Are You a Graphical Designer?

Oh ! It's a nice picture !
Are you a graphical designer ?

この絵を見せるとその娘は大声で笑いながら
そう言った。 別に笑わせるために描いたんじゃない。
時差ボケと戦いながらこの絵を描いたのは部屋の鍵が
閉まらなかったからだ。 なんて複雑な鍵なんだ。

さっき部屋に通された時、鍵の使い方を説明して
もらったが、ボーっとしているせいか全く頭に入らなかった。
「出来ない! 出来ない!」と騒いでいると
「You’re funny!」と笑われた。

何度も説明してもらうのも悪いと思って、この絵を描いて
見せに行きこれで正しいのか?と聞いたのだ。   

しかしその娘は絵が気に入ったようで、ケラケラ笑いながら私の部屋に向かって歩き出した。
部屋の前に来ると、もう一度丁寧に説明してくれた。 何度か説明してもらい、絵を見ながら試したら
やっと出来るようになった。

1992年9月13日夜、部屋の鍵の閉め方を覚えた私は、チェックインしたチューリヒ郊外のホテルから
夕食を取るためやっと外出することが出来た。

     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・

1992年に初めてヨーロッパツーリングをして一番印象に残った事、それは人との出会いだった。
もちろんヨーロッパアルプスの景色やワインディングは素晴らしかった。 あんなスケールと感動、
日本のツーリングでは絶対に味わえない。 町の景色も本当に美しかった。 日本の統一感の全く無い
町とは比較にならない。

でもそれらの記憶は時間と共に少しずつ薄れていく。 だが親切にしてもらった事、印象的な出会いなどは
10年たった今も鮮明に覚えている。 先のチューリヒのホテルでフロントの女の子と交した会話などは
まるでテープレコーダーを再生するようにイントネーションまで正確に記憶している。

2002年9月、久しぶりにヨーロッパをツーリングしたが、やはり人との出会いが印象的な旅だった。
それはきっと個人旅行だからだと思う。 なにもかも自分で決めて行動するのは自由だが、その反面
不安も多い。 そんな時、ちょっとした親切が涙が出るほど嬉しい事がある。 このレポートは人との出会い
を中心に書いていきたいと思う。

     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・


1992年9月、フランス・アルザス地方にて

スイスで「グラフィックデザイナーなの?」
と訊かれて以来、私はすっかりその気になっていた。

宿泊したフランスの宿で、バケツと水道の水を借りて
バイクを洗車しようと思うが英語は全く通じない。

そこで説明する代わりにこの絵を描いて見せたところ
宿の主人は腹を抱えて笑い出し、無事洗車できた。

 

「ミスター・アサーダ?」

2002年9月14日(土)、JAL451便は45分遅れで成田を出発、約12時間のフライトでチューリヒ、
クローテン空港へ着いた。 今回はバイク店主のフュルストさんが空港に迎えに来てくれる事になっていた。

フュルストさんとは1992年に初めてヨーロッパツーリングをしてから10年来の付き合いになる。
1994年にフュルストさんが来日した時、京都で会って以来8年ぶりの再会だ。 山内さんが亡くなって
輪嘶舎のヨーロッパツーリング紹介をメンバーと引き継いでからは、ホームページを管理している為、
私がフュルストさんと直接連絡を取るようになり、輪嘶舎は今年2人のライダーを紹介した。 

しかし空港に着いてみると、フュルストさんはいなかった。 来ないのかな? 1人でホテルまで行くか。
でももし来てくれたら悪いな。 電話くらいはしよう。 そう思って電話を探していたら「Mr.ASADA」と
書かれたカードを持った人が現れ、
「ミスター・アサーダ? 僕の名前はマルコ。 フュルストの友達です。」
そして私がフュルストさんに送ったFAXを見せてくれた。

「フュルストは今日イタリアに行っているので来れなくなり、僕が
代わりに来ました。 それではホテルに行きましょう。」
私は少々驚いた。 フュルストさんが来れなくなった事も、彼の
友人が迎えに来てくれる事も知らなかったからだ。

でも個人での海外旅行は、思いがけないこんな展開が刺激的で
面白い。私はマルコの車でバイク店目の前のホテルに向かった。
外は快晴だった。

話を聞くとマルコもバイク乗りで、1500ccのアメリカンに乗っているという。 英語も上手く、とても気さくな
人で話が盛り上がる。 久しぶりに訪れたスイスの町はやはり美しい。 明後日からこの景色の中を
ツーリングすると思うとワクワクしてくる。

それにしてもフュルストさんの親切に私は少し感動していた。 そもそも彼が空港まで迎えに来る義務は
全く無い。 空港からホテルまでは車で15分くらいの距離で、タクシーや鉄道を利用してもすぐに着く。
私も前回は鉄道とタクシーを利用してホテルまで行った。 来れないならメールで「迎えに行けなくなった。」
と伝えればそれで済む話だ。 それをわざわざ友人に頼んで、迎えに来てくれた。

チューリヒ郊外のSchlieren(シュリエレン)のホテルに着くと、
まずは道路を挟んで反対側にあるバイク店に車を停めてくれた。

バイク店は土曜日の為閉まっていたが、ショーウインドー越しに・・・
マルコが「あれが君のバイクだよ。」とピッカピカのシルバーの
ZZ−R1200を指差した。

走行距離は僅か3,000km。 明後日からあのバイクでアルプス
越えのツーリングが出来るのか。

その後ホテル前まで行ってくれた。 マルコに礼を言ってチェックイン、ホテルはフュルストさんが予約して
くれていた。 シャワーを浴びてから近くのレストランで夕食を取り、時差ボケもあってか今日は早めに寝る。

(ホテル CHF 120.)


「これは日本のお金です。」

9月15日(日)、ツーリングは明日からなので、今日はチューリヒ市内を散策する事にする。
ヨーロッパのホテルの朝食は美味しい。 色々な種類の美味しいパン、ハム、チーズ、バター、何種類もの
ジャム、オレンジジュースにミルク、シリアルにヨーグルト、フルーツ、そしてコーヒー。 それらはセルフ
サービスで食べ放題。 朝からしっかり食べて、栄養を摂れる。

昨日に続いて今日も快晴、ホテルを出てすぐ近くのバス停へ向かう。 バス停に着いてチケットを券売機で
買おうとしたが、使い方がよく分らなかった。 辺りを見まわすとバス停のベンチに18〜9歳の少年が
座っていた。 私は片言のドイツ語で、彼にチューリヒ中央駅までのチケットの買い方を訊ねた。

少年は券売機を操作して、ここにコインを入れろ、と教えてくれた。 往復でCHF 10.80 ポケットから
硬貨を取り出し、手のひらの上で広げるが、CHF 10.も無かった。 お札は使えないのか?と聞くと、
使えないと言う。

するとその少年は自分の財布を取り出し、その中からCHF 5.硬貨を取り出し券売機に入れた。
そして私のお金を渡せと言う。 私が手のひらに乗せた硬貨を差し出すと、そこからCHF 5.80を取って
券売機に入れチケットを発券してくれた。 私はCHF 20.紙幣を見せ、両替してお金を返したいと言うが、
要らないという。

私は慌ててしまった。 わずかCHF 5.(約400円)といえども、他人に(しかも少年に)貰う訳にはいかない。
タンクバッグの中を見るがお返しになるような物が何も無い。 その時、日本円を持っている事に気が付いた。
財布の中を見ると、ちょうど100円硬貨が4枚あった。

「これは日本のお金です。 約CHF 5.あります。 銀行で両替して下さい。」
そう言ってお金を渡すと、その少年は嬉しそうに笑いながら「ダンケシェーン。」と言ってくれた。
昨日の出迎えに続いて、私はまた感動してしまった。 見知らぬ外国人にどうしてこんなに優しいのだろう?

「今回の旅も、きっと人との出会いが忘れられない旅になる。」 その時私はそう確信した。

チューリヒ中央駅に着くと、周辺を散策した。 美しい街だ。
日曜日のため、店は全て閉まっている。 そのせいか日本人
観光客の姿をほとんど見かけない。 ウィンドーショッピングを
楽しんでいるのは外国人ばかりだ。

まだ時差ボケが治っていないせいか、チューリヒ湖まで歩くと
フラフラしてきた。 やはりツーリング明日からで良かった。
ツーリングまで1日空けると良い事は、もう一つある。
それは右側通行に慣れる時間を与えてくれる事だ。

特に初めてヨーロッパツーリングに行く人は1日余裕があったら
是非トロリーバスでチューリヒ市内に行く事をお勧めする。
バスに乗ることは右側通行に慣れる為のいい練習になる。 ロータリーも1箇所通るので、日本には無い
この交差点に慣れるにも好都合だ。 ロータリーは時計と逆周りで、中を走る車が優先になっている。

ロータリーに入る車は、左から車が来ていたら必ず一時停止しなければ
ならない。 ロータリーの中に入ってしまえば、今度はこちらが優先だ。
右から来る車は皆一時停止する。 慌てずにゆっくりと自分の行きたい
道を見つければよい。 行き過ぎても、もう一周すれば問題ない。

ホテルに戻り、夜は昨日マルコが勧めてくれたレストランに行く事にした。
しかしその店に行くと閉まっていたため、ホテル近くのスペイン料理の
レストランに入った。 その店に入ると、東洋人らしきウエイトレスが
近づいて来て、こちらをじっと見ている。 あれ、食事できないのかな?
と思い英語で「食事できますか?」と聞くと「Yes」という返事。

メニューを持ってきたその女性は、日本語で「あのう、日本人の方
ですか?」と聞いてきた。 話を聞くと、岡山出身の麻紀さんは南半球のオーストラリアに住んでいる時に
知り合ったイタリア人のカルロさんと結婚、去年チューリヒにやって来て今年の4月からこの店をご主人と
始めたそうだ。

私を日本人かな?と思ったが、違っていたら失礼なので聞けなかったそうだ。 近くのホテルに泊まっていると
言うと、どうしてそのホテルを知ったのか?と聞くので輪嘶舎HPの話をした。
HPにお店の事を紹介しましょうか、と言うとお店のパンフレットや名刺を持ってきてくれた。

それにしてもチューリヒ郊外のこんな田舎のレストランで日本人に会うとは思わなかった。
今回の旅も驚きの連続だ。 シーフードを食べながらスペインのビールを2本飲み、時差ボケもあってか
あまり酒の強くない私は、結構ほろ酔い気分になってきた。

支払いを済まし、帰ろうとすると、麻紀さんが「これ、サービスです。」と飲み物を持ってきてくれた。
変わった味だが美味しかった。 口直しのジュースだと思い、一気に飲み干した。
「これ、美味しいジュースだね。 何のフルーツなの?」
「あのう、それカクテルなんですけどー。」
その日の夜、私は悪酔いした。

(ホテル CHF 120.)


ポリツァイのバイクの先導でツーリングスタート

9月16日(月)、いよいよ今日からツーリング、バイクは今日から金曜日まで5日間レンタルする。
朝食を取り、ツーリングバッグに荷物を詰めホテルをチェックアウト、その時に金曜日の宿泊を予約する。
ホテルを出ると、道路を挟んで反対側にあるバイク店へ。 9時ピッタリにフュルストさんが現れる。

8年ぶりの再会だ。 店の中には一昨日見たZZ−R1200が。
チューリヒはドイツ語圏だが、フュルストさんは英語が話せる。
簡単な契約を済まし、スーツケースを店に預け、ついに
ヨーロッパツーリングのスタートだ。

フュルストさんに高速までの道順を聞いて、説明してもらっていると
突然ポリツァイのバイクがやって来た。 フュルストさんと何やら
話をしている。 「ミスター・アサーダ、彼は僕の友達なんだ。
これから高速の入り口まで、彼がウーッ!ウーッ!ってサイレン
鳴らしながら先導してくれるそうだよ。 それじぁ、良い旅を。」

ポリツァイのバイクの先導で、私のヨーロッパツーリングはスタート
した。 2回目とはいえ、やはり最初は緊張する。 そんな時に白バイの先導でスタート出来て、本当に
心強かった。 サイレンは鳴らしてくれなかったが、私はとても気分が良かった。 10分程走行して高速の
入り口に着き、ポリツァイに挨拶して別れる。 今日も快晴だ。

やはりスイスは美しい。 高速を南下し、今日の目的地でもある
Grimselpass(グリムゼル峠)を目指す。 LUZERN、SARNENを通り
高速を降りて一般道へ。 途中のオープンカフェで昼食、この辺りは
いかにもスイスといった美しい風景が続く。

Grimselpassが近づき、標高が上がって森林限界を越えると景色は
一変する。 荒々しい岩山が現れ氷河が間近に迫り、乳白色の
美しい湖に快適なワインディング。 この辺りはヨーロッパツーリングの
ハイライトのひとつと言える。 ライダーも多い。

フュルストさんや彼の友達のバイク乗りに聞いても、この峠は最高だと
皆、口を揃えて言う。 峠のオープンカフェで一服、4000m級の
アルプスを眺めながらのコーヒーは格別だ。 今まさに、ヨーロッパツーリングをしているんだと、実感する。
しかし、この後ちょっとしたトラブル・・・いや、少なくとも私にとっては非常に大きなトラブルが待っていた。

ツーリング初日にカメラを壊す

カフェを出発し、Grimselpassの中でも氷河の見える一番の撮影スポットで止まり、三脚を立てて写真を
撮ろうとする。 しかしその場所はかなりの強風が吹いていた。 冷静に考えれば撮影するべきでは
なかった。 でも、どうしてもその場所で写真を撮りたかった私は撮影を強行し、風でカメラを倒してしまった。

慌ててカメラを拾うが、傷が付きシャッターを押しても動かない。
なんとツーリング初日に大切なカメラを壊してしまったのだ。
再び走り出すが、軽いショック状態ですっかり動揺してしまった。
「ツーリング初日で早くもカメラを壊してしまった。 どうしよう。
何処かで修理できるか? いや、すぐには出来ないだろう。
それじゃあ、新しいカメラを買うか?スイスで買ったら高そうだな・・・」

そんな事ばかり考えながらバイクに乗っていると、ライディングにも
影響が出る。 Furkapass(フルカ峠)も素晴らしい。今まさにアルプス
越えの最高のステージにいることを実感する。 しかし美しい風景を
写真に撮れないのが残念だ。 アルプス山中のAndermatt(アンデル
マット)という美しい町に着き、今日はこの町に泊まり、カメラ店を
捜す事にする。 ツーリング中はZIMMER(ツィマー)と言うドイツ語圏にある安宿に宿泊する事に決めていた。

前回のツーリングでも、その快適さと料金の安さ、そして現地の人々の生活に触れられるという体験に
とても満足していたからだ。 しかしZIMMERを捜すが何処も不在のようだ。 一軒だけ人がいたので
「部屋は空いているか?」と尋ねると、1人では泊めてくれないと言う。 ZIMMERを見つける度にバイクを
停めて押し引きを繰り返していると、結構体力を消耗する。 この町の道は全て石畳。 大きくて重い
ZZ−R1200は走っている時はとても頼もしいが、こんな時は大変だ。

ZIMMERを捜していたらカメラ店があったので、壊れたカメラを見せ修理
出来るか?と聞くが、工場に送らないと直せないと言う。 カメラ店主は
ショーケースから日本製の新しいカメラを取り出し、これはどうだ?
いいカメラだぞ、と勧めた。 値段はCHF 178.思ったほど高くない。

このカメラを買うことに決め、カードは使えるか?と聞くが使えないと言う。
銀行がすぐそこにあるから両替してきたらどうだと言われたが、宿探しで
疲れきった私は、もうどうでも良くなってしまった。 この店でカメラを
買うのは明日にしよう。 とにかく宿探しだ。

私は近くのホテルの駐車場にバイクを停めると、ヘルメットとタンクバッグ
を持って、歩いて宿探しをすることにした。 今日はZIMMERは諦めた。
Andermattは小さな町だ。 バイクで捜すよりこの方が疲れない。 バイクを停めた駐車場のホテルに入り、
部屋は空いてますか?と聞くと空いているという。

「いくらですか?」 「CHF 135.です。」 高い。 他を当たりますと
立ち去ろうとすると、フロントの人が「このライダーを知っているか?」
とGPライダーの阿部典史のサイン入りの写真を指差した。

「もちろん。 僕はノリックの大ファンだ。」と言うと「アベはヘルメット
テストでこのホテルに2回泊まっている。」

何件か探し、最初のホテルの隣のGasthaus(ガストハウス)へ。

「こんにちは。 部屋は空いてますか?」
「はい。 1人ですか?」
「ええ。 いくらですか?」
「CHF 75. 朝食付です。」

その娘は美人で感じが良かった。 部屋を見せてもらってここに決める。 シャワーを浴びると落ち着いた。
なんでも自分の思い通りにやろうとすると、ヨーロッパツーリングは手荒い歓迎をした。 Grimselpassでは
三脚で写真を撮るべきではなかった。 あの強風なら倒す事ぐらい簡単に予測出来た。 宿もZimmerに
こだわるべきではなかった。 時と場合によっては柔軟に対応するべきだ。

夜、夕食を取りに1階へ降りた。 GasthausやGasthof(ガストホフ)は1階がレストラン、2階以上が
宿になっている。 レストランに入ると、宿泊客以外にも食事に来ている客が沢山いるようで、ほぼ満席
だった。 ポークステーキとビールを注文する。 とてつもなくデカイ肉に山盛りのポテト、とても食べきれない
沢山のパン。 やっぱりヨーロッパだ。

さっきの女の子が給仕をしてくれ、ドイツ語で話しかけてきた。
「何処から来たの?」
「チューリヒだよ。」
「ドイツ語が話せるのね。」
「少しだけね。」 私は英語で、今日カメラを壊してしまったので明日Andermattで新しいカメラを買わなければ
ならない、と話すとその娘は同情してくれた。 彼女は英語が上手だった。

「Andermattは高いからやめたほうがいいわよ。 明日は何処へ向かうの?」
「Oberalpassの方だけど。」
「それならその先に”キュアー”という町があるから、そこで買ったほうが良いわよ。 小さいけどいい町よ。
きっと良いカメラショップもあると思うわ。」
「キュアー? どういうスペル?」 そう言うと「Chur」と紙に書いてくれた。
「ありがとう。 明日Churで買う事にするよ。 Andermattは高いんだ?」
「山の中にある町だから、ここはなんでも高いのよ。」

(ガストハウス CHF 75.)


Zurück Nächste→

RINSEISHA