景気対策として「不動産証券市場」の発展に期待する   平成1451

不動産鑑定士 小出紀久男

1.はじめに

 現在の経済不況において、行財政改革や不良債権処理が進まず、金融・財政政策による景気対策の効果も現われていません。

 又、個人消費の上昇や企業の設備投資、技術革新、新ビジネス等による景気の回復も期待できない状況に陥っています。

 そこで、景気対策として、株価と地価を押し上げデフレ解消を図るべきとの観点から、如何にして個人金融資産1400兆円を証券(株式・債券)市場や不動産市場に流入させるかと言うテーマを取り上げてみました。

個人金融資産を証券市場や不動産市場へ流入させるためには、「新金融システム」の発展と「構造改革」の断行が必要と考えられます。

 新金融システムのうちの「証券化(特に不動産証券)」の発展と、構造改革のうちの「情報開示」の断行により、デフレ解消・景気の回復が展望されます。

最終章で、不動産証券市場の理解と一層の発展のため、基本的全体像の把握を主眼として、その背景、仕組み、意義等について簡単に整理してみました。

不動産証券発行の具体例、投資戦略、運用実績、市場見通し、リスク評価等の詳細はほかの機会に譲ることとしましたので専門性にやや欠けますが、不動産証券の位置付けや概観を理解して頂き、不動産証券市場・不動産市場発展の一助になれば幸いです。

2.構造改革について

@ 構造改革

 構造改革とは日本の市場経済を自由、透明、公正につくり変えることです。規制緩和、不良債権処理、特殊法人問題、IT等の技術革新、流通機構の効率化、財政、金融等、その他あらゆる面での構造改革が必要ですが、「小泉構造改革」は不良債権処理と財政改革で、特殊法人改革はミクロにすぎません。マクロ面でのダイナミックな市場改革が必要です。 

最近の景気対策論は、「構造改革が先か景気対策が先か」の議論や「景気回復してから構造改革をすべき」とか「金融・財政政策の効果」の議論が殆んどです。

構造改革と景気対策とは二律背反ではなく、表裏一体です。

A デフレ対策

 デフレ対策として、金融緩和政策が実施され、更に、一層の金融政策が実行されようとしています。確かに、調整インフレや、日銀の国債買いきり等で、国の借金の実質目減りと、株価・地価の上昇による不良債権の減少や銀行の名目上の体質強化の効果を生じますが、ハイパ−インフレを招きかねません。

 1990年代後半からの逆輸入や技術革新での物価下落も混在しており、デフレは不良債権を生むことも確かですが、良いデフレもあることも忘れてはなりません。最近、円安でデフレを克服する議論もありますが、スタグフレ−ションや「日本売り」が懸念されます。

B近年の経済の流れ

 198510月プラザ合意による内需拡大政策は、構造改革のないまま円高・低金利政策により、資産インフレ「バブル」を作り出していきました。

 バブル崩壊後は、銀行の貸し渋り等からデフレを招いています。

 19913月からの平成不況以降、公定歩合の引き下げ等よる金融緩和、公共投資、減税といったケインズ経済学の効き目が現われていません。これは量的なものでなく、日本経済に質的な構造変化が生じたためで、市場改革が求められます。

C情報開示

 前にも述べましが、構造改革とは日本の市場経済を自由、透明、公正につくり変えることです。構造改革のうち、日本で最も遅れている「情報開示」について考えることにします。構造改革は政・官・民ともに必要ですが、特に民間企業の完全な情報開示を早急に政策として断行すべきです。

D情報開示の効果

株価対策については税制改正等により株式市場の活性化を図ろうとしています。証券税制の改正をしても、情報の不完全なもの、一部に独占されているもの、公平感のないものには不安で投資意欲もわきません。

最近、空売り規制による株高で一定の効果をあげ、さらに、銀行で株式売買取引ができる仕組みにして株高・デフレ解消を狙っているようですが、いずれも小手先の対策で、本格的な対策とは考えられません。

 個人の金融資産約1400兆円の過半が現預貯金と言われていますが、企業の完全な「情報開示」によりその透明性・公平性が確保され、リスクとリターンの明確な計算ができれば、この低金利とペイオフ懸念の時代ですから個人投資家も証券・不動産投資に参戦してくるでしょう。株式・債券・不動産市場に個人の金融資産約1400兆円の一部が流れ出せば、株価・地価の上昇により不良債権処理や株式評価損解消と同時に銀行の貸し渋りも少なくなります。

構造改革なき公的資金の注入を実施しても、金融機関は企業への貸出しを躊躇し、国債等を買う行動に出る等、日本経済は活性化しません。

 不動産についても、地価の急激な変動対策や流動化促進のため、これまでも税制改革という手法を取ってきましたが、不動産市場の活性化は公開性・透明性に求められます。

個人消費や新ビジネスに期待できない昨今、完全な情報開示の実施と新しい金融システムの育成、発展により景気回復への展望を計るべきです。

 特殊法人の整理・民営化も情報開示がなければ、手のつけようがありません。

 不良債権の処理も銀行の完全な情報開示がなければ、対策も遅れがちになります。

 構造改革なき不良債権の処理をしても銀行の貸し渋りはなくなりません。

 ベンチャ−資金市場等も徹底した情報開示・チェック機能がなければ誰も投資しません。

 情報開示とチェック機能が徹底していれば雪印問題もなかったか?

3.新金融システム

 過去、資本(貯蓄)不足の時代、金融は産業の血液と言われ、銀行による資金配分を中心としていました。1980年代以降、日本は資本(貯蓄)過大となり、資本大国となっても間接金融主体の非効率な金融政策を続けています。

 資本不足の時代は銀行による資金配分は有効でありましたが、今や、日本は資本大国であり、その資本を有効に配分し、資本の最適配分を実現させる環境を作ることが必要です。

銀行による土地神話に基づく土地担保金融でのノ−リスク・リタ−ン型からリスク・リタ−ンの理念による資本の効率的最適配分を実現する方向に転換する必要があります。ここ数年、その技術は育っていますので、この環境を作ることが大切です。これにはリスクとリターンが計算できる情報開示と徹底したチェック機能が欠かせません。

間接金融中心(物不足の時代の配給制度を物あまりの時代になっても行なっていれば、資源の最適配分がおこなわれないと同様に、資本が十分あるのに銀行の配給制度のようなシステムは資本の効率性を阻害する)から直接金融(資本の本質から、リスク・リタ−ンを選択して資本が最適に配分されるように行動する構造)への転換が望まれます。 

 日本の市場経済を自由、透明、公正につくり変えることにより、あらゆる面で新しいシステムが再編され、新しい雇用や投資・消費が創造され、資本主義経済が正常に機能し、自由経済は発展します。

4.新金融システムのうち 証券化の流れ

 直接金融システムとして、証券化があり、不動産、車のロ−ン債権、住宅ロ−ン債権、貸出債権、消費者金融債権、地震債権、売掛債権、社債、新興企業投信、著作権等の知的財産権、医療費請求権等の証券化があります。住宅ロ−ン債権の証券化の効果として、銀行の住宅ロ−ンの長期固定金利も可能になる等の様々な副次的効果も認められます。

不動産証券には、不動産投資信託(日本版REIT等)、SPC、小口化商品があります。

私見としては、刑務所や市役所の不動産証券化も考えられます。市役所の不動産証券化では財政難の地方自治体を救うことにもなります。又、新興企業投信のほか、町の酒屋さん、八百屋さんのような小さな投信も考えられ、これも、徹底した情報開示とチェック機能が必要になります。この情報開示とチェック機能が今までの日本の経済システムのなかで遅れている部分です。証券化の発達は米国でも約30年、日本ではつい最近のことです。                                

5. 証券化の流れのなかの「不動産証券」について

. 不動産証券とは不動産を裏付けとして、特定の会社が証券を発行し、この証券を投資家に販売するものです。証券の利回りは賃料収入等の不動産の運用益(インカムゲイン)、元本は不動産の価格(キャピタルゲイン)です。

 不動産証券は、@不動産特定共同事業法とASPC法とB証券投資信託法とに基づいています。Bの不動産投資信託には会社型、指図型、信託銀行型の三つがあります。

 尚、@の不動産特定共同事業法は、従来からの不動産小口化商品のうちの任意組合型を発展させたもので、不動産証券とはやや異なる新しい小口化商品です。

6.不動産証券の事業形態

@不動産特定共同事業法

 国土交通省の認可。

 国土交通省の宅建免許を有する法人で、資本金一億円以上、その他事業法の定める基   準をクリアした者が特定共同事業者の認可を得て、特定共同事業商品をつくり 販売する。

 販売するだけの事業認可者は資本金二千万円以上です。

民法上の任意組合型と商法上の匿名組合型と賃貸型との三つがあります。

ASPC法(資産流動化法)

金融再生委員会に届け出。

 法人でも個人でも、取締役一名以上、最低資本金10万円で特定目的会社をつくることが出来ます。

B証券投資信託法、投資法人法

 金融再生委員会の認可。

 投資法人の設立は資本金一億円以上、常時保有純資産額五千万円以上です。

東京証券取引所の上場基準は、総資産額五十億円以上、純資産額十億円以上、一口あたり資産額5万円以上、受益証券の総口数4000口以上、ファンドの運用資産のうち不動産等の比率が75%以上、運用資産等のうち賃貸事業収入等が現に生じており1年以内に売却見込みがない不動産等の比率が50%以上、投資証券及び不動産等以外の資産が現金および現金同等物に限られる等です。

会社型(上場申請者は投資法人と投資信託委託業者)と指図型(上場申請者は投資信託委託業者と信託銀行)と信託銀行型(上場申請者は信託銀行)とがあります。

 投資信託委託業者とは、「金融庁の認可を受けた投資委託業者と投資法人資産運用業者」と「投資一任の認可を受けた投資顧問業者」です。     

<投資顧問業について>

 一般投資顧問業者(個人・法人)と総合不動産投資顧問業者(宅建業免許を有する資本金一億円以上の法人のみ)とがあり、投資一任業務を行なうには「総合」の登録が必要となります。

7.不動産証券を発行する方法

 資産流動化型と資産運用型があり、流動化型は先ず資産ありきで、SPC法により、特定目的会社が保有不動産を裏付けとして証券を発行します。運用型は先ず資金ありきで、投信法により、会社型不動産投信(不動産投資を専門とする会社が証券を発行)と信託銀行が行なう不動産投信ファンドとがあります。

 尚、不動産特定共同事業法による小口化商品は資産流動化型になります。

8.不動産証券の仕組み

 前にも述べました通り不動産証券は、SPC法と証券投資信託法、不動産特定共同事業法に基づいています。

@SPC法は、不動産の差し替えが困難な仕組みです。

A不動産特定共同事業法は証券市場の流通性にやや欠けます。

@ 証券投資信託法は、三つのタイプ(会社型・指図型・信託銀行型の三つ)がありますが、  

個人投資家にとって、会社型すなわち証券投資法人による日本版REIT(不動産投資信託)が不動産ファンドの主役です。今、上場されている不動産投資信託は一口50万円前後で、証券会社等の窓口で、いつでも一口から購入でき、いつでも売却できます。

これまでの投資信託は「契約型」と呼ばれ、投資委託会社が信託銀行に資産を信託し運用方針を指図し、その信託受益権を小口に分割し一般投資家に販売します。

現在は、「契約型」の他に「会社型」が認められるようになり、『主として有価証券に対する投資を目的として設立される「会社」』が投資資産を所有し、この「会社」自体の株式価値イコールその投資資産の価値になり、「会社(株式)」そのものが投資商品として販売されることになりました。これが「会社型」、「証券投資法人」と呼ばれるものです。

 この証券投資法人が、投資対象を不動産として証券市場に上場すれば、所有不動産の差し替え自由なアメリカ版に近い日本版「REIT」になります。

 従来は、投資対象として「主として有価証券」という制約があり(一部は不動産でもよいが)、主として有価証券としなければなりませんでした。SPC法を使って個別不動産を有価証券である出資証券に変換することも可能ですが、不便です。現在は、この「主として有価証券」と規定されている部分に不動産が加わりました。これで「証券投資法人」による不動産投資ファンド「日本版REIT」が可能となりました。大きな市場に成長するでしょう。

9. 不動産の証券化の意義と効果

 不動産の証券化とは、不動産を裏付けとする有価証券を発行することによって資金調達を行うことでありますが、その意義と効果は次の通りです。

@ 金融機関からの間接金融から、資金調達の手段として資本市場からの直接金融へ。

A保有不動産を分離することにより、企業にとって資産圧縮ができることです。

B本格的なリストラに利用できることです。(本社ビルを売却する企業も出てきました)

C1400兆円と言われる個人金融資産に、不動産投資市場という新たな運用の道が開かれた。D個人投資家にとって、ロ−リスク・ロ−リタ−ンからハイリスク・ハイリタ−ンまで選 

択の幅が広がることです。ロ−リタ−ンと言っても普通の金融商品より利回りは高くな 

ると思います。ハイリスクと言っても不動産の裏付けがありますので株式の様に紙屑に

はなりません。

E株式投信がハイリスク・ハイリタ−ン型、公社債投信がロ−リスク・ロ−リタ−ン型と

 しますと、不動産投信はミドルリスク・ミドルリタ−ン型です。

F単独型の優良不動産に投資するのか、複数組替型にするのか、この場合でも商業施設・

店舗型かオフィスビル型か、ホテル型か、賃貸マンション型か、分譲型か、開発型か等、

償還時期やリスクとリタ―ンを考えてのバリュエ−ションが多く、この面でも選択の幅

が広がります。

G今までの不動産投資(ワンルームマンション等)に比べ、リスク評価や情報の収集は欠

かせませんが、不動産売買に伴う諸手続や、所有することによる管理がなくなり、煩雑

さがなくなります。

H不動産証券の小口化、流通性の上昇。

I不動産投資市場への資金が流入することにより、不動産市場の活性化が図れることとな

 ります。

J不動産業の新たな事業展開が期待できること。不動産市場の透明性が向上する効果が期

 待できることです。

K従来から不動産の小口化証券はありましたが、これは殆どが機関投資家向けであり、流 

通性も少なかったが、東京証券取引所の不動産投資信託流通市場の創設により、更に小

口化、流通化が進み、個人投資家も参戦し易くなりました。

<ビ−クル(導管とも呼ばれます)>について

 簡単に言えば、第一に、二重課税を避けるため匿名組合等を使うことです。

株式会社では法人税が課税された上に、配当にも課税されますが、SPC法による特定 

目的会社・特定目的信託、投信法の投資法人・投資信託、信託、民法上の任意組合、商

法上の匿名組合は一定の条件を満たせば二重課税されません。

第二に、倒産隔離がはかられることです。

10.抵当証券との相違

抵当証券は昭和6年に制定された抵当証券法に基づいて、法務局が抵当権を小口化したモ−ゲ−ジ証書を発行していますが、所有権を証券化した不動産証券とは根本的に異なります。諸々のトラブルが発生したため昭和62年に抵当証券業の規制等に関する法律が制定されました。

11.従来の小口化証券との相違

従来の不動産小口化証券は、信託型と任意組合型とがあり、投資家が不動産販売会社と契約(不動産の共有持分を買う)を結び、不動産販売会社にオフィスビル等の賃貸事業及び管理・運営を委託して、その賃貸収入から投資家が配当を受けるもので、流通性も高くありません。

従来の不動産小口化証券についてのトラブルが生じてきたため、平成74月に、従来の不動産小口化証券のうちの任意組合型を発展させ不動産特定共同事業法が施行されました。この新しい不動産特定共同事業法は任意組合型(民法667条以下)と匿名組合型(商法535条以下)と共有持分賃貸型等がありますが、一般的に匿名組合型が最も証券化に近い形態で、多く利用されています。

 不動産特定共同事業法によるファンドは不動産の小口化を意図したもので、不動産の証券化を想定したものでありませんので、流通性に乏しいものと考えられます。

 以前にあった抵当証券や不動産を小口化して販売したケ−スと異なり、今の不動産証券は、法改正後の@不動産特定共同事業法による不動産小口化商品ASPC(特定目的会社)の発行する不動産証券B不動産投資信託の三つに基づくものです。そして不動産投資信託に三つのケ−ス(会社型・指図型・信託銀行型の三つ)があることは先程述べた通りです。

12..一般投資家が購入した不動産証券を売る場合 

@SPC法

 この証券は、証券取引上の有価証券として扱われますので原則として譲渡は自由にで

 きます。しかし、現在、取引市場が整備されていないため、流通性にやや欠けます。

 A不動産特定共同事業法の場合

  購入した出資持分は事業者と投資家の間でかわされた契約に基づいていますので、第 

 三者に売却できると定めてある場合は自由に譲渡できますが、購入した第三者と事業 

 者間で再度契約を締結することが必要です。今のところ流通市場がないため事業者が

 買い取り保証をしている例が多いようです。

B証券投資信託法

  @.会社型とA.指図型とB.信託銀行型とがあり、@の会社型は投資口(投資証券)の  

 売買は不動産投資信託市場(東京証券取引所)で自由に毎日売買されます。

13.不動産証券のリスクについて

不動産証券には、期間中の賃料収入等による運用利回りの変動リスクと償還時の元本変 

動リスクとがあります。

14.不動産業や不動産管理業への影響

REITの公開により売買当事者は不動産の管理に着目し、不動産管理業が注目されるようになります。

 不動産業者にとってもビッグチャンス到来であると同時に変革していく必要があります。

 不動産証券市場の発展は、発行される証券の情報が投資家に公平・詳細に開示されるかどうか、開示された情報が信頼性の高いものかどうかにかかっています。

15.定期借家制度との関連

 定期借家制度に関しては、良質な居住用賃貸物件の供給のほか、安定的な収益確保の観点があり、不動産証券にとってはプラスです。

 従来の借家法は、賃借人が6カ月前の予告で退居でき、その後テナントが決まらず賃料が入らないということもあります。又、合意家賃でもその後の経済事情の変化により減額請求されることもあります。従来の借家法での賃貸物件を不動産証券化した場合、投資利回りが約束できないことになります。そして賃貸借契約終了時に、空家にして売却し投資資金を回収しようとしても、立退料を要求されるか、賃借人が居座り更新となります。これは、不動産証券化にとってはマイナス点です。これらは、定期借家制度ではクリアできます。賃貸借期間保証で賃料固定の定期借家契約なら、賃借人が倒産等しない限り、約束された期間と賃料になります。中途解約も家賃増減も更新もありません。

但し、200u未満の居住用貸家では借家人から中途解約が可能となります。

16.最後に

「エンロン」の不正経理を端緒としてアメリカの株価が下がっています。情報開示の正確さと信頼性の重要度が認識させられます。
                         

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