とらいあんぐるハート
〜やったね、フィリス先生!〜



 プルルルルル〜ッ・・・プルルルルル〜ッ・・・
 次の日の夕飯時、高町家の居間の電話が軽快に鳴り響いた。
「ん?電話か・・・」
「あっ、ウチが出ます!」
 タタタッ!
 恭也の声に真っ先に反応したレンが、俊敏な動きで居間の電話に向かった。
 カチャッ!
「もしもし、高町ですけど。・・・あっ、フィリス先生ですか?どうもこんばんは」
 ピクリ!
 レンが発した『フィリス先生』という言葉に、恭也が僅かに反応する。
「はい・・・あっ、お師匠ですね。ちょっと待って下さい。・・・お師匠ー、フィリス先生から電話です〜」
 受話器の向こうのフィリスの言葉に何度か頷いた後、レンは大きな声で恭也を呼んだ。
「今行く」
 スタスタスタスタ!
 恭也はそう答えると、かなり早足で電話に向かって歩いていった。
「はい。フィリス先生です」
 アッという間に電話の元へ辿り着いた恭也に、そう言いながらレンが受話器を手渡した。
「ああっ。・・・もしもし、恭也ですけど」
 レンから受話器を受け取った恭也は、軽く咳払いした後受話器に向かってそう言った。
【もしもし、フィリスですけど。ごめんなさいね、こんな夕飯時に】
「いえ、まだ食べ始める前でしたから。それより、こんな時間にどうしたんですか?」
 夕飯のことよりフィリスの電話の内容が気になったので、恭也はストレートにそう訊ねた。
【あの・・・今夜の事なんだけど・・・】
「ああっ、大丈夫ですよ。今夜もちゃんと時間通りに行きますから」
 少し歯切れの悪いフィリスの言葉を不思議に思いながらも、恭也はすぐさまそう答えた。
【違うの・・・その・・・】
 恭也の言葉を聞いた途端、フィリスの声のトーンが下がった。
「?」
 いつもと雰囲気の違うフィリスの声に、恭也は思わず首を傾げた。
【あ、あのね・・・ちょっと用事が出来ちゃって、恭也くんに来て貰えなくなっちゃったの】
「ああっ、そうだったんですか。それじゃ、明日同じ時間に伺いますよ」
 フィリスの言葉を聞いて、僅かに強ばった表情を崩しながら、恭也が当然のようにそう答えた。
 ところが、フィリスから返って来た返事は全く意外なものだった。
【それが・・・あのね、申し訳ないんだけど、2週間ぐらい用事が入っちゃって、恭也くんに来てもらえなくなっちゃったの・・・】
「えっ!?」
 ピキン!
 申し訳なさそうなフィリスの言葉に、一瞬恭也の表情が凍り付く。
「そ、そうなんですか・・・それじゃ、仕方ありませんね」
 慌ててそう答えた恭也の声には、動揺の色が如実に現れていた。
【本当にごめんなさいね。私の方からお願いした事だったのに・・・】
「いえ、気にしないで下さい。俺の方もついでみたいなものでしたから・・・」
 フィリスに気を遣わせまいと、恭也はつい心にもない言葉を口にしてしまった。
【そ、そう言ってもらえると助かるわ・・・】
 そんな恭也の言葉を聞いて、フィリスの声が更にトーンダウンする。
「あ、あの・・・そろそろ足の具合を診てもらおうと思うんですけど、いつ頃だったらフィリス先生は時間が空いてますか?」
 突然のフィリスの申し出に言い様のない不安に駆られた恭也は、普段なら絶対に聞かないような事を訊ねた。
 そんな恭也の質問に対するフィリスの答えは、またしても意外なものだった。
【ごめんなさい。昼間もちょっと往診の患者さんが多くて・・・しばらくの間は、恭也くんの方にまで手が回りそうにないの・・・】
「そうなんですか・・・」
 そのフィリスの言葉を聞いて、今度は恭也の声がトーンダウンする。
【あっ・・・そろそろ、私戻らないと・・・】
 その時、受話器の向こうからそんなフィリスの声が聞こえてきた。
「あっ、どうもすみません。何だか引き留めてしまったみたいで」
【ううん。こっちこそ、本当にごめんなさい。それじゃ恭也くん、また2週間後に・・・】
「はい。2週間後に・・」
 カチャッ・・・
 少し寂しそうなフィリスの言葉にそう答え、恭也は静かに受話器を置いた。
「は〜〜〜〜っ・・・・」
 受話器に手を掛けたまま、恭也は滅多に吐かない盛大な溜息を吐いた。
「2週間か・・・」
 そう呟いた今の恭也には、2週間という時間はとてつもなく長く感じられるのであった。

「あっ、やっと戻って来たわね。それじゃ、夕飯にしましょ」
 ダイニングに戻って来た恭也を見て、桃子がそう言った。
 既にテーブルの上には、美味しそうな湯気を立てている晶とレンの手料理が並べられていた。
 スッ・・・
「それじゃ、いただきましょう」
 恭也が自分の席に着いたのを確認した桃子は、軽く両手を合わせながらそう言った。
「いただきます!」
 そんな桃子に続いて、全員が復唱した。
「ねえねえ、レンちゃん、私の麻婆豆腐辛くないのにしてくれた?」
 自分の分だけ取り分けられた麻婆豆腐を見て、高町家の末娘『高町なのは』がそう訊ねた。
「その辺は抜かりないで!なのちゃんの分だけはシッカリ甘口にしといたで」
「わ〜い!ありがとう、レンちゃん!」
 パク!
 レンに対して嬉しそうにお礼を言うと、なのははレンゲですくった麻婆豆腐を口に運んだ。
「う〜ん、美味しい!」
「フフフ・・・」
 幸せそうに口をモグモグさせているなのはを見て、美沙斗が優しく微笑んでいる。
「美沙斗さん、その里芋の煮っ転がし上手く出来てますか?この間美沙斗さんに教わった通りに作ってみたんですけど」
 そんな美沙斗に、里芋の煮っ転がしが盛られた小鉢を目で指し示しながら、晶がそう訊ねた。
「ああっ、とても上手に出来ている。晶は飲み込みが早いな」
「うううっ・・・飲み込みが遅くてすみません・・・」
 美沙斗の言葉を聞いて、何気に美由希が傷付いていた。
「だ、大丈夫だよ。美由希もその内きっと料理が上手くなるよ」
 そんな美由希に、フィアッセが慰めの言葉を掛けた。
『そう言われ続け、早ウン年・・・』
 いつもなら、そんな恭也のツッコミが入るシーンだった。
「・・・・・」
 しかし、今日の恭也は無言のまま箸を僅かに動かしているだけだった。
「恭ちゃん、どうかしたの?」
 それを見て、美由希が思わずそう訊ねた。
「えっ!?あっ、いや・・・・別に何でもないぞ」
 パクリ!
 恭也はそう答えると、慌ててレン作の八宝菜を頬張った。
「恭ちゃん、さっきのフィリス先生からの電話、何の用だったの?」
 一番恭也との付き合いが長いだけあって何か感じる物があったのだろう、美由希が続けてそう訊ねた。
「あ、ああ・・・しばらく夜の病院には来なくても良いって話だった」
 恭也は極力平静を装いながらそう答えた。
「随分急な話なのね。前からそう言う予定だったの?」
 恭也の話を聞いて、少し驚いたような表情で桃子がそう訊ねた。
「いや、俺も今日初めて聞かされた」
 ズズー・・・
 恭也はそう答えながら、アサリの味噌汁を啜った。
「そう言えば、昨日のフィリス先生も少し変でしたよね」
 それまで黙って話を聞いていた晶が、不意にそう口を挟んだ。
「晶ちゃん、昨日フィリス先生に会ったの?」
「うん。昨日、桃子さんとスーパーに買い物行った時にね。なんか山ほど牛乳買い込んでた」
 なのはの質問に、晶が昨日の事を思い出しながらそう答えた。
「フィリス先生が牛乳を?」
 フィリスと牛乳がストレートに結びつかず、恭也が思わず眉をひそめる。
「そう言えば、私も本屋でフィリスに会ったんだった。確か・・・その、美容関係の本を買ってたような・・・」
 フィアッセが僅かに言葉を濁しながら、そう説明した。
「私もバッタリ顔を合わせた。確か・・・その、美容関連の器具を見ているような感じだった」
 こちらも微妙に言葉を濁しながら、美沙斗がそう言った。
「牛乳は良く分からないけど、とにかくフィリス先生が美容とかに興味を持ってるのは確かみたいだね」
 全員の話を聞き終わった美由希がそう呟いた瞬間、
「ああ〜・・・かあさん分かっちゃった!」
 突然桃子が大きな声でそう言った。
「私にも何となく分かった・・・」
 続いて、美沙斗がニコリと笑いながらそう言った。
「かあさんも母さんも、何が分かったって言うの?」
 そんな2人の母親を見て、美由希が不思議そうにそう訊ねた。
 ズズ〜ッ・・・
 恭也も渇いた喉をお茶で潤しながら、次の桃子達の言葉を待った。
「フィリス先生、きっと恋をしてるのよ!」
 ブフーーーッ!!
 桃子のその言葉を聞いた瞬間、恭也は口に含んだお茶を盛大に吹き出してしまった。
「おにいちゃん、お行儀が悪いよ!!」
 咄嗟に身を屈めてお茶の直撃という最悪の事態を免れたなのはが、両手をブンブンと振りながら恭也に抗議した。
「ス、スマン、なのは。俺が悪かった」
 恭也は吹き出したお茶を布巾で拭きながら、何度もなのはに頭を下げた。
「どうしたのよ恭也?あなたらしくもない」
「かあさんが変なこと言うからだよ」
 呆れたような表情の桃子の言葉に、恭也が少しムッとしながらそう答えた。
「別に変な事じゃないでしょ?フィリス先生だってお年頃なんだから」
「でも、桃子・・・今まで一度だってフィリスからそんな話を聞いたことないわよ」
 恭也同様やや懐疑的な眼差しで、フィアッセがそう言った。
「桃子さんの言ってることは多分正しい・・・。女性がいきなり容姿のことを気にし出すのは、大概恋をした場合だ」
 妙に確信的な口調で、美沙斗が桃子をフォローした。
「もしかして、母さんもそうだったの?」
「・・・・・」
 ポッ・・・
 美由希の言葉に、美沙斗の頬がほんのりと赤く染まった。
「わ〜、ホンマですか!?そこら辺の話をもうちょい詳しく聞きたいですな〜」
「俺も俺も!」
「わ、私も!」
 レンに続いて、目をキラキラ輝かせながら晶となのはが身を乗り出した。
「こらこら、ませたこと言わないの!」
 そんなレン達の姿を見て、フィアッセが少し呆れたようにそう言った。
 しかし、かく言うフィアッセ自身、興味津々と言った感じの光を瞳に湛えていた。
 キャーキャーと美沙斗の話題に沸く女性陣と全く対称的だったのは恭也だった。
『フィリス先生、きっと恋をしてるのよ!』
 先程の桃子の言葉が、今も頭の中で反響していた。
『フィリス先生が恋?・・・・嘘だろ?』
 何とか桃子の言葉を否定したかったが、否定する材料が全く見つからない。
 それどころか、更なるショッキングな出来事がこの後恭也を待ち構えていた。
「それじゃ、那美さんが言ってた胸の話も関係あるのかな?」
 ピクリ!!
 独り言レベルのそんな美由希の囁きも、高町家の人々は聞き逃さなかった。
「なになに、何の話?」
 美由希の隣に座っていたフィアッセが、興味津々といった表情でそう訊ねた。
「う、ううん!何でもないの!」
 美由希は一瞬『しまった!』という表情をした後、慌ててそう誤魔化した。
 しかし、そんな事で誤魔化される人間はここには一人もいなかった。
「美由希〜・・・かあさんに隠し事なんていけないわよ〜」
 そう言った桃子を筆頭に、全員が身を乗り出して美由希を見つめている。
「あうぅ・・・あの、絶対に他言しないでくれる?」
 コクコク!
 美由希の言葉に、全員が一斉に頷く。
「・・・・・」
 それを見て、何故か美由希の不安が一層増す。
 しかし、これ以上隠し通すことも出来ないと悟ったのか、ようやく重い口を開いた。
「あのね、夕方那美さんから聞いたんだけど、フィリス先生・・・その・・・胸を大きくしようと色々四苦八苦してるらしいの・・・」
「胸〜っ!?」
 美由希の言葉を聞いて、全員が素っ頓狂な声を上げた。
「こ、声が大きいってば!!いい、下手すると那美さんの命に関わるんだから、絶対に他言無用だよ!!」
 美由希が慌てて『しーっ!!』と言いながら、必死の形相でそう説明した。
「?・・・何でこの話と、那美さんの命が関係するんですか?」
 そんな美由希の言葉に対して、全員が思ってる疑問をレンが代表して口にした。
「それは私も良く分からないの。ただ、『うっかり口を滑らせちゃった!!』って言った時の那美さんの表情って、これ以上ないぐらい青ざめてたから、余程のことなんだと思うんだけど・・・」
 美由希は、『絶対に他言しないでくれ』と懇願する那美の狼狽ぶりを思い出しながらそう言った。
「そんな大事な話なら、もっと気を付ければ良いのに・・・」
 フィアッセは、那美の余りのうっかりぶりに少し呆れながら、思わずそう呟いた。
「私もそう思う」
 コクリ!
 結果的には他言してしまった自分のことを完全に棚に上げ、フィアッセの言葉に美由希は大きく頷いた。
「なるほど・・・昨日買い込んだ牛乳は、もしかしたらその為か?牛乳飲むと胸が大きくなるって言うしな」
「ハ〜〜〜ッ・・・アホやな。お前じゃあるまいし、フィリス先生がそんな迷信みたいな事信じるわけないやろ」
 そんな晶の言葉を聞いて、レンが盛大な溜息を吐いた。
「何だと、このヤロー!?」
 ガタッ!!
 レンの挑発的な言葉に、晶がこめかみをピクピクさせながら身を乗り出した。
「なんや、やるつもりか?」
 ガタッ!
 それを見て、受けて立つとばかりにレンも立ち上がった。
 しかし、
「2人とも、喧嘩しちゃダメ!!」
「はい・・・」
 なのはに伝家の宝刀を抜かれては、さすがの晶とレンも大人しく引き下がるしかなかった。
「牛乳の話はともかくとして、フィリス先生の胸の話は信憑性があると思う・・・」
 それまで皆の話を黙って聞いていた美沙斗が、不意にそんな言葉を口にした。
「えっ?どうして、母さん?」
「実は、少々心当たりがあるんだ」
 不思議そうな美由希の言葉にそう答え、美沙斗は昨日の『超強力バストアップマシーン』の事を思い出していた。
「実を言うと、私も少しだけ心当たりがあるんだ・・・」
 同じく、昨日の本屋での一件を思い出しながら、フィアッセがそう続けた。
「なるほど・・・これで、話が繋がったわね」
 全員の話を聞き終えた桃子が、大きく頷きながら確信したようにそう言った。
「と言うと?」
 桃子の言葉に、晶が僅かに首を傾げた。
「さっきの、フィリス先生が恋してるって話よ。フィリス先生が恋してる相手が、胸の大きな女性が好みのタイプだとしたら、全ての辻褄が合うと思わない?」
「ああっ!」
 ポン!
 桃子の言葉を聞いて、全員が納得したように手を叩いた。
 ガビーーーーン!!
 その中にあって、一人だけショックを受けている人物がいた。
 言うまでもなく恭也である。
『ま、まさか、フィリス先生に限って・・・きっと何かの間違いだよな。でも・・・』
 心の中でそう自分に言い聞かせてみたものの、桃子の推測が理にかなっていたので、それを認めないわけにはいかなかった。
「それにしても、フィリスにそんな想い人がいたなんて初耳だな」
「確かに。フィリス先生の周りって、あんまり男っ気ってないですもんね」
 フィアッセの言葉に、晶が相槌を打った。
「フィリス先生の一番身近な男の人言うたら・・・」
 ジ〜ッ!!
 レンのその言葉と共に、全員の視線が恭也に集中する。
「な、何だ?」
 集中する視線に少し動揺しながらも、恭也は平静を装ってそう訊ねた。
「時に師匠、フィリス先生に胸の大きな女性が好みだと言ったことは・・・」
「あるかーっ!!」
 探りを入れるような晶の言葉に、恭也はそう即答した。
「確かに・・・お師匠は、どちらかと言えばロリコ・・・」
 ゴチン!!
 レンの言葉が終わらないうちに、恭也の怒りの鉄拳が炸裂した。
「あ痛たたたた・・・」
「お前はどさくさに紛れて何て事を言うんだ!?」
 頭を抱えるレンに向かって、恭也の怒声が飛ぶ。
「それじゃおにいちゃん、くーちゃんとノエルさんどっちが好き?」
「えっ?」
 なのはの言葉を聞いた瞬間、人なつっこい久遠の笑顔と、どこかよそよそしいようなノエルの美貌が恭也の頭の中に浮かんだ。
「そ、それは・・・久遠かな」
「は〜・・・やっぱり」
 恭也の回答を聞いて、レンが思わずそう呟く。
 ジ〜ッ・・・
 同時に、他の女性陣の妙な視線が恭也に集中した。
「ちょ、ちょっと待て!今の例えはいくらなんでも極端だろ!?」
 恭也は慌ててそう弁明したが、一度傾いた流れは変えられなかった。
「となると、やっぱりフィリス先生の相手は師匠じゃないか・・・」
 グサッ!
「か、勝手に決めつけるな!!」
 色々な意味で心に突き刺さった晶の言葉を聞いて、恭也は思わず声を荒げた。
「恭也、もしかしてフィリスと?」
 そんな恭也を見て、フィアッセが驚いたような表情でそう訊ねた。
「い、いや・・・俺とフィリス先生は全然そんな関係じゃない」
 少々口惜しかったが、恭也に出来るのは少し口ごもってそう答える事ぐらいだった。
「って事は、やっぱりフィリス先生に好きな人が出来たって事よね?一体どんな人なのかしら?」
 恭也の心中など知る由もない桃子は、少しうっとりしたようにそう呟いた。
「気合いの入りようから見ても、相当その相手が好きなんだろうな・・・」
 ピクリ!
 そんな美沙斗の言葉に、恭也が敏感に反応する。
 ズズーッ!
 何かしてないとどうにも気持ちが落ち着かないので、恭也は取り敢えず味噌汁を啜ってみた。
「恭ちゃん・・・良いの?」
 そんな恭也を見て、美由希が少し心配そうにそう訊ねた。
「何がだ?」
 恭也が仏頂面でそう訊ね返す。
「フィリス先生のこと。気にならないの?」
「べ、別に、フィリス先生が誰を好きになっても俺には関係ないことだ!」
 バリバリバリ!
 恭也はそう言いながら、アサリを殻ごと食べていた。
『メチャクチャ動揺してるじゃない・・・』
 そんな恭也を見て、美由希は心の中で小さな溜息を吐いた。
「おにいちゃん、貝殻美味しい?」
「えっ?・・・ブハッ!!」
 なのはにそう言われてようやく自分の行動に気付くその姿には、いつもの冷静沈着な恭也の面影はなかった。
「ゴホッゴホッ!・・・ちょ、ちょっと用を思い出したんで外出してくる」
 ガタッ!
 その事に自分でも気付いたのか、恭也はそう言うと早々に席を立った。
「あっ、恭ちゃん!」
 ズカズカズカ・・・ガラッ!
 美由希の声を振り切るように、恭也は早足で玄関から出ていってしまった。
「まったく・・・あの子も素直じゃないんだから」
 恭也が外出したのを確認した後、桃子が溜息交じりにそう言った。
「かあさん、もしかして気付いてたの?」
「当たり前でしょ。何年あの子の母親やってると思ってるの?」
 驚いたような美由希の言葉に、桃子は当然のようにそう答えた。
「もっとも、恭也がフィリスを好きな事に気付いてないのは、恭也本人ぐらいなもんだけどね」
 桃子に続いて、フィアッセが少し苦笑しながらそう言った。
「フィアッセまで!?じゃあ、もしかして全員恭ちゃんの気持ちに気付いてたの?」
 コクリ!
 美由希の言葉に、なのはを含めその場にいた全員が頷いた。
「呆れた。それじゃ、どうしてあんなこと言ったのよ!?恭ちゃん完全に落ち込んじゃったじゃない!」
「それは・・・」
 美由希の非難の言葉に、全員が視線を落とす。
「てっきり、フィリス先生の好きな相手も師匠かと思いまして」
「ウチも。お師匠が惚けてるもんだと思うて、少し冷やかしたろうかと・・・」
 晶とレンが、仲良く頬をポリポリと掻きながらそう説明した。
「アハハ・・・実は私もそうなのよね。よもやこんな展開になろうとは・・・」
 晶達と同様に頬を掻きながら、桃子が少し気まずそうにそう言った。
「アハハ、じゃないわよ!こと恋愛に関しては、惚けるなんて芸当恭ちゃんに出来る筈ないでしょ?」
「面目ない・・・」
 美由希の言葉に、全員が素直に頭を下げた。
「まあ、過ぎた事をとやかく言っても仕方ないし、今は恭ちゃんをどうするか考えないと・・・」
「まあ、放っておくのが一番でしょ」
「かあさん!?」
「おかあさん!?」
「桃子!?」
「桃子さん!?」
 桃子のその言葉を聞いて、全員が驚きの声を上げた。
「私も桃子さんの意見に賛成だ」
「母さんまで・・・」
 美沙斗の言葉が、美由希の驚きを更に増大させた。
「恋愛というものは、いつも上手くいくものじゃない。時には挫折する事もある。それを乗り越えられるのは本人だけだ」
「美沙斗さんの言う通りよ。恭也が本当にフィリス先生の事を好きなら、彼女に振り向いてもらえるぐらいの男になる努力ぐらい出来る筈よ」
 結婚という経験を積んでいるだけに、美沙斗と桃子の言葉には重みがあった。
「でも、それでも恭ちゃんがふられちゃったら?」
 余程気になるのか、美由希がそう訊ねた。
「その時は、その時よ。恭也だって馬鹿じゃないんだから、次の素敵な恋を見付けるんじゃないの?幸い、恭也の事を心配する素敵なレディは沢山いるみたいだし」
 桃子はそう言いながら、美由希・フィアッセ・レン・晶の顔を順々に見回していった。
 ポッ・・・
 その桃子の行動に、美由希達4人の頬がほんのりと赤く染まった。
「か、かあさん、あんまりからかわないでよ!」
「そ、そうだよ、桃子!」
「そ、そうですよ!フィアッセさんや美由希ちゃんはともかく、俺やレンなんて論外ですってば!」
「おさると一緒にされるのは心外ですけど、ウチもそう思います!」
 照れを必死に誤魔化すように、美由希達は矢継ぎ早にそんな言葉を口にした。
「そう照れることはない。恭也は充分に魅力的な男性だし、好きになっても不思議出はない筈だ。私も、恭也が甥でなければ少し考えてしまう程だ」
「ダ、ダメだよ母さん!!」
「み、美沙斗、早まらないで!!」
「危険な考えは止めて下さい!!」
「それじゃ近親ピーになってしまいます!」
 美沙斗の爆弾発言を受けて、4人が一気に気色ばんだ。
「・・・じょ、冗談のつもりだったんだが・・・すまない」
 ペコリ
 予想以上の反応に戸惑いながら、美沙斗は少し気まずそうに頭を下げた。
「な、何だ、そうだったんだ。もう母さんてば人が悪いんだから」
「ど、どうも変だと思ったのよね」
「お、俺は最初からおかしいな〜と思ってたんです」
「ウ、ウチもそうです」
「プッ!」
 慌てて弁解する美由希達の姿を見て、桃子は思わず吹き出してしまった。
「おかあさん、おにいちゃんとフィリス先生恋人同士になれると良いね」
 そんな桃子に、なのはが少し不安そうな表情でそう言った。
「そうね。きっと大丈夫よ」
 ナデナデ
 桃子はそう答えると、なのはの頭を優しく撫でてやった。

 スタッ・・・
 一方その頃、家を飛び出してきた恭也は、海鳴大学病院にやってきていた。
 いくつかの窓には煌々と灯りが灯っていたが、診察時間は既に過ぎてしまっているので、フィリスにああ言われた以上恭也は建物の中に入ることは出来ない。
『ハ〜ッ・・・俺はこんな所で何をやってるんだ?』
 フィリスの研究室の窓ガラスを見つめながら、恭也は心の中でそう自問した。
 が、当然の如く答えなど出てこない。
「最初は、ちょっとした実地訓練のつもりで引き受けたのにな・・・」
 そう呟く恭也自身、最近どちらかと言えばフィリスに会いに来る事が主目的になりつつある事に気付いていた。
『フィリス先生の想い人か・・・一体どんな奴なんだろう?』
 かなりブルーになりながら、恭也はフィリスが好きな相手の人物像を想像してみた。
 しかし、どうにもイメージが湧いてこない。
『大体、フィリス先生に向かって胸が大きな女性が好みだなんて言うだけでもとんでもない男だ!!あのスレンダーな体型だって、フィリス先生の魅力の一つなのに!!』
 恭也は顔も知らないフィリスの想い人に猛然とジェラシーを燃やし、心の中でそう絶叫した。
『な、何を興奮してるんだ、俺は?』
 カーッ!
 数秒後、我に返った恭也は、自分の行動に思わず赤面した。
『ハ〜ッ・・・ここにいるとどうも不健康な思考に陥ってしまう。そろそろ戻ろう』
 チラリ・・・
 恭也は最後にもう一度フィリスの研究室の窓を見上げると、踵を返してトボトボと帰路に就いた。
「ああああ〜っ・・・恭也くんが帰っちゃう・・・。でも、我慢しなくちゃ・・・」
 そんな恭也をカーテンの隙間から見つめ、フィリスが寂しさで涙している事にも、恭也は当然気付いていなかった。


 それから、アッという間に1週間が経過した。
 ドヨ〜ン・・・
 つい1週間前までは恭也と楽しく語らっていた夜の一時だが、今のフィリスは一人悶々と研究室で過ごすしかなかった。
 そろそろファンデーションでも隠しきれなくなってきた目の下の隈が、フィリスの心労を物語っていた。
「会いたいよ・・・」
 机に突っ伏したフィリスが、ポツリとそう呟いた。
 今のフィリスには、『一日千秋』という諺の意味が痛い程良く理解できた。
「恭也くんに会いたいよ・・・」
 プルプルプル・・・
 更に強くそう呟いたフィリスの体が、小刻みに震え出す。
 そして、
 ガタン!!
「恭也くんに会いたい、会いたい、会いたい、会いたいよ〜!!」
 ジタバタジタバタ!!
 フィリスはイスをひっくり返してそう叫びながら、駄々っ子のように地面を転がり回り始めた。
「お前は何をやってるんだ?」
 そんなフィリスに、呆れたような声が掛けられたのはその直後だった。
 ピタリ!
 ソ〜ッ・・・
 動きを止めてフィリスが振り向くと、そこにはまるで天然記念物をを見るような視線を向けるリスティの姿があった。
「新しい遊びか?」
「リスティー!!」
 ガバッ!!
 ややからかうような口調でそう言ったリスティに、フィリスがいきなり抱き付いた。
「うわっ!?な、何だ!?」
「リスティー、恭也くんに会いたいよ〜!」
「お、落ち着けフィリス!何のことかサッパリ分からないぞ!!」
 リスティは、いきなり泣きながら抱き付いてきたフィリスを見て狼狽した。
「恭也くんに会いたいよ〜!」
「勘弁してくれよ〜」
 尚もそう言い続けるフィリスを前にして、リスティは犬のお巡りさん状態だった。
 結局、その後何とかフィリスを宥めたリスティは、事のあらましを聞くことに成功した。

『まったく・・・お前はバカか!?』
 話を聞き終わって、リスティは開口一番そう言いたくなった。
 しかし、目の前でエグエグと泣きじゃくるフィリスを見ては、さすがのリスティもそれを口に出すことは出来なかった。
 そもそも原因の一端が自分にあるだけに、良心も僅かながらに痛んでいたのも余り辛辣な言葉を発せられない理由の一つだった。
「そんなに会いたいなら、会えば良いだろ?」
 代わりにリスティの口から出たのは、少しぶっきらぼうなそんな言葉だった。
「そんなのダメよ。・・・今までの苦労が水の泡になっちゃう」
 フィリスは涙をハンカチで拭いながらそう答えた。
「それなら我慢しろ」
「でも、恭也くんに会いたい・・・」
「我が侭言うな!!」
 これにはさすがに、リスティも声を荒げた。
「でも・・・」
「でももストもない!我慢するなら我慢する!諦めるなら諦める!どっちかハッキリしろ!!」
「う・・・」
 ギュッ・・・
 リスティの言葉に、フィリスは思わず唇を噛み締めた。
「で、どっちにする?」
「・・・・・やっぱり我慢する。ここまで頑張ったんだから」
 リスティの問い掛けに、少し考えた後フィリスはそう答えた。
 フッ・・・
「なら、もう少し頑張れ。きっと、頑張りは恭也にも届くはずだ」
 ポン!
 フィリスの言葉を聞いてフッと表情を緩めたリスティは、優しくそう言いながらフィリスの頭に手を置いた。
「うん、頑張る。折角リスティがくれた情報だもんね」
 チクッ!
 そんなフィリスの言葉に、リスティの良心が僅かに痛んだ。
『う〜ん・・・軽い冗談のつもりだったんだけど、さすがに少し胸が痛むな。仕方ない・・・』
「あのさ、フィリ・・・」
 僅かな心の葛藤の後、リスティが口を開こうとした。しかし、
「ホント言うとね、リスティの言うこと半信半疑だったの」
 タッチの差で、フィリスがそんな事を言った。
「えっ?」
「でも、他の人の話を聞いたら何だか本当そうだったから・・・」
 ギョッとするリスティに、フィリスがそう続けた。
「そ、そうなんだ・・・」
「嘘だったら、腕の1本や2本ぐらいは・・・て思ってたんだけどね」
『やっぱり、絶対に黙ってよう!!』
 エヘヘと笑いながらそう言うフィリスの言葉を聞いて、リスティは即座にそう考えを改めた。
「どうしたのリスティ?何だか心なしか顔色が悪いみたいだけど?」
「い、いや、そんな事はないぞ!そ、それより、フィリスは恭也のどこが気に入ったんだ?」
 なかなか鋭いツッコミを入れるフィリスに対して、リスティは慌てて話を誤魔化そうとそんな言葉を口にした。
 これが、実に効果覿面だった。
 カーーーッ!
「そ、そんなこと・・・」
 リスティの言葉に真っ赤になりながら、フィリスは恥ずかしそうに俯いてしまった。
 こうなると、真雪仕込みのリスティの好奇心がムクムクと頭をもたげ始める。
「何だよ、勿体ぶらずに教えろよ!」
 ツンツン!
 フィリスの脇腹を肘で突つきながら、リスティがそう促す。
「えっと・・・強いて言えば、目線が同じ所かな?」
「はあっ?リスティと恭也じゃ身長に随分差があるだろうが?」
 フィリスの言葉に、リスティが怪訝な顔をする。
「そうじゃなくて!実際の身長の事じゃなくて、その考え方みたいな物かな?」
 フィリスは、上手く説明できないのがもどかしいかのように、そう説明した。
「考え方って?あの恭也とか?」
 リスティは、かなり現代の若者からかけ離れた恭也の性格を思い浮かべ、思わず首を傾げた。
「あのね、私もリスティと同じで、昔耕介さんに憧れてたの」
「な、何言ってるんだよ!?僕は耕介の事なんて何とも思っちゃいないぞ!」
 フィリスの言葉に二重の意味でギョッとしながらも、リスティは慌ててそう答えた。
 しかし、ほのかに赤く染まったその頬が、それが明らかに嘘であることを物語っていた。
「別に隠すことないのに。シェリーだって耕介さんに密かに憧れてたし、やっぱり私達って似た者姉妹って事よね」
 狼狽するリスティを見てクスクス笑いながら、フィリスがそう続けた。
「うるさい!僕の事は良いからサッサと話を続けろ!」
 痛い所を突かれ、リスティが少々ムッとしながらそう言った。
 クスリ
 そんなリスティを見てもう一度微笑んだ後、フィリスは再び口を開いた。
「でもね、耕介さんに対する想いって、好きというよりも憧れみたいなものだったの。耕介さんとは歳も少し離れてるし、恋人と言うよりはお兄ちゃんて感じみたいだったしね」「知佳みたいなこと言うんだな」
「きっと、知佳も同じような気持ちだったのかもね」
 フィリスはそう言って、フ〜ッと一息吐いた。
「そんな感じだから、私今まで本当の恋愛ってしたことがなかったの。でも・・・」
「ある日恭也が現れた」
 コクリ
 リスティの言葉に、フィリスが静かに頷いた。
「も、勿論、最初から恋愛感情を持ってたわけじゃないのよ!フィアッセの知り合いで、一人の患者さん・・・最初はそんなスタンスだった」
「それが今じゃラブラブか」
「ちゃ、茶々を入れないの!!」
 リスティの冷やかしに、フィリスが頬を赤らめながら抗議する。
「へいへい」
「もう・・・。じゃあ話を戻すけど、実を言えば、恭也くんは私よりも年下だったし、耕介さんの時とは逆に、私お姉さんになった気分だったの?」
「そのちびっ子体型でか?」
 ギロリ!
 プッと吹き出すリスティを、フィリスが睨み付けた。
「・・・コホン!」
 さすがにこの薬は効いたのか、リスティは小さな咳払いをすると大人しくなった。
「とにかく、お姉さんみたいな気分になったの!だけど、恭也くんを知れば知るほど、彼のシッカリした考え方や行動力が分かるようになって来て、弟と言うよりは一人の対等な男性として見るようになってきたの・・・」
「なるほどね。男に対する免疫の無さが災いしたわけだ」
「言っておくけど、恭也くんはもっともっと沢山良い所があるんですからね!もっとも、リスティには分からないでしょうけど!」
 からかうようなリスティの言葉にそう答え、フィリスはフンとそっぽを向いた。
「なるほど。こうしてフィリスがムキになるとこを見ると、恭也はなかなかの好青年らしいな」
 リスティはそう言ってニヤリと笑った。
 カーーーッ!
 それを聞いた途端、勢いで自分が口走った言葉を思い出し、フィリスはまたもや赤面した。
「さてと、面白い話も聞けたし、僕はそろそろ退散するかな」
 スッ・・・
 そんなフィリスを見て満足そうに微笑むと、リスティはゆっくりと立ち上がった。
「リスティ!さっきの話は・・・」
「分かってるって。他言無用だろ?」
 慌てるフィリスに、リスティはそう言って軽くウィンクしてみせた。
「絶対約束よ!」
「はいはい」
 カチャッ
 リスティは、フィリスの言葉に苦笑いしながらそう答えると、ドアノブに手を掛けた。「リスティ・・・」
 今正にドアをくぐらんとするリスティを、不意にフィリスが呼び止めた。
「ん?」
「話聞いてくれてありがとう。やっぱり姉妹って良いもんだね」
 足を止めたリスティに向かって、フィリスが少し照れくさそうにそう言った。
 フッ・・・
 そのフィリスの言葉に、リスティの口元が綻ぶ。
「フィリス・・・頑張れよ」
 パタン!
 フィリスの言葉に答える代わりに、リスティはそれだけ言い残して研究室を後にした。
「ありがとう、リスティ」
 リスティが閉めたドアに向かって、フィリスは囁くような声でそう礼を言うのであった。

 ポカ〜ン・・・
 フィリスがリスティとそんな会話を交わしている頃、高町家の縁側で生ける屍状態になっている人物がいた。
 最早説明の必要もないかも知れないが、恭也である。
「どうしたもんですかね?師匠1週間もあの調子ですよ」
 その様子を盗み見ていた晶が、困ったような声でそう呟いた。
「ご飯の時も、最近は殆ど上の空だもんね」
「まったく・・・作る甲斐がなくて困ります」
 フィアッセの言葉に、レンが小さな溜息を吐きながら同意した。
「よっぽどショックだったんだろうね」
「おにいちゃん可哀想・・・」
 美由希に続いて、なのはが泣きそうな声でそう言った。
「桃子さんや美沙斗さんはああ言ってたけど、やっぱりここは誰か相談に乗ってあげた方が良いんじゃないでしょうかね?」
「確かに」
 晶の言葉に、全員が一斉に頷く。
「でも、大人数で行けばかえって恭也の傷口を広げかねないし、ここは代表して誰かが行くってことでどうかしら?」
「異議なし!」
 フィアッセの提案に、全員が賛成の意を表した。
「問題は、誰が代表して行くかですけど・・・」
 ジ〜ッ!
 レンがそう言った途端、まるで示し合わせたかのように全員の視線が美由希に集中した。
「わ、私!?む、無理だよ、私口ベタだし!」
 美由希はそう言いながら、慌ててブンブンと手を振った。
「そんな事ないよ。美由希は一番恭也との付き合いが長いんだし」
「そうそう、俺も美由希ちゃんが適任だと思うな」
「ウチもそう思います!」
「おねえちゃん、頑張って!」
 ある意味責任逃れとも取れるようなエールを、全員が一斉に美由希に送った。
「あう・・・」
 こうなっては、美由希も断ることが出来なくなってしまった。
「分かったわよ。あんまり自信はないけどやってみる」
「オオーッ!」
 美由希のその言葉に、全員の口から同時に歓声が上がる。
「美由希、シッカリね!」
「美由希ちゃん、頼むぜ!」
「ファイトです!」
「おねえちゃん、うんと頑張ってね!」
「はい・・・」
 トボトボ・・・
 フィアッセ達の声援に見送られ、美由希は重い足取りで恭也の元に向かっていった。

「恭ちゃん・・・」
「・・・・・」
 すぐ側まで近付いた美由希の呼び掛けにも、恭也は無反応だった。
「恭ちゃん!」
 仕方なく、美由希は更に大きな声で呼びかけた。
「えっ?・・・ああっ、美由希か」
 それを聞いて、ようやく恭也も美由希の存在に気付いた。
「きょ、今日は月がきれいだね。恭ちゃんもここでお月見?」
 本当はそんな事ではないと分かっていたが、美由希は敢えてそう訊ねてみた。
「あ、ああ・・・まあそんなとこだ」
 美由希の問い掛けに、恭也は素っ気なくそう訊ねた。
『うっ・・・』
 その余りの弱々しさに、美由希は思わず逃げ腰になる。
 チラリ・・・
 思わずフィアッセ達の方へ視線を向けると、全員が『行け行け!!』とジェスチャーしてる姿が目に入った。
『ハ〜ッ・・・。他人事だと思って・・・』
 それを見て、美由希は心の中で大きな溜息を一つ吐いた。
 キッ!
 次の瞬間、僅かに表情を引き締めると、美由希は意を決して口を開いた。
「ねえ恭ちゃん・・・隣良いかな?」
「ああ・・・」
 美由希の問い掛けに対する恭也の返事は、意外なほどアッサリしたものだった。
「それじゃ失礼して・・・」
 スッ・・・
 美由希はそう言いながら、静かに腰を下ろした。
 しかし、
「・・・・・」
 いざ腰を下ろしたものの、何から話したら良いのか美由希には咄嗟に浮かんでこなかった。
『どうしよう?まさかストレートに言うわけにはいかないし・・・』
「美由希・・・」
 美由希が困り果てていると、突然隣に座った恭也が声を掛けて来た。
「な、なに、恭ちゃん?」
 美由希は、『渡りに船』とばかりに、少し身構えてそう答えた。
「そのさ・・・女性というのは、好きな相手の為なら変われるものなのかな?」
「えっ?」
 まさか恭也の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった美由希は、思わずキョトンとしてしまった。
「ス、スマン・・・変なことを聞いたな。今のは忘れてくれ」
 そんな美由希を見て、恭也が慌ててそう言った。
「・・・変われると思うよ」
「えっ!?」
 今度は、恭也がそんな美由希の呟きに驚いた。
「女の子にとって、恋をするってそれぐらい重大な事だから・・・」
「そうか・・・」
 美由希の言葉を聞いて、恭也が心なしか肩を落とした。
「でも、それだけじゃない」
「えっ?」
 美由希の言葉に、再び恭也が驚きの声を上げる。
「女の子は憧れて恋もするけど、ある日身近な存在に目を向ける時もある・・・」
 美由希は、最後に『私のように』と心の中で付け加えた。
「美由希・・・」
「だから、恭ちゃんも諦めちゃダメだよ!簡単に諦めるなんて、御神の剣士・・・ううん・・・恭ちゃんらしくないよ!」
「・・・・・」
 真剣な眼差しで力説する美由希を、恭也は少し驚いたように見つめている。
「ご、ごめんなさい!私、恭ちゃんの気持ちも考えないで・・・」
 ハッと我に返った美由希が、慌ててそう謝罪した。
 ポン!
 そんな美由希の頭に、突然恭也が手を置いた。
「きょ、恭ちゃん?」
「そうだな・・・お前の言う通りだ。戦いもしないで諦めるなんて、御神の剣士失格だ」
 驚く美由希にそう言って、恭也はニコリと微笑んだ。
「恭ちゃん!」
 それを聞いて、美由希が嬉しそうな声を上げる。
「無駄かも知れないが、やるだけはやってみる!」
 スクッ!
 恭也は精気が戻った顔でそう言うと、力強く立ち上がった。
「うん!それでこそ恭ちゃんだよ!」
 そんな恭也の言葉に、美由希が大きく頷いた。
「ああっ。と言うわけで、気合いを入れ直すために少し走ってくる」
 スタッ!
 恭也はそう告げると、縁側の脇に用意してあった靴を装着し、庭に降り立った。
「美由希・・・」
「ん?なに、恭ちゃん?」
 背中を向けたままの恭也の呼び掛けに、美由希は少しだけ首を傾げた。
「ありがとな。・・・それと、あそこの物陰に隠れてる連中にも礼を言っておいてくれ」
 クイクイ
 恭也は、フィアッセ達が隠れている辺りを指で示すと、少し恥ずかしそうにそう言った。
「うん!」
 コクリ!
 そんな恭也の言葉に、美由希は笑顔で大きく頷いた。
 ザッ!
 恭也は僅かに振り返ってそれを確認すると、夜の闇の中へ走り出していった。
『頑張れ恭ちゃん!』
 スッカリ力強さを取り戻した恭也の背中に向かって、美由希は惜しみない声援を送るのであった。
 嬉しさと、ほんの少しの寂しさを胸に秘めながら・・・。


 そして、運命の2週間後がやって来た。
 ゴクリ・・・
 恭也は、やや緊張した面持ちで、海鳴大学病院の前に立った。
 昼間のフィリスからの電話で建物内への立ち入りの許可が下りている事は分かっていても、なかなか足が前に進まなかった。
『ここまで来て何を躊躇う!』
 スタスタスタ!
 恭也は自分を鼓舞すると、意を決して建物の中に足を踏み入れた。
『そ、そろそろ恭也くんが来る時間よね?』
 一方、研究室では、フィリスが掛け時計に目をやりながらソワソワとしていた。
『別に変じゃないわよね?』
 手鏡に上半身を写し、先程から何度も何度もチェックを入れている。
 アイリーンと共に厳選したパッドは、見事にフィリスのカップを3つも上げ、彼女の細身の体にはアンバランスとさえ思えるような膨らみを演出していた。
「これなら巨乳って言ってもおかしくないサイズよね?」
 クイクイ
 フィリスはそう呟きながら、パッドを入れた胸を何回も持ち上げてみた。
 コンコン
 部屋のドアがやや控えめにノックされたのはその時だった。
「は、はい!?」
「こんばんは・・・恭也です」
 やや上擦ったフィリスの声に、ドアの向こうから少し緊張したような恭也の声が返ってきた。
「い、今開けます!」
 ギクシャクギクシャク!
 フィリスはそう言うと、両手両足を揃って動かしながら、ぎこちない動きでドアに向かった。
『に、2週間ぶりの恭也くんだ。恭也くん、何て言ってくれるだろう?』
 ドキドキドキドキ!
 フィリスの心臓は、喜びと期待とほんの僅かな不安が入り交じり今にも爆発しそうだった。
 それは、ドアの向こうの恭也も同様だった。
『に、2週間ぶりのフィリス先生だ。ま、まず最初に何て言うべきだろうか?』
 ドキドキドキドキ!
 かつて感じたことのない緊張感とフィリスに会えるという喜びで、恭也の心臓も爆発しそうだった。
 カチャッ!
 ドキドキドキドキドキドキドキ!!
 フィリスがドアを開けた事によって、2人の心臓のボルテージは更に上がった。
「い、いらっしゃい、恭也くん」
 ドアを開けたフィリスは、ぎこちない笑顔で恭也を出迎えた。
「あっ・・・ど、どうもこんばんは・・・えっ!?」
 同じくぎこちない表情で挨拶を返した恭也の顔が、フィリスを見た途端引きつった。
 バーン!
 存在感を十二分にアピールしているフィリスの胸が、視界に飛び込んできたからだ。
『い、一体全体どうなってるんだ!?』
 ある筈のない物を視界に捉え、恭也は軽いパニック状態に陥ってしまった。
 ジ〜ッ!
 そんな事もあって、恭也の視線は否応なくフィリスの胸に集中する。
『きょ、恭也くんが見てる。恥ずかしいけど嬉しい!』
 そんな恭也の視線を、フィリスは全く別の意味で受け取っていた。
 今までの全ての苦労が報われたような充実感を、フィリスは味わっていた。
「さ、立ち話もなんだから、とにかく入って」
 フィリスは喜びを噛み締めながら、恭也にそう促した。
「は、はい・・・」
 恭也はまだ呆然としたまま、何とかそう答え室内に足を踏み入れた。
『女の人の胸って、短期間でこうも大きくなる物なのか?それだけフィリス先生が努力したという事か・・・』
 そう考えた恭也は、想い人に対するフィリスの予想以上の熱の入れ様に、焦りを募らせた。
『あんなに見つめて・・・恭也くん何て言ってくれるかな?』
 当然恭也の心中など知る筈もないフィリスは、完全に有頂天になっていた。
 そして、結果としてそれが命取りになってしまった。
 ガツッ!
「きゃっ!?」
 舞い上がって前方をよく見てなかったフィリスは、イスの足に躓いてしまったのだ。
 ドスン!
「フィリス先生!?」
 ダッ!
 前のめりの状態で床に倒れ込んだフィリスに驚き、恭也が慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか、フィリス先生!?」
「だ、大丈夫・・・。ごめんなさい、みっともないところ見せちゃって」
 スクッ!
 恭也の言葉に恥ずかしそうに答えながら、フィリスはゆっくりと立ち上がった。
「あっ!?」
 次の瞬間、恭也が絶句した。
『なに?』
 恭也の表情に不吉な物を感じ、フィリスは慌てて恭也の視線を追った。
 ジ〜ッ!
 恭也の視線は、先程までと同様にフィリスの胸に注がれていた。
 しかし、先程までとは明らかに様子が違う。
『どうしたんだろう?・・・ヒッ!!』
 ピキン!!
 恭也の視線を追うように自分の胸に目を向けたフィリスは、そのまま凍り付いた。
 ポコッ!ポコッ!ポコッ!ポコッ!
 フィリスの胸には、あり得ない4つの膨らみが存在したのだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
 しばし、2人の間を沈黙が支配する。
 バッ!!
「こ、これは、ち、違うの!その、あの!!」
 ようやくパッドがずれた事に気付いたフィリスは、咄嗟に胸を隠しながらパニック状態に陥ってしまった。
「・・・・・」
 それを、恭也は呆然と見つめている。
「あ、あの、これは、あの・・・」
 一方のフィリスは、相も変わらず言葉にならない言葉を発しながら、今にも泣き出しそうだった。
『もしかして、さっきのフィリス先生の胸は・・・』
 ここに至って、恭也はようやくフィリスがパッドを入れていた事に気付いた。
 ムカッ!
 それと同時に、恭也の胸に言い様のない怒りが込み上げてきた。
 勿論、フィリスが偽物のパッドで胸のサイズを誤魔化していた事に怒っているのではない。
 恭也自身その理由が良く分からなかった。
 しかし、パッドを入れてまで好かれたいと言うフィリスの姿勢が、恭也を理解不能の怒りに掻き立てる。
 第三者が見ていたならば、それが恭也の嫉妬から来る物だと指摘したに違いない。
 が、当然ながら恭也はそんな事には気付かない。
 そして、行き先を失ったその怒りは、必然的に目の前のフィリスに向いてしまった。
「きょ、恭也くん・・・あの・・・これは・・・」
「俺、フィリス先生に失望しました」
 半ベソで必死に弁解しようとするフィリスに対して、恭也から投げ掛けられた言葉はあまりに冷たかった。
「えっ!?」
 ピキン!
 恭也のその言葉に、フィリスが再び凍り付く。
 しかし、先程と違って、今度は心臓が鷲掴みされたような寒気がフィリスを襲った。
「きょ、恭也くん・・・?」
「女性の身だしなみに関してとやかく言う気はありませんが、人を騙すようなことをしてまで好きになってもらおうと言う態度には賛成できません」
 呆然とするフィリスに、恭也は更に辛辣な言葉をぶつけた。
 ガクガクガク!
 恭也のその言葉を聞いた途端、フィリスはとてつもない絶望に苛まれ、その全身がガクガクと震え出した。
「あ・・・あ・・・」
 何かを言わなくてはと焦ってみても、それは言葉にはならなかった。
「俺、今日は帰ります!」
 クルリ!
 恭也はそう言うと、そんなフィリスに一瞥をくれることもなく背中を向けてしまった。
 ポロリ・・・
 それを見て、フィリスの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ウ・・・・ウワーーーーン!!」
 そして、次の瞬間フィリスはその場に泣き崩れた。
 ビクッ!
 これには、さすがの恭也も反応せざる終えなかった。
 クルン!
「ウワーン!・・えぐ・・ウワーーン!!」
「フィ、フィリス先生!?」
 恭也は慌てて振り返ると、泣きじゃくるフィリスに声を掛けた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい・・・」
 困惑する恭也に、フィリスはひたすら謝り続けた。
「フィ、フィリス先生!?・・・そ、そんな謝らないで下さい!謝るのはむしろ俺の方なんですから!」
 そんなフィリスを見て、恭也は行き過ぎた自分の行動を今更ながらに後悔した。
 しかし、それと同時に、フィリスがここまで自分に謝罪する理由が分からなくて、更なる混乱に陥っていた。
「ヒック・・・私・・・恭也くんの・・・エグ・・・タイプの・・・エック・・・女性になろうと・・・ヒック・・・思っただけで・・・エグ・・・騙すつもりなんて・・・ヒック・・・」
「えっ!?」
 何度もしゃくり上げながら必死に説明するフィリスの言葉を聞いて、恭也は目を丸くした。
『ど、どう言うことだ?それって・・・つまり・・・フィリス先生がそこまでして好きになって欲しかった相手って言うの・・・まさか・・・俺?』
 余りにも意外な事実に、恭也が呆然とする。
「エック・・・ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい・・・」
 その恭也の沈黙を否定と受け取ったのか、フィリスは再び泣きじゃくりながら謝り始めた。
 泣きじゃくるその様は、只でさえ小柄なフィリスを更に弱々しいものに感じさせた。
 ギュッ!!
 そのせいもあったのだろう、次の瞬間、恭也は力一杯フィリスを抱き締めていた。
「すみませんでした・・・・フィリス先生」
「きょ・・・恭也くん・・・?」
 耳元でそう囁く恭也の言葉に、フィリスは泣くことも忘れて呆然としている。
「俺が・・・全部俺が悪いんです!」
 ギューーーッ!!
 恭也はそれだけ言うと、更に強くフィリスを抱き締めた。
「恭也くん・・・」
 如何にも不器用な恭也らしい行動だったが、それが今のフィリスには心地良かった。
「恭也、お前何をやってる?」
 その時、殺気をはらんだ声が背後から投げ掛けられた。
 ゾクリ!!
 バッ!!
 そのプレッシャーに戦き恭也が振り返ると、そこには凄い形相でフィンを展開させるリスティの姿があった。
「リスティさん?」
 余りにいつもとは違う雰囲気を漂わせるリスティに、恭也は呆然としてしまった。
「何でフィリスを泣かしたんだ!?」
 怒りの眼差しでそう問い掛けるリスティの目には、泣きはらして真っ赤になったフィリスの顔しか映っていなかった。
「リスティ、違うの!?」
 ブーン!
 フィリスがそう説明するよりも早く、リスティのフィンが低く唸った。
 フワッ!!
 それと同時に、恭也の体が目に見えない力で吊り上げられる。
「うわっ!?」
 その全く未体験な力に、百戦錬磨の恭也の口から思わず驚きの声が上がった。
 そして、次の瞬間、
「リスティ、ダメー!!」
「てい!!」
 バシーン!!
 フィリスの悲鳴とリスティの気合い、そして、恭也が壁に叩き付けられる音が室内で交錯した。
「グエッ!!」
 背中を壁にしこたまぶつけた恭也の口から、思わず悲鳴が上がった。
 スッ・・・
 それと同時に、恭也の意識は段々と薄れていった。
「恭也くん、恭也くん!!」
 そんな恭也の元へ、半ベソのフィリスが駆け寄ってくる。
『そうだよな・・・こんな大事な人を泣かせたんだから、これぐらいは当然の罰だよな・・・』
 そんなフィリスを見て、恭也は薄れる意識に中そんな事を考えていた。
「恭也くん!!」
 ユサユサユサ!
 必死に自分を揺さぶるフィリスの腕の暖かさを感じながら、恭也の意識はブラックアウトした。

「こうして、打ち所の悪かった恭也は短い生涯を閉じるのであった・・・」
 パカン!!!
 そう呟いたリスティの後頭部に、フィリスの投げたスリッパが直撃した。
「縁起でもないナレーション入れないで!!」
「痛いな・・・ほんの軽いジョークじゃないか」
 クワッと目を剥いて猛抗議するフィリスの言葉に、後頭部を手でさすったリスティが悪びれもせずにそう答えた。
「・・・・・」
 それを見て、ベッドの上でフィリスに膝枕されている恭也が苦笑いしている。
「あなたの言う事には悪意が感じられるのよ!!本当に反省してるの!?」
 そんなリスティに向かって、更なるフィリスの怒声が飛ぶ。
「反省してるって。ちょっとした勘違いなんだからそんなに怒るなよ。恭也だって、結果的にはフィリスに膝枕してもらってるんだから得した気分だろ?」
 ドキッ!
「えっ・・・アハハ・・・」
 実際、フィリスの太股の感触にうっとりしていた恭也は、軽く笑ってお茶を濁した。
「もう・・・恭也くん、リスティの口車に乗っちゃダメよ!」
 そう言ったフィリスの頬も、ほんのりと赤く染まっていた。
「何だよ。お前だって凄く嬉しそうな顔してるぞ」
「わ、私の事は良いの!!大体、全ての元凶はリスティの出任せにあるんだからね!」
 フィリスは、先程判明したリスティの大嘘にかなりお冠の様子だった。
「そう言うなよ。まあ、『雨降って地固まる』ってやつだよ。良かったじゃないか、アハハ!」
『この〜!一度本気で痛い目にあわせてやろうかしら!!』
 愉快そうに笑うリスティを見て、フィリスは本気でそんな事を考えていた。
「でも、俺リスティさんを見直しましたよ」
「えっ!?」
「恭也くん?」
 突然の恭也の言葉に、リスティとフィリスが同時に怪訝そうな顔をする。
「今まで沢山の相手と戦ってきたけど、さっきのリスティさん以上に怖いと感じた相手はいませんでした。それだけリスティさんがフィリス先生を大切に思ってるって事ですよね」
 ポッ・・・
 恭也の言葉に、リスティの頬が僅かに染まる。
「バ、バカなこと言うなよ!たまたま虫の居所が悪かっただけだって!」
「リスティ・・・もしかして照れてる?」
 明らかに動揺しているリスティを見て、フィリスが嬉しそうにツッコミを入れた。
「うるさい!あ〜あ、これ以上ここにいるとある事ない事言われそうだから、僕はそろそろ退散するとしよう!」
 スクッ!
 リスティはそう言うと、素早く立ち上がった。
「あっ・・・」
 サッ!
「良いって良いって、そのままそのまま」
 リスティを見送ろうと起き上がり掛けた恭也を、リスティは手で制した。
 ツカツカツカ
「リスティ、色々とありがとう」
 ドアに向かうリスティの背中に、フィリスがそう声を掛けた。
「おっ、ようやく姉の有り難さに気付いたな」
「何言ってるの!今度変な嘘ついたら容赦しないからね!」
「おやま」
 フィリスのその言葉に、リスティは思わず肩をすくめた。
「それじゃ、恭也・・・お大事にな」
 カチャッ!
 リスティはそう言うと、ドアを開けた。
「はい。色々ありがとうございました」
 フッ・・・
 カチャッ!
 恭也の言葉に軽い笑みで答えると、リスティは部屋から出ていった。
「フ〜・・・ごめんなさいね、恭也くん・・・その、色々と・・・」
「いえ・・・俺の方こそ・・・」
 いきなり2人きりになり、フィリスと恭也はそんな言葉を交わし思わずモジモジしてしまう。
 カチャッ!
 その時、再びドアが開きリスティが顔を出した。
「!?」
「背中痛めたんだから、今夜は程々にしておけよ」
 驚く2人に向かって、顔だけ出したリスティが意味深な笑みを浮かべながらそう言った。
 カチャッ!
 バシッ!!
 次の瞬間、リスティがドアを閉めるのと、そのドアにフィリスが投げたスリッパが命中したのはほぼ同時だった。
「まったく、どうしてああ余計な事を言うのかしら!?」
「アハハ・・・」
 リスティの置き土産に、フィリスは真っ赤な顔で憤慨し、恭也は苦笑いを浮かべている。
「・・・・・」
「・・・・・」
 その直後、妙な沈黙が2人の間を支配した。
「あのね・・・恭也くん・・・私がさっき言ったことは本心・・・」
 スッ・・・
 そこまで言った所で、恭也がフィリスの言葉を手で遮った。
「恭也くん?」
 そんな恭也を、フィリスが不思議そうに見つめた。
「そこから先は俺に言わせて下さい」
 恭也はそう言うと、ス〜ッと小さく深呼吸した。
「俺、てっきりフィリス先生に好きな人が出来たと勘違いして、何だか分からないモヤモヤを抱え込んでました。今、その正体がハッキリしました。・・・フィリス先生、俺、フィリス先生の事が好きです」
「恭也くん・・・」
 ジワッ・・・
 恭也の言葉に、フィリスの瞳から涙が溢れだしてきた。
「御神の剣士の名に掛けて生涯フィリス先生を守り通すことを誓います。だから、俺と・・・その・・・」
「ウフ・・・私も恭也くんのことが大好き!世界中の誰よりも!」
 何とも恭也らしい告白に少し吹き出しながら、フィリスは涙をポロポロ流しながらそう答えた。
「フィリス先生・・・」
「恭也くん・・・」
 スッ・・・チュッ・・・
 次の瞬間、2人の顔は自然と近付いていき、静かに唇同士が触れ合った。
 スッ・・・
「あ、あは・・・何だか変な体勢でのファーストキスだったね」
「そ、そうですね。ガードポジションてやつですかね」
 数瞬後、唇を離した2人は、真っ赤な顔でそんな言葉を交わした。
「もう・・・恭也くん、ムード無さ過ぎ・・・」
 恭也の格闘技馬鹿な言葉に、思わずフィリスが顔を顰める。
 バッ!!
「す、すみません!」
 ペコペコ!
 恭也は慌てて跳ね起きると、平謝りに謝った。
「クス・・・良いの。でも、次はもうちょっとロマンチックにね?」
 スッ・・・
 フィリスはそう言うと、再び静かに目を閉じた。
「はい・・・」
 チュッ!
 恭也は照れたようにそう答えると、2度目のキスをフィリスと交わした。
 パチン!
 やがて、研究室の灯りは消え、2人の甘い甘い夜は更けて行くのであった。


 数週間後、ここさざなみ寮では、春の行楽シーズンという理由でさざなみ寮&高町家合同のパーティーが催されていた。
 しかし、その実体は、真雪の立案による『恭也とフィリスのカップル誕生お披露目パーティー』だった。
「つーわけで、最近我々も2人のアツアツぶりには閉口させられています」
 ドッ!!
 真雪のそんな言葉に、全員が沸いた。
 グラスを持ったさざなみ寮&高町家の面々の輪の中央では、恭也とフィリスが真っ赤な顔で俯いている。
「今日は、そんな2人のアツアツぶりを肴に一杯やろうって主旨なんで、みんな大いに楽しんで下さい!!それじゃ、かんぱーい!!」
「乾杯!!」
 カチン!
 真雪の音頭に続いて、全員の復唱とグラスが触れ合う音がさざなみ寮の中庭に響き渡たる。
「恭也くん、何食べる?私が採って来てあげる」
 フリフリのドレスを着込んだフィリスが、嬉々としながら恭也にそう言った。
「それじゃ、春巻きと焼売お願いしようかな?」
 そんなフィリスのドレス姿に目尻を下げながら、恭也がそう答えた。
「おーおー、デレデレしちゃって。恭也、涎出てるよ」
「えっ!?」
 ゴシゴシ!
 突然の美緒の言葉に驚き、恭也が慌てて口の周りを拭う。
「ニャハハ、ウソウソ」
「美緒ちゃん!」
 愉快そうな美緒を、フィリスがメッと叱りつける。
「そうやってる姿見ると、恋人って言うより若奥様って感じだよね」
「ホント、ホント」
 そんなフィリスを見て、知佳とみなみが楽しそうにそう言った。
「な、何言ってるのよ!大体、どうして知佳やみなみ・・・それに、薫さんまでいるのよ?」
 フィリスは顔を真っ赤に染めながらそう訊ねた。
「そりゃ〜フィリスの恋人さんのお披露目だもの」
「うんうん、休暇取っても見に来る価値はあるよね」
 知佳とみなみは、そう言いながら恭也の方をチラリと見た。
「・・・・・」
 その視線に、恭也はいくらか緊張した面持ちをしている。
「ねーねー、恭也くんて結構カッコイイよね」
「うんうん、私もそう思う」
 呟くような知佳の言葉に、みなみが大きく頷いた。
「2人とも・・・恭也くんに色目なんか使ったら容赦しないからね!」
 ギロリ!
 そんな2人の言葉を敏感に察知したフィリスが、そう言って2人を睨み付けた。
「わ、分かってるわよ」
「め、滅相もない」
 その迫力に圧倒され、2人はジト汗を流しながら即座にそう答えた。
「分かれば良いのよ。それにしても、薫さんまで野次馬根性で来るなんて意外だな」
「薫ちゃんの場合、他にも大きな理由があるみたいだけどね」
 クイクイ!
 そう言いながら、耕介と楽しそうに談笑する薫を指差したのは、最近ようやく耕介と薫が付き合っていることに気付いた那美だった。
「あっ、なるほど!」
 それを見て、恭也・フィリス・知佳・みなみの4人は大きく頷いた。
「那美・・・薫は耕介に会いに来たの?」
「耕介さんと薫さんてもしかして?」
 今一つ恋愛感情には疎い久遠と、興味津々といった感じのなのはが同時にそう訊ねた。
「そうなのよ。薫ちゃんて、ああ見えても結構積極的だから・・・」
「那〜美〜・・・」
 そこまで言った所で、那美の背後からおどろおどろしい声が聞こえてきた。
「ヒッ!!」
 ソ〜ッ・・・
 恐る恐る那美が振り返ると、案の定そこにはこめかみをピクピクさせる薫の姿があった。
「あ、あう・・・」
「那美・・・後でタップリと剣の稽古つけちゃるから、シッカリと準備しちょけよ」
 青ざめる那美に向かって、薫はキッパリとそう言い放った。
「そ、そんな〜・・・」
『ご愁傷様・・・』
 ヘナヘナとその場に崩れ落ちる那美を見て、恭也達は心の中でそう呟くのであった。
「よう、楽しゅーやっとるか?」
 次に恭也達の元へやって来たのは『椎名ゆうひ』だった。
「しっかし、恭也くんとフィリスがそう言う関係だったとはな〜。残念やな〜、うちも密かに恭也くんのこと狙うとったにのにな」
「えっ?」
 ザッ!
 ゆうひの言葉に恭也が僅かに赤くなるのと、フィリスがゆうひと恭也の間に割って入るのはほぼ同時だった。
 キッ!
「ジョ、ジョークや。ほんの軽いジョークや。フィリス、そんなに怒らんといてーな」
 フィリスに睨まれたゆうひは、苦笑いしながらそう言った。
「ゆうひ、今のフィリスは狂犬みたいなもんだから、迂闊な事は言わない方が良いよ」
 そう言いながら、ゆうひの背後からアイリーンが顔を出した。
「アイリーン!何てこと言うのよ!?」
 そのアイリーンの言葉に、フィリスは即行で抗議した。
「だって、顔を合わせれば『恭也が恭也が』って、恭也の事しか話さないんだもん」
 カーーーッ!
 少し呆れたようなアイリーンの言葉に、フィリスの頬が赤く染まる。
「べ、別に良いじゃないのよ!」
 プイッ!
 余程恥ずかしかったのか、フィリスはそう言ってそっぽを向いてしまった。
 そこで、アイリーンはターゲットを恭也に変更した。
「ねえねえ恭也、ムチムチになったフィリスを見て、一瞬でもムラムラッと来た?」
「いいっ!?」
 アイリーンのとんでもない質問に、恭也の顔が引きつる。
「アイリーン・・・それじゃ中年のオジサンだよ」
 アイリーンの背後でそれを聞いていたフィアッセが、そう言いながらジト汗を拭った。「どうなのよ?ねえ、どうなのよ?」
「そ、そりゃ、少しは驚きましたけど・・・やっぱり、俺はいつものフィリス先生が好きですから」
 ポッ!
 恭也のその言葉に、フィリスの頬が更に赤くそまる。
 そんなフィリスとは別に、外野からも恭也の発言に対する反応が返って来た。
「聞いた〜ノエル?やっぱり、高町くんは胸がない女の子の方が好みなんだって」
「はい。ロリコン嗜好では、私や忍お嬢様が相手にされないのも致し方ないですね」
「月村、何てこと言うんだよ!?ノエルさんも真面目な顔でとんでもないツッコミ入れないで下さい!!」
 ドッ!!
 普段は冷静な恭也の慌てぶりに、その場にいた全員が多いに沸いた。
「恭ちゃん完全に遊ばれてるな・・・」
 その光景を遠巻きに見ていた美由希が、少し苦笑しながらそう呟いた。
「まあ、幸せ絶好調の最近のお師匠にはええ薬です。ハグッ!」
 レンがしたり顔でそう言いながら、耕介作の蒸し餃子を頬張った。
「けど、何だか師匠に相手してもらえる時間が減って、少し寂しいような気がするな」
 小龍包を皿に盛った晶が、少しだけ寂しそうにそう呟いた。
「うん、そうだね。でも、恭ちゃんの幸せのためだもの、私達も負けずに素敵な人を見付けましょ!」
 美由希はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
「ほなら、美由希ちゃん、あの人なんかどうです?かなり頼り甲斐ありそうですよ。料理もメチャクチャ美味しいし」
 レンはそう言いながら、せっせと料理を盛りつける耕介を指差した。
「そうね・・・」
 ゾクリ!
 バッ!
 耕介に目を向けた瞬間、美由希は背後に冷たい物を感じ、慌てて振り返った。
 そこでは、ム〜ッとした殺気を放つ薫の姿があった。
「や、止めとく。私もまだ命が惜しいし。アハハ・・・」
 パクリ!
 美由希は少し冷や汗を流しながらそう呟くと、クリームコロッケを頬張った。
「ウチの子達がいつもお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ。高町家の皆さんのお噂はいつも伺っています」
「ウチでも、さざなみ寮のことが恭也を通して良く話題に上っています・・・」
 別の一角では、桃子と愛と美沙斗が談笑している。
「う〜ん・・・正に『マダム達の午後』って感じね」
 それを見ていた『我那覇 舞』が思わずそう呟いた。
 ピクリ!
 その舞の言葉に、愛が敏感に反応した。
 トテトテトテ!
 珍しく早足で舞に近付くと、その耳元へ口を寄せた。
「舞ちゃん・・・私はまだ一応二十代で独身なんだけど・・・マダムって言い方はないんじゃないの?」
「えっ・・・?いや・・・つい・・・」
 極珍しく緊張感を含んだ愛の言葉に、舞が思わず口ごもる。
「舞ちゃんの来月からのお家賃、2割アップと・・・」
 そんな舞を見て、愛が物騒な事を呟きながら手帳に書き込んでいく。
「あ〜ん、そんなの酷いですよ〜!勘弁して下さ〜い!」
 ドッ!!
 そんな情けない舞の言葉に、再び場が大いに盛り上がった。

「リスティさん、まあ一杯どうぞ」
 笑いが溢れる中、恭也はビール瓶を持ってリスティ元へ出向いていた。
「おっ、気が利くな恭也。んじゃ、一杯頂こうかな?」
 スッ・・・
 リスティは笑顔でそう言うと、自分のグラスを差し出した。
 トクトクトク・・・
 そのグラスに、黄金色の液体が注がれていく。
「恭也くん、あんまりリスティを甘やかしちゃだめよ!」
 それを見て、フィリスが釘を刺した。
「何言ってるんだよ。未来の義姉に媚びを売っておいても損はないぞ」
 リスティは、ニヤリと笑いながらそう言った。
 ポッ!
 このリスティの一言に、恭也とリスティが同時に赤くなる。
「おっ?その反応からすると、やることはシッカリやってるみたいだな?」
「リスティー!!」
 からかうようなリスティの言葉に対して、フィリスの怒声が飛ぶ。
「いや〜、若いんだから大いに結構!!けど、どうせならしっかりテクニックを磨いてフィリスを喜ばせてやるんだぞ」
 イシシと笑いながらそう言ったのは、突如現れた真雪だった。
「ま、真雪さん!?何てこと言うんですか!?」
 真雪の言葉にこれ以上ないぐらい顔を赤くしながら、フィリスが猛然とそう抗議した。
「怒るな怒るな。シッカリとテクニックを磨いて揉んでもらわないと、いつまで経っても大きくならないぞ」
 チョンチョン!
 真雪は、フィリスの胸を指差しながらそう言った。
「ハ〜・・・真雪はどうも言い方が下品だよな。せめて、丁寧な愛撫をしてもらえぐらい言えないものかな?」
「おめーの言ってる事だって同じ事だよ!」
 リスティの言葉に、ケッと言いながら真雪が反発する。
「どっちも余計なお世話です!放って置いて下さい!」
 そんな2人に対して、フィリスの怒声が再び飛んだ。
「・・・・・」
 恭也に至っては、女性2人の生々しい発言に心なしか前屈みになっている。
「そう言うなよ。神咲を見てみろ・・・耕介のテクニックが未熟なせいで、未だにあれだ。惨めなもんだぞ」
 真雪は、ハ〜ッと溜息を吐きながらそう呟いた。
「仁村さん、あなたはまだそれを言いますかーーー!!??」
 ダダダダダダ!!!
 真雪の言葉に激昂した薫が、十六夜を抜き放ち鬼の形相で真雪に突進して来た。
「おもしれー、やるか!?」
 真雪はそう言うと、手近な棒を掴んで構えた。
「か、薫ちゃん、落ち着いて!!」
「お姉ちゃんもあんまり挑発しないの!!」
 そんな2人を、那美と知佳が必死に宥める。
「ハ〜・・・結局いつものウチのパターンだな」
 それを見て、耕介が苦笑交じりにそう呟いた。
 そして、それと全く同じ事を考えている人物が屋根の上にもいた。
「今日という今日は我慢なりません!!」
「お前は年がら年中そんな事言ってるだろうが!?」
 下から聞こえてくる喧噪を、十六夜は小虎達と一緒に聞いていた。
「やはり、ここには賑やかなのが似合うようですね」
 小虎を優しく撫でながら、十六夜は嬉しそうにそう呟いた。
「まったく、どうしてこうなっちゃうんだろう?」
 地上では、ドタバタしてる薫達を見て、フィリスが溜息を吐いていた。
「まあ、ウチだって似たようなもんですよ」
 ギュッ・・・
 恭也はそう言いながら、フィリスの手を取った。
「恭也くん・・・」
「俺はそんな高町家が好きだし、フィリス先生・・・いや、フィリスだってさざなみ寮が大好きだろ?」
 コクリ!
 呼び捨てにされたのが余程嬉しかったのか、フィリスが真っ赤な顔で頷いた。
「だから、きっと上手くやっていける。これからずっと・・・ね?」
「うん!」
 恭也の言葉に、フィリスは満面の笑顔で答えた。
 チュッ!
 そして、2人は軽い口づけを交わした。
 ジ〜ッ!!
 そんな2人を、いつの間にか静かになった皆が見つめている。
「いいっ!?み、みんな、いつの間に!?」
「それはこっちの台詞だよ。いや〜お熱いね〜!」
 ボン!!
 真雪の言葉に、恭也とフィリスはこれ以上は無理なぐらい真っ赤になってしまった。
「アハハ!!どうもごちそうさまでした〜!」
 そんな2人をからかい祝福する言葉と笑いが、さざなみ寮の中庭に響き渡る。
 春の日はとても暖かく、その日差しはどこまでも眩しかった。
 まるで、恭也とフィリスの未来を照らし出すように・・・。
『幸せだな〜俺(私)達は・・・』
 愛すべき人達の笑いに囲まれながら、春の日差しの中、恭也とフィリスは同じ幸せを噛み締めるのだった。


 



 〜後書きのような物〜

 皆さんどうもこんにちは。北極圏Dポイントの教授です。
 今回は、『やったね、フィリス先生!』のその2をお届けします。
 改めて読み返してみると、我ながら何ともベタベタな話ですね。(笑)
 でも、個人的にはこういう展開は大好きなんです。
 それにしても、美由希とリスティが結構美味しいとこ持って行ってますね。
 何気に私の書くとらハ作品では美由希の出番が多いんですよね。
 それもその筈、何を隠そう美由希は『とらハ3』の中では私の一番のお気に入りキャラなんです。
 けど、それを友人達に言うと皆口を揃えて「それはおかしい!」って言うんですよね。(笑)
 まったく失礼しちゃいますよね。
 そんな訳で、現在同人誌で連載中の『高町家VSさざなみ寮〜激闘!野球大会』美由希をヒロインに抜擢しました。(笑)
 こちらの方も、宜しければ読んでやって下さい。(笑)
 それでは、また次の作品でお会いしましょう。

 2004.10.22 教授






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