魔装機神アフターストーリー

ラングランDaily

 

 マサキ達がヴォルクルスを倒し、ラ・ギアスが平和を取り戻してから早半月。

徐々に落ち着きを取り戻し始めたラングラン王国で、一つの物語が始まろうとしていた。

 

「ジノさん、この食器はここの棚でいいのかな?」

「あぁ、プレシア。その辺は君に任せるよ」

「ジノさん!この本はどこに運べばいいんですか?」

「すまないザッシュ。それは奥の寝室に運んでくれないか?」

「ウェンディ、ここのカーテンはこの柄でいいと思うか?」

「そうねぇ・・・私はこっちの柄の方が合ってると思うけど・・・ジノさんはどう思います?」

「ふむ、私はマサキの案に賛成かな」

 そう、この日ジノの引っ越しが行われたのだ。場所は何とマサキ&プレシア宅の隣である。

 バゴニアとの諍いも落ち着きつつあったためにジノもバゴニアに帰るという選択肢もあったのだが、

魔装機操者となったからにはその使命を果たしたいというジノの願いから、

正式にラングランへ住居を構えることになったのである。

 もっとも、ジノの本音が別にあることは、その住居の場所からも大方の人間にはバレバレであったが。

 

「ふぅ、ま、こんなもんか?」

 マサキが居間を見渡し、額の汗を拭いながら言う。

「あぁ、今日は本当にすまなかったね。ありがとう、みんな」

 ジノが頭を下げる。

「いいんですよ、ジノさん。あの戦いの時は色々お世話になったんですし。ね、マサキさん」

「そうそう、俺達は仲間なんだし水くさい事言うなって」

 ザッシュの言葉にマサキが頷く。

「はぁ〜い、みんな座って。お茶が入ったわよ」

 そう言って台所からお茶とお菓子が乗ったお盆を持った、ウェンディとプレシアが入ってくる。

「おう、サンキュー」

 マサキの言葉に合わせるように居間のテーブルの周りにまずジノとマサキ・ザッシュが、

それからお茶やお茶菓子を置いたウェンディとプレシアが腰掛ける。

ジノから右回りにザッシュ・ウェンディ・マサキ・プレシアの順だ。

「はい、どうぞ。ジノさん」

「あぁ、ありがとう。プレシア」

 真っ先にプレシアがジノのティーカップに紅茶を注ぐ。プレシアの手から注がれる紅茶を眺めるジノの顔に、

福と言っていい笑みが浮かぶ。

 そんな二人にマサキがちょっとムッとした表情を浮かべる。

「なぁに、マサキ。お茶を注ぐのが私じゃ不服なのかしら?」

 せっかく紅茶を注いでいるのに見向きもしないマサキに、ウェンディはちょっと頬を膨らませながら言う。

「あ、いや、そういう訳じゃねぇよ」

 マサキは慌てて両手をふる。

「えっ?なぁに?お兄ちゃんが何かしたの?」

「くすっ、プレシアちゃんが真っ先にジノさんにお茶を注いでるのを見て、マサキさんがヤキモチ焼いたんだよ」

「ザッシュ!てめぇ余計なこと言うな!」

「マサキさん、知ってますか?人って図星をつかれると怒るんですよ?」

 ザッシュの言葉にマサキは何も言い返せず、ムッツリと黙り込む。

「なに?お兄ちゃんそんなことで膨れてるの?今日はジノさんが主役なんだから当然でしょう?

だいたい、お兄ちゃんにはウェンディさんがいるでしょ。本当にいつまでたっても子供なんだから。ねぇ、ジノさん?」

「あ、あぁ、しかしまぁ、マサキの気持ちも分からないではないがね」

 内心『ジノさんが主役だから』というところにちょっとガッカリしながらジノが答える。

「ふぅん、そういうものなの?男の人ってよく分かんない」

 

「でも、ジノさん。一人暮らしで大丈夫なんですか?」

「あぁ、大丈夫さ。バゴニアでも一人暮らしだったしね。もっとも、国境警備に行きっぱなしだったから

家に帰ることはほとんどなかったが」

「そうですよザッシュさん。私がお世話になってた時もお掃除とかお洗濯は一緒にしましたし、

料理も手伝ってくれたんですから」

「ふぅん・・・ジノがねぇ・・・ぶぅっ」

 感心していたマサキだったが、突然吹き出す。

「ど、どうしたのよ、マサキ」

「い、いや、ジノがフリルがついたヒラヒラのエプロンつけて家事してるところ想像しちまって・・・ククククッ」

 マサキの言葉にしばしジノの顔を見つめていたウェンディとザッシュだったが、同時に顔を背ける。

笑い声こそあげていないものの、震えている肩が二人の思いを如実に物語っている。

「ひっどーい、みんな!確かにジノさんエプロン着てたけど、普通のブルーのエプロンだったよ!

いくらなんでもそんなエプロン持ってるわけないじゃない。ねぇジノさん?」

「あ、あぁ、もちろんだとも。私がそんなエプロンを着るわけがないだろう?」

 表情は平然としているが、額に一筋汗がつたっているのは気のせいだろうか?

『持っていないとは言わないのね』

 そんなジノを見てウェンディは思ったが、これ以上考えるとヤバイことになりそうだったので

心の奥底に封印することにした。

「い、いや、わりぃわりぃ。悪気はなかったんだ許してくれ」

「もう、お兄ちゃんてば・・・でもジノさん、バゴニアにいた頃と違ってほとんどこの家で暮らすことになるんでしょう?

ジノさんさえよければ、時々お手伝いに来ましょうか?」

「それは・・・プレシアさえよければ是非ともお願いしたいが、いいのかい?」

 ジノがチラリと向けた目線の先にちょっとムッツリとしたマサキの顔が写るが、プレシアは全く気付いていない。

「そんな、いいんですよ。これからはお隣さんじゃないですか。これからよろしくお願いしますね」

「あぁ、こちらこそよろしく」

 そう言って微笑み合うジノとプレシア。そんな二人をマサキは面白くなさそうに見つめ、

さらにそんな三人をちょっと呆れたような、それでいて微笑ましそうな笑みを浮かべて見つめる

ウェンディとザッシュだった。

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ジノの青春よ再び日記

 

 今日、ついに念願がかなった。プレシアの隣に引っ越すことができたのだ。

 私の懐具合からすればもう少し大きな家に住み、ホームヘルパーなどを雇うこともできたが

あえてそうはしなかった。

 何故か?

 「隣の家」「男の一人暮らし」「親しい仲」これだけ条件がそろえば、

きっとプレシアは時々様子を見に来てくれることだろう。

 そう、私とプレシアのハッピーエンドに向けての第一歩というわけだ。

 

 今日は私の所に家出してきていたとき以来、久々にプレシアのお茶を飲むことができた。

それはうれしかったし美味しかったのだが、その後の言葉に改めて仲間としての好意以上のものは

もたれていないことを実感してしまった。

 なんの!まだこれからだ!  

 きっとプレシアのハートを射止めてみせる!

 しかし、それにはまずはマサキを何とかしなければ・・・。「将を射んと欲すればまず馬を射よ」というが、

この馬はそう簡単には射れそうにない。

 マサキの性格からして、搦め手で責めるよりも正面から正々堂々、

徐々に好感度をあげていく方法がもっとも効果的だとは思うが・・・。

 前途は多難だ。

 しかし、障害が大きいほど恋とは燃えるもの。

 待っていたまえ、マサキ。きっといつか君のことを「お義兄さん」と呼んでみせる! 

 

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プレシアの春風日記

 

 今日、ジノさんが隣に引っ越してきた。

 昔、家出した時に色々お世話になったから恩返しするチャンスかな。

 一人暮らしするみたいだし、色々お手伝いしてあげようっと。

 あ、でももしかして余計なお世話かな?そんなこと無いよね?ジノさんもいつでもおいでって言ってくれたし。

 でもそれを聞いたお兄ちゃんが二人っきりになった時に『危ないからあんまり頻繁に言っちゃ駄目だぞ』

なんて言ってたけど、どういう意味だろう?

 よく分かんない。

 お世話になってた時もそうだったけど、ジノさんと一緒にいるとなんだか守られてるような、

包まれてるような暖かい気持ちになる。

 もちろん、お兄ちゃんといるときも感じるけれど、それとはちょっと違うような気がする。

それにお兄ちゃんの場合、イザっていう時は頼りになるけど普段は手の掛かる子供みたいだし。

 そのせいかな?よく分かんない。

 なんにしても、明日から賑やかな毎日になりそうな予感。

 そういえば、お台所に食器はそろってるけど食材や調味料がほとんどなかったな。

明日ジノさんを誘って一緒に買い物に行こうかな。ジノさんもまだこの辺のお店とかよく知らないだろうし。  

 よし、決まりっ!そうと決まれば今日はもう寝ようっと。

 明日も楽しい一日でありますように。

 


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