歌物語5

「言しげき・・・」 但馬皇女と穂積皇子(1)

 十市皇女をなくした高市皇子の心は、
位階が上がっても癒されることはありませんでした。
 正妃は御田部王女(天智帝皇女)で長屋王を生んでいますが、
持統天皇は、政権を支えている彼の心の空虚を埋めるべく、
若い但馬皇女(天武帝皇女)を高市のもとに嫁がせました。
 ところが、但馬は幼なじみで異母兄の穂積皇子にひそかに心を寄せていたのです。
 こんな歌を詠んでいます。

秋の田の穂向きの寄れる片寄りに 君に寄りなむ言痛(こちた)くありとも

但馬皇女 (2−114)

 「秋の田んぼの稲穂が同じ向きになびいているように、
 私の心もあなた(穂積)の方に向いていますよ。
 たとえ、人がどんなに噂をしようとも(愛しています)。」

 巧みな比喩表現で一途な心を表現しています。
しかし、この禁断の恋は人の知れるところとなり、
持統天皇のお耳にも達したようで、解決策として、
穂積を旧都大津京の崇福寺に勅使として派遣することになりました。
引き離して冷却期間を置こうとなったようです。 

後れ居て恋ひつつあらずは追ひしかむ 道の隅(くま)みに標(しめ)結へ我が背

但馬皇女 (2−115)

 「このまま残されて恋焦がれているよりは、
 いっそのことあなた(穂積)を追って行くわ。
 道がわかるように、角々に印をつけておいてください。あなた。」

 離れ離れになりたくない。いっしょにいたい気持ちがあふれています。
 そして・・・。