夏の星座

りゅう座/りょうけん座/いて座

りゅう(竜)座

学名:Draco (略符:Dra)

 ボーデ星図の北天の星座です。
 中央少し上にこぐま(小熊)座があり、その尻尾に北極星があります。その左側にはケフェウス座、その左上にカシオペア座、そして、逆さまになっていますが、こぐま座を囲むようにりゅう(竜)座があります。
 りゅう座は夏の夜に高い位置に来ます。
 目立たない星座ですが、しぶんぎ座(りゆう座ιイオタ)流星群やジャコピニ(りゆう座γガンマ)流星群の塙射点がある星座としてよ<知られています。また、α星トウパンは昔天の北極近<にあり、北極星の役を果していました。

■ギリシア神話


 

 りゅう座は、ヘラクレスがエウリステウスに命じられた12の試練の11番目の物語に登場する竜の星座です。
 ヘラクレスは、アトラス山のふもとの楽園にあるという黄金のりんごをとりに行くようエウリステウスに命ぜられます。このりんごは大地母神がヘーラーに結婚の贈り物として与えたもので、ヘーラーはたいそう大事にしていました。それをアトラスの娘のヘスペリデスたちがりんごを盗もうとしたので、常に警戒を怠らない竜のラードーンにりんごの木に巻き付いて番をするよう命じました。この怪物は100の頭を持ち、決してその全部が眠ることはないと言われていました。その竜がりゅう座の竜ということです。
 ヘラクレスはこの楽園の所在を知らなかったので、ネーレウスにたずねたところ、ヘスペリデスたちの父親のアトラスに取ってこさせるよう勧め、いくつかの忠告をします。
 アトラスはわけあって、永久に重い天球を支えるという大変な重労働を課せられていました。
 ヘラクレスはアトラスを訪ね、代わって天を支えているからりんごを取ってくるように頼みました。アトラスはこの重労働から解放されることを喜んで、りんごを取つてきてくれました。そして、アトラスはりんごをエウリステウスのところへ届けてくるから、そのまま天を支えてくれるよう頼みます。
 そこで、ヘラクレスはネーレウスの忠告を思い出して一計を案じ、自分が頭の上にあてものをする間、天を支えてくれと頼みます。アトラスがもう一度天を支えたとたんに、ヘラクレスは金のりんごを取り上げて立ち去ります。
 このようにして、ヘラクレスは竜と顔を合わせることなく黄金のりんごを手に入れたということです。しかし、星座になったヘラクレスはこの竜の星座と隣りあわせで、いつも竜に狙われているように見えます。
 別の言い伝えでは、ヘラクレスは竜を退治して金のりんごを手に入れたという話しもあります。

■りゅう座の星 α星 トゥバン


 竜の尾の近<の3等星で、アラビア語で蛇または竜の意味する、トウバンという固有名がついています。この星は紀元前2800年ごろ、北極星でした。
 地球の自転軸(地軸)は歳差運動によって約2万6000年の周期で首ふり運動をします。そのため、天の北極(地
軸の方向)は竜座を中心に円を描きます。
 トウバンは紀元前2800年頃には天の北極に最も近く、その前後数百年の間、北極星の役割を果たしていました。エジプトではギゼーの大ピラミッドの建設された頃で、日本では縄文式文化の時代です。
 その頃の北極星は今のポラリスとは違う星でした。「冬のソナタ」のヨン様のセリフを思いだされた方は混乱するかも知れませんが、実は地球の地軸の歳差運動によって約2万6000年の周期で移動するので、天の北極の位置も変わるのです。
 エジプト最大のクフ王のピラミッドには北側に高度31度の角度を持った一直線の通気孔があります。この孔は天文学者が当時北極星であったこの星を観測する孔であったという説があります。

■しぶんぎ座流星群(りゅう座 ιイオタ流星群)


 
毎年1月1日の未明に見られる流星群です。夏のペルセウス流星群、冬のふたご座流星群と並ぶ、三大流星群の一つです。
 輻射点がりゅう座のι(イオタ)星の近くにあり、りゅう座ι流星群と呼ばれますが、昔この付近に壁面四分儀座という星座があったので、しぶんぎ座流星群とも呼ばれています。りゅう座を輻射点とする流星群は、この他にジャコピニ流星群があるので、混乱を避けるためにしぶんぎ座流星群という名がよく使われます。
 この流星群の特徴は出現のピークが短時間で、観測条件が厳しいとされています。すなわら、ピークの時間が夜で輻射点が地平線上になければなりません。今年、2006年は4日午前2時から3時ごろに出現のピークがあると
予想されていますます。この日、月齢は4日なので、日没後まもなく沈み、条件は最適です。運がよければ、ピーク時には、1時間に数10個の流星が見られるかもしれません。

いて(射手)座

 半人半馬の怪獣ケンタウロスが弓に矢をつがえて何かを射止めようとしています。図には見えませんが、右にさそり座があり、さそりを狙っているように見えます。トレミー(プトレマイオス)の48星座の一つ、また、黄道12星座の一つでもあります。

 いて座には特に明るい星がなく、天の川のたくさんの星のなかに埋もれていて、星座としてはあまり目立ちませんが、星雲、星団などが豊富で、星空を散策する人には興味の尽きない星座です。

 星の並びとしては6個の星が作る小さなひしゃくの形が、南斗六星として知られています。しかし北斗七星とは違って、これらの星が南北の方向を示すのに役立つことはないようです。またこの付近は天の川が特に明るく見えますが、これは銀河系(天の川銀河)の中心がこの方向にあるためです。

学名:Sagittarius(符号:Sgr)

■ギリシャ神話


 ギリシャ神話には上半身が人間で下半身が馬であるケンタウロス族が登場します。その中のひとりにケイロンという強く賢い人がいました。これがいて座のモデルです。ケイロンはギリシャの神アポロンとアルテミスに教育を受け、狩猟や音楽、医学などに憂れ、薬草を栽培して病に苦しむ多くの人を救ったといいます。
 怪力の勇者ヘラクレス(ヘルクレス座)、名医アスクレピオス(へびつかい座)、勇将アキレウス(アキレス)などはみなこのケイロンに育てられ、狩猟や音楽、医学や体育などを教えられました。
 のちにヘラクレスが他のケンタウロス族と戦ったとき、ケイロンは誤ってヘラクレスの放った毒矢を受けて死んでしまいます。大神ゼウスはケイロンの死を悼んで天にあげ星座(いて座)にしたということです。

 ケンタウロスはギリシャ神話に出てくる粗暴な半人半馬の一族の名ですが、ケイロンはその中のひとりの名前(人名)です。星空には、いて座のほかにケンタウルス座があります。(名前が少し違いますが、ケンタウロスはギリシャ語、ケンタウルスはラテン語で、星座名にはラテン語が使われています)
 
 ケンタウルス座はさそり座の右下(南西)のあり、星座絵では槍をかまえ、さそり座をはさんで、いて座と向かい合っているようにみえます。ケンタウロスの足元(さそり座との間)には狼(おおかみ座)がいて、ケンタウロスはそれを槍で突く姿とされています。
 ケンタウロスは美術の題材として古くから絵画などに登場しますが、20世紀になって、スペインの画家パブロ・ピカソが一時期ケンタウロスを好んで描き、多くのデッサンを残しています。

■いて座の天体


 明るい双眼鏡でいて座の付近を眺めると、次々と星雲や星団が視野に入ってきます。その中には、干潟星雲(M8・散光星雲)、オメガ(ω)星雲(M17・散光星雲)、三裂星雲(M20・散光星雲)など、天体写真集を飾る有名な天体があります。これらの天体は眼視観察でも十分に楽しめますが、CCDカメラ・デジカメで上手に写真を撮ると、天体写真集に負けない立派な映像が得られます。
 いて座は日本からは南の空低く見えるので、これらの天体を楽しむには、月の光りに邪魔されない良く晴れた夜に、できるだけ南の空が開けた場所を選んで、南中の頃に観測するのがコツです。いて座の南中は8月の中旬で午後9時頃、9月中旬では午後7時頃になります。
 

■いて座の天の川と暗黒星雲


 この季節には天の川が良く見えます。はくちょう座のあたりから天の川が明るくなり、七夕のこと座のベガとわし座のアルタイルの間を通り抜けて、いて座・さそり座に向かいます。いて座・さそり座のあたりでは、天の川がもっとも明るく見えますが、これは銀河系中心がこの方向にあるためです。
 天の川が良く見えるときに注意してみると、天の川の明るさにずいぶん濃淡があることがわかります。これは天の川の中にあるガスや塵による吸収のためです。天の川の中にはガスや塵がたくさんありますが、これらは非常に不均一なので、吸収にムラがあり天の川に濃淡が見られるのです。天の川の写真を見ると吸収の様子が良く分かりますが、吸収によって暗く見える部分を暗黒星雲といいます。

 はくちょう座からいて座にかけて天の川をたどると、天の川が二筋に分かれて見えますが、これも天の川のガスや塵による吸収のためです。ガスや塵が天の川の面に沿って非常に薄い層を成しているために、天の川に沿って吸収帯(大きなスケールの暗黒星雲)をつくり、天の川を二筋に分けているのです。これは広角レンズで撮影した天の川の写真を見るとよくわかります。
 このように、天の川のガスや塵は光りを吸収するため、たいへん観測の邪魔になります。しかし、これらのガスや塵は星の材料となります。星は天の川のガスや塵が重力で集まって生まれたものなのです。ですから、これらのガスや塵は天の川・銀河系の営みになくてはならないものなのです。いて座の付近には暗黒星雲と共に星が盛んに生まれている領域(散光星雲)がたくさん見られます。

■銀河系の中心と巨大ブラックホール

 
銀河系の中心は、さそり座とへびつかい座の境界近くのいて座の方向、約2.8万光年の距離にあります。しかしこの方向は暗黒星雲に覆われていて(塵による吸収が強く)可視光線では銀河系の中心を見ることがまったくできません。
 しかし、赤外線や電波では、吸収をあまり受けないので、銀河系中心まで見通すことができます。これらの観測によると、銀河系の中心近くには、さまざまな異常な現象が観測され、だいぶ前から巨大なブラックホールがあるのではないかと考えられてきました。しかし、その直接的な証拠はなかなか得られませんでした。

 最近、赤外線によって、銀河の中心付近の高分解能の精密観測が行われ、銀河系中心付近の星の運動を直接観測できるようになりました。星の運動が分かると、星に働く力、すなわち重力が計算できます。重力が分かれば、その源となる質量を推定することができます。このような方法で銀河系中心付近の質量の分布を調べると、銀河系中心の約0.01光年の範囲に太陽の約300万倍の質量が集中していることになります。このような質量の集中はブラックホール以外には考えられません。ということで、銀河系の中心には太陽の約300万倍の質量の巨大ブラックホールが存在すると考えられています。

 巨大ブラックホールガスが落ち込むと、莫大なエネルギーが解放され、強い電波やX線の放射、ジェットの放出やガスの激しい運動など、非常に激しい活動を起こします。宇宙にはそのような激しい活動を示す銀河(活動銀河)がたくさん観測されています。しかし銀河系の場合、現在それほど激しい活動は見られず、ガスの供給がわずかで「休息中」と考えられます。 

りょうけん座

学名:Canes Venatici (略符:CVn)

 りょうけん座は、熊(おおぐま座)を追う男(うしかい座)が引き連れる二匹の猟犬、アステリオン(上)とカーラの姿を表す星座です。

 近世になって追加されたもので、特別な星座物語や神話は伝わっていないようです。
 おおぐま座、うしかい座、かみのけ座に囲まれた目立たない小さな星座で、一番明るい星が3等星にすぎません。しかし、二重星のコル・カロリ、渦状銀河M51やM106、球状星団M3など、興味ある天体が隠れています。

二重星 α、コル・カロリ

 一番明るい星αは、白色の2.9等星と5.5等星が19.3"離れた二重星で、小さな望遠鏡でも分離して見ることができます。天文学的には、主星は非常に強い磁場を持つ星の代表的なものとして知られ、非常にわずかな変光が観測されています。距離110光年。
 コル・カロリという名は、「チャールズの心臓」という意味だそうですが、イギリスの歴史に関係があります。17世紀にイギリスで市民革命が起こりました。クロンウェルによる清教徒革命です。これによってイギリス国王チャールズ一世は処刑されますが、クロンウェルの死後チャールズ二世は王政復古によりロンドンに戻って王位につきました。このときグリニッジ天文台の第2代台長であった、ハレー彗星で有名なエドモンド・ハレーはチャールズ二世をたたえて、この星に名をつけたといいます。星座絵をよく見ると、下の猟犬カーラの首輪のところに王冠をつけた赤いハートが描かれ、ドイツ語で「カール二世の心臓」と書かれています。この星は3等星、それほど目立つ星ではないので、チャールズ二世が喜んだかどうか、少々気になるところです。

渦状銀河M51(NGC5194+5195):「子持ち銀河」

 おおぐま座との境界近くにある渦状銀河で、2800万光年のかなたにあります。そばに小さな銀河(NGC5295)がくっついているので、「子持ち銀河」と呼ばれています。8.5等星と9.5等星のペアですが、10cm程度の望遠鏡でこの様子がわかります。
 天体写真などではおなじみの有名な銀河ですが、もともと銀河は大変暗い(輝度が低い)ので、小望遠鏡による眼視観測では、その渦巻き構造を見ることは困難です。我々に最も近い渦状銀河アンドロメダ銀河でさえ、眼視観測では、渦巻き構造を確認することは難しいものです。しかし、CCDカメラで写真撮影すると、小望遠鏡でも、見事な渦巻き構造を捉えることができます。
 実はこの二つの銀河はニアミスをしている銀河で、接近したときの重力(万有引力)の作用(潮汐作用)でM51の渦状腕が長く伸びて、「子銀河」NGC5195にブリッジがかかっているように見えます。
 最近、NASAがハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ15周年を記念して、M51のこれまでにない詳細な画像を公開しました。M51の渦巻き構造(渦状腕)の詳細をこれまでにない解像度で見ることができます。

球状星団M3

うしかい座との境界近くにある球状星団で6.4等星、視直径約10'。双眼鏡でも恒星とは違う姿を確認することができます。口径10cm以上の望遠鏡では周辺部の星が分解されて見えるようになります。球状星団は銀河系ができた頃の最も古い天体で、銀河系の化石と呼ばれ、銀河系の形成や歴史の解明に役立った天体です。球状星団は、約100個ほど見つかっています。ハローに広く分布し、距離が遠く暗いものが多いのですが、M3は明るく見やすいものの一つです。距離は32200光年。


注:東北大学教授・土佐誠先生の執筆によります)

「星座と神話」目次へ戻る