恒例座談会 プロレスは格闘技か(3)

二〇〇一年 八月二四日 (金)  下井草 地下バー

 

小林稔  (こばやし みのる) 一九六ニ年生まれ 

          趣味は漫画、ロック プロレス イラスト 現在は、新格闘義塾「虚無道」主催

小山昌宏 (こやま まさひろ) 一九六一年生まれ        

一貫してロックバンド ヴォーカリスト  趣味は小林稔に同じだが現在は、人生塾「無軌道」を創設 二人は中学校以来の友達

 

夏のリング 藤田と小川とK1

小山 なんかプロレス、ますますつまらなくなったよね。最近。これは歳のせいか(笑い)

小林 いやー・確実に面白みを失っているよね。やっぱり、あの「猪木軍」VS「K―1軍」あたり、藤田がミルコにタックルしかけて、「あれ」って思ったら、額から血が噴出している。あれって、「血糊」だろう(笑い)。

小山 しかしフィリピンの心霊手術(注1)じゃないんだから(笑い)。

小林 よく新日がやる手だよ(笑い)

小山 「猪木・K1」の戦い第一幕では、藤田が負けないと、第二幕が続かない(笑い)。もう石井館長も猪木以上に「商売人」だから。次の「K―1・猪木」軍。五対五対決を持ち出すには、藤田敗戦の「つかみ」が必要だったよね。 

小林 藤田も、立ち技系の強豪相手に、ああいうタックルの入り方はないよな(笑い)。

小山 それが藤田のよさだけど(笑い)。小川は藤田が勝ってあたりまえと、家で寝ていたそうだ。

小林 まさに寝耳に水だね(笑い)。小川はやっぱり立ち技系、ちょっとびびってるからね。

小山 小川が橋本とやれたのは、橋本があくまでも、プロレスラーとしての「キック」の使い手だからで、両手に唾をはいて、「よっしゃー」ていう、今から蹴りますよ。というお約束があったから、柔道家は顕在的には蹴りに対する恐怖があるんだけど、潜在的に蹴りに対する免疫がない。

小林 「小川VS橋本」のリベンジで、小川が橋本の蹴りで失神して、あれで、蹴りに対する洗練をうけたよね。小川は。やっぱり、まともな蹴りは怖い(笑い)。プロレスなんだから、本気で蹴るなよって。

小山 猪木軍五人は、藤田、安田、ゲーリー・グッドリッジ、トリニダードトバゴに、補強メンバーで、コールマン、ドン・フライの2人が追加されてるけど、武蔵はノーリプライだし、中迫や子安にしても「自分がやるの?」ってな具合どうなのかな。

小林 むしろ、一騎打ちで、小川とバンナがやるのなら面白いけどね。

小山 そうそう。五対五、リベンジとか、もともとこれって武道の組討の発想だけど、いまじゃプロレス対抗戦そのものの発想だもんね。前回の対談で、格闘技のプロレス化に、歯止めがかからないっていってたけど、もう他流試合が、「商売」になってるから。

小林 他流試合って、安生がヒクソンに絞め落とされたように、人知れず、道場でやられるものなんだけどね。本来。

小林 これって、もしかすると?

小山 やっぱり、かつてのフォークとか、ロックミュージック、マンガなどとおなじように、格闘技が文化として市民権を得、産業として成り立つ地盤、飯の食えない武道から、エンターテイメント(商売)として成り立つ地盤を石井館長は作り上げたと考えていいとおもうんだ。

小林 「強くなりたい」と思う若者に、有名にもなれるし、金も手にはいるよ、そうすれば、きれいな女の子も近づいてくるよ。って。

小山 石井館長のえらいところは、そうした商業主義を歩みながらも、空手のもつ教育効果(武道精神)を忘れないところだ(笑い)。

小林 だけど。そういう人が、そもそも、エンターテイメントに走るかな(笑い)。

小山 これって、やっぱり、「強くなりたい。有名になりたい、金もうけしたい、女にもてたい」っていう大山倍達の欲望の「教え」(注2)に忠実だよね。

小林 えっ?

極真空手の分裂は大山総裁の矛盾

小林 この間、マンガ喫茶で、「空手バカ一代」読んで、感動してたのに。

小山 大山総裁だって、人間だから(笑い)。それと、あれは、梶原一騎の創作だから。

小林 えっ?

小山 総裁はタムライスと試合をやってないし、マフィアの銃弾をぬって三角跳びでマフィアを倒し、遠藤幸吉も助けてないし、割れやすい板をあつめてきて、アメリカ各地で板を割りつづけ実演し、ゴッドハンドの地位を築いたわけ(笑い)。

小林 (唖然)

小山 でも牛殺しは本当だし、羆と闘ったのはほんとう。

小林 伝説っていうのは、「造られる」んだね(笑い)。

小山 皆、あの「地上最強の空手」をみて、あの走ってくる自動車を正面から飛びこしたり、総裁がビール瓶を手套で切り落としたり、ろうそくの火を正拳突きで消したり、スイカを抜き手で割ったり、氷柱三段割りをみて、「伝説」を追認したわけ。

小林 じゃー、あのウイリーの熊殺しは?

小山 戦ったのは本当だけど、弱ってた熊だとか、爪をぬかれていたとか、ささやかれているから。だけど、誰が好き好んで「アメリカグリズリ―」と戦うかって(笑い)。熊とケンカしないでしょう。普通は(笑い)。晩年、総裁は「前田日明にも熊とやれとか、八巻にスペインの闘牛場で素手で牛を殺せ」っていってたから(笑い)。

小林 大山倍達の実像と虚像ここにありっていう感じ。

小山 総裁はさ。ただ強くなりたかったんだよね。そしたら、人も集まり、金も集まり、女もよってきた。

小林 これって、芥川竜之介の「杜氏春」じゃない。

小山 人間の欲望の強さ、はかなさが、人間の器をきめるんだよ。総裁のなかにある、武道への純粋な気骨と、極真をでかくするための「商売」が矛盾しながら、総裁の人格をつくっていったよね。

小林 極真の分裂の影に大山倍達の器が影響してたのか。

小山 正直いうと、松井さんよりも、三瓶、緑さんがやってるもうひとつの極真のほうが、好きなんだ。オレはね。極真の目的を、青少年の健全な肉体と精神の成長においているから…。

小林 解った!実は極真は武道だったけど。大山倍達は「プロレス」的だったんだ(笑い)。

小山 力道山に空手を教えたのも、一応大山総裁になってるから(笑い)。

小林 武道についても、いずれまた、詳しく話しをしましょう。

ミスタープロレス=天龍源一郎について

小林 話がずれてきたので、またプロレスにもどしましょうか。

小山 そういえば、意外と二人の間で話題に上がっていないのが、天龍だよね。

小林 天龍のプロレススタイルが、あの受けが…。

小山 でも相撲出身では、力道山をのぞいて、もっとも成功した人だよね。

小林 あの体も相撲取りの体型のまま、レスラーの体になったという、若きころの彫刻のような猪木の筋肉美とは対極にあるよね。

小山 天龍あの受けのすごさは、そのまま全日の「受け」プロレスを作り上げたし、馬場、猪木をフォールしたのは天龍しかいないわけだから。

小林 受け=プロレスだから、ミスタープロレスといわれるようになったんだよね。

小山 天龍革命の頃の全日。UWF革命。長州革命の頃の新日本。なにか、マットが熱かったよ。もう20年も前の話だね。龍原砲がハンセンを失神させた試合は、驚いたよね。あれって、ホーガンが猪木を失神させた逆パターンだよね。

小林 面食らった天龍は気絶して、大の字になってるハンセンの横づらをはり、「死んでないこと」を確かめると、そのまま阿修羅原と、エルボーの雨をふらしてたから。目がさめたハンセンの暴れぶりは物凄かった。

小山 あの試合もそうなんだけど、天龍革命のすごさは、UWF革命の当時の精神に似ていて、一試合全力投球なんだよな。新日も全日もあのころ、テレビの試合と地方興行の力のいれかたに差がありすぎたじゃない。

小林 天龍は、阿修羅と二人ぼっち。他の選手がバスで移動するのに、二人は列車で移動してたから。

小山 仲良し倶楽部じゃないよね。本当に全日を変えるんだっていう精神にうたれたよね。

小林 前田がそれを新日でやったんだよね。

小山 長州は、鶴田に敗北し、このままでは全日でも「革命」を達成できないとわかって、天龍の精神を受け継いで新日にUターンしたら、前田がいた。またかって。

小林 長州と天龍の友情。前田と天龍の親愛は、そうした戦いから築かれたよね。

小山 ところで、天龍が馬場を裏切って、メガネス―パーとくみ、SWSつくったとき、いやな予感がしたんだよ。

小林 相撲部屋形式で部屋対抗をもちだした。

小山 鈴木みのるが、藤原組で、なんでアポロ菅原みたいのとやらなきゃいけないのかって、嘆いていたよね。船木や鈴木にしてみれば、ショープロレスと対抗部屋である以上、戦いつづけなければならない(笑い)

小林 メガネスーパー社長も、天龍を乗っけたから。

小山 馬場さんと天龍、あれで、だめになったよね。馬場さんは自分が人をうらぎらなかったから、自分を裏切った人を許さなかったから。

小林 猪木はその点、自分はどんどん人を裏切るから、人の裏切りを許す(笑い)。つまり、そこからドラマが生まれるんだよね。

小山 そうそう、天龍は結局、全日で天龍革命を達成したあと、目標を見失った。そこで、WARが誕生した。WARって、なんの略かわかりますか?

小林 そういえば?

小山 なんと、レスリング&ロマンスですぞ(笑い)。もう、全日マットには闘うロマンスがなくなったと。しかしWARも成功したとはいえないよな。北原と冬木のその後をみてるとちょっとね。

小林 そのあと、天龍は大仁田とやるし、長州、猪木とやるし、とにかく戦いの幅がひろいのは確かだけど。

小山 そういえば、神取忍とやったこともあったよね(笑い)。天龍は。

小林 あれは、タッグでしょ(笑い)

小山 天龍はミスタープロレスと呼ばれ、神取も「ミスタープロレス」「女子プロレス最強の男」(注3)といわれてるから、いいんじゃないの(笑い)。

猪木の「燃える商魂」が橋本を嫉妬する

 

小山 さて、猪木にいじめられている橋本。どうするか。前田がいじめられたときは、風が前田を押していたけど、今は橋本は逆風。「真撃」の引き抜きも、橋本の作戦ではないよね。いまさら猪木さん。仁義きれるのかな(笑い)。さんざん、馬場さんにやってきたことじゃない(笑い)。

小林 だからー。ドラマなんだよー。話題づくり。

小山 しかし、橋本にしてみればカードくめないんだから。

小林 大丈夫でしょ。猪木ぎらいな三沢君が助け船だすから。

小山 しかし、橋本って言う人間。バカ正直だよな。感動バカ。そこらへんが宇宙人の武藤、エンターティナーの蝶野とちがうよね。武藤はリングを利用してるけど、橋本はリングをつくりだそうとしてるからね。

小林 馬場さんの地盤をそのまま受け継いだ三沢君と、猪木や藤波、長州残る新日との関係でいけば、橋本のしんどさは大変なものだ。

小山 三沢は同世代の橋本につぶれて欲しくないから。猪木に対抗するのは一人ではしんどいよ。橋本も我慢続きだ。

今は頑張れっていうしかないよね。

小林 猪木はどうも、橋本にかっての「自分」をみてるよね。

小山 ええっ。力道山の猪木に対する?

小林 そうそう。小川には浪花節がないし、藤田は広告塔として利用しなければならない。橋本は、新日内部を揺さぶるのに利用したから、役割が終わった。

小山 何か、猪木って、本当に極悪人(笑い)。つまり、猪木は、レスラーとして人気があるとか、強いとかのレベルでは反応しないのに、「世界」をつくろうとするやつに、敏感に反応するんだよね。それは強さよりも、「世界」あっての「強さ」という商魂・「燃える商魂」(注4)が(笑い)。

小林 猪木さんは「燃える商魂」か(笑い)。

グレーシー神話崩壊とともに桜庭は色あせた

 小林 ところで、桜庭どうしたんだ。最近。話題にならないよね。

小山 これは、さくちゃんのせいではなく、グレーシー伝説が崩壊したことを示すんだよね。黒船は去った。つまり、柔術のテクをプロレスが吸収した。佐山は吉田松蔭だけど、サクちゃんは勝海舟になったんだよね。

小林 そういえば、ヒクソン。息子が死んでから、試合していないよね。もう力も峠をすぎたんじゃない?

小山 ヒクソン、復活戦。誰がやるか?興味あるよね。桜庭がやり、グレーシー伝説に幕を下ろすか。いずれにしても、グレーシー他、ブラジリアン柔術が、巻き返しをはかっているからね。一番注目しているのは、アントニオ・ボドリコ・ノゲイラだよね。リングスのKOKでも優勝してるし、プライド勢にない円の動きがあるから。桜庭の動きとは違った意味でやわらかい。力をさばくから。あとはロシア勢の巻き返しだね。リングスもさっぱり話題にならないけど、ヴォルク・ハンの弟子のアターエフは、サンボも使えるし、中国の散打(注5)もマスターしてるから。今後台風の目になる可能性がある。桜庭が再度活躍するとなると、柔術とサンボの対決をなかだちする桜庭の技術の爆発以外にないよね。

小林 桜庭は戦いのテーマを鮮明にする必要があるよ。

 急速に失われるプロレスへの関心

 小山 ところで、武藤と馳のBATTなんだけど。興味わかないんだよね。

小林 その手のムーブメントは、NWOで終わったよね。今の時代はもう、ムーブメントじゃない。マットにおのれの生き様を再現する。強さも弱さも情けなさも雄雄しさも、全身全霊で打ち込む人間くささが必要。

小山 プライドの出現で、観客はいっそうプロレスにリアルを求めている、でもそれは「真剣勝負」でないし、「技術」そのものでもない。まちがいなく「感動」なんだ。でも今のレスラーの誰に感動できるか? 

小林 いるかな?

小山 秋山が一〇月の新日東京ドーム戦で、猪木がいきなり、藤田VS小川をぶちあげて、「秋山・永田の試合なんて誰がみたいかって」っていったのに対して、怒ったよね。でも、藤田は別にしても、確かに強いんだけども、テーマを与えられないと燃えない小川の試合は、みたくない。それよりも、秋山の技術がみたいよね。成長してるからね。秋山は。

小林 秋山VS永田よりも、秋山と本多多聞との対決のほうが、燃える。秋山がニューリーダーとして、三沢、藤波をどう動かせるかじゃない。

小山 馬場、猪木が相対的であれ、絶対的であれ、他者を強く矯正(強制)するのに対し、三沢、橋本世代は、とりあえず、自分も不自由だった分、下に自由にさせようという心積もりはあるよね。

小林 やっぱり、時代はもう、マットの上で表現するだけではだめで、マットそのものをつくる力の表現が必要なんだ。そのなかで、蝶野、武藤の役割が終焉してしまった。

小山 二人とも強いんだけど(笑い)。真剣さが似合わないんだよね。それが武藤を禅寺に引きこもらせ(笑い)、蝶野を不良にした(笑い)。ノートンに勝てなかった武藤。もうあの時代の武藤、袈裟固めに、腕ひしぎ、脇がためとか、地味なグランド技で、ノートンに対抗していた。これは、方法論的に無理があった。

小林 蝶野も、G1での自分の評価、前評判があまりにも低いので、頭にきて不良になったんだよね。なんで、G1優勝者のオレを無視するんだって。でもあれって、蝶野のレスリングスタイルにあるインチキくささみたいなものを敏感に皆感じとっていたんだよね(笑い)。

小山 そもそも、「K1 VS 猪木軍」にしても、必然性がないんだよね。正直いうと。今、興味がわきつつあるのは、対抗戦ではない、本当の他流試合だよね。個々の格闘者。レスラーの。

小林 健介がアメリカから帰ってきた。なんか、凄みがましてる。顔にでてるよね。

小山 ボクシング、グランドを徹底して特訓したらしい。ドン・フライの訓練所か。

小林 新日では、これからは、格闘技も強くないとリーダーになれないわけか。やっぱり。

小山 猪木・石井館長流のエンターテイメントと格闘技者としてのレスラーの強さを求められる。それにNOAH・真撃勢がどう対抗していくかだよね。それはそうと、パンクラスの謙吾がドスカラスにまけたのも衝撃だよね。なんで、シューターがリチャにグランドで負けるの?本当もうプロレス界は混沌としてきた

小林 悪いけど、パンクラス。船木がヒクソンに負けて、終わった。最近の試合でも、柔術に対する対応は、ものすごく遅れてるよ。

小山 やっぱり、リングスとの交流(潰しあい)をやっておけば、自分たちがいかに「井のなかの蛙」かわかったのにね。船木・鈴木の前田アレルギーが鎖国を招き、打撃、寝技、関節技においても遅れたよね。

小林 パンクラスの選手は、船木の「肉体改造」に影響をうけたのか、ウエイトがない。しかも中量級だから、やはりヘビー級の世界では、はじめから不利だよね。

小山 いえるのは、やっぱり、スポーツ化と閉鎖性がパンクラスをだめにしたよね。確かに前田とやれば、潰されてただろうし、やらなければ、今の状態をまねいただろうし。もともとパンクラチオンは、殺し合いのために、みがかれた力と技術の応酬だったから。

小林 今度また話すころには、おそらく、プロレスと格闘技のひとつの方向性がみえてくるような気がするんだよね。

小山 なんで、生きているのかわからないような腑抜けた時代に、闘い続ける意味を、今つかめるような気がしている。今回、エンターテイメント(商売)と武道の関係性について、なんとなく話せたのは、自分の中のエンターテイメントと武道家的に生きる精神の分離を感じざるを得なかったから。商売で心まで駄目にしたくないからね。うまくいえないけど、商売のなかに1%のリアリティがみえた瞬間、またプロレスにわくわくするんじゃないかな。

小林 なんか、マジになってませんか(笑い)。

「まぐま」8号 2002年 掲載