夜明けの薄明かりのなかで
PICK UP PHOTO Vol.22:田村尚子
文:竹内万里子/流行通信 2004年5月号 Vol.492





モノには「輪郭」というものがある、と私たちは思う。けれどもミクロなレベルでは、すべてのモノはつねにお互いに影響し、浸透し合っていて、たとえば紙片が長い年月を経て黄ばんでしまうのも、放っておいたリンゴが腐って崩れてしまうのも、すべてはその結果なのだ。「輪郭」とは、じつはとても儚いものでもある。
たとえば朝、目が覚めた瞬間、周囲が輪郭をとり始める前の、あのぼんやりとした世界。それはもしかすると、モノに名前がつけられる以前の世界を垣間見る経験なのかもしれない。田村の写真を見ることは、そのような経験に近い。手前に広がるシーツらしき白い広がり。そしてその奥に広がる焦げ茶かかった闇。その間に、ぼんやりとサイドランプの傘らしきものが浮かぶ。だがもはやそこに何が写っているかは問題ではない。名前を口にした途端に消えてしまいかねない、もろく儚い世界。この夜明けの薄明かりのなかで、私たちはそんな世界の声に耳を傾けることができるかもしれない。




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