<夏>B
  <
軽鴨十句>
        処理場のふたつの水輪軽鴨(かる)の影
      
       十二羽の軽鴨の子の波重なりて

       軽鴨の子の育ちて水輪くつきりと

       軽鴨の親雛のうしろで餌ひらふ

       軽鴨のよじり頸掻く足太し

       かたまりて軽鴨親子のうごく波

      しなやかにカルガモの頸水さぐる

      溝に落ちもどり水掻く軽鴨の雛

      処理場に降りしカルガモ波紋なす

      カルガモの発ちし処理池水たいら
      
           


    1 海渡る車の灯り大百足

    2 ひからびてくの字になりし窓辺の蚊

    3 虹くぐり飛行機屋根を越えゆけり
     

    4 窓よぎる虹の袂に女ゐたり

    5 雲ぬけて隣のまちへ降りる虹

    6 海月来て海の深さを忘れたり

    7 妻の眼のうすきぬめりや夜の秋

    8 通し鴨岸で頸伸ぶ梓川

    9 倒木をくぐり岩這ふ滝の水

    10  屋根近く水せりあがる土用かな

    11 顔つくる舟の客ゐて夏の雲

    12 海へゆく流燈よれてひろがりて

    13 流燈の明りもみあふ沖の水

    14 水打つてにはかに足のかるくなる

    15 水をゆく蛇のくねりや妻の眉

    16 水鉄砲ほんとに水の出てきたる

    17 頸よぢてカルガモ水をさぐりをり

    18 うつすらと水輪なしたる浮巣かな

    19 トロ箱につぶれた蟹の足のぞく

    20 桟橋に夕焼け寄るやめし暖簾

    21 銀蠅を打つて水飲む午前二時

    22 断水の町ゆくバケツところてん

    23 蜘蛛の囲の雨粒いつかなくなりて

    24 駅の蟻雨水さけてゆきもどり

    25 潰れたる蟻塚を打つ雨の音

    26 血ぶくれの蚊を打ちすえる化粧壁

    27 水踏んで天へと向ふ滝のぼり

    28 渋団扇便所の闇をまたぎけり

    29 水はねて鮎のぼりたる吉野川

    30 釣られきて水漏らしたる鮎の顎

    31 いざゆかん螢舞ひとぶ水の里

    32 短夜やテレビの上の豆人形

    33 女下駄ぬいだるままの宿浴衣

    34 舟べりに鵜の並びたる午後の川

    35 鵜の首をさすり水やる鵜匠かな

    36 夕立ちの水輪かさなる町の川

    37 湧水に川床舞ふや月見草

    38 藻の花に木漏れ日ゆれてもみあふて

    39 水を踏む牛の車の夏帽子

    40 水甕に妻の眼浮くや夜の秋

    41 滝つぼにゆるりと水のもどりたる

    42 滝落ちて裏の石段ゆるみけり

    43 観光船横すべりする滝の水

    44 一枚の布のごとくの滝の水

    45 滝越えて滝の水音迫りけり

    46 露天湯に滝の水くる宿明り

    47 棹ゆきて鳰の浮巣のゆらめきて
 
    48 つらなりて水郷をゆく梅雨の舟

    49 鮎竿をかつぎ流木またぎをり

    50 塩焼きの鮎の歯茎を噛みしだく

    51 連れ立つや絵皿に残る鮎の骨

    52 まがりゆく川の瀬水の鮎の竿

    53 はじかれて再び水をのぼる鮎

    54 川水にのたりともやふ鵜舟かな

    55 魚を出す鵜の眼に火の粉飛び散りて

    56 水のぼり水によれゆく鮎のゐて
    
    57 足早に軒風鈴の横丁ゆく

    58 溝水の青田の向こふ大河なる

    59 水暮れて渡良瀬橋ゆく宿浴衣

    60 露天湯に水音したる鮎の宿

    61 水の路たどりて果ての雲の峰

    62 蚯蚓寄る蛇口のそばの忘れ水

    63 干竿の風に吹かれる鵜縄かな

    64 迷い出て噴水あるや空かしぐ

    65 水はやき岩のくぼみに濁り鮒

    66 田の水に軒の映りし京の町

    67 雨跡の壁に大蜘蛛ひからびて

    68 白日傘川の丸木を渡りゆく

    69 舟べりで川水さはる藍浴衣

    70 螢火や処理場なかをゆらゆらり

    71 川のぼり流され戻る囮鮎


    72 水に落ち一枚となる牡丹かな

    73 石楠花の葉に水滴の寝そべりて

    74 田水張る畦に離れてへたる影

    75 水張りし段々の田の湖に開け

    76 水に立つ白鷺一羽家灯

    77 遮断機を越えて白鷺田に降りる

    78 のつぺりと水のひろがる夏の湖

    79 傾きし松の並木に揚花火

    80 川べりに白鷺立つや水映えて

    81 夕焼けのたゆたふ水に漁舟

    82 紫陽花の水滴のこる櫓門

    83 水暮れて紫陽花の藍濃くなりぬ

    84 咲き垂れて水のしずまる花菖蒲

    85 バス停の更地にのぞく日日草

    86 蜥蜴追ふやはらかき手にぬめりあり
    
    87 庭前の塵をあつめて朝涼し

    88 教会の昼の炊出し夾竹桃

    89 首塚に足音絶えて蛇苺

    90 坂道の茶店を越えて牡丹寺

    91 妻の眼が鏡にありて梅雨水輪

    92 封筒のことり音して星涼し

    93 川の水細くなりたる蝉しぐれ

    94 葛餅にはるかな水の匂ひして

    95 夏の月水車の水に揉まれたる

    96 端居してほそき流れに目をさらす


   
戻る