人が追いかけてきたので,甲はいちはやくのがれたが,乙はつかまりそうになったので,短刀をふりまわしておどし,ようやく逃走した。甲の罪責は住居侵入罪のほかいずれが成立するか。

(1) 窃盗罪の既遂

(2) 窃盗罪の障害未遂

(3) 窃盗罪の中止未遂

(4) 事後強盗罪の既遂

(5) 事後強盗罪の中止未遂


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