コミュニケーションとインストラクション
小山昌宏
何が問題なのか
書類作成、口頭報告、経過報告、打ち合わせ、相談、相互理解、指示といった日常の業務にかかせない情報が、よどみ、たちきれ、まがるのはなぜか? 日常の仕事で正確に情報が伝わり、相互理解にいたり、新たな指示を形成するまでの時間とコストのロスは、はかり知れないものがあります。
コミュニケーションは、社会生活をおくるうえで、人間にとって必用不可欠なものであり、コミュニケーションを良好に保つことが、ビジネスの基本でもあります。ところが、このコミュニケーションについて理解をし、スキルとして身につける教育は、日本ではなかなかなされていないのが現実ではないでしょうか。
コミュニケーションの障害が、性格の問題、ビジネス態度の問題に一元化され、そこからおきる誹謗中傷と反目や無理解は、かなりの利益損失を生んでいるものと思われます。
「広報」の重要性とともに、考えなければならないのが、この社内の「コミュニケーションの技術」ではないでしょうか。永く礼儀作法、マナーとして理解されていましたが、生まれも育ちも、生活環境、考えかた、性格がちがう人間同士が、理解しあい、目標にむけて一致し、成果をあげるには、「コミュニケーション」そのものについて考え、学び、スキルを身につけることが重要だと思います。
バッドコミュニケーションはインストラクションの理解不足から生じる
コミュニケーションはいうまでもなく、「話す・聞く」のキャッチボールを少人数、多人数に関わらずおこなうことで生まれます。この単純な「話す、聞く」相互行為が、指示として機能しないところに情報伝達の問題点(ロス)が生まれます。
このロスは、3つの視点で捉えることができます。一つは個人間で生まれるもの。二つめは組織と個人の間で生まれるもの。三つめは「話す・聞く」の能力そのものの未熟さから生まれるものにわけられます。従来のコミュニケーションに関したロスとトラブルは、常に個人の資質に帰せられる形で、解決がはかられてきましたが、この解決によってコミュニケーションスキルそのものが向上し、インストラクションがスムーズにいくことはあまりみうけられません。それはコミュニケーション、インストラクションそのものの理解と訓練がなされていないことに起因し、結果として個人責任を問うだけで終わるか、あいまいなまま、同じバッドコミュニケーションを繰り返すことになります。
コミュニケーションとインストラクションの機能
コミュニケーションは、人が言語、文字、図表、絵など視角、聴覚に訴える身振り、表情、声などの手段によって意思、感情、思考を伝達しあうことをいいます。生活とビジネスの基本は、すべてコミュニケーションにあり、またこのコミュニケーションの中心をなすのが、有形、無形のインストラクション(指示)です。ところが、現実は、このインストラクションを親の子に対する指示、上司の部下に対する指示のように、限定され理解され、コミュニケーションが「相互理解を」示し、インストラクションは「一方向の指示」と理解されていることに、コミュニケーションが改善されない原因があります。
つまり、一見、一方向への指示に見られるインストラクションも、それが、人と人の間に流れる情報と考えた場合、「上司が発したメッセージを部下が受け入れる」だけがインストラクションではないことが解ります。「メッセージを理解してなぜ部下は仕事をしないのだ」と「上司はなぜ理解をしてくれずに一方的に話すだけなのか」という相互不理解がコミュニケーションを悪化させます。「親は子に、上司は部下に」というインストラクションのほか、「子が親に、部下が上司に」というインストラクション(示唆)がそこには存在します。この場合、上司→部下は顕在的なインストラクション(指示)であり、部下→上司は潜在的なインストラクション(示唆)として、インストラクションにも「相互理解」が成立します。
インストラクションの中身
コミュニケーションが、世間話や、ゴシップ、単なる情報の伝達などを含む幅広い「情報」機能を担うとすれば、インストラクションは、そこに「一定の関係性を保つ組織における生活上またはビジネス上の結果」を前提にしています。インストラクションは、コミュニケーションを前提とした固有のシステムをもっています。
インストラクションの要素は5つあります。送り手、受け手、内容、形式、背景です。送り手は、受け手を定め、メッセージの内容を決め、どのような形式(メディア、図、絵、文章など)にするか選択し、背景(仕事の目的、進度、人脈、組織的背景など)を押さえてインストラクションをおこないます。このことは、日常的に無意識におこなっています。
問題発生の原因
インストラクションに発生する問題を、次の8点にまとめました。
@送り手が明確な意図をもち、正確な内容を受け手に送ることができない。
A受け手が送り手の指示、意図を理解することができない。
B送り手が受け手の状況を把握しないまま、実現不可能な指示を送る。
C受け手が送り手の指示に対して、何らかの意思表示をしない。
D送り手の指示を受け手が誤解して、誤った判断をおこなった。
E受け手の質問、疑問に送り手が応えない。または応えられない。
F複数の送り手が、同一の課題でニュアンスのちがう指示を受け手に送る。
G複数の受け手が、同一の課題に対し、異なる理解をし、異なる行動をとった。
ロスとトラブルの原因は、@~Eの基本的なものと、F、Gの組織的な対処をしなければならないものとにわかれます。
@~Eは送り手、受け手のインストラクションの理解とスキルを高めることによって改善され、F~Gは組織的な対応によって改善されるものと思います。
問題となるインストラクション
問題となるインストラクションをおこなう者は、@~Aが弱い者です。またB~Eに該当する人はインストラクションに関してコミュニケーショントラブルをおこしがちです。人間には各々特性があり、@~Eの各々のどこに弱点があるか。まずはそれを自覚することから改善が始まります。またG~Hは組織的な対応を検討しなければなりません。最悪のパターン。@のインストラクションの送り手が、Aのインストラクションの受け手に指示を送った場合、次のようなコミュニケーションが発生する可能性が高まります。
@送り手が言葉を荒げている。
A受け手が送り手に怒っている。
インストラクションが成立せず、送り手、受け手の性格により、互いに対する偏見が強く、その後のコミュニケーションそのものが成立しない可能性の増大。
またB~Eの該当者がインストラクションした場合も、トラブルが発生する可能性が高まります。
では、トラブルを未然に防止し、インストラクションを効率よく実現させるためには、どのようにしていけばよいのでしょうか?
送り手のインストラクションの向上
報告、情報の伝達は、よく6W4H1D(WHEN・WHERE・WHO・WHOM・WHAT・WHY・HOW MANY・HOW MUCH・HOW LONG・HOW・DO )などでおこなうようにといわれています。この6W4H1D必用最小限の伝達事項であり、この項目が抜けるとインストラクションが成立しなくなります。しかし大切なことは、インストラクションに、目的、最終目的、手順、時間、予測、効果が明記され、受け手の理解が容易にできるかどうかです。
「販売店を開拓する」を例にとって考えたいと思います。
目的 ○○地区の市場需要○○円に対し売上シェアーが○%と低い。半年後に○%、1年後に○%にシェアーを上げる。
最終目的 ○○地区の3年後のシェアーを○○%にする。
手順 ○○のリスト、○○の紹介を利用し、月○円以上の取引となる○月○日までに訪問、1回めの訪問から次回商談内容を絞り込み、2回目の訪問時、上司同行し、販売店内容を確かめる。2ヶ月以内に成果を確認し最終的な問題点を把握する。
時間 1ヶ月が終了したところで、別紙報告書にて概要を記入、報告し、上司・部下で対策を考案する。考案に基づき2ヶ月目に臨む。
予測 訪問販売店に関する事前情報入手、訪問計画、アポイントをとらないと実行に結びつかない。1回目の訪問で得た情報を報告し、上司同行(2回め訪問)をおこなうか判断します。この時点で取引先に値するかの判断をします。
効果 販売店の業種、ユーザーの量と質を見極め、今後の同業他社への展開ができるか。ユーザー展開が可能か。
指示を受けたものが、この仕事は何のためにおこなうのか。目的を理解し、動機を保つように伝えること。手順、予測される問題点、問題点がおきた時の対処方法。成功後の可能性など、考えられる情報を盛り込み、受け手がイメージを描けるようにインストラクションすることがのぞまれます。
以上のことを受けて、受け手の観点にたって誤ったインストラクションについて、考えてみます。
インストラクションの受け手の心理と行動
受け手の印象
@受け手の観点にあわせて明記されていない。→理解ができない。問い合わせが面倒
A受け手の理解能力やニーズを考えていない。→難しい言葉について質問するのが面倒
Bメッセージが抽象的で。解釈がわかれる。 →どうとればいいのか。こう考えよう。
C情報が多すぎ、何をいいたいのかわからない。→もっと簡単にまとめてくれ。
D重要部分がない。 →結局なにをすればいいんだ。
E目的となる背景がわからず、動機付けが弱い。→とにかくやってみますけど…
F従うことを強調する。 →他に言い方があるんじゃないの。
G情報に誤りがある。 →正確な情報を送ってくれ。
H内容が矛盾している。 →これは実行できないな。
I人間の感情に対する配慮がない。 →おっしゃることは正しいですが…
J実行させるために的外れの奨励をおこなう。 →まあふところあたたまるなら…
以上のインストラクションの受け手の対応はまた、次の送り手の行動をひきおこします。
インストラクションの受け手の行動と送り手の怒り
受け手の行動
@→理解ができない。問い合わせが面倒 →問い合わせをしない。
A→難しい言葉について質問するのが面倒→わからないまま実行する。
B→どうとればいいのか。こう考えよう。→正しい指示がわからず実行。
C→もっと簡単にまとめてくれ。 →理解に時間がかかり、行動が遅れる。
D→結局なにをすればいいんだ。 →指示まちになる。
E→とにかくやってみますけど… →行動をおこさない。
F→他に言い方があるんじゃないの。 →反発して実行しない。
G→正確な情報を送ってくれ。 →やる気がそがれる。
H→これは実行できないな。 →誰かが問合すだろう
I→おっしゃることは正しいですが… →一方的な人だ。反発する。
J→まあふところあたたまるなら… →本当の目的意識が薄れる
受け手の行動の結果、送り手は怒りをあらわにします。しかし、その怒りが、送り手自身に発していることを、送り手はほとんど理解していないような気がします。
なぜ、受け手は「正しく指示を実行しないのか」、なぜ「指示を無視するのか」、なぜ「あんなに文句をいうのか」など、送り手は熱くなり、怒ります。
しかし、「怒る送り手は同時に、不愉快な受け手である」という事実を明らかにしなければなりません。この悪循環が続くと、指示まち、誰かがやってみてからやろう、○○のいうことは聞くけど××のいうことは聞かない、といった空気が蔓延します。
次にインストラクションの送り手と受け手のキャラクターの特性について考えたいと思います。
受け手のタイプが反発を呼ぶ場合
送り手
@責任押しつけタイプ 責任は俺がとるというが、一度もとらないタイプ。
A説明する暇ないタイプ 忙しくないのに忙しい。設明する暇はないというタイプ
B言葉のみタイプ ひととおり説明するが、自分も理解していないタイプ。
C自己都合タイプ 自分の仕事の順序で指示し、受け手を考えないタイプ。
D細かすぎる指示タイプ 準備、話し方、報告の仕方まで事細かに指示するタイプ
E俺がやるタイプ 人に指示するのが嫌い。自分でしてしまうタイプ。
F自己責任タイプ すべて自分が悪いと考えるタイプ。
G自由放任タイプ 指示したらしっぱなし。指示を忘れる。
Hコミュニケーション拒否タイプ 指示もしない。聞きもしないタイプ。
I自分の頭で考えてしろタイプ 指示ができないのを隠すタイプ。
J相手の理解を過信するタイプ 過度な権限を与え、失敗の責任をとらないタイプ。
K短期決戦型タイプ 常に短期間のモチベーションを与えつづけるタイプ。
L自己矛盾タイプ 云うこととやることがちがう。文書と口頭が違う。
受け手
@早飲込みタイプ 指示全体を解釈せずに、一部を聞いて走り出すタイプ
A無抵抗タイプ 話してもわからないと、云いたい放題云われるタイプ
Bおべっかタイプ いいかげんな指示でも、よくわかるなどというタイプ
C鈍いタイプ 無関心、無感動、無気力、無行動タイプ
D鈍いが控えめタイプ 鈍いが、控えめにして同情をかうタイプ
E馬車馬タイプ 始終走りまわっている。考えないタイプ
F見かけ倒しタイプ 報告は立派、でも実績があがらないタイプ
G独立独歩タイプ 仕事はできるが、チームワークにかけるタイプ
H聞く耳かさぬタイプ 耳うるさいことは聞かない、自己愛タイプ
I考えるだけタイプ 考えるだけ、行動しないタイプ
J完全主義タイプ 完全な仕事のために時間をかけるタイプ
K木をみて森をみずタイプ 目の前のことで懸命、脱線するタイプ
Lオールマイティタイプ 指示を拒否しない。自信過剰タイプ。
以上、考えられる送り手と受け手のタイプをあらわしてみました。類型化しましたが、一人の人格が、インストラクションの送り手と受け手に各々なるときに、送り手と受け手の役割が様々なバリエーションをとることが予想されます。つまりインストラクション上、タイプ的に合わないタイプがあることを前提に、あらかじめ、自分のタイプを知り、会わない(トラブルが発生しやすい)タイプとの回避方法をしっておくことが重要です。
特に上手くいくタイプは、送り手Aと受け手@ 、送り手Eと受け手D、送り手Dと受け手Bがあげられます。また、トラブルの発生しやすいタイプは、送り手Dと受け手G、送り手Iと受け手E、送り手Gと受け手Kの組み合わせです。
では後編では、コミュニケーション能力をみがき、近未来に必用とされるコミュニケーション能力、インストラクションの技術をみていきたいと思います。
インストラクションを理解し、インストラクションスキルをみがこう
2001年 6月21日作成