定期借地権借家制度の正しい活用

―事業用定期借地権の普及のため、解説書でも解りにくい疑問点を中心に解説―

新借地借家法で、平成3年に定期借地権の制度ができ、平成11年に定期借家権の制度ができました。平成191221日には、借地借家法(以下「法」と言う。)の一部が改正され(2011日施行)、「事業用定期借地権」を設定する場合の存続期間の上限が「20年以下」から「50年未満」に引き上げられました、その結果、事業用定期借地権の利用が大きく広がりました。

しかし、定期借地権・定期借家制度の運用面で失敗例が多いと聞きます、以前、「事業用定期借地権契約書」を見たことがありますが、その内容は「普通借地契約書」と認定せざるを得ないものでありました。

定期借家制度についても、契約書に付随する「承諾書、通知書、説明書等」の不備等で定期借家契約のつもりが、旧法の借家契約(「契約の更新」や「立退きの正当理由」等が必要な旧法の借家契約)になり、元の木阿弥になるケースが多いと聞きます。

 22条(定期借地権)及び法23条(事業用定期借地権等)に「法9条及び法16条の規定に関わらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに法13条の規定による買取の請求をしないこととする旨を定めることができる。」とありますが、この「定めることができる」の解釈をめぐって混乱が多く見られ、事業用定期借地権とは認め難い契約書の作成をされています。
 「定めることができる」とあるので、定めても定めなくてもよいとか、3つとも定める必要がないとか、更新の特約はできないが、合意による建物買取請求権は否定されないと解説している書もありる。又、法24条に建物譲渡特約付借地権の条文があり、法13条の建物買取請求権と混同解釈をし、建物買取請求権を認めた契約書を作成して、事業用定期借地権と認められないような契約内容になっているものもあります。この場合、定期期借地権として無効でも、普通借地権としては有効ですので、大変重大な間違いになります。(
※法9条及び法16条はいずれも借地人に不利なものは無効と言う強行規定)

本稿では、以上の2点のほかに、@旧借地権を合意解約して定期借地権が設定できるか、A事業用定期借地権の設定は公正証書によってしなければならないの厳密な解釈、B事業用定期借地権で、税務上「一括前払い賃料」と認められる書式例を中心として、述べていきます。

 

T.定期借地権の概要

まず始めに、定期借地権の概要を復習しておきます。
定期借地権は契約期限が来た時に契約の更新がなく、建物を取り壊して更地にして返還する必要がある借地権のことで、次の3つの要件(以下、3つの特約という)があり、立退料の請求もできません。この3つの特約を契約書に設定しなければ、一般定期借地権及び事業用定期借地権の効果はないことになり、普通借地権になります。

常の借地権に関する規定以のほかに、次の<3つの特約>を定めることが必要です。
1.
契約の更新による存続期間の延長がないこと
2.
建物の築造による存続期間の延長がないこと
3.
建物の買い取り請求をしないこと、  

一般定期借地権

建物譲渡特約付
借  地  権

事業用定期借地権
(更地返還強制型)

事業用定期借地権
(契約更新排除特  約任意契約型)

存続期間

50年以上

30年以上

10年以上30年未満

30年以上50年未満

目   的

制限なし

制限なし

事業用のみ

事業用のみ

契約方式

公正証書等

定めなし

公正証書

公正証書

契約の更新

排除特約 可 

拘束されない

規定の適用なし

排除特約 可 

特   約

建物の築造による存続期間の延長を排除できる。建物買取請求権の排除できる。

30年経過後建物を売却する旨を定めることができる。 

左のいずれも適用なし

建物の築造による存続期間の延長を排除できる。建物買取請求権の排除できる。

返   還

更地で返還が原則

建物を地主に譲渡

更地で返還

更地で返還が原則

※ほかに「普通借地権」があります。契約期間は30年以上です。借地人が更新を求めた場合、同一の条件で契約を更新しなければならず、更新後の契約期間は1度目が20年以上、2度目の更新以降は10年以上です。地主が契約更新を拒絶できるのは正当事由がある場合のみで、旧借地法に近い性格です。

普通借地権の期間は30年以上ですので、一般定期借地権(期間50年以上)と30年以上50年未満の事業用定期借地権は、同期間で普通借地権の設定が可能ですが、10年以上30年未満の事業用定期借地権の期間で設定できる借地権は「事業用定期借地権」のみで、契約の更新等に関する規定を排除すれば事業用定期借地権の設定が可能です。

 

U.法22条及び法23条の「定めることができる」の解釈、

23条の「定めることができる」の法文解釈の間違いよる契約書や解説書を見かけます。このため事業用借地権としては無効となり、普通借地権として認定されかねません。例えば、事業用定期借地権で「建物買取請求権」を認めた契約の場合、普通借地権とみなされます。

事業用定期借地権設定契約の覚書に次の設定がないと事業用定期借地権ではないことになります。
@30年以上50年未満の事業用定期借地権の場合、定められた3つの特約を設定すること。
A10年以上30年未満の事業用定期借地権の場合、契約更新等がないとする条文を設定すること。
 3つの特約とは、@契約更新、A建物再築の際の存続期間延長、B期間満了時の建物買取請求権の行使です。この3つの特約の保護が与えられない旨の特約を締結すれば、事業用定期借地権の設定が可能です。
 借地期間30年〜50年未満の場合、3つの特約の保護が与えられない旨の特約を締結しない場合や、3つのうち一つでも、例えば建物買取請求権を認めた特約があれば、事業用定期借地権とならず普通借地権となります。
 10年〜30年未満の場合は、専ら事業の用に供する建物で、かつ、非居住用の建物の所有を目的とする場合は、当然に契約の更新等に関する規定が排除されることになります。
 なお、更新等とは建物を再築した場合の存続期間の延長に関する規定及び法第13条に定める建物買取請求権に関する規定を意味します。

<「定めることができる」の法文解釈>

排除特約を3つとも定めない場合には定期借地権としての効力は認められません。いずれも借地借家法の強行規定に反する無効な特約である。
 ところが、事業用定期借地権のうち30年以上50年未満については、これら3つの特約を「定めることができる」と規定されています。
 この趣旨は、本来であれば借地借家法の強行規定に反し無効となる特約を「定めることができる」ということで、3つの特約を併せて行った場合には、事業用定期借地権のうち30年以上50年未満のものについては、有効に特約が成立するという意味です。要するに、強行規定として無効となるという点を特約することによって、これを排除することができるということです。これを法文として表現したのが「定めることができる」という文言なのです。

V.法24条の解釈、

定期借地権の解説書等をみると、事業用借地権では「合意による建物買取請求権は否定されない」とあるQ&Aや解説書を見かける事があります。
 事業用借地権には法
24条の建物譲渡特約を付することができるから、建物買取請求権の排除は認められると解釈しているのではないかと思われますが、建物譲渡特約は地主の側が買取を請求するものであって、法13条でいう借地人の建物買取請求権とは全く別物です。(なお、この条文には10年以上30年未満は除くと規定されています。)
 10年以上30年未満の場合でも、建物買取請求権を認める特約をわざわざつけた場合、事業用定期借地権の意思があるか否かに疑問を持たれることになります。建物買取請求権を排除しない10年以上30年未満の契約は、10年以上30年未満の普通借地権でもあり得ます。普通借地権であれば、10年以上30年未満の契約期間は借地法違反ですから、期間の定めが無効となります。その結果、期間を定めない普通借地権となり、この普通借地権の存続期間は法定期間である30年間とみなされます。
 従って、建物買取請求権を積極的に認める旨の特約を推奨することは、極めて高いリスクがあることになります。


W.旧借地権」を解約して定期借地権の設定ができるか、

旧借地権を合意解約したうえであれば、同じ当事者同士で新たに定期借地権の締結が法的には可能です。
 但し、後日、旧借地権が真実、合意解約されたか否かについて争いを生じる可能性があります。このため、旧借地権の合意解約は、できれば公正証書で契約された方がよいと思います。また、合意解約の際に何らかの金銭の交付を行っておく方が争いが生じにくいのではないかと思います。(なお、定期借家制度では居住用の場合、旧借家契約を解約して定期借家権を締結することはできません。)

 

X.事業用定期借地権の設定契約は「公正証書によってしなければならない」

事業用定期借地権を私製の契約書で契約して、その後、公正証書を作成した場合は、普通借地権になるおそれがあります。

 事業用定期借地権とは,専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除きます。)を所有する目的で設定される借地権で、契約の更新がなく、契約上の存続期間が経過すれば確定的に終了するものであり、その契約は公正証書によらなければならないと定められています。

私製の「契約書」ではなく必ず「覚書」等でしなければいけません。私製の書面で「事業用定期借地権設定契約書」を作成すると、公正証書によらずに作成されたものとして無効となり、普通借地権になりかねませんので、この書面は「契約書」でなく「事業用定期借地権設定のための覚書」等として、「事業用定期借地権設定契約公正証書」の作成を公証人に嘱託し、当該契約を締結する等としておかなければなりません。覚書から公正証書で契約までの間は、約束実行のための別の覚書も作成しておくとよいでしょう。私製の書面で契約して後で公正証書を作成する例が少なくないので、注意が必要です。
 普通借地権の期間は30年以上と定められ、更新が認められており、30年後は期間20年以上の更新、その20年後は期間10年以上の法定更新(以降繰り返し)となりますので、旧借地権の性格に近いものとなります。普通借地権では地主から更新の拒否はできません。更新を拒否するには、正当な事由が必要となります。なお、旧借地権は建物の朽廃で借地権は消滅しますが、新借地借家法にはこの規定がありません。

期間が30年以上50年未満の「事業用定期借地契約」を締結し、事業用定期借地として無効となった場合、期間が30年以上と定められている「普通借地権」になりますが、10年以上30年未満の場合、たとえば25年の場合でも、30年以上の普通借地権になります。期間25年の事業用定期借地権を私製の書面で契約し、その後、公正証書を作成した場合、公正証書で契約していないので、25年の普通借地権で契約したものとみなされます。ところが、借地借家法では30年未満の普通借家契約は認めていませんので、25年の借地契約は借地借家法の強行規定に違反しています。このため期間を定めない普通借地契約をしたものとみなされます。借地借家法では期間を定めていない借地契約は当然に30年とみなされますので、結論として、期間30年の普通借地権が発生することになります。

 

Y.事業用定期借地権の「一括前払賃料」が税務上認められる書式例

「保証金」は地主に将来返還義務があり、地主の精神的負担が大きく、「権利金」は借主の負担が大きい。そこで、「一括前払賃料」で税務上の特典を利用すれば、定期借地権制度が利用しやすくなります。但し、契約書の「内容不備」や「勘違い」で税制上の特典を受けられないことがありますので、下記の書式例を参考にして、間違いのない契約書を作成してもらいたいです。

<書式例>

○条(前払い賃料)

1 乙は、本件土地の賃料の前払い(以下「前払賃料という」)として○○○円を、本契約が成立した時に甲が指定する金融機関口座に振り込むことにより、甲に対して一括して支払わなければならない。

2 前払賃料は、○条に定める契約期間(○○年)にわたる賃料の一部に均等に充てるものとし、その毎月の充当額(以下「前払賃料の月額換算額」という」)は○○○円(前払賃料÷契約期間(ヶ月))とする。

3 甲と乙は、契約期間満了時において、前払賃料として一時金の支払いがあったことを根拠とする借地権の消滅の対価に相当する金銭の授受は行わない。

4 本件借地権の存続期間の満了前に本契約を解除する場合において、甲は、前払賃料のうち契約期間の残余の期間に充当されるべき前払賃料の月額換算額の合計額を、乙に返還しなければならない。この場合において、返還すべき金員は日割り計算によるものとし、利息を付さないものとする。

 

Z.定期借家権の概要、

  従来の借家契約は、期限が来た時点で賃貸人側から契約の解除を申し入れても、借家人に立ち退きを求めることは困難で、賃貸人側に「正当事由」がなければ、賃貸借契約は「法定更新」によって更新されます。建物の老朽化による建て替えなど、やむを得ない事情でも、それが立ち退き請求に必要な「正当事由」と認められるには厳しい制限がありますし、どうしても立ち退いてほしければ、正当事由に替わる立退料を支払わざるを得なかったのです。

定期借家契約は、「契約で定めた期限が来ると契約が必ず終了する借家契約」であります。″正当事由″も立退き料の支払いもなしに契約期間が満了したら必ず解約できます。
 また、従来の借地借家法では1年未満の契約は、期間の定めのないものとされ、最長期間は民法の規定で20年を超えられませんでしたが、定期借家契約の契約期間は、1年未満でも20年超でもかまわないこととされました。

契約書に付随する「承諾書、通知書、説明書等」の不備で定期借家契約のつもりが、旧法の借家契約(「契約の更新」や「立退きの正当理由」等が必要な借家契約)になり、元の木阿弥になるケースが多いと聞きます。
 契約にあたって、定期借家制度利用のポイントは次の通りです。

<定期借家制度のポイント>

@既存存契約にさかのぼっての適用はない(更新の適用はありません。現在の契約を合意終了しても定期借家契約は適用されません。ただし、事業用の賃貸物件については、合意のうえ解約し、新規に定期借家契約を結ぶことは可能です。また、従来の借家契約と定期借家契約は併存していくことになります。)
A契約期間が満了すれば契約は終了います(悪い店子であれば期間満了で終了、良い店子であれば再契約)
B期間の設定及び使用目的は原則として自由です(期間に一切の制約はなく、事業用、居住用等の使用目的も制限がありません)
C一定の条件のもとに賃借人の中途解約権あります(居住用で床面積が200u未満のものについては、転勤、療養、親族の介護などのやむを得ない事情がある場合や、その建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったこと等のやむを得ない事情がある場合は、賃借人からの1か月前の申し入れによる中途解約が認められています。)
D家賃増減請求権がないこととすることも可能(契約約期間中の家賃改定は無しとすることも可能です)
E建物譲渡特約付借地権に定期借家制度を組み合わせることも可能です(土地所有者が買い戻した時に適用。)

F1年以上の契約の場合の通知義務あります(1年以上の契約は、期間満了前の1年前から6か月前までの間に期間満了の通知必要)通知が遅れた場合には、その通知をした日から6か月後が解約時となります。なお、契約期間が1年に満たない場合は、通知の必要はありません。
G定期借家契約を締結する際の必須要件として、次の3点に、特に留意すべきです。

@.必ず書面による契約を結ぶ必要があること。

A.定期借家契約である旨の説明を書面でしなければならないこと。

B.説明をしたことを証明する書類を作成しておくこと。

                              (不動産鑑定士 小出紀久男)

以上です。ご精読ありがとうございました。


<蛇足になりますが、定期借地権契約に当たってのチェック項目>

借地法13条の建物買取請求権は借地人からの建物買取請求権です。地主はこれを拒否できません。借地人側からの買取請求で地主が時価で買い取る。
●借地法24条の建物譲渡特約付借地権は地主の側が買い取りを請求するものです。地主側からの買取請求で相当の対価で譲渡する。
●借地権設定する場合10年以上30年未満の借地権を除き)24条の建物譲渡特約を付することはできます。しかし、これと13条の建物買取請求権等とは別個のものです。
普通借地権では契約の更新をしない、という特約は認められない。
●事業用定期借地権の更新はありませんが、再契約は可能です。
●事業用定期借地権は10年から50年未満ですが、50年はありません、49年までです。
事業用定期借地権は公正証書で契約しないと無効であるが、普通借地権としては有効であること。例えば20年の事業用定期借地権が無効となる場合でも、30年の普通借地権(更新可能)になるおそれがあります。
●返還時の税務も知っておくことが必要です。(例:無償で建物を土地所有者に引渡す→贈与になる。)
●事業用定期借地権に更新はないが、再契約はできます。
契約書の「内容不備」や「勘違い」で税制上の特典を受けられない。事業用定期借地権で、「保証金」は地主に将来返還義務があり、地主の精神的負担が大きく、「権利金」は借主の負担が大きい。「一括前払賃料」で税務上の特典を利用することにより定期借地権制度が利用しやすくなります。


<参考条文等(法の条文の文言とは替えて表現しました。>
13
条:借地権者は借地権設定者に対し、建物等を時価で買い取るべきことを請求するこ とができる。

22
条:期間50年以上の借地権を設定する場合(1)契約更新及び(2)建物築造による期間延長がなく、並びに(3)建物買取の請求をしないこととする旨を定める事ができる。この特約は公正証書による等書面によってしなければならない。
23
条:「30年以上50年未満の場合は(1)契約更新及び(2)建物築造による期間延長がなく、並びに(3)建物買取の請求をしないこととする旨を定めることができる。
23
2項:10年以上30年未満の場合は3条〜8条、13条、18条は適用しない。
23
3項:「前二項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。

24
条1項:借地権を消滅させるため、その設定後30年以上を経過した日に、建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡することができる。(10年以上30年未満の借地権は除く)

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