緊急座談会 プロレスは格闘技か

 二〇〇〇年 九月三〇日 (土)  下井草 村さ来にて

 

  小林稔  (こばやし みのる) 一九六ニ年生まれ

 中学時代は卓球部のナンバー2 高校時代は美術部 趣味は漫画、ロック プロレス イラスト 専修大学卒

  小山昌宏 (こやま まさひろ) 一九六一年生まれ        

中学時代は卓球部のナンバー3 一貫してロックバンド ヴォーカリスト 高校時代は創作部 趣味は小林稔に同じ 中央大学卒 二人は中学校以来の友達

      

最近の新日本プロレス

小山  では、今回はいつも会うと話ししているプロレスについて最近の動きとあわせて話そうということで。

小林 プロレスと格闘技に関しては、マンチ(注1)がすでに書いているので、そのあたりを掘り下げてレスラーに関する人間模様など話せたらねぇ。

小山 ところで新日本の状態ですが、どうですか。

小林 武藤、蝶野、橋本の闘魂三銃士がピークをすぎて、次の世代とのバトンタッチをしたい。だけどでてこない。次が。中西を持ち上げたけど。健介をIWGP王者(注2)にしたけど、橋本が私恨にこだわったつけでチャンピオンになったというだけだよね。

小山 健介はかわいそうだよね。かなりキャラつくりに無理があった。パワー・ウオーリアーのころも、今も闘争心をだすのが下手。カメラにむかってのアピールもなんか田舎くさい。「やってやる やってやる」とかいってるんだけど。伝わってこない。

小林 中西も前のG1(注3)でいきなり優勝したけど、ああー会社の事情はいっちゃってるなー。て。天山や小島でもない気がするしなぁ。

小山  藤波社長も橋本がらみで、考えているけど、新日はプロレス界だけではなく、格闘技界を視野にいれて戦略をうたないといけないわけでしょう。もう、全日本との交流てな段階は終わっているよね。それがまたはじまるわけだ。

小林  猪木が展開してきたプロレスに限界があるような気がするんだ。もうプロレスは業界内だけで、「強さ」を守れる段階を通り越しているよね。

小山 だからヒクソンに負けた高田が戦犯のようにいわれ、ヒクソンにまけた船木も若年寄扱いをうけている。そりゃー40こえて強いヒクソンに30そこそこの船木が負けて、さっぱりしました。くいはありません。引退しますって。おいおいだよな。

小林 だけどそれはやはり、プロレス界に精神的にダメージを受けている両者と強さだけを追求してきたグレーシーとの違いがあるよね。日本のプロレス界って、人間関係のストレスが、一般社会並みにあるんだよね。レスラー自身はわがままだけどさ(笑)。

小山 高田も船木も猪木ゆずりの前田遺伝子、Uの遺伝子(注4)の亡霊に苦しんだわけだからね(笑) 前田自身も最近だよね。自分が蒔いた種だって自分でわかったのは。

小林 だから、最近マンチがさ、まぐまやっててさ、ついに猪木になったのかって、この間まで前田だったよね(笑)。

小山 実はもう自分にエネルギーがなくなってきてるんだよね(笑い)。これは自分ひとりでしゃかりきになってても、いいものがなにも生まれない。もう自分以外の人の才能のほうが、すばらしいとおもってる。たいしたことないんだよね自分の力なんてさ。

小林 といいながら、虎視眈々と次を狙っている(笑)。そこが猪木なんだよな。

 

力道山が日本のプロレスの原点をつくった

 

小山 ところで、力道山がつくった日本のプロレスを考えるとき、馬場と猪木との三角関係でみていくと、人間関係と同時に組織も考えられるので、面白いと前から考えていたんだ。たとえば、旧UWF(注5)では佐山と前田と藤原、新UWF(注6)では前田、高田、山崎。新日本、UWF対抗戦時代は猪木、長州、前田。そして闘魂三銃士 武藤、蝶野、橋本。全日本だけが四天王、三沢、川田、小橋。田上だったんだよな。また昔の全日 鶴田、長州、天龍時もあった。

小林 常に三角関係の場合、台風の目がいるんだよね。

小山 ちょっと聞くけどいい? 猪木と馬場と、ラッシャー木村の三角関係でみると、オレはどれにあてはまるかな。小林 マンチの場合、限りなく木村に近い猪木かな(笑)。

小山 馬場の要素ない?

小林 ぜんぜん!

小山 やっぱり本質は猪木なのか(笑)。じゃー。前田と山崎と高田だと。

小林  限りなく山崎に近い前田かな。

小山 やっぱり高田の要素ないんだ。三銃士でいえば、限りなく橋本にちかい武藤だね。オレは。

小林 武藤は天才。橋本はまっすぐ。蝶野は商売人。じゃーオレは?

小山 コバミ(注7)は、限りなく高田に近い山崎かな。

小林 うーん。そうか。

小山 三角関係だと、どうしても、ひっぱるやつと、支えるやつと、調整するやつに分かれるんだよね。新UWFで考えると、前田がひっぱり、山崎が支え、高田が調整していた。人間関係をね。

小林 人間関係がれるときは、このバランスが狂うときだよね。力道山は、極端に引っ張ることしかしなかった。だから猪木が支え、馬場が調整した。ここに二人の運命が決定してしまった。

小山 旧UWFがつぶれたのは、佐山と前田が同じタイプで、二人が別々に引っ張ってしまった。藤原一人では、支えられなかった。

小林 新UWFが安定していたのは、やはり、山崎と高田が大人だったからだよね。

小山 神社長(注8)と前田とのトラブル。前田はUWFのためにと思ってしゃかりきになってるんだけど、道場にこない前田に皆不信を募らせていった。

 

全日本プロレスの安定は固定したとたんに色あせた

 

小林 全日の悲劇は、鶴田が病気になって、馬場、鶴田が相次いで死に、巨大なイメージがなくなったことだな。三沢もかわいそうだ。本来、橋本的な役回りなのに、上がいないためいきなり猪木や前田を要求されてしまったんだから。

小山 NOAだって、全日の選手がそのままいっただけで、新日、全日合同軍に対して、かなりやばいよね。新しいプロレスはできない。三沢にそういう発想はないよね。なんたって60分ふるに戦いつづけて、倒れ付したのに、パンツを直し、ひじパットを直す余裕があるからね(笑)。三沢君は(笑)。(注9)

小林 だから。全日本プロレスが力と技の応酬から、タフネス合戦になって、3カウントがいつになったら聞けるのか、という観客を興奮させるプロレスを発明したけれど、そんな芝居はもう通じない。

小山 あのチャンピオンカーニバルが武道館で固定化されて、テーマが三沢と川田と小橋、田上がからんで、三冠ベルト(注10)奪取になって、全日は、三角じゃなくて、四角関係をつくってしまったんだ。これがいけなかった。三角でないと、パワーがでない。川田と三沢のにらみ合いを小橋が支えなければならなかったのに、田上が川田をフォローし、三沢を小橋がフォローしてしまった。これで対関係になってしまったために、知らず知らずにはまってしまった。

小林 もう動かないんだよね。こうなると。もう馬場さんの王国が完成されてしまった。鶴田がなくなったことで、完全な王国は崩壊が始まり、維持する意味も薄れてきた。。

小山 結局、固定した関係は、ダイナミズムを生まないし、馬場さんの人格に負っていた経営の限界がみえたわけだよね。馬場社長の時代はつきあうけど、次の時代は好きにさせてもらうっていう(笑)。なんか会社の人間関係の縮図ですね。プロレス界は。

小林 時代の流れなのか、王道経営はもうなりたたないよね。猪木的な覇道経営の時代。農耕民から、狩猟民への転換が日本の組織にもせまられているよね。

小山 コバミはさ。オレと苦労がちがうからさ。いく会社がすべて倒産するっていう。しかも絶頂も地獄もみている。(注11)馬場では人が育たず、猪木では人はついてこない。そのことを身にしみて知っているんだよね。管理と放任の狭間で人は消耗していくんだよね。

小林 そうだよね。武藤じゃ人はついてこないし、橋本は自分のことだけで精一杯。蝶野は、一人じゃ会社を変えられないから、NWOをつくらざるを得なかった。

小山 NWO(注12)てさ、あれ実はレスラーの労働組合なんだよな(笑)。新日の選手会があるけど、待遇改善や、マッチメイクだって、企画だって、選手はなにひとつ口をはさめないわけでしょ。

小林 長州がすごいのは、選手に気をつかって、はじめに全部気持ちを察した上で、手配しちゃうでしょ。みかけは怖いけど。

小山 長州は苦労したから。気配りしちゃうんだよね。そこいくと前田は苦労してるのに身についてないよね(笑)

小林 長州はいい人になっちゃったんだよね。かませ犬(注13)はいまや犬の管理人だもんね。本当はすごく家族思いのいいやつ。

小山 長州が昔、孤独にたえていたとき、アニマル浜口に対する信頼は、異常なものだったよね。愛だったね。あれは

小林 結局、猪木や前田のような悪いやつが、引っ張っていくんだよね(笑)。

 

強さっていうやつを考えてみたい

 

小山 いろいろと今までもさ。だれが一番強いのかとかさ、どの格闘技が一番強いのかとかさ、真剣に(笑)語り合ってきたけどさ。

話蒸し返すけど。

小林 やっぱり、鶴田でしょ。長州だって、結局あの体力には勝てなかった。

小山 それで新日にリターンしたら、こんどは前田がいたもんだから、長州は立場上大変だったよね。やっぱり身体のでかいやつは強いよね。基礎体力がちがうわけだから。

小林 高田が前田にのられると、トドがのっているようだったっていってるから。鶴田に乗られた選手はもっと大変だったでしょう(笑)。でも鶴田のあのファイティングスピリットが…、かっこ悪いんだよね。ジャンピング。ニーがきまると、右手をあげて、おー

でしょ。なんか、鶴田って強すぎて、目標を失ったんじゃないかな。

小林 晩年、カレリンと闘った前田がうらやましい。前田とやりたかったっていってたよね。でも鶴田は全日に就職したから(笑)、馬場さんに反旗翻して、他団体の選手とやれなかったわけで。

小山 もうあの時点で、鶴田はもしかすると、前田なら自分の闘争心に火をつけてくれるかも…と思ったにちがいないよね。天龍が鶴田にカツをいれてもだめだったから。

小林 ところで、マンチはやっぱり、前田が強いと思っているんでしょ。

小山 うーん。レスリングなら鶴田が強いよね。全盛期の前田の蹴りを鶴田がこらえられたかが、問題だよね、前田の蹴りと鶴田のニー、前田のスープレックスと鶴田のバックドロップ。うーん。みたかったよね。馬場と猪木よりもみたかった。鶴田が関節技に対応できれば、鶴田勝利。前田の蹴りと関節技が、勝れば前田勝利だな。

小林 あのー。それは、だれでもそうかんがえるんですけど(笑)

小山 プロレスの強さと格闘技の強さってちがうよね。

小林 最近の桜庭の活躍は。

小山 田村がヘンゾに勝って、桜庭が、ホイスを破った。桜庭はグレーシーに連勝している。でも桜庭はこの間までレスラーとして弱い、印象のないレスラーだった。プロレスの世界では弱かったが、格闘技の世界では強い。だから桜庭が体力勝負のレスラー、たとえば藤田とか、小川とやったらやばいと思う。桜庭は柔術をさせない中和させる力をもっている。グレーシーが得意とするのは、力をさばき、封じるわけだけど、桜庭はそれをさせないわけでしょ。つまりさばきで桜庭はグレーシーより優れているわけだ。

小林 やはり技術も戦略もすべて進化していくわけだから、強さというのは刻一刻変わっていく。今桜庭が旬だけど、この先グレーシーの反撃があるかもしれないし、ヒクソンを桜庭か小川が倒すようなことがあれば、グレーシーは完全崩壊する。小川は身体をきっちり作ってリングに上がったのはすごく評価したい。よかった北尾にならないで。

小山 桜庭の強さと小川の強さはちがうよね。櫻庭の強さっていうのは、柔道の創始者、加納治五郎が発見した「くずし」をいついかなる時も、くりだせる自由さとスピード、タイミングを会得しているところだよね。何かトリッキーな技とか試合の組み立てに眼がいってしまうけれど。桜庭の技はものすごく正確で切れる。相手は負けるべくしてまける体制に持ち込まれるわけだ。小川は、桜庭にくらべても身体があるから、どうしても力が先行してしまうけど、柔道家として、柔術家ヒクソンに勝てる見込みはどうかな。

小林 やってみないとわからないね。小川が力でいったら、負ける可能性が高い。力は技でさばかれてしまう。小川があえて力でヒクソンをねじ伏せる画は、すごく魅力があるけど、実際は柔道でないと小川は勝てないと思う。技と技、身体コントロールにどちらが長けているか。小川がヒクソンに勝てる見込みがあるとすれば、それは、小川の圧倒的な力か、ヒクソンを上回る技をくりだすか。どちらかだ。

小山 今後、格闘技界は立ち技系はK1、総合系はPRIDEが引っ張るでしょう。総合系はヒクソンをめぐり、小川あたりがあたると面白いとおもっています。今日は、立ち技系の話ができなかったので、またいずれ話したいと思います。

小林 では、またそのうちやりましょう。

 

1 中学校時代のあだ名 小学校時代はコマンチだった。小山ンチが縮まったもの。

注2 猪木が新日で権威を欲しいがために作ったベルト

注3 G1クライマックス 両国国技館で行われる新日のトーナメント 新日版 誰が一番つよいかきめたらええ。

注4 佐山が宿し、前田が植えつけた強くなりたい病の遺伝子

注5 猪木にだまされて作らされた団体

注6 猪木に首にされて創った団体

注7 中学時代のあだ名 コバヤシミノルが縮まったもの

注8 前田への挑戦状をもって現れた大仁田に、チケット買ってくれといった青二才

注9  ルー・テーズが三沢君にいった言葉

注10 全日を象徴する3本のベルト 多すぎてありがたくない

注11 2度会社が倒産した。

注12 アメリカのはみ出しものたちが、会社にたてついてつくった。蝶野ものった。

注13 長州が藤波にジェラシーしていった言葉