LYNX〜リンクス〜

構成・演出 鈴木勝秀

出演
オガワオサムー佐藤アツヒロ
エンドウユキオー橋本さとし

ウサミハルター鈴木浩介
イタバシフミオー佐藤 誓
アマリシュンジー伊藤ヨタロウ
「LYNX」は、鈴木勝秀の構成・演出により1990年、1998年の2回、青山円形劇場において公演し、話題を呼んだ作品です。
この作品で描かれる世界は、人間の都市生活におけるディスコミュニケーションから起こる悲劇です。
自らを社会から隔離し、自分の世界にさまよい、出口を見失い、鏡やテレビ、電話と会話するディスコミュニケーションに
陥った男を主人公として、都市生活者の孤独を浮き彫りにします。都市が人工的に創られたものであるのに対し、人間が、人間らしくあるということは自然に則ったことです。
"人工的"と"自然"との共存から生じるヒズミを考えていきます。
「LYNX 〜リンクス〜」というタイトルは、英語でオオヤマネコを意味しますが、それは作品中、家畜になることを拒み、
決して人間に迎合することなく孤高を守り通して死んでいったオオヤマネコのエピソードとして語られます。
それと共に同音異義語のLINKS(連結、関係)を意識し、都市と人とのLINK(関係)を描いていきます。
(青山円形劇場HPより)
2004.4.10(土) 青山円形劇場にてマチネ観劇 座席Hブロック36番

冒頭。ドン!という烈しい音と音楽と共に、舞台の中心に瞬間ライトが当たり、また暗転。
そこにいたのは、さとしさん。
皮のパンツ、白いシャツの上に、ロングの皮のコート(皮はすべて黒)、皮のブーツ。
円形の舞台の真ん中に長方形の「鏡」(銀板)があり、そこに微動だにせず立ちはだかるように、そして無表情というか哀しみをおびた眼差しでずっと立っています。
暫くの間、瞬間ライト→暗転を繰り返し、その度に瞬間さとしさんの姿が浮かび上がります。
だんだんライトがオレンジから青くなり、さとしさんを包むように回転しながら差し込みます。
天井から舞台端に等間隔で細いチェーンが降りてきます。(舞台がチェーンで囲まれてる感じ。)
そして、その中心にもう1人、アツヒロさんが現れ、2人は鏡のように右手を重ね合わせて動かし、左手を自分の顔の前で包むように動かす。
そして、その瞬間「鏡の中の」エンドウ(さとしさん)が突然目をかっと見開いてオガワ(アツヒロさん)を覗き込むような表情をした瞬間、暗転。

明かりがつくと、そこはオガワの部屋。黒いBOXが二つ対角線上にあり、電話とテレビが置いてあります。
「Trrrr・・・ガチャッ。はい、オガワです。只今留守にしています・・・」
暗転。
再び明かりがつくと、その電話が佐藤さん(イタバシ役)に、テレビが鈴木さん(ウサミ役)に変わっています。黒のパンツに白いシャツ。
そして、殺虫剤をあちこちにまくオガワ。そこにドラックの売人アマリがやってくる。
いつものドラッグがなかなか手に入らない。減りがあまりに早いので、アマリは「売ってんじゃないだろうな?」とちょっと疑う。
オガワは、虫が大発生して頭の中で刺す為に夜も眠れずに困っているという。でも、捕まえたというその瓶に入っているのはどうみてもただの埃だけ。
ーそれは、そのドラックが切れかけると起こる症状のようだ。
アマリは手に入ったら連絡する、と言って去ろうとする。オガワは呼び止め、こう聞く。
「イタバシ(Dr)が僕を狙ってるって、友達に聞いたんだけど。」

鈴木さんはおでこを押されると、急にDJのように喋りだす。テレビだから(笑)佐藤さんは「Trrrr・・・ぴー」と野太い声で喋りだす。電話だから(笑)
そして、2人は立ち上がり、オガワに話し掛ける。なぜか、佐藤さんは前転(柔道みたいな感じ)しながら話し出し、鈴木さんも真似をする。円形を自由に動き、その動きが変な動きになり、いつの間にかアツヒロさんを真ん中に、円を書くように踊りだしながら話してる、という・・・。
かなり笑っちゃいました。

そして、その電話が電話に、テレビがテレビに戻る。
コートを脱いだエンドウとオガワが談笑してます。
何度かオガワとエンドウの2人のシーンがあるのですが、このやりとりが「どこからアドリブなの?」っていう位爆笑しました。
「エンドウユキオですっ!」って大きな声で爽やかに挨拶して深々と一礼してるし。ずるっ、って感じ^^;
さっきまでの影はどこに・・・。
「もっと薬をくれよ。」催促してるのはエンドウ。与えつつ、「最近薬の減りが烈しくて疑われるんだよ。」とオガワ。
・・・でも、あんまりシリアスにならない^^;
さとしさんは、テレビの線を黒いBOXからひっぱって(「あっ、ひっかかっちゃった・・・」とか言ってるし。)その線をくわえ、歯の力だけで持ち上げようとしてるし。
(しかも、その後しばらく歯が痛そうな仕草してるし。)
「お前、いい奴だなあ。」とアツヒロさんを抱きしめたり、その後「ホモ?」とか言い出して、真ん中の「鏡」に四つんばいになって(@_@)「やれっ!」とか言い出すし。
変な(?)早口言葉みたいなのを何度も繰り返して(なんとかかんとかモロ師岡とか。)
勿論、アツヒロさんは困ってます(笑)すると、さとしさん「自分の姿がじかに見えて情けないから早くっ!」。
その後もさとしさんは白いシャツをまくりあげてアツヒロさんにせまるし、(アツヒロさん「なんで裸になるんですかっ」)持ちこたえてる(?)アツヒロさんに「お前、大人になったなあ」なんて言ってるし。
そして、観念したように(?)その真ん中の鏡に四つんばいになったアツヒロさん、その変な早口言葉みたいのを言おうとしますが、
さとしさん「言えてないし!そんな事言ってないし!」と正しい言葉(?)を教えます。
さとしさん曰く、「人名シリーズのひとつだから」アツヒロさん「人名シリーズ?」
さとしさん「モロ師岡さんっていう人がいるの。でね・・・って大したことじゃないんだから、こんな事にくいついてこない!!」
もう、おかしくておかしくて笑いっぱなしでした。
このシーンは、明らかにさとしさんがアツヒロさんをからかってると言う感じでした。
でも、会話の中で、オガワ「実は銃なんて持ってたりしてね。」エンドウ「持ってるよ。」
オガワ「えっ?」
それまでのコント(って違う^^;)の雰囲気を瞬間にして凍らせるエンドウの表情。静かにコートの中から銃を取り出し、冷たい表情でオガワに突きつける。
そして。「かちっ」
エンドウ「あーはははっ!タマがないのっ」またさっきの雰囲気に戻ります。
そして、その銃をオガワに「やるよ。」タマがないとな、タマは必要だっ、と明らかにその仕草からするにまた下ネタとかけてるような・・・(ーー;)
「これから弾を買いに行こう。」オガワ「俺もコートをとってくる!」
その瞬間、またエンドウは真ん中の鏡の上で冒頭のように無表情で立ち、出かけるオガワと逆方向に消えていくのでした。

そして、そこへ入れ違いにDr.イタバシとウサミがオガワを尋ねてくる。(スーツ姿)
ウサミはハローワーク(職安)の職員、オガワとは小学校が一緒で、そんなに親しい間柄ではないらしい。成績優秀なオガワに憧れていたというウサミ。
失業者リストに載っているオガワをみて、なんとかしたいと「おせっかい」をやき、薬物中毒を治し社会復帰させる為にイタバシという先生を紹介しようとしているらしい。
暫くしてオガワが帰ってくる。「何をしてるんだ?」
2人の言う事に全く耳を貸さないオガワ。
テレビを抱え(でもずっと砂嵐。)、ボリュームをあげたりしてる。
生活は、前職(プログラマー・・・というかハッカー?)で貯めたお金があるし、薬をやめるつもりもない。
薬物中毒じゃない、生きるために必要なものだ、と。出て行け、と。

そして再びエンドウが、BOXの上にしゃがんでオガワを見ている。
またちょっとコントムードが^^;
オガワが、缶の飲み物を持ってきて、鏡合わせになってエンドウと向き合い、後ろに隠して2本を右左と変える。
でも、当たり前のように(鏡のように)右手の1本がエンドウの右手とすうっと重なり、エンドウの手に渡る。
で、プルタブを開け、飲み出す。アツヒロさんが少し飲んでさとしさんを観ると。
さとしさんは、飲み続けてます(笑)しかも腰に手をあてて。そして一気に飲んでしまいました。
そして、アツヒロさんに「お前も飲め!そして(シャツを少しめくってお腹を出して)お前も仲間になれ!」とか言ってました^^;
あと、両手を挙げて、ハイタッチするんですが、さとしさんはおもいっきり手を伸ばすので、アツヒロさんは何度もジャンプしながら頑張ってハイタッチしてたり。(さとしさんのいぢわる・・・。)
あと、なんの会話からだったか忘れましたが、髪の毛を自分で持ち上げて逆毛にして、その後「乱れちゃった。」と直してたり。
あと、「お前は人には言えない病気だな?」と言い出し驚くアツヒロさんに「胃炎!(言えん)」・・・アツヒロさんも客席もキョトン。私はちょっと笑いそうになりました^^;
すると、そばにあった(天井から降りてる)チェーンに自分の首を巻きつけて叫んでました。
さとしさん・・・芸人ですか・・・(爆)

時には鏡の前で向かい合って笑いあう二人。
オガワはエンドウの存在が、心地よく、怖い。
そんな世界に、黒いパンツ、白いシャツの「ウサミ」「イタバシ」がやってくる。
そして、エンドウに別室に行ってもらうよう、指示する。
「エンドウユキオですっ!」2人に明るく挨拶し、最初はその場を去ることを渋るエンドウだけど、オガワに「プライベートの事だから・・・」と諭され、嫌々ながらもハイテンションで笑いながら席をはずす。
「あっちで何か飲み物飲んで良いから」(オガワ)「えっ。もう飲めない・・・」(エンドウ)

「さっきの話」できたはずの2人だけど、何かが違う。治療するどころか、オガワに妙な事を言い出す。
要は、オガワが以前やっていたというハッカーみたいなことをやって欲しい、ということらしく、その結果、生還する可能性もあるが、確率的には自殺行為だと。
「俺に死ねって言ってるんですか?」
「君が今してることは既に自殺行為だよ。(だから今更怖くないだろう)」
そんな不気味な会話が交わされてる中、再びエンドウがやってくる。
「まだ、私達の用件は済んでいないのだが。」(イタバシ)
最初はちゃかすような態度のエンドウ。「医者なんだから、薬の一つもあるだろう。くれよ。」
拒むイタバシを羽交い絞めにして、ポケットから粉末の薬を見つける。してやったり、と喜んで口に入れるが、「ぶはっ!!」吐き出すエンドウ。
「君が思ってるような薬じゃないんだよ」
切れたエンドウは「おっさん、うるせーんだよな・・・」ぼそっと呟くと、イタバシにナイフを突きつける。
悲鳴をあげて逃げるウサミを追っていって、(扉の向こうにはけます)首を切りつけ、血だらけで戻ってきます。
イタバシもウサミも息絶えます。
呆然とするオガワ。そんなオガワに「やったのは俺だから心配することないよ・・・」とエンドウ。
そして、前にもちょっと話したオオヤマネコの話をし出します。家畜になることを拒み、決して人間に迎合することなく孤高を守り通して死んでいった、という。
家畜に飛び乗って果敢に戦って死んでいったオオヤマネコ。そして、それは「俺だ。」と。
だから、どうしてほしいか、賢いお前なら分かるだろう、と。
オガワはおもむろに銃を取り出し、立ち膝で見つめるエンドウの額に向ける。
「そうだ・・・。はずすなよ・・・」エンドウは目を閉じる。
張り詰めた空気の中。
「出来ないよ!」オガワは銃を下ろす。そんなオガワを説得するエンドウ。
そして、再び銃を向けるオガワ。そして、引金は引かれた・・・。
横たわるエンドウの体を抱くように横たわって静かに目を閉じるオガワ。泣いてるような、楽になったような穏やかな表情で。
チェーンが一本、また一本と天井から離されて落ちてくる。
暗転。

明かりがつくと、そこで横たわってるのはオガワ1人。
そこにアマリがやってきて、小川のポケットから財布を取り出し、中身をばら撒き。持ってきた薬をパラパラオガワにまき出す。惜しみなく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな感じだったと思います・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
順番が逆だったり、言葉の違いとか勘違いはあると思いますが、こんな感じだった、というのが少しでも伝わればな、と思います。

役者さんのバランスがすごくよくて、心地よかったです。内容はヘビーですが・・・。
でも、なんだろ、決して現実味のない大げさな世界ではないように感じました。
それ故に、ズシンと心にくるっていうか・・・。

アツヒロさんはすごく自然にオガワを演じてました。
決してどこから見ても狂ってるというわけではなく、一見、普通の男性。言葉使いもきっちりしてるし、他人を傷つけようとするわけでもない。
ただ、自分の世界から頑なに出ようとしない。
ドラックによって、体が楽になり、エンドウの存在が唯一自分にとって心を許せる存在で。
その時のオガワは無邪気で素直。
ホント、自然だったなあ。

さとしさんは、アツヒロさんに比べると少しハイテンションな感じ。
でも、私はそれでいいと思ってます。
私の解釈では、オガワがドラッグによって解放され、ハイテンションになったその姿がエンドウだと思ってるので。
同じテンションである必要はないのかな、と。
さとしさんは、鼻の下、顎に髯があり、その姿といい、その表情といい立っているだけですごく渋くてかっこよいです=^。^=
特に、冒頭のその表情で、私はなんだか胸を打ち抜かれたような衝撃を受け、物語が始まっても暫くぼーっとしていました(笑)
その哀しみをおびた無表情に誓い視線。そして、一瞬かっと目を見開いて襲い掛からんばかりの表情。
その「影」に凄く魅力を感じた私です。
そして、「芸人」(違)のさとしさんとのギャップ。
あんだけ大爆笑させといて、その瞬間その表情や仕草一つでその空気を凍らせる。
客席も、すごく敏感に反応してました。あんだけ笑ってたのに、「はっ」したかのようにシーンとその空気を作り上げてるって言うか。
すごくいい空気だったなあ。
(でも、隣に座ってた女性、何度も何度もバックのファスナーあけたり締めたり、チラシを観たり、頭にきたけど。どんなに小さい音にしたつもりでも、隣にいたら迷惑だってーの。)
もっと、いろんなさとしさんを観てみたい!かっこよい!よすぎる!とさとしさんにクラクラの私でした^^;

カーテンコールでは、客電がつきスタッフも扉を開け出したのに、拍手が続き、再び皆さんが登場。スタッフは慌てて扉を閉めてました。
なかなかよいもの観たなって感じでした。
「欲望という名の電車」といい、キャステイングも演出も私は鈴勝さんが結構好きなのかな?とちょっと思いました。