不動産鑑定評価で、日ごろ疑問に思っていること

1.賃料の基礎価格を「借地権割合を控除した価格」とした鑑定に疑問

不動産鑑定評価基準によると、基礎価格とは積算賃料を求めるための基礎となる価格」をいい、価格時点において対象不動産の有する経済価値(必ずしも対象不動産の最有効を前提とする経済価値とは限らず、使用方法が賃貸借等の契約によって制約されている場合には、その制約に応じた経済価値)を示す価格である。」とされている。


「使用方法が賃貸借等の契約によって制約されている場合には、その制約に応じた経済価値」が基礎価格であり、「賃貸借により契約減価が発生している場合は更地価格から一定の割合を減価して基礎価格を算定する」のが不動産鑑定評価基準である。
「最有効使用」と「賃貸借契約に制約された現況使用」との乖離を「契約減価」という。要するに、建替え等には地主の承諾が必要であるが、賃貸借契約上、建替え等による最有効使用が実現が出来ない場合を契約減価という。

疑問理由1.
賃料の基礎価格は「借地権割合を控除した価格」ではなく、約減価割合を適正に判定し、更地価格から契約減価割合分を控除した価格を基礎価格とすべきと考える。しかし、更地価格から借地権割合を控除した価格が基礎価格であるとした考え方が多いが、この方法によると、使用方法の制約に応じた経済価値の判定が不能になるからである。
<以上のことがわかりやすい例を例示すると>
 ある地域の不動産の標準的使用方法及び最有効使用が
10階建店舗ビルである地域の場合を考える。ある不動産の利用方法が「小規模2階建非堅固住宅」である場合と「中規模10階建新築店舗堅固ビル」である場合とを比較した場合、基礎価格の算定に当たって借地権割合を採用すると、双方とも更地価格に対する基礎価格が全く同じ割合になり、不合理である。契約減価によって低利用の不動産の基礎価格は低く、新規かつ高度利用されている不動産の基礎価格は更地価格並みに高く評価することが合理的である。又、地域や個別の不動産により、低層利用でも契約減価が少ない場合もあるので、地域の標準的使用方法や対象不動産の敷地規模などの個別的要因を十分調査して決定すべきで、安易に借地権割合を控除する方法は疑問である。
疑問理由2.
 借地権割合は税務目的(国税庁・財産評価基準)で設定された割合です。借地権取引慣行割合もあるが、@借地権単独での第三者取引、A借地権付建物取引、B地主と借地人間の取引、C土地建物一括取引で借地権・借家権・所有権(底地)に配分する場合等いろいろなケースがあり、また、賃料の高い借地権は借地権価格が割安になり、賃料の低い借地権は割高(いわゆる借得)になるなど、借地契約の経緯等、ケースにより様々であり、借地権価格(借地権割合)個別に大きな開差があります。そもそも、理論的には(不動産鑑定評価基準では)借地権価格は「賃料」から導かれるものであり、今、その賃料を査定しているのであって、借地権割合を採用するのは本末転倒である。更に言えば、差額配分法における「基礎価格」は現況を所与とした新規賃料を算定するための価格であり、新規賃料の査定で借地権価格を基礎として査定する事例はない。通常、新規賃料の査定は土地建物価格に利回りを乗じ、公租公課(家賃の場合は外に修繕費等の費用)を加算して積算賃料を査定する。


2.継続賃料の各試算賃料の調整について

継続賃料の査定は基本的には、

(1)差額配分法による試算賃料

(2)利回り法(市場利回り法)による試算賃料、

(3)スライド法による試算賃料

3試算賃料を調整し決定すべきと考える。

(1)「差額配分法」による試算賃料は、対象不動産の経済価値に着目して求められた賃料であり、経済理論的には規範性のある賃料と言える。

(2)スライド法」による試算賃料は賃貸借当事者間の個別的事情を重要視するものであり、その意味で規範性を有するが、一般的に主観的で合理性に欠ける欠点を有する。

(3)「利回り法」(市場利回り)による試算賃料は同一地域における他の賃料と均衡を保つことなり、一般的、現実的であり、その意味で規範性を有するが、当事者間の契約、当初の事情は考慮されていない欠点を有し、近年の急激な地価変動局面においては、やや信頼性に欠ける。


以上は、(1)経済理論性、(2)市場性、(3)個別事情の三面性からの検討を加えたものになる。

ほかに、「利回り法」(従前賃料時の利回りを採用する法)賃貸事例比較法があるが、

「利回り法」(市場利回り)に替え「利回り法」(従前賃料時の利回りを採用すると、「利回り法」(従前賃料時の利回り)賃貸借当事者間の個別的事情を重要視するものであり、スライド法と同様な観点での個別的事情を重要視するものであり、試算賃料間の調整に偏りが生じる。(市場性のチェックが無く、三面性がなくなり、個別事情に偏っていることになる。)更に言えば、スライド法」による試算賃料も「利回り法」(従前賃料時の利回り)による試算賃料も従前賃料を基礎としていることから二重に手法を適用していることになる。

また、賃貸事例比較法の手法は新規賃料の査定の場合には有効であるが、継続賃料の場合、賃貸事例が賃貸契約の経緯など個別性が強く事例の標準化補正が困難でこの手法の採用し難いと考えられる。



3.差額配分法の配分率について、

差額配分法の配分率には3分の1法と2分の1法があるが、2分の1法の場合、未実現利益(※)を配分することになり、不合理である。3分の1法の方がより合理的である。

差額配分法は、地価の上昇分(下落も同じ)が賃料の上昇分に対応している考え方を基礎としており、その上昇分を地主と賃借人に配分する考え方であるが、2分の1法未実現利益(※)を配分していることになる。

仮に、不動産を売却した場合、譲渡税、仲介手数料、登記費用など3分の1程度の費用と税が発生するので、残りの3分の2を地主と借地人に3分の1づつ配分したほうが合理的である。


※未実現利益:売却を仮定した場合、売却益が出た時に、売却益の3分の1程度が税金等(今は売却益の20%が譲渡税であるが、30%程度の時代もあり、仮に20%としても仲介手数料、登記費用などその他の費用を加えれば3分の1程度の費用と税が発生する)であり、地主にも賃借人にも配分できない。


※売却益:継続賃料の査定あたって、古くからの賃貸借が多く、対象不動産を売却を想定した場合、その売却益は売却額に近い金額になるケースが多い。



3分の1を社会資本に配分する説があるが、3分の1が売却益に対する「税金」と読み替えれば同じ趣旨になる。




4.「地代の決定要因は固定資産税である」という主張について、

地代の決定要因は固定資産税である(固定資産税の何倍であるのが適正である)という説があるが、固定資産税は地域により、時代により異なり、固定資産税の地価や賃料に対する比率は一定ではなく、地価と賃料の相関関係も一定ではない。したがって、地代の決定要因が固定資産税である、と、一律に採用されれば、不公正な場合があり、危険である。

固定資産税は賃料の重要な必要経費を構成するものであるが、各方式による試算賃料の調整と賃料決定段階における比較考量項目にすぎないものとしたほうが合理的と思われる。

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