ダム・ウェイター

作:ハロルド・ピンター

Aヴァージョン 演出:鈴木裕美 出演:堤 真一(ベン)・村上 淳(ガス)
Bヴァージョン 演出:鈴木勝秀 出演:浅野和之(ベン)・高橋克実(ガス)

STORY
イギリス・バーミンガムのどこかにある地下室。部屋にはベットが2つあり、中央の壁にはなぜか料理運搬用の
昇降機(ダムウェイター)が設置されていた。
ベットの上には男が2人。仕事の為にここを訪れ、「何か」を待っているらしい。
彼らはいつまで続くか分からない待ち時間を潰すべく、新聞を読んだり、大して意味があるとは思えない
会話を繰り返している。
停滞した時間。
そんな室内の澱んだ空気を一変させたのは、ダムウェイターの鈍いモニター音だった・・・。

STORYのネタバレ。

男が2人。兄貴分の男ベンはきちんとした身なりでキレイに毛布が敷かれたベッドに横になりながら、英字新聞を読んでいる。
後輩らしき男ガスはソワソワしながら全く落ち着きもなければ、着る物もベットの上もちょっとだらしない。たわいもないことをしゃべりながら部屋をうろうろしている。
彼らは殺し屋。仕事の合図を待っているが、一向にその合図がない。窓もないこの部屋で苛立っている。
そんな中、マッチの入った封筒が投げ込まれた。意味が分からず、慌てて周辺を見回す2人。しかし、不審者はいない。

ガスは、過去に女を殺して以来、ガスはそのときの悲惨な光景がトラウマとなっているのか烈しく動揺しながらその時の様子をベンに話している。「誰が(あの後)部屋を掃除するんだ?」と。
言われるがままに、やる事をやってればいいんだ!とベン。

そんな中2人は「仕事」の段取りを再確認する。ある人物がここにやってくる。その時、こういう手順で仕事を進めるんだと。
誰であっても、女であっても、変わらずその人物を段取り通り殺すのだと。

そんな澱んだ空気をダムウェイターの鈍い音が切り裂く。
次々にわけのわからない料理の注文(メモ)がダムウェイターで運ばれてくる。
とりあえず、手元にあるお菓子やら飲み物をダムウェイターにのせる2人。しかし、それでも次々に注文はくる。
だんだんと不安と混乱に巻き込まれる二人。
そして、なぜかお茶パックだけが戻ってくる。

ガスはついに切れる。ダムウェイターに首を突っ込み、上に向かって大声で罵声を浴びせる。
「やめろ!どうなっても知らないぞ!」必死に止めるベン。

そして、ダムウェイターを通して「やかんに火をつけろ」と指示が。それを聞いたベンがガスに指示をする。
ガスがお茶を沸かしにキッチンに行っている時に合図が。
「はい、ふ、2人とも(ガスがキッチンに行っているので覗きこみながら)準備は出来ております。」とベン。
ターゲットがもうすぐ部屋にやってくるらしい。
おい!早く!とガスを呼ぶベン。しかし、ガスはやってこない。うろたえながら、銃をドアに向けるベン。

しかし。ドアが開いて出てきたのは、殴られてぼろぼろになったガス・・・。
驚愕しつつも銃をガスに向けるベンと、何が起こっているのかわからずに泣きそうな顔で立ちすくむガス。
身動きできずに見つめ合う二人。
そして・・・。
2004.5.29(土)13時〜(55分)Bver.(L列8番)/18:30〜(1時間)Aver.(J列14番) 観劇。

同日に両方を観劇してきました。
実に不思議で謎な作品でした。しかも、ほぼ同じ台詞で、ここまで違う印象になるものかと、感動。

Bから。
始まる前。「上演の前のお願い」アナウンスが、Averのお2人でした。
「ようこそ、このおじんチーム・・・いえ、B・・・」という出だしで(笑)
「ロビーにいらっしゃる方は・・・え?まだロビーにいるの?」と言ったり、最後には「ご案内はつっつみーしんいちと村上淳でした!」と実にお茶目なアナウンスでした(^^ゞ

ちょっとリンクスを思い出させる出だし。烈しい音楽と共に、何もない舞台の中央から、2つのベットとダムウェイターがせり上がってきました。
ダムウェイターはまさに業務用、という感じで、下手上手に2本ずつ立ってるシルバーの柱の間を通って階段を降りてくとキッチンがある、という設定。
ベットもシルバーで、枕はプチプチを巻いて枕の形にしたようなものだったし、毛布もビニールっぽいブルーで、ベンが手にしている「新聞」も透明なビニールをその形にしたもの。
ガスがお菓子などを入れてるのは、スーパーなどのビニール袋。照明は暗め。
緊張感と男臭さが感じられる無機質な空間、といったところでしょうか。

途中、高橋さんが笑いを取るシーンはありましたが、あくびをしてみたり、ダラダラとトイレに行ってみたり澱んだ空気が伝わってきて、笑いよりも苛立ちや緊張感や澱んだ空気が感じられました。
浅野さんのベンはかなり神経質で、冷静沈着でした。動揺する様子は殆どありません。
全体的に派手な動きや笑いの部分はそんなになく、不気味な感じさえしました。
(銃が、水鉄砲のようなカラフルな銃だったのにはびっくりしましたが。)
それゆえに、ベンは最初からこの計画を知っていたんじゃないか?ガスが最初から標的だったのでは?と思ってしまいました。
しかもラストシーンでも、ベンは動揺する様子も見せず、ずっと銃を冷静にガスに向けていました。
ボロボロのガスはただ、呆然とベンを見つめ続けてました。跪くことなく、ただ手をブラブラさせて。
勝手な解釈ですが、「こういうことだったのか・・・俺を撃つのか・・・?」とガスはまだどこか呆然としてるというか、事態を飲み込みきれてないような感じがしました。
腹をくくったというより、逆にまだ命乞いをしそうな・・・。

ガスが寝てる間に車を道路の真ん中で止めて何か考え事?をしていたベン。
送り込まれたマッチ、意味不明な注文、戻ってきたお茶、「(ガスはつかないのに)やかんに火をつけろ」の指示。
そして、ラスト・・・。
その意味は、どこにあるんだろう?
全く予習せずに行った私は「えっ?何?何がどうしてこうなったの?」と正直??がついたまま終わってしまいました。
魅力的ですが、ともすれば分かりづらいというか伝わりづらい部分もあったかも知れません。私だけかな。


そしてA。
冒頭のアナウンスはしぶーいBverのお2人でした(^o^)丿

流れる音楽はどこか優しく、心地よささえ感じました。また、こちらのセットは、部屋の角が真ん中に位置していてVの形の壁がありました。
そして、大きな音と共にその壁が吊りあがり、中の部屋が現れます。
こちらはBとは全く違い、明るめの照明(オレンジ系)で、ベットもダムウェイターも扉も壁も新聞もリアルでこじゃれた感じに作られていました。
ガスがお菓子などを入れていたのは、黒いBOX形のバックだし。(ベンも持っていました。)
全く雰囲気が違ってました。
そして、村上ガスは口調が今時の青年っぽい感じで、かなりウロウロソワソワ、時折なさけなく、なんだか小動物のようにかわいいです(笑)
堤ベンは、冷静ながらも人間味が感じられ、まさに「兄貴」って感じ。
この2人は、かなりお茶目ぶり満載でした。
物音やダムウェイターに振り回され、ジタバタする大の大人の2人(笑)
その物音の真相を確かめるようにベンがガスに指示するシーンなんて、お互い緊張してて、恐る恐るガスがドアに近づいていった、と思ったらスタスタ、バターンと無造作にドアを開けるガス^^;
「おいおい」と言わんばかりに見つめるベン。
ドアの外(暗くて姿は見えませんでした)ではこけたのか、ガスが「あいたっ・・・」と情けない声を出し、ドアの内側では、
銃を構えて壁に張り付いてるベンがドアの外を覗こうと首を出すと、入れ違いにガスが入ってきてドアを閉めてしまい、ベンの首が挟まってしまったり(笑)
ダムウェイターにおののき、2人が銃を構えていると、ジリジリとガスがベンの後ろに下がってしまい(隠れるように)、それに気付いたベンは静かにゆっくりとそのままベンの方に向いたり。
ふいに後ろからガスがベンの肩を叩くと、「ひいぃぃぃ〜」と叫ぶベンがいたり。
食べ物をのせ上がっていくダムウェイターを、ウェイターのようにお辞儀をして見守ってるベンだったり。
最後の注文を見た瞬間、「えびふりゃあ〜〜!」(注:エビフライ。Bでは確か「車海老〜」でした。)とメモを投げつけるガスだったり。
笑いドコロ満載。爆笑でした。
堤ベン、面白い(^^ゞでも、でも冷静で何かを感じている(知っている?)ベン像を崩してはいない。すごく魅力的でした。

それ故に、ラストがかなり切なく感じられました。
ラスト、堤ベンは戻ってこないガスを何度も慌てて呼びます。そして、扉を開けて現れたのがボロボロのガスだった時のあの烈しい動揺・・・。
呆然とした表情で、銃を一瞬下ろしかけるほどでした。
何もかも知っていたなら、標的がガスだと最初から知ってたらあんなに動揺するだろうか?
さっきまで感じてた事に疑問が残りました。
そして、泣きそうな顔で立ちすくむ村上ガスは、跪く瞬間何かを言いたそうに大きく頷きました。
まるで全てを悟ったような、「分かったよ、いいよ、撃って・・・」と言わんばかりの腹をくくった表情でした。

Bには不条理さを、Aには人間の心情の深さを表した、切なさを感じた私でした。
Aの方がとっつきやすかったというか、入りやすかったかなあ、というのが私の印象です。Aを先に観たほうがよかったかな?

最後に。
パンフで裕美さんが言っていた事を載せます。
「ダム・ウェイターとは・・・その由来はDumb(無言の、物を言わない)Waiter(給仕者)・・・つまり本来は「文句を言わずに働き、
チップを要求したりもしない、安上がりで使えるウェイター」という意味なのです。また、Dumbには(馬鹿な、のろまな)という意味もあり、
そしてWaiter本来の意味は(待つ人)だということを考えれば、「間抜けな待ってる人」ってことにもなります。
・・・いろいろな読み取り方が許されている本だと思いますが、私としては、「サラリーマンの抜き打ち昇給(昇級)テストの一時間」だと思ってます。
或いは「小さな箱の中に閉じ込められてジタバタしている、二匹の実験用の小動物の観察」

裕美さんの演出って、好きです。不条理劇と言われてるこの作品を、なんだか不条理じゃなくしたというか。
言い方変だけど、ある意味救われた、っていうか。
単なる殺し屋の不条理劇ではなく、人間としての深い部分での物語だったような、そんな気がしました。
正直、最初(B)観たときは「難しい・・・分からん・・」と思ったのですが、裕美さん演出を観てすごくイメージが広がりました。
この人自身もお茶目で人間味溢れる人なのでしょうか?そんな気さえしてきます。

また、ひっぱりだこの美術:松井るみさん。両方手がけたそうですが、さすがです。
それぞれの演出にばっちりで、尚且つセンスがよいです。