「マクベス」

演出:蜷川幸雄
作 :W・シェイクスピア  翻訳:松岡和子

出演
唐沢寿明/大竹しのぶ/勝村政信/六平直政
大石継太/神保共子/立石涼子/梅沢昌代
大川浩樹/妹尾正文/梅津 栄 他

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STORY

スコットランドの勇将、マクベス(唐沢寿明)バンクォー(六平直政)は、ダンカン王(妹尾正文)の陣営へ
戻る途中、荒野で3人の魔女(神保共子・立石凉子・梅沢昌代)に出会う。彼女たちはマクベスがコーダーの
領主になり、そしていずれは王にもなること、バンクォーは王にならないが、その子孫は王になることを予言する。
半信半疑のマクベスだったが、王の陣営で予言通 りにコーダーの領主に任じられ、王位への野望が芽生える。

夫からの手紙で一部始終を知ったマクベス夫人(大竹しのぶ)は、来城するダンカン王を殺害し、夫の野望を
遂げさせようと決意する。罪の重さに怯むマクベスを激しく詰り、励まし、遂には就寝中のダンカン王を刺殺させ、
ふたりの転落が始まる。

王になったマクベスであったが、もう一つの予言、バンクォーのことが気がかりでならず、遂に彼を殺害する。
しかし、戴冠式後の祝宴でバンクォーの亡霊を見たマクベスは、錯乱状態に陥り、再び魔女を訪ねる。
「マクダフに用心しろ」「女から産まれたものにはマクベスは倒せない」「バーナムの森がダンシネインの丘に
向かって攻めあがってこない限り、マクベスは敗れない」。
魔女たちは次々に新たな予言を告げ、マクベスにバンクォーの子孫が王位 に就く幻影を見せる。
その頃マクダフ(勝村政信)は、亡きダンカン王の息子で今はイングランド王の庇護を受けているマルカム
(大石継太)
と組み、マクベスに対抗しようとしていた。
しかしこの結果 、祖国に残されたマクダフ夫人(山崎美貴)は、マクベスの手のものに殺害されてしまう。

復讐に燃えるマクダフがマクベスに戦いを挑む中、罪悪感と血の幻影に苛まれたマクベス夫人は、夢遊病にかかって自殺する。
戦いと人生が加速する中、有り得ない予言が次々に現実のものとなり…。

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2002.10.19(土)シアターコクーンにて観劇。座席C列19番


ガラス張りのようなカーテン。時には「鏡」となって客席を映し、時には(舞台の)内側の人間が浮かび上がる。
不思議な作りだ。
(実際、客席の通路を通ってくるシーンは頻繁にあり、振り返らなくてもその姿が正面に映し出されるという・・・)
そのカーテンが開いた内側もガラスのような壁。創りが、まるでエリザ(東宝)か天保十二年のシェイクスピア
最後の方のシーン、「おさちは、「あなたに見せたいものがあります。」とおもむろに立つと、部屋中鏡にする。
(壁とか開くと全て鏡に。)醜い三世次を部屋中の鏡に写し、「あなたの心はもっと醜い」と言い放つ。
「あなたが好きで女房になったのではない。復讐の為だ。」と。三世次は逆上し、狂ったようにのたうち
まわって鏡を割る。」

・・・のシーンを思い出させるものだった。(観た人は想像してみて下さい。)

冒頭、「魔女」が出てきて、「キレイは汚い・・・汚いはキレイ・・・」と言いながら立ち去るシーンを観て。
私の頭の中ではすぐに、三世次(上川さん)の歌声がリンクしてしまい・・・・。(笑)
慌てて集中を図るのであった^^;

×××

(登場人物のひとこと感想。)

戦いのシーンがあり、バンクォー、ドロドロに怖かったです^^;六平さん、迫力ありすぎで、怖いです。夢に出そうです(笑)
それと戦いのシーンよりもむしろ怖かったのが、殺された後、マクベス‘王’の宴でマクベスの座るべき椅子に
血みどろで座っていたシーン(マクベスにしか見えない幻)がすごいぞっとしました。

唐沢さん、初めて拝見しましたが、なかなかよかったです。
ただの「悪人」ではなく、物語が流れていく中でいろんな心情が表れていて、興味深い「マクベス」になっていた
と思います。

大竹さん。さすがです!そこにいるのはまさに「マクベス夫人」。愛するパートナーである夫を叱咤し、自身、悪
となり、時には母のように包み込む。
弾き込まれるなあ。
2幕「夢遊病」のシーン、完全に正気を失っていました・・・・。あれだけ、動揺し尻込みする夫を叱咤した彼女が
壊れていく・・・ただの悪女じゃない彼女の心情、夫への愛がなんだか感じられました。
しかもこの人、これだけの台詞、すごく綺麗に耳に入る。改めて、「すごい」!

そして、勝村さん。この方も初観劇でした。
地を這うような低音で太い響きを持つ声でした。普段、TVでお見かけしている表情も声も全くそこにはありません。
するどい目、自然に緊張感あるものにしてくれるその空気。かなり惹かれました。
特に2幕目に出番が集中していましたが、私の印象深いシーンが、マクダフが、亡きダンカン王の息子で今は
イングランド王の庇護を受けているマルカムに必死に「手を組みマクベスを倒そう」と訴えてるシーン。
その必死な形相もそうだけど、その時、自分の奥さんも小さい我が子も惨殺された事を知るんだけど、その時の
表情!!
私、本気で目が離せず、泣きそうになってしまいました(-_-;)
目を見開き、ずっと宙を見据え、スローモーションで正面を向く。そして、静かに崩れる。
声を押し殺して嘆く。でもその姿がますます深い深い悲しみを表してるようで、胸にズシン、ときました。
これぞ男だ!などと思っちゃいました。本当に苦しくなりました。
そして、自分のせいだと責め、嘆き、復讐に立ち上がる。
ますます鋭くなるその表情。逞しい腕(←余談でした。)・・・。

最後の方でマクベスと、とうとう戦うんだけど、殺陣もさることながら、途中で(剣が手から離れてしまい)お互い
素手で更に戦ってるのにはびっくりしました。首を締め上げたり、もみ合ったり。あんまり、観た事ない・・・。
ただ、この二人の戦いのシーンを観て、ただ単純に憎しみあって殺しあってるんじゃなく、なんだかそこには切なさ
みたいのが感じられて、いいシーンだなあ、って思いました。
怖いんじゃなく、悲しい。そう思わせるシーンでした。

ちなみに「女から産まれたものにはマクベスは倒せない」という魔女の予言。外れてるわけではないんです。
マクベスはその言葉を信じ、マクダフにも言い放つんだけど、そこでマクダフが一言。
「月足らずで(母の)腹を突き破って出てきた」と。おーそういう事か^^;と納得。

全体の感想としては、私のようにシェイクスピアド素人、いえ、正直興味もない(苦笑)人でも、すごく分かりやすい
流れだったと思います。
ストーリーが確実にすっと入ってくる。
そして、もしかすると現代に置き換えることも出来るのかも・・・とさえ思いました。
興味深く、観る事が出来ました。

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余談。
カーテンコールで、下手二階にいるミュージシャンの人達にも拍手が送られ、勿論出演者もその方向に向かって
拍手をしていました。
ふと勝村さんを観ると、拍手がすぐに「手裏剣投げ」に変わっていました(爆)しかもニヤニヤしながら(?)
その後とかも唐沢さんと顔を見合わせては笑っていたり、と「素」(?)の表情を見せていたように思います。
私は1人、その表情を観て笑っていました^^;

あと、お蔭様でサイドとはいえ、座った位置が肉眼バッチリだったので、全体も観られ、表情も観られ、幸せ気分でした。(^o^)丿